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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「SOSの猿」伊坂幸太郎 

2013年03月13日 | 本(その他)
因果・・・原因と結果の話

SOSの猿 (中公文庫)
伊坂 幸太郎
中央公論新社


              * * * * * * * *

三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、
ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。
奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。
「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?
そもそも答えは存在するの?
面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。


              * * * * * * * *


本編では、2つのストーリーが交互に語られていきます。
一つは、人が困っているのを見ると、
ついなんとかしてあげたくなってしまうという遠藤二郎の話。
彼は昔からの知り合いから、息子の「ひきこもり」を何とかしてくれないかと相談を受けます。
彼は『悪魔祓い』的な技で、いくつかの精神的な問題を解決したことがあるのです。


もう一つは、「物事の原因を調べる」のが仕事の五十嵐真。
ある証券会社で、一株50万円を、50万株1円と誤って入力してしまったために
300億円の損害を出してしまったという事件が発生。
その原因調査を五十嵐が担当します。
原因といっても、もちろん担当者のミスです。
けれど、そのミスを犯した原因があるのではないか・・・と、
そんなふうに因果関係の意図をたどっていく。


井坂ストーリーによくあるように、この2つのストーリーは
途中から見事に関連しあって一つになるのですが、
しかし今作にはひねりがありまして、なんと時間軸がずれているのです。


結局「ひきこもり」の少年は、本当に「悪魔憑き」ならぬ「孫悟空憑き」なのか。
それともそういう「心の病」なのか、
というところに問題は収束していくのです。


これを見分けるのは確かに難しそうです。
結局結論はない。
でも作中にもありますが、どっちでもいいじゃないか、
というのに私も賛成。
不思議は不思議のままのほうが面白い。
荒唐無稽のオカルト話のようでいて、
理論的に納得しようと思えばできてしまう二重の結末を、大変興味深く読みました。

「SOSの猿」伊坂幸太郎 中公文庫
満足度★★★★☆

ジャンゴ 繋がれざる者

2013年03月12日 | 映画(さ行)
主役が一番地味な、超インパクト西部劇



            * * * * * * * * *

クエンティン・タランティーノ監督作品。
う~ん、やはり強烈でした。
アクの強さと容赦ないバイオレンス。
私などはどちらかと言うと苦手な部類ですが、
でもやっぱり惹きつけられて見てしまうんですよね・・・。


冒頭、聞き覚えのある「続・荒野の用心棒(原題 DJANGO)」のテーマ。
今作「ジャンゴ」は、特にそのリメイクというわけでもなく、
名を借りただけの全くの別物。
でもタランティーノ監督のむちゃくちゃなこだわりが感じられます。
ややレトロな感じではありますが、
その音楽に重なるのは黒人奴隷が引き連れられて荒野を歩む姿の映像。
う~ん、これもインパクトたっぷりです。



時は南北戦争の始まる少し前、1858年。
アメリカ南部。
この、引き連れられている奴隷の一人がジャンゴ(ジェイミー・フォックス)です。
そこへ通りかかったのは、元歯科医のドイツ人賞金稼ぎシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)。
彼はほとんど無理やりジャンゴを買うのですが、
奴隷としては扱わず、賞金稼ぎのコンビを組むことになります。
ジャンゴには生き別れになった妻・ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)がいて、
二人は賞金稼ぎをしながら彼女の行方を追います。
そして、残忍な領主として名高いカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)のもとに彼女がいることがわかるのです。



奴隷制度に真正面から立ち向かいつつ、
それを皮肉に笑い飛ばしてしまおうというエンタテイメントの威力を感じます。
私はKKKもどきに、気に入らない黒人を抹殺しようとする白人たちが、
袋をかぶるとうまく目が見えないと文句を言い、
引き返そうとしたりして揉めるシーンにすごくウケてしまいました。
そうですよね。実際、よく我慢してあんなものかぶっていたものです。
笑えます。
(今調べてみたらKKKは南北戦争後に発足したようで・・・
余計なこと調べてしまった・・・。
でも作中でそう名乗っているわけではないので、問題ありませんね)

  

一見知的で穏やかそうなシュルツは、
全く予期しないタイミングで平気な顔で銃を抜き人を撃つ
・・・全く油断なりません。
アカデミー助演男優賞、なるほどです。
でも実はレオナルド・ディカプリオも狙っていたのではないかな。
ものすご~く強烈に嫌なヤツでした。
頭蓋骨を切り取って演説するシーンは圧巻・・・。
これでもかというくらいに毒を放ってましたねえ。
そしてまた、その配下とでもいいますかスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)がまたすごい。
彼自身黒人奴隷でありながら、
筆頭に立って他の黒人を痛めつけるサディスティックなヤツ。
しかしこの頭のキレ具合、全く憎らしい! 
それから、名前を言うとおじぎするシュルツの愛馬もステキ! 
ラストにジャンゴが見せた馬のステップも実は難易度が高いのでは? 
馬たちの演技力も素晴らしい作品なのです。

 

振り返ってみれば、主役のジャンゴが
最も地味で目立たないという作品なのでした・・・・。
が、くだらぬ奴隷制度を
銃でメッタ撃ち、そしてダイナマイトで一掃。
なんだかそんな爽快さがあったのは確かです。
やたら重苦しく史実を書き連ねるよりも、心に訴えるやり方というのもあるものですね。

「ジャンゴ 繋がれざる者」
2012年/アメリカ/165分
監督・脚本/クエンティン・タランティーノ
出演:ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン

アクの強さ ★★★★★
バイオレンス度★★★★★
皮肉度★★★★★
満足度★★★★☆

「銀の匙 4」荒川弘

2013年03月11日 | コミックス
ずっと答えのないことで悩み続けてたから、「答えのある物」がより鮮明になったのか…!

銀の匙 Silver Spoon 4 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


            * * * * * * * * *

八軒が名前をつけてしまった「豚丼」が、肉になって戻って来ました。
八軒がこの夏バイトでためたお金で買い取ったのです。
彼が自分自身で食べる。
それが、彼が考えた末の「責任」の取り方だったのでしょう。


以前「ブタがいた教室」という映画で、
「大きくなったら食べよう」ということでブタを飼い始めた小学生の話を見ました。
まさに「命を食べる」ことの究極の意味を問う作品でした。
その時には、私自身確たる結論は出せなかったのです。
まあ、仕方ない結論だったのかな、と。
でもその後
「結局自分たちで食べないのなら意味が無い。
業者に引き渡してそれで終わりというのは逆に無責任なのではないか・・・」
と思うようになりました。
まあ、小学生なので映画の結論は致し方なかったわけではありますが。
自分達で食べないのならはじめから飼うべきではなかった。
そんなふうに思うのです。
そこで本作。
八軒の行動はビンゴ!でした。
八軒はその上、50キロの肉をすべて自分で下ごしらえしてベーコンを作ります。
ものすごく大変な作業だったのですが、
「でもなんか…少しスッキリしました。」
と彼はつぶやきます。
そんなことがあった後、八軒は数学の問題がスラスラと解けてしまうことに驚きます。
ずっと答えのないことで悩み続けてたから、「答えのある物」がより鮮明になったのか…!
数学って美しい…!! と気づく八軒。
そう、数学は案外受験を離れたほうが面白いものなのでしょう、
たぶん・・・(?)
ところで、八軒はこのベーコンを兄にいわれてしぶしぶながら自宅に送ります。
ベーコンが届いた自宅の光景に、たった1カット、父親の顔があるのですが・・・。
こっ、怖い!!
きゃー、これが八軒が嫌い続けている父ですか。
すごい威圧感ですな。
そりゃ、自宅には帰りたくないワ・・・。
しかし、いずれこの父と正面から対峙する時が来るのでしょう・・・。
うう、クワバラ、クワバラ・・・。


さてさてある日八軒は、御影さんと駒場くんが何か言い争いのような雰囲気になっており、
御影さんが泣いているところを目撃してしまいます。
「どうしたんだ?」と聞いても
「なんでもない」「お前には関係ない」というばかり。
二人から疎外されたようで、落ち込んでしまう八軒。
ピザやベーコンのことであんなに頑張って、みんなにも認められたと思ったのもつかの間、
やっばり、よそ者で、あてにならない奴なのかな・・・
そんな風に思ってしまうのでしょう。
そんなときに、蕗の下のコロボックルみたいな校長が言いますね。

生きるための逃げは有りです。
有り有りです。
逃げたことを卑下しないでそれをプラスにかえてこそ、
逃げた甲斐があるというものです。


こんなふうに一人ひとりを見届けてくれる校長なんて珍しいかもしれないけれど・・・、
ウレシイ存在ですよね!

「銀の匙 4」荒川弘 小学館 少年サーデーコミックス

満足度★★★★★


セイジ 陸の魚

2013年03月10日 | 西島秀俊
人を救うためには対価を払わなくてはならない



            * * * * * * * * *

わーい、西島秀俊さんですね~。
これは伊勢谷友介監督作品ということでもまた、楽しみな作品だったんだねー。


大学最後の夏休みに自転車で一人旅をしていた“僕”(森山未來)。
国道沿いの寂れたドライブイン「HOUSE475」で、成行きで店を手伝うことになります。
そこの雇われ店長であるセイジ(西島秀俊)は、
寡黙でどこか陰りがあるのだけれど、土地の人々には慕われている感じ。
いつもむっつりしているけれど、店の常連の孫の女の子にだけは笑顔を見せるんだよね。
そして、言葉少なだけれど、時折はっとさせられるような深い言葉を発する。
謎めいた店長に“僕”は興味を惹かれていくわけだ。

始めはオーナーの祥子に心惹かれて、この店にいついてしまったようなんだけど、
次第に彼の興味はセイジの方に移っていくね。

「彼は陸の魚よ。この世で生きることを諦めている。」

祥子はセイジについて、こんなふうに言うね。
またある人は、
「彼はなんでもわかりすぎていて、人生に絶望しているのだ」
ともいうんだな。
彼のなんらかの過去が、彼をこうしたのだろうと思われるのだけど・・・。
それがわかるのはずっと最後のほう。
彼が生きることに全く執着していないように思えるのは、まあ、無理もないかなあ・・・。
ところが、予想外に、悲惨な事件がこの町を襲う。
普通ではない成り行きにびっくりさせられました!



今作の“僕”が、就職の内定も決まった大学生というところにも意味がありそうだね。
うん、誰かの庇護下にある“子ども”と社会へ出て自立する“大人”の
瀬戸際にいるということなのだろうね。
店に集まる若者たちも、やんちゃでいながら勤めに出て社会の一員となっていて、
まだちゃらんぽらんな一人が友人たちを眩しく思ったりしている。
そんな中でもセイジは一段と隔絶した“大人”なのだと思う。
ほとんど神の位置に近いくらいにね。
彼の耐え難いくらいに過酷な経験が彼をそこまで成長させたんだろうね・・・。
で、ラストをどう見ますか?
人が人を救うということの究極の意味を言っているんじゃないかなあ・・・。
今作のインタビューで西島氏がこんなふうに言っているよ。

「人を救うためには対価を払わなくてはならない」

う~ん、普通人を救うとご褒美がもらえるのでは?
いやいや、そもそも人を救おうなんていう考えが傲慢なんだよ、たぶん。
私たちは自分が生きていくだけで精一杯だ。
助け合うのならともかく、人を救うというのにはそれなりの覚悟がいるってことだよ。
それは自分の身を投げ出して、人々の罪を贖ったというキリストにも似ているね・・・
そう・・・、おそらくそんなふうに深淵の話なのだけれど、
こんなふうに日常の物語にして何気なく語っているところがすごいと思う。
この役、やっぱり西島秀俊じゃなきゃダメって気がするね。
今作は「CUT」と撮影時期が一部重なっていて、
「CUT」の秀二とセイジにはどこか近いものがあると西島氏は語っております。
そうだねー、どちらも純粋で、人間離れしてるなあ・・・。
ぎりぎりの状況の中で、自分を保っているっていう感じ?
そういう魅力が、私達を惹きつけてやまないのだ・・・と、まとめることにしましょう。



セイジ -陸の魚- DVD
西島秀俊,森山未來,裕木奈江,新井浩文,渋川清彦
ポニーキャニオン


セイジ -陸の魚- Blu-ray
西島秀俊,森山未來,裕木奈江,新井浩文,渋川清彦
ポニーキャニオン


2011年/日本/108分
監督:伊勢谷友介
原作:辻内智貴
出演:西島秀俊、森山未來、裕木奈江、新井浩文、渋川清彦

西島秀俊の魅力★★★★★
予測不能度★★★★☆
満足度★★★★☆


屋根裏部屋のマリアたち

2013年03月09日 | 映画(や行)
スペイン人メイドたちの生活に感化されて・・・



            * * * * * * * * *

1960年代、パリ。
株式ブローカーで資産家のジャン・ルイは、
妻と過不足ない生活をしていましたが、何かに倦んでいます。
そんな時、新しく入ったスペイン人のメイド、マリアの活き活きとした魅力に触れ、
開放的なスペイン人メイドたちの生活に溶けこむようになっていきます。

何やら普段と様子の違う夫を、
妻は顧客の未亡人との浮気と勘違いし、家を追い出すのですが、
ジャン・ルイは6階のメイドたちの居住区の一室に転がり込み、
意外にも自由を満喫するのでした・・・。



何時の世もこうした図式はあるのですね。
富裕層の多い都会に、貧しい国の人々が出稼ぎに来て、下働きをする・・・。
これまでジャン・ルイはメイドたちの生活になど、何の興味も持っていなかったし、
考えてみようなどと思ったこともないのでしょう。
マリアの魅力に惹かれて・・・というのはまあ、不純な動機ではありますが、
貧しくても明るく精一杯働く彼女たちに、
ある種の感慨を受けるのは当然の事のように思います。
特に、彼の職業が、実際に額に汗をして労働したり具体的に何かの商品を売るのではない、
資産運用というものであるのがミソです。
そうしてお金を得ていることに、
何か後ろめたさのようなものがあるのでは・・・?



一方、妻の方も、いつしか夫のこうした気持ちを理解していくというところがステキでした。
彼女自身、田舎の出身で、
きらびやかなパリのご婦人たちとの付き合いに
何か気後れのようなものを感じていたようです。
そして彼女自身もこの生活に倦んでいたことが伺われます。
家事を一切メイドに任せ、遊び歩くにも倦んでしまう・・・
そんな生活を一度はしてみたいものだ、などと思わなくもないですが。
でも確かに、これで夫の心が離れて行ったりしたら、
もう自分は誰からも必要とされていないと思ってしまいますよね。



毎日元気で人に必要とされて働く。
これが生きるということなんだなあ・・・。

屋根裏部屋のマリアたち [DVD]
フィリップ・ル・ゲイ,ジェローム・トネール
アルバトロス


「屋根裏部屋のマリアたち」
2010年/フランス/106分
監督:フィリップ・ル・ゲイ
出演:ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、ナタリア・ベルベケ、カルメン・マウラ、ロラ・ドゥエニャス

心の開放度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「花や散るらん」 葉室麟

2013年03月08日 | 本(その他)
いのちの花が散っているのだ・・・

花や散るらん (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


            * * * * * * * * *

京の郊外に居を構え静かに暮らしていた雨宮蔵人と咲弥だったが、
将軍綱吉の生母桂昌院の叙任のため、上京してきた吉良上野介と関わり、
幕府と朝廷の暗闘に巻き込まれてしまう。
そして二人は良き相棒である片腕の僧、清厳とともに江戸におもむき、
赤穂・浅野家の吉良邸討ち入りを目の当たりにする事となるのだが。


            * * * * * * * * *

「いのちなりけり」の続編です。
表紙イラストではっとさせられますが、
蔵人が小さな女の子を抱いています。
もしやこれは・・・! 
そうです。
蔵人と咲弥に、子供ができていたのでした。
さて、今回はなんとあの忠臣蔵、赤穂浪士の討ち入りに
二人は巻き込まれていきます。


前作もそうでしたが、幕府と朝廷のいざこざ。
それが根底にあります。
この対立関係は「平清盛」のドラマにありましたが、
武士がどんどん力を付けていく最中には「朝廷の犬」などと呼ばれていましたね。
武士の世を目指した清盛も、
結局は朝廷の規範の中での最高位を目指していたわけですよね。
時代は代わり、江戸幕府が完全に政権を握ってからも
やはり武士は、朝廷の権威には弱い。
結局そういうところは変わらないのですね。
今作は徳川綱吉の生母桂昌院の叙任をめぐって、
陰湿な朝廷と幕府の争いが繰り広げられます。
結局めぐりめぐってとばっちりは、
吉良上野介と浅野内匠頭に振りかかる。
中でも精神的に追い詰められた浅野内匠頭の刃傷沙汰は
哀れとしかいいようがありません。


歴史オンチの私でも知っている赤穂浪士の討ち入りを題材に取り入れたためか、
前作よりも読みやすく感じました。
また今作では咲弥は江戸城大奥に入るのですが、
あわや貞操の危機という場面もありまして、なかなかスリリングです。
そして二人の子供、香也にも驚きの秘密が・・・。
ひたすらに妻と娘を守ろうとする蔵人。
まさに漢(おとこ)だなあ・・・と、感服。
やはり凛として美しい、葉室ワールドでした。

「花や散るらん」葉室麟 文春文庫
満足度★★★★☆

「銀の匙3」荒川弘 

2013年03月07日 | コミックス
君らが子供の頃から親がちゃんとしたもの食べさせてくれてたんだべ

銀の匙 Silver Spoon 3 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


            * * * * * * * * *

本巻も、まだ夏休み。
八軒は御影さんの家でアルバイトを続けています。
御影さんは家族の中では「この家を継いで酪農をする」・・・という話になっているのですが、
本当は馬に関係する仕事をしたい・・・という本心をのぞかせます。
きちんと家族にそれを話すべきだという八軒。
「八軒君ってさ、自分のことで手一杯なのに
他人のこともかかえこんじゃうお人好しだよね。」
そういわれてしまう八軒。
いやいや、そこがいいんですよね、八軒は。


さて、そんなところにやってきたのは、八軒の兄。
なんと、東大に入ったのに、とあるラーメン店の美味しさに感動し、
学校をやめてラーメン店に弟子入りしたという・・・!!
死ぬ気でいくら勉強してもそんなレベルに達しない八軒にとっては、
たまらなく嫌味な兄。
それにしても突き抜けて奔放なこのお兄ちゃん、魅力あります。
結局は八軒のことを気にかけてここまでバイクでやってきたわけですから。
彼は電話で父親に「なぜ大学をやめた」と問われ、
「嫌がらせ」と答えています。
どうもこの兄弟にとって、天敵のような父親であるらしい・・・。
しかし、味覚は優れているこの兄弟に、御影さんのお父さんが言いますね。

「君らが子供の頃から親がちゃんとしたもの食べさせてくれてたんだべ」

八軒の性格を見ても、とてもそう悪い親に育てられたようには思えないのですよね。
この家の家族模様は、今後もまた少しずつ正体をあらわにしていくのでしょう。


さて、中盤以降はいよいよ夏休みが終わり2学期開始。
御影さんの家でバイトをし、色々なことを学んだ八軒でしたが、失敗も多かったのです。
とても給料なんかもらえないと思ったのですが、
雇い主がお金を払う価値があったと認めたということなのだから・・・といわれ、
ありがたく受け取ったのです。
初めて自分で働いて得たお金。
さて、その使い道は・・・!!
八軒がずっと考え続け、悩み続けてきた問題の一つの解答がそこにあります。
骨太の解答。
なかなか意表をつくヤツです。
八軒は。

「銀の匙 3 」荒川弘 小学館少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆

CUT

2013年03月06日 | 西島秀俊
西島秀俊に魅せられて



            * * * * * * * * *

あれ?久しぶりの登場です。 なんで今作で呼ばれたかな?
なぜか最近西島秀俊さんが気になるのです。それでちょっと、色々見てみようかな?と。
彼のことは、もともとステキだなあ・・・とは思っていました。
たしか、あれですよね、「あすなろ白書」
まあ、そうなんですけどね。決定打は、NHK大河ドラマ「八重の桜」。
主人公山本八重のお兄さん役ですが・・・
あのもろはだ脱ぎシーンでしびれました・・・!
何やら不純な動機のような気もしますが。
いや、きっかけはなんでもいいじゃないですか。
それで、この「CUT」を見たらますます好きになりましたよ!



イラン出身、アミール・ナデリ監督による異色作です。
売れない映画監督の秀二。
兄からお金を借りていくつかの作品を作りましたが、全く商業ベースに乗らず、
やむなく自主上映会を開いたりして暮らしている。
「かつて映画は完璧な芸術であり、同時に娯楽でもあった。
しかし、今は単なる娯楽でしかない!」
拡声器を持って街なかで演説をするのですが、雑踏を行き交う人々は誰も聞いてはいません。
そんなとき、彼の兄は借金を抱え、そのトラブルで殺されてしまいます。
元はといえば秀二のための借金ですが、その額およそ1200万円。
2週間で返さなければ命はない!とヤクザに宣言されてしまう。
うそ~、無理無理。絶対まともには返せないでしょ!
しかし、秀二は普通では考えられない行動を起こすんだな。
兄の痛みをわかちあい、借金を返済するため、
兄の死んだヤクザの事務所で「殴られ屋」をするのです。
サンドバック代わりに、俺を殴ってくれ。
でも一発ごとに金を払え・・・と。

相手は喧嘩っ早いチンピラでしょ。
寄ってたかってボコボコにされたら命にも関わるよ・・・
まさに。破れかぶれ、命がけの秀二の決断だ。
もちろんこちらからは手出しはなし。ひたすら殴られるだけ。
けれど、彼は間違いなく“戦って”いるんだよね。
そう、次第に彼にとってこの行動は、お金のためと言うよりは自分自身の戦いになっていくんだ。
商業主義に支配された現在の映画業界への怒り。
彼の未来を阻む元凶がそれだね。
秀二の鬼気迫る執念に、ただただ圧倒されました・・・。
実際口をぽかんと開けて見てたかも・・・。
一人の男の、“非戦”による命がけの戦い。
相手は直接に殴ってくる人物ではなく、自らの道に立ちふさがる巨大な“何か”だ。
すごかった・・・・!



そしてこの作品には、過去の巨匠といわれる監督たちへの愛もつまっているんだよね。
そう、作中では秀二の映画への愛、ということだけれど、
これはもちろん、アミール・ナデリ監督の映画愛でもある。
ラストに紹介されたベスト映画100選は、つまり監督にとってのベスト100なんだろうね。
芸術であって、娯楽でもあるということだな・・・。
見たことある?
いやあ・・・、私がせっせと映画を見はじみたのはこの10年くらいだし・・・。
お恥ずかしいけど、エンタテイメント中心だし。
題名を知ってはいてもみたことないもの、そして題名すらも知らなかったもの・・・、そんなのばっかりです。
映画ファンとはいえるかもしれないけど、映画通とはとてもいえる状態ではありません。
そうなんだよねー。でも単館系もきらいじゃないよね。
もちろん! ミニシアターで見る作品も大好きです。
しかし、こんなにいい作品なのに、なんでもっと大きな映画館でやらないのか・・・と残念に思うことも多いよね。
そうだよねえ・・・。
まあ、そういうわけでもありまして、西島出演作品とともにこの「CUT100選」も今後見ていこうと思うわけです。
全部レンタルで見ることができるかどうかもわからないけれど、まあ、出来るところまで・・・。
長丁場になりそうだね。
でも楽しみです!



CUT [DVD]
西島秀俊,常盤貴子,菅田俊,でんでん,笹野高史
Happinet(SB)(D)


「CUT」
2011年/日本/132分
監督:アミール・ナデリ
出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、笹野高史、でんでん
ファイト度★★★★★
満足度★★★★☆

「いのちなりけり」 葉室麟

2013年03月05日 | 本(その他)
無骨で豪放そして純情

いのちなりけり (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


            * * * * * * * * *

あの時桜の下で出会った少年は一体誰だったのか
―鍋島と龍造寺の因縁がひと組の夫婦を数奇な運命へと導く。
"天地に仕える"と次期藩主に衒いもなく言う好漢・雨宮蔵人と咲弥は、
一つの和歌をめぐり、命をかけて再会を期すのだが、
幕府・朝廷が絡んだ大きな渦に巻き込まれていってしまう。
その結末は…。

            * * * * * * * * *

本作の咲弥は水戸藩の奥女中。
あの水戸光圀に仕えているのですが、周りも一目置く美しき才女。
でもこの咲弥は結婚していて夫がいます。
その夫が雨宮蔵人という武士。
しかしこの夫婦関係にはびっくりさせられます。
そもそも二人の国元は肥前。
咲弥の親が決めた縁談で、蔵人は婿に入ったのです。
その初夜、咲弥は書も読まず歌の一つも解さない蔵人にさっそく失望してしまった。
そこで、
「これこそが自分の心のだと思われる和歌を教えて下さい。」
という。
蔵人は全く答えることができません。
「今宵でなくても結構です。
これぞと思う和歌を思い出されるまで、寝所をともにしません」
と、さっさと出て行ってしまう咲弥。
そんな訳で、実際の夫婦関係がないままに十数年が過ぎてしまうのです。
何しろ無骨な大男の蔵人。
力に任せようと思えばいくらでも出来るはず。
でもそうしないところがいかにも"はむりん"ワールドの武士なのですねえ・・・。


蔵人は「天地に仕えている」と公言します。

「命でござる。
人の命、米の命、みな天地の間に満ちております。
天地は命を育むもの、されば命に仕えればようござる」


なんとも考え方が広くおおらかです。
物語は幕府と朝廷が絡みあい、いくつかの事件を経て進んでいくのですが、
女の小説読みとしては、やはりこの二人の関係を中心に追っていく事になりました。
咲弥は本当の蔵人を全然見ていなかったことに気づいていきます。
そしてまた、実は二人の関係はもっと遠い昔に端を発していた
・・・というあたりもロマンなのです。
「わしの生きた証は咲弥殿に何かを伝えることだ」
作品中に「愛」などと言う言葉はどこにも出て来ませんが、
行間にひしひしとそれを感じる、そういう作品だと思います。
蔵人とは友情で結ばれていく清厳さんもまたステキなんですよね~。
蔵人が見つけた歌。

春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり

「いのちなりけり」葉室麟 文春文庫(Kindle版)
満足度★★★★☆

裏切りのサーカス

2013年03月04日 | 映画(あ行)
人の行動を決定づけるものは“職務の使命感”ばかりではない



            * * * * * * * * *

今作、実は私、昨年の公開時に劇場で見ました。
イギリス諜報機関が舞台とはいえ、かの007シリーズとは大違い。
くすんだ色調に、アクションなし、派手な銃撃戦もなし。
ひたすら地道に見えない敵=裏切り者を追求するという・・・。
そこで私は不覚にも眠り込み、
なにがなんだかわからないうちに、最期の裏切り者の正体だけわかってしまった、
という最悪のパターンでした。
とてもブログ記事にはできません。
そこでこのたび、リベンジ・・・。



そもそも私はこういう政治ネタ、陰謀ネタがどうも苦手。
きちんと字幕を咀嚼しないうちにストーリーが進行してしまうし、
しだいに誰が誰やら、よくわからなくなってしまう。
でもまあ、今度は、少しはまともに解読(?)できたと思います。



時代は東西の冷戦まっただ中、1960年台。
ある不祥事でイギリス諜報機関(サーカス)を引責辞職したジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に、
ある特命が下ります。
サーカスの最高幹部の中にいる裏切り者=二重スパイを探しだせというもの。
ジョージは、本部に保管された文書の中から
不自然な点を探しだすという地味なところから突破口を探していきます。



いたるところから様々な“裏切り”が、炙りだされてきますが、
このような世界でも結局重要な意味を持つのは、
人と人との生身のつながりというものなんだなあ・・・と、納得させられます。
ただ冷徹に徹する世界ではない。
ときには人の行動を決めるのは職務ではなく感情でもある。
・・・というのが、いいなあ・・・と思いました。
こんな見方はやっぱり女性的なんでしょうけれど。



回想の中の“パーティー”シーン、その時の意味がなかなか重いですね。

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [DVD]
ゲイリー・オールドマン,コリン・ファース,トム・ハーディ,ジョン・ハート,トビ―・ジョーンズ
Happinet(SB)(D)


裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]
ゲイリー・オールドマン,コリン・ファース,トム・ハーディ,ジョン・ハート,トビ―・ジョーンズ
Happinet(SB)(D)


「裏切りのサーカス」
2011年/フランス・イギリス・ドイツ/127分
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン、キャシー・バーク、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、ジョン・ハート、スティーブン・グレアム

渋さ★★★★★
パズル度★★★★☆
満足度★★★☆☆

ポスター犬 15

2013年03月03日 | 工房『たんぽぽ』
華麗なる・・・


エゾリスです。
一匹では寂しそうなので2匹。

これはレオナルド・ディカプリオの「華麗なる・ギャツビー」ですが、
私にはやはりロバート・レッドフォードのそれが
完全にイメージとして焼き付いています。
だからいまさら、別物は見たくないというきもあり、
しかし、怖いもの見たさ(?)もあり・・・。
とか何とか言って、やっぱり見るんだろうなあ。
いやそもそも40年くらい経っていると思うので、
新しく作りなおされるのはあたりまえなのか・・・。






お気に入りの帽子と共に

「銀の匙 2 」荒川弘

2013年03月02日 | コミックス
こんな点数にもならないことに 俺はいったい何日費やしたんだろ。

銀の匙 Silver Spoon 2 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


            * * * * * * * * *

さて今作の冒頭はとびきり素敵なエピソード。
構内のゴミの山から石窯が出て来ました。
ピザを焼けるかも・・・と八軒がつぶやけば、
周りの友人達は口々に、ピザの宅配に憧れていたというのです。
ケータイは圏外だし、宅配ピザもあるわけない、
そんなところに住んでいる子が多いのです。
そこでつい、皆にピザを作ってやると言ってしまった八軒。
無論ピザなど作ったこともありませんが、
持ち前の学習力で研究。
チーズやベーコン、野菜、すべて学校内で生徒たちが作ったものが持ち寄られます。
その出来栄えは・・・。
う~ん、本当に美味しそうですね。
すべて自家製(小麦粉ですら!)のピザだなんて、なんて贅沢なんでしょう。
それもこれも以前にほんのちょっぴり八軒がお手伝いなどして知り合った人々のお陰です。
人と人とのつながりって大事なんだなあ・・・。
皆の満足そうな笑顔に、八軒も充足を覚えたようです。


そうして、いよいよ夏休みに突入。
八軒はやはり家には帰りたくなく、
御影さんの実家の農場でバイトをして過ごすことにします。
親なんか関係ないと言いながら、
一応家には帰らない旨、母へメールを送ろうとするのですが、
圏外のため繋がらずにじたばた・・・。
そんなところもちょっといい。
そしてここで八軒はまた大きな体験をします。
私達にとっては非日常、残酷なこと。
けれども私達が"命を食べる"以上、
知っていなくてはならないこと、目を背けてはいけないこと。
八軒にとっては非常に大きな試練なのでした。
ひ弱だった八軒が、毎日の運動や実習でどんどん体に筋肉がつきたくましくなっていきますが、
ちゃんと心の方もたくましくなっていくんですね。


さて、八軒はかなりお人好し、というか、頼まれると断れない。
「類まれなる押しの弱さ」といわれる
先日読んだ「横道世之介」くんにちょっと似ているような・・・。
周りの友人達ですら、あいつはお人好しでソンをするタイプ、とささやいています。
けれど本人は全然屈託がない。
こういうふうに育った彼の家庭はそんなに悪くはないのでは?と私には思えるのです・・・。
こんなことに関しても、この先が楽しみですね!

「銀の匙 2 」荒川弘 小学館少年サンデーコミックス
満足度★★★★★

草原の椅子

2013年03月01日 | 映画(さ行)
人の心の中にはそれぞれの草原と椅子がある



            * * * * * * * * *

芥川賞作家宮本輝が阪神淡路大震災で被災したことをきっかけに
シルクロード6700㎞、40日間の旅を経て執筆したという同名小説の映画化です。
私が今作を見たのは、まあそれよりも
佐藤浩市さん主演ということのほうが大きかったのですが(^_^;)



バツイチで大学生の娘と二人で暮らしている遠間(佐藤浩市)は、
カメラメーカーの営業局次長。
仕事に誇りは持っていますが、中間管理職ということで、
上下の板挟みで辛いことも・・・。
まあしかし、普通のサラリーマンですね。
あるとき、おかしなきっかけから、取引先の家電店社長冨樫(西村雅彦)と“親友”となります。
そんな時、娘のバイト先との関係で
母親に虐待され、心に傷を持つ4歳の少年圭輔の面倒を見ることに。
そしてまた遠間は陶器店のオーナー貴志子(吉瀬美智子)に淡い想いを寄せたりします。
ある写真集をきっかけに、彼らは
「最期の桃源郷」と呼ばれるパキスタンのフンザへ旅立つことになります。
果てしなく広がる砂漠。
遠景には雪を抱く7000メートル級の山々。
そこで彼らは何を決意するのでしょうか。



映画はまず彼らがパキスタンについたところから始まります。
一見子連れの夫婦と祖父(?)と思えたのですが、
会話の端々からは、どうもそうではないことがうかがえる。
さて彼らの関係は・・・?
という謎から始まる本編。
彼らの出会いのきっかけもなかなかおもしろいのです。
で、驚いたのは佐藤浩市と西村雅彦が同じ年令・・・というところ。
これは役の上のでもそうなのですが、実際にもそうなのでした。
(双方1960年生まれ現在52歳)
すみません、西村さん。祖父だなんて言っちゃって。

それから、圭輔の母(小池栄子)が非常に怖かった・・・。
どこか壊れているんですよ、心が。
だからこその子供の虐待ではありますが。
鬼気迫る怪演。
こんな母親に子供を返せるはずがない。
けれど、安直なハッピーエンドに向かおうとしないところが、ちょっといいと思いました。
(でも結局は、そうなのか・・・?)
誰しも行き詰まり、決断に悩むことはありますよね。
そんな時に悠久の時を感じる大自然の中で、自分としっかり向きあうのもいいかもしれません。
でも、作中でも言っていましたよね。
結局は人の心のなかにそれぞれの草原と椅子がある、と。
別にパキスタンの山中である必要はないのかもしれません。
私は冨樫の故郷の島でも十分だと思ったのですけどねえ・・・。



ズシンと来るテーマながら、笑えるシーンも散りばめられていまして、
ゆったりと楽しめる作品でした。

「草原の椅子」
2013年/日本/139分
監督:成島出
原作:宮本輝
脚本:加藤正人、奥寺佐渡子
出演:佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、小池栄子、AKIRA


シリアス・コメディのバランス度 ★★★★★
雄大さ★★★★☆
満足度★★★★☆