本国会において、かねてより国民より強い要望のあった「国会質疑及び公的会見等活性化法案」いわゆる「棒読み禁止法」が成立した。
本法案の成立により、国会における本会議、委員会等の質疑や首相、各大臣、官房長官等政権中枢の記者会見の場では用意された文章の棒読みが禁止されることになる。
我が国において、常々、政治への関心の低さが問題とされ、各種選挙においても投票率の向上が課題とされている。この状況は、国民の政治離れの現れであり、民主主義の存続、発展にとって喫緊の課題とされてきた。数ある原因の中で、政治家の能力不足がここにきて大きくクローズアップされてきていた。
ウクライナ問題に端を発する世界的な外交危機の現在において、他国首脳陣のスピーチ力と我が国担当政治家のあまりの楽さに、国民等しく大いなるショックを受けたところである。とりわけ、世界の記者たちを前にして、臆面もなく官僚用意の原稿を読み上げる大臣たちの厚顔無比には怒りを通り越し、呆然わが目を疑うとの声が湧き上がった。
一方、国会審議においても、野党議員による鋭く的を射た質問に対しても、事前の質問項目を提出させ、それをもとに関係省庁の職員が夜を徹して準備した答弁書を読み上げるのみという、とても質疑討論とは言えない異常事態が通例化しているのが実情である。このような安易な答弁のため、事前の勉強も不必要で、首相でさえも使用された漢字が読めない、ペーパーを飛ばし読みした等の恥ずかしい状況に立ち至っていた。
このような議論の成立しない国会審議は国民の政治への興味関心を大いに削ぎ、未では国営放送NHKでさえ、国会中継より高校野球を優先放映する有り様となっている。
これはまさしく民主主義存亡の危機と言ってよく、このたび、事態を憂うる議員有志の提案により、本「棒読み禁止法案」が成立することとなった。
本法案によれば、質疑答弁者、会見等公的発言者は、原稿の棒読みが厳しく禁止される。メモ等の持ち込みは許されるものの、そちらを見る回数、時間は制限され、回答監視員が厳しくチェックを行うことになる。
また、その制限を超えてメモ依存、ブロンプ過剰使用をした政治家については、1回目は警告、イエローカード、2回目の違反でレッドカード、役職からの追放、それ以降も原稿なし演説ができない者については、議員資格が抹消される。
また、本法案徹底により、事実に基づかない饒舌や駄弁を弄する議員も生ずることも見越せるため、意図的に明らかなウソ、フェイクを発し続けた者についても議員資格をはく奪し、以降、被選挙権を一定期間停止することも付則として加えられている。
法案の成立により、国会内、およびその周辺の書店において、「最高、最短の記憶術」、「今からでも間に合う記憶改善法」等の記憶術本、「話し方教えます」、「アリストテレスの弁論術」等のハウツー本が飛ぶように売れているとのことである。
また、これまであまり顧みられることのなかった、スピーチライター、ブランドディレクターの役割が俄然注目を浴びつつあり、それらを担える役者、演出家、シナリオライターらが新たなる活躍の場が開けるものと大いに期待を寄せている。さらには、電通やパソナ、リクルートなどのイベント請負部門を持つ関連企業も、商機到来と、人材確保に走っているとの情報も届いている。
いずれにせよ、この法案により、国会はじめ各種議会を活性化し、国民総じて、論戦・議論を楽しめる政治新風潮を生み出すことが期待されている。