映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ジーサンズ はじめての強盗

2018年02月08日 | 映画(さ行)

立ち上がれ、老人たち!!




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ウィリー(モーガン・フリーマン)、ジョー(マイケル・ケイン)、アル(アラン・アーキン)の三人は、
平穏な老後の生活を送っていました。
ところがある時、会社からの年金の突然の打ち切り。
ジョーは突然上がった住宅ローンの返済額に戸惑います。
このままでは住宅も差し押さえられてしまうことになります。
窮地に陥った彼ら3人は、見放された銀行への強盗を決意。
しかしまるきりのシロウトはどうしてよいかもわからない。
そこでその道のプロ(?)の知恵を借りつつ、準備に入ります。

アメリカには国民年金などないのか・・・。
本当に社会保障の乏しい国なんですね。
数十年勤め上げた会社がダメになると、年金までストップしてしまうという理不尽な話に、
見ている方まで憤りを感じてしまいました。
今まで地道に働き、悪いことも何一つしていないのに、
好きなパイも食べられないギリギリの生活。
そしてそれすらも今、危ぶまれている。
この理不尽な社会への挑戦として強盗が行われるのです。
しかしそれでも、彼らは奪った金のうち本来もらえるはずの年金の額のみを
自分たちの取り分とし、それ以上は惜しげもなく寄付。
いいなあ・・・。
実に爽快。



何かと邪魔者扱いされ、差別されることの多い老人。
これまで社会を支えてきたと言うのに。
立ち上がれ!! 老人たち!!



私も次第にその「老人」の立場の方に近くなっているので、
身につまされるなあ・・・。
こんな風に、かっこよく生きたいものです。
おかしすぎない小粋なコメディ。
男たちの友情も良し。



<J-COMオンデマンドにて>
「ジーサンズ はじめての強盗」
2017年/アメリカ/96分
監督:ザック・ブラフ
出演:モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキン、アン・マーグレット、ピーター・セラフィノウイッツ

反逆度★★★★☆
友情度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


嘘を愛する女

2018年02月07日 | 映画(あ行)

愛を探す旅


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この日、「嘘を愛する女」を見ようか、「祈りの幕が下りる時」を見ようかと迷ったのですが、
高橋一生さんに軍配が上がりました(^_^;)
でも一生さんの出番は意外と少ないのですよ・・・・、
始まってまもなく、寝たきりになってしまうので。

食品メーカーに勤める由加利(長澤まさみ)は、
研究医の桔平(高橋一生)と同棲して5年になります。
ある日、一晩帰らなかった桔平の帰りを待つ由加利のもとを警察が訪ねてきます。
桔平がくも膜下出血で倒れたところを発見され、意識不明であるというのです。
そしてさらに、持っていた免許証も職員証も偽物で、
彼が名乗っていた「小出桔平」というのはでたらめであったということ。
彼の正体を知りたいと思った由加利は、私立探偵海原(吉田鋼太郎)に調査を依頼。
やがて、桔平が書き溜めた700ページの小説が見つかります。
私小説風のその内容を辿り、由加利と海原は瀬戸内海に向かいますが・・・。

5年も一緒に暮らした相手が、実は自分が知っていた相手とは全く違う人物だった・・・、
衝撃的です。
しかもこの頃、少し互いに気持ちがすれ違って来ていたのですね。
だから由加利はこれまで愛されていたことも信じられなくなってしまった。
自分の気持ちを見つめ直す旅でもあったのです。



桔平の心の動きを想像してもかなりつらいですね。
平穏で幸せだったはずの時間がすべて崩れ去り、
過去を捨てて、自分をも捨てて、
辿り着いた先にようやくささやかな幸せを見つけたのだけれど、
彼女に本当のことを話すこともできず、だから未来に踏み出すこともできない。
それはそれでまた地獄のようでもある・・・。



でも、2人が付き合いはじめて幸せだったときの笑顔とか、何気ない仕草のシーン、
もっとずっと見ていたかったです・・・。
ラスト、桔平の愛の在り処がはっきりするところは、良かった!

しかし現実的な話、私、桔平さんの医療費のことが気になってしまいまして・・・。
健康保険はどうなっていたのでしょう? 
由加利さんの扶養家族になっていた?
いや、偽名でそれは無理なのでは?
結婚もしていないわけだし・・・。
保険がなければ、入院費は大変なことになりますよ~。
すみません、私が一番気がかりなのはそんなことでした・・・。

<シネマフロンティアにて>
「嘘を愛する女」
2017年/日本/118分
監督:中江和仁
出演:長澤まさみ、高橋一生、吉田鋼太郎、DAIGO、川栄李奈、
愛を探す旅度★★★★☆
満足度★★★.5


「ごんたくれ」西條奈加 

2018年02月06日 | 本(その他)

生きること、すなわち描くこと

ごんたくれ (光文社時代小説文庫)
西條 奈加
光文社

* * * * * * * * * *

当代一の誉れ高い絵師円山応挙の弟子・吉村胡雪こと彦太郎と、
その応挙の絵を絵図とこき下ろし、我こそ京随一の絵師と豪語する深山箏白こと豊蔵。
彦太郎が豊蔵を殴りつけるという最悪の出会いから、
会えば喧嘩の二人だが、絵師としては認め合い、
それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく―。
京画壇華やかなりし頃を舞台に、天才絵師の矜持と苦悩、数奇な生き様を描いた、
読みごたえたっぷりの傑作時代小説!

* * * * * * * * * *

吉村胡雪こと彦太郎と、深山箏白こと豊蔵、二人の絵師の物語です。
「ごんたくれ」とは、ごろつき、困り者、子どもならいたずらで手に負えない、
そんな意味ですが、この彦太郎と豊蔵も「ごんたくれ」。
はじめての出会いで殴り合いになるという有様です。
互いに忌々しく思っており、親しく顔を合わせるでもなく、
その後も数年に一度会うくらい。
けれども、双方絵を描くとこに人一倍情熱を感じ、人とは違う才を持っている。
そして、何やら互いの目指す方向が同じのように思われます。
表面上は反目し合いながらも、心の底では通じ合っている。
この距離感がなかなかいい。


豊蔵の方はほとんど一匹狼で、おのれの才覚で徐々に名を挙げていきます。
一方彦太郎の方はもう少し複雑。
円山応挙の一門に入りますが、実は自分の絵が応挙と似ていないことに悩んでいる。
他の弟子ともうまくいかない。
酒好き、女好き。
ある時ダンナ持ちの女と駆け落ちし、子どももできるのですが・・・。
生来の気楽さ・明るさを持っていた男なのですが、
次第に人生に陰りができて行くのが読んでいてもつらい。


それでも、彼らは互いに、生きていくことすなわち描くことと思い定めている。
彦太郎は死の寸前、星空を見て、描きたいと強く思う。
豊蔵は、これまでに得た名声を捨てても、人におもねらず描きたいものを描きたいと思う。
二人の生きざまが、強く胸に残ります。
西條奈加さんの、力作でした。

図書館蔵書にて
「ごんたくれ」西條奈加 光文社
満足度★★★★★


マスター・アンド・コマンダー

2018年02月05日 | 映画(ま行)

心沸き立つ冒険譚

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確か以前に見たことがあるなあ・・・と思ったら、
やはり一度見ていましたが、ブログ開始前でした。


19世紀初頭、ナポレオン率いるフランスと交戦中のイギリス海軍のストーリーです。
不敗神話を誇る伝説の英国軍艦サプライズ号の艦長ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)が、
10歳の少年から老人までを含む130名の乗組員を率います。
その日、霧の中からふいに現れたフランスの新鋭艦船アケロン号から攻撃を受け、
船は痛手を負うのですが、オーブリーは反撃を誓い、アケロン号を追うことに。


艦船と聞くとつい今様の軍艦を思い浮かべてしまいますが、
この時代なので帆船です。
ブラジル沖からホーン岬を周り、ガラパゴス諸島へ。
こんな時代にこんなに本国から離れたところで海戦が繰り広げられていたというのにも驚きます。
海の荒れ狂う大嵐、船が全く進まないベタ凪の日、乗員たちの不和・・・、
様々な困難を乗り越えて船は進みます。


この時代背景がきっちりと描かれていて、戦闘シーンは迫力に満ちており、
冒険心を掻き立て、そして人間ドラマでもある。
なるほど、アカデミー賞にふさわしい作品なのでした。
私が好きなのは、船医(ポール・ベタニー)さん。
彼は艦長の親友であり、博物学者でもある。
艦長に苦言を呈する事ができるのは彼だけなのですが、
しかし、やはり受け入れられずに傷ついたりもする。
新種の生物目白押しのガラパゴスに上陸するときには狂喜。
そして、探検をして歩くうちに敵船を発見するという伏線もバッチリ。
良質かつ心沸き立つ作品。


マスター・アンド・コマンダー [DVD]
ラッセル・クロウ,ポール・ベタニー,ビリー・ボイド
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

<WOWOW視聴にて>
マスター・アンド・コマンダー
2003年/アメリカ/139分
監督:ピーター・ウィアー
原作:パトリック・オブライエン「英国海軍の雄 ジャック・オーブリー」
出演:ラッセル・クロウ、ポール・ベタニー、マックス・パーキス、ビリー・ボイド、ジェームズ・ダーシー
海洋冒険度★★★★★
満足度★★★★★


スリー・ビルボード

2018年02月04日 | 映画(さ行)

善とか悪とかでは計り知れないもの

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米ミズーリ州の片田舎の町。
娘を何者かにレイプされ殺害された主婦ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、
いつまでたっても犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、
抗議のため、巨大な3枚の広告看板を出します。
それを快く思わない警察や住民たちと、ミルドレッドの間には溝が深まっていきます。
そして事態は思わぬ方向へ転がっていく・・・。

これは、人と人の心のドラマなのでしょう。
通常こうした物語なら、警察は気を悪くしながらも捜査に必死になってなんとか犯人を上げる、
しかも真犯人は思いがけない人物(家族とか警官とか・・・?)
・・・なんて、そうした展開を見せるのではないでしょうか。
少なくとも私はそんな風に想像していました。
しかし本作はそうした常套のミステリではなかったのですね。
とにかく、予想もつかない方へと話が進んでいきます。



名指しで非難された警察署長(ウッディ・ハレルソン)は、
署内でも町でも信頼のおける人物として慕われている。
しかも実際、裏がない好人物。
そのためミルドレッドの行為は多くの人から反感を買ってしまいます。



そして、署長の気持ちとは裏腹に、捜査担当のディクソン(サム・ロックウェル)は
マザコンでクレイジーなクズ警官。
捜査のやり直しなど考えてもいないよう・・・。
しかし、こりゃダメだ・・・と思う矢先、
ある出来事からディクソンは変わるのです。
こんなことってあるだろうか・・・、
しかし、人の心のことだから、ありえないとも思えない。
そこがキモですね。



ミルドレッドは、反抗期の娘を扱いかね、かなり手を焼いていました。
そのため、娘の死の原因の一端には自分にもあると思っていたのでしょう。
だから早く犯人を捕まえ、実際の責任はその者にあることを確認したかったのだと思うわけです。
その過激な方法は、いっそ心地よいくらいですけれど・・・。
それにしても、その後の暴走ぶりは、さすがにやりすぎだとも思う。
これもまたヒロインの常識を超えている・・・。
しかし、「怒りは怒りを呼ぶ」というある人の言葉で、
すーっと気持ちが落ち着いていくところがよかった。

そんなこんなで紆余曲折の後、ついに犯人を特定できたか・・・?!
と思いきや・・・。
これまた、見るものを裏切る展開。



そして、ラストでまた私たちは置き去りにされてしまいます。
え、え~っ!! 
ここで終わり???
でも考えてみれば、ここでおかしな決着をつけてしまったら、
ここまで振り回されたストーリーが結局茶番のようになってしまう気がします。
このラストが正解。


正も悪もない。
私たちは自分たちの心の動きに勝手に生だの悪だのという定義付けをしているだけなのかもしれません。
力があって、油断のならない作品です。

フランシス・マクドーマン、女性版クリント・イーストウッドみたいな風格ですよね。
カッコイイわあ・・・。

「スリー・ビルボード」
2017年/イギリス/116分
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ルーカス・ヘッジス

<シネマフロンティアにて>
予測不能度★★★★★
満足度★★★★★

 


「永遠の出口」森絵都

2018年02月02日 | 本(その他)

どこにでもいる普通の少女?

永遠の出口 (集英社文庫)
森絵都
集英社

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「私は、"永遠"という響きにめっぽう弱い子供だった。」
誕生日会をめぐる小さな事件。
黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。
ぐれかかった中学時代。
バイト料で買った苺のケーキ。
こてんぱんにくだけちった高校での初恋…。
どこにでもいる普通の少女、紀子。
小学三年から高校三年までの九年間を、
七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。
第一回本屋大賞第四位作品。

* * * * * * * * * *

私、この本の上記概略には少し異議があります。
「どこにでもいる普通の女子」?
確かに本作は紀子の小学三年から高校三年までの
「少女」と呼ばれる時代の成長度合いを描いた物語なのですが、
中学時代のぐれ方は意外と過激で、
上記のように「ぐれかかった」という程度とは思えません。


私、そういう女の子は、
自分ではなんでそうなってしまうのかわかってはいないと思うのですが、
それでも自分の意思を通す強さが人とは違うと思うのです。
例えば私のような小心者で小さくまとまった人間は
たまに羽目をはずしたくてもできないのですよ・・・。
そういうものにとって、家族のまとまりとか友人との付き合いもなげうって、
なりふり構わず自分の意志を通しちゃうという人物は、
「特別」なものに思えてしまう。
で、実のところ、そういう人は苦手だったりもする・・・。


でも、本屋大賞第4位? 
そうなんですか、共感できる方は結構いるんだ・・・。
今時の本当の「少女」にとっては等身大なのかもしれません。
ごめんなさい、昔の「少女」の私にとってはあまり思い入れのできないストーリーでした。

「永遠の出口」森絵都 集英社文庫
満足度★★.5


シークレット・オブ・モンスター

2018年02月01日 | 映画(さ行)

少年の孤独と邪心

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哲学者ジャン・ポール・サルトルの短編小説「一指導者の幼年時代」をベースにした心理ミステリ。

1918年第一次世界大戦終結後、ベルサイユ条約締結直前のフランス。
アメリカから来た政府高官の幼い息子プレスコットが「独裁者」というモンスターに変貌する、
その原点を探るような内容になっています。
時代から見るとこの「独裁者」は、やはりヒトラーをイメージしているのでしょう。
けれど本作はアメリカ人政府高官の息子という設定なので、
かの人、本人の幼少期を描くわけではありません。



このプレスコット、女の子のように髪が長く、そして美少年。
10歳くらいでしょうか。

始めは少しナイーブで頑なな感じ?と思ってみていましたが、
それが簡単な憶測など跳ね飛ばしてしまいそうな歪んだ性格。
父親は仕事で忙しく不在がち。
美しい母は、どこか冷たい雰囲気がつきまとう。
しつけには気を使っているようだけれどふだんの世話は、メイドに任せっぱなし。
しかし、そんなだから孤独な少年はひねくれた・・・とだけでは説明しきれない、
異様な自意識の高さが伺えます。
何しろ冒頭では教会から出てきた人々に石を投げつけたりしている。
しかし彼はその理由を誰にも説明しないし謝ろうともしない。
まあ、このあたりまでは、誰からも愛されない孤独な心のなせるワザ・・・
という想像はつくのですが。



彼がフランス語の家庭教師にしたことは、かなりゾッとさせられます。
始めは美しく快活な家庭教師をプレスコットは気に入っていたのです。
けれどある日、プレスコットは彼女の胸を触ってしまいます。
そして彼女に咎められてしまう。
その後、3日ばかり部屋に引きこもったプレスコットは、
彼女と母親の前で、フランス語の本をスラスラと読んで見せる。
そして言うのです。
「一人で十分勉強できるから、家庭教師は要らない。」
つまりこのことは、彼の自意識をひどく貶めた家庭教師をクビにするためだったのです。
10歳の子どもが・・・。
頭がよく、そして残酷。
この息子に、父も母もすでに太刀打ちできなくなってしまっているのでした・・・。
ほの暗くも美しい色調の画面、不安を誘う音楽、
少年の孤独と邪心が心をざわつかせる作品。



最後にほんの少し、いよいよ「独裁者」となったプレスコットが映し出されるのですが、
これをロバート・パティンソンが演じています。
ところがロバート・パティンソンは前段で、プレスコットの父親の友人役でも登場していますね。
これってつまり、プレスコットの本当の父親は・・・?
という謎掛けのようでもあります。
興味が尽きません。

シークレット・オブ・モンスター [DVD]
ベレニス・ベジョ,リアム・カニンガム,ステイシー・マーティン,ロバート・パディンソン
ポニーキャニオン


<WOWOW視聴にて>
「シークレット・オブ・モンスター」
2015年/イギリス・ハンガリー・フランス/116分
監督:ブラディ・コーベット
出演:ベレニス・ベジョ、トム・スウィート、ステイシー・マーティン、リーアム・カニンガム、ロバート・パティンソン

闇の深さ★★★★☆
満足度★★★★☆