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無知と迷信の中で・・・
* * * * * * * *
時は中世、1300年代北イタリア。
人里はなれたある修道院に
修道士ウィリアム(ショーン・コネリー)と、
見習修道士のアドソ(クリスチャン・スレーター)がやってくる。
なにやらおどろおどろしい雰囲気。
きっと良くないことが起こる・・・。
そう、それから起こる連続殺人事件。
挿絵師の若い修道士。
ギリシャ語翻訳にあたる、修道士ヴェナンツィオ。
そもそも、この神に近いはずの場所で、なぜ人が殺されなくてはならないのか。
悪魔の仕業と恐れる人々・・・。
この、時代背景がもたらすムードが大きいのです。
この時代は、暗黒時代とも呼ばれ、キリスト教が人々を支配していた。
遠い昔に栄えた科学は数少ない書物の中に封印され、
宗教・・・というよりは
キリストの名の下に絶大な権力を得た宗教者たちの理論が全て。
それに反するものは、「異端」として排除される。
あの悪名高い「異端審問」の君臨した世界。
また、ここには付近に住む農民も登場しますが、
これがもう情けないくらいに貧しい。
ボロをまとい、教会の出す残飯に群がる。
ほとんど、原始時代のようだ・・・。
いや、これってすごくリアルなのだろうなあと思います。
文字や学問。
そういうものはごく限られた人々のものだったのでしょうね・・・。
無知と迷信と、そういうものに満ちた世界の中にあって、
この修道士ウィリアムは唯一近代的精神の持ち主なのです。
科学にしたがってこの事件を捜査しようとする。
とてもお得な役どころですが、ショーン・コネリーが実にぴったり。
この老境の師と、若き見習いアドソのコンビが物語りに活気を呼びます。
塔の中の迷路に隠された、古代の貴重な知識の詰まった書物の山。
ほの暗い時代背景の中に、理知という一条の光が差し込むのです。
そもそも、建物の中が暗いですよね。
電気がないので当たり前ですが。
ほのかにともる炎の明かりに照らし出される人物の顔。
なんだか普通でも怖いのです。
こういう舞台装置だけでも、雰囲気たっぷりなのですね。
また、貧農の娘とアドソのラブシーンや修道院の中にはびこる同性愛・・・
なんて隠微なんでしょう。
そして、ごく当たり前のように異端審問が行われ、
あれよあれよというまに火あぶりが決定され実行されてしまう。
生と死の境がなんて近いのでしょう、この世界は。
なんにしても、いろいろと想像が広がってしまうこの物語世界には、
すっかり魅了されてしまいました。
1986年/フランス・イタリア・西ドイツ/132分
監督:ジャン・ジャック・アノー
出演:ショーン・コネリー、クリスチャン・スレーター、F・マーリー・エイバラハム、イリア・バスキン