塩野七生氏の作品に初めて出会ったのは10年程前。娘とイタリアに行くときに友人が貸してくれたのが『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』でした。そのときは時間に追われる仕事をしていたので、本を読み終えたのは旅行から帰った後のことでした。
「歴史でもなく、伝記でもなく、小説でもなく、しかし同時にそのすべてである」という塩野氏の独特のスタイルの文章にすっかり魅了されました。複雑な人間関係は系図がなければ、政治と宗教(ローマ法王庁)の入り組んだ世界は地図がなければ、私には到底理解できるものではありませんでした。
それから10年。『ローマ人の物語』を文庫版で読み始め、出版が追いつかない部分は仕方なく単行本で、今やっと『終わりの始まり』でローマ帝国にかすかな斜陽が感じられ始めるところです。
この『ローマ人の物語』を通奏低音に、ルネッサンス期の塩野氏の本を手当たり次第に読みました。一度では理解できずに2度読んだ本もあります。歴史の事実の間に、人間のどうしようもない欲望、人間の優しさと強さ、抗えない運命の世界が盛り込まれた楽しい、それでいて充実感のある作品群です。
私は、買った本は一定期間置いたら潔く処分してしまうほうですが、この七生ワールドだけはどうしても処分できないでいます。
今度イタリアに行くときは、前回のラファエロを見るために行った旅行とは違ったイタリアが楽しめるものと思っています。