置農演劇部定期公演まで、あと、一ヶ月!なのに!装置も道具も衣装も手つかずだ。連休は食育子どもミュージカル『”いただきます”見つけた!』の連続公演でいっぱいいっぱいだったからね、仕方ないんだ。大慌てで打ち合わせをして、全員で裏方仕事にかかることにした。
今回の出し物は、『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』っていう、10数年ほど前、横内謙介さんが岸田国士賞を受賞した作品だ。この題名からして凄いよね。アンデルセンの『裸の王様』にセルバンテスの『ドン・キホーテ』、それにシェークスピアの『リア王』、おまけに、ミュージカルの『ラ・マンチャの男』までと、山盛り大サービスにおまけ付きの賞品付きって台本だ。
中身の方も、当然のこと、凝りに凝っていてる。驚きの仕掛けあり、どんでん返しの連続あり、最後はとんでもない結末と、実にスリリングな展開だ。ミュージカルナンバーだってあるからね。以前から手がけてみたいと思っていた作品、ようやく、挑戦することができたんだ。これだけの大作、奇作、高校生が本当に仕上げられんの?う~ん、自信は????・・・でも、高校生だと思い切ってぶつかれるから、かえって菜の花座がやるより楽かもしれない。
だから、本読みには、じっくりみっちりぎっちり時間を掛けた。かれこれ一ヶ月半かかったからね。本読みを終えたときには、部員達から感動のため息が一斉にもれたもの。あっ、ただし、本の中身に感動したわけじゃない。ごめんなさい、横内さん。繰り返し繰り返し読まされて、ダメ出しされて、怒られて、説教くらって、ついにたどり着いた最終ページ、最終行だったからね。まあ、高い山の山頂に、這いつくばってよじ登った達成感みたいなもんだった。
本読みが終われば、立ち稽古と行きたいところだけど、なんせ、置農演劇部、全員攻撃、全員防御だからね。次は全員で道具、装置、衣装、ダンスの振り付け、へと飛び出すってわけだ。あれっ?あの本にダンスシーンなんてあったっけ?有りませんよ、台本の指示にはね。でも、そこは、演出の裁量範囲でしょう。台本には手を付けていないからね。読む人が読めば、ダンスシーンが浮かび上がって来るんだよ。えっ、見えない?おかしいなあ。それに、そうでもしないと、一年生舞台に上げられないしね。もう一度、ごめんなさい、横内さん。
で、今回の裏方仕事で一番の難問は、やっぱり衣装なんだな。一昨年の『夏の夜の夢』(作:シェークスピア)もそうだったけど、演技が、えーっと、まあ、あれだ、そうそう、そこそこだから、せめて衣装くらいそれらしくしなきゃね。ってことで、中世ヨーロッパ風の衣装を作るってことにした。どこが、中世だ?なんて、固いことは言いっこなし。簡単に出来てそれらしい衣装ってことだよ。
幸い演劇部の伝統で、お針子さんが何人かそろってる、これが強みだ。衣装チーフがデザインを決め、後は、下級生に下請け仕事。次々に仕上がっていくって寸法なんだ。でも、なんせ、デザインは作りやすさ最優先のワンパターンだ。どうやって変化を付けるか?そこで、物を言うのが、生地選びなんだよな。うひひひひ、これは、僕の仕事なんだ。絶対生徒にはさせない。
だって、楽しいものね。服地屋さんで棚の前を行ったり来たり、下から生地の巻物を引っ張り足しては、ためつすがめつ。もし、時間に制限がなかったら、半日はゆうにぶっとんじまうよね。実際、最初に生地選びをしたときは、気が付いた時には、もう昼になっていたから。模様も様々、色合いも千差万別、さらに、生地の材質感もみな違うからね。一つ一つ見てるだけで、ほんと、飽きない。こんな楽しい仕事、生徒に預けられますかって言うんだ。おいおい、そう、けし気張ることないだろ。いかん、ちょっと、興奮した。
真面目に言えば、舞台のイメージにあった布地、役柄にあった生地、全体のバランス、装置とのかねあい、照明でどう生かすか、ってとこまで考えて選んでるからね、本当だよ、これって、やっぱり生徒には無理なんだな。ここは、美意識と経験が物を言う仕事なんだ。で、気持ちとしては、じっくり時間を掛けて選びたかったけど、なんせ、あと、一ヶ月!ええーいっ、決断、決断!バックに使うカーテン地19メートルの他に5種類の服地を迷いを残しつつ、買い物した。しめて、2万円。高いのか?安いのか?まっ、まけてくれたし良い買い物をしたって思いこむことにしよう。
さっ、後は、衣装チーフさん、お針子さん、皆さんの出番だよ。いいもの作ってね。だめだめ、僕のセンスを疑うな!作ればわかる!舞台に上げればもっとわかる!信じるだ!そう、僕も精一杯信じるんだから。