映画と本の『たんぽぽ館』

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カールじいさんの空飛ぶ家 

2009年12月31日 | 映画(か行)
老人と子供の夢はどこにある・・・

            * * * * * * * *

風船をいっぱいくくりつけて、家ごと空を飛ぶ。
さあ、冒険の旅の始まり始まり~!

ということで、ずいぶん前から楽しみにしていました、この作品。
私、今更ながら、3Dアニメ初体験でした。


まずは冒頭、カールじいさんとその妻エリーの、
子供の頃の出会いから始まりまります。
ある冒険家が南米の秘境を探検したことにあこがれる二人。
いつかきっと、二人でその伝説の滝に行こう。
そう誓ったのでした。

結婚して小さな家を買い、二人の旅に備えて貯金もしたけれど、
諸々の生活のための費用に貯金は消えてゆく。
待ち望んだ子供はできず、誓いは誓いのままに年月は過ぎてゆく。
とうとう、妻の方が病で先に逝ってしまいました・・・。


実はここまでのシーン、先にTVで観たのです。
結婚してからのシーンはセリフなし。
年月がまさに走馬燈のよう。
この切なさに、そのときも涙があふれてしまったのですが、
当然ここでもまた泣かされてしまいました。
ところでこの感じ、「つみきのいえ」にそっくりですね。
おばあさんに先立たれたおじいさんが、懐かしい二人の人生を回想する。
この思い出は「家」に宿っている。


ここまでは、本当に幻のようにはかなく美しく、メルヘンチック。
しかし、ある朝の目覚めから現実が始まります。
痛む体を引きずり起こして、盛装したおじいさんがどこへ行くのかと思えば、
玄関先のいすに座るだけ。
・・・そう、老人が玄関先のポーチにいすを出して、
日がな一日過ごすシーンが映画の中にもよくありますね。
「グラン・トリノ」のクリント・イーストウッドもそうだったなあ。
さて、いすに座って周りの風景。
なんと、再開発ですっかり付近はビルに囲まれ、
両隣も工事現場で、なにやらごみごみしていてそうぞうしい。
この古い小さな家も、立ち退きにさらされている。
老人ホーム入居を誘われてもいるけれど・・・。
なんと殺伐とした現実。
このアニメでこんな現実が突きつけられるとは思ってもいませんでした。
こんな現実がすっかりいやになったカールじいさんは、
風船旅行を思いつくのです。
今こそエリーとの約束を果たそうと。


つまりこれは本当は、おじいさんの捨て鉢の死出の旅だったのではないでしょうか。
おじいさんは飛び立つときに叫びます。
「妻に会いに行ってくる!」。
ところが、図らずもそこに少年が登場します。
このことにより、おじいさんは「生還」を余儀なくされてしまうのです。
「還らぬ人」になるわけにはいかない。


こういう構図から始まるこの先の冒険ストーリー。
まあ、そちらは実際に観るのがよろしいでしょう。
この二人の冒険の前に立ちはだかるのは、
なんと幼いカールとエリーがあこがれたあの・・・。

ここに登場する犬たちが楽しい。
犬好きの方必見です。


・・・どうも、後の冒険ストーリーより、
冒頭の思い出シーンの方が強烈に印象に残ってしまいました。
あまりぱっとしない少年がアジア系らしいのも、
やはりグラン・トリノを彷彿とします。
そういえばあの冒険家は、クリント・イーストウッドに似ている気がする。
・・・ま、考えすぎです。

結局、孤独な弱者が寄り添うことで、人生は活気づく。
うん、冒険の果てにあるのは、やはりそこなのでしょうね。


さてさて、3Dは確かに楽しいのですが、
浮かび上がってくる映像に驚くのは始めの方だけ。
あとは、メガネがうっとうしくてなんだか疲れる。
わざわざ追加料金出してまで、3Dで観る必要はないのではないかと思いました。


2009年/アメリカ/103分
監督:ピート・ドクター
(ピクサー作品)


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