なんか、じっと見てるなぁ。電気のメーターチェックに来たんだろ。さっさと仕事済ませて次に回ったら。こっちは、必死で除草機押してんだ。見世物じゃないぜ。それに、その立ってるあたり、イネの活着あまり良くないから、見られたくないんだよな。と、一往復、まだ見てる。
「有機農業ですか?」なんだ、東北電力の下請けの人じゃないんだ。
「有機農業じゃ、どんなやり方がいいですか?」そうか、除草機押してるから興味持ったわけね。それじゃ、しばしお相手しようかね。
そのオジサン、って言うよりジイサン?農業始めたくていろいろ見て聞いて回ってるんだって。まだ、具体的に田畑の手配もできてないし、どんな農業するかも決まっていない。なのに、「まぁ、余れば販売するけど、販路の確保とか面倒でしょ。」って、おいおい、その前に収穫にたどり着けるかどうか心配しなよ、てぇか、田畑借りられるんのかよ、って思ったが、憎まれ口はきかない。この歳で、聞けば65歳、農業に新規参入、てのは、その心持ちだけだって、大切にしてあげなくっちゃ。
「体力ないから、除草機は・・・。」えっ、体力は付けといた方がいいぜ。って、唇まで出かかったが、これもまた、ぐっと飲み込む。念のため、俺より歳、ずっと下だし、って言ってみたけど、通じないみたいだったなぁ。
「いろんなやり方あるみたいですね、直播栽培とか・・。」なんだ、なんだ、大規模栽培とか省力農法とかやりたいの?それなら有機は無理だと思うよ、ってこれははっきり伝えたが、なんか、知識ありそうで、的外れの場違い雑学。意外といるんだよね、こういう人。
「機械は何百万とかするし、・・・」。いやいや、機械よりまず人でしょ。あんたでしょ。退職後の挑戦で有機に取り組むなら、まず資本投下なんて考えない方がいいけどなぁ。老後資金たんまり!って感じでもなさそうだし。家族はどう思ってるのか、聞きたかったが、それ以前の話しかなって、聞きそびれた。
「この田んぼだって有機に変えて30年以上、それでも、まだ失敗の連続。まずは、始めることなんじゃないの。」
15分ほど、こっちも休憩を兼ねて相手してあげたが、どうも、望むところがかみ合っていないみたいだった。あちこち見て回るの大事だけど、じっくり腰据えて教わるとか、狙い定めた農家で1年通して通い詰めるとか、ともかく、信頼できる人についた方がいいですよ。ここらだったら、上和田有機米のKさんとか、面倒見もいいし、知識はもちろん、情報も持ってるから、行ってみたら。ってのが、こちらとしてのベストアドバイスだな。
歳も歳、時間はそんなにないんだから、ああだこうだ考えあぐねてるうちに機を逃すよなぁ。まず、これぞと思う先達を見つけて飛び込むこと、それが夢実現一番の早道だぜ。と、ぐずぐずせずに、さっさと飛び込めよ!ってちょいイラついてしまった。親切心たりないね、俺。