新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

『天平の甍』

2007年10月04日 | 本・新聞小説

ヒストリーチャンネルの「唐招提寺スペシャル」をみました。金堂の老朽化のために平成の大修理を行っているところをドキュンタリーにしたものです。

地上に降ろされた鴟尾(しび)は高さ1.2メートル。1200年前の誇り高き「天平の甍」です。その引退にともなって新しく作られる平成の鴟尾。鴟尾や鬼瓦を作る瓦職人を「鬼師」というそうな。その鬼師7人のグループが、完成の確立10%という至難を乗り越えて「平成の甍」を作ることに成功しました。その苦闘の足跡を追った感動の記録です。3個の鴟尾が無傷で窯から出されたときは、見ているほうも感激の涙。改めて職人技のすばらしさに脱帽と敬意を払いました。

折りしも、今日の日経夕刊に、「平成の甍」がようやく屋根に乗せられた記事と写真が掲載されました。金堂の完成はまだまだ先の2009年です。

3年前に唐招提寺を訪れたとき、地上に降ろされた巨大な鴟尾を目の当たりにして、驚愕を隠せませんでした。現代の人知を持ってしても1200年前の技は、今も解明されていないようです。金堂改修に伴って福岡で「鑑真和上展」がありましたが、見逃したのが今も悔やまれます。

Inoue_3 学生時代に一度は見たことのある鑑真和上像。当時の日本はまだ発展の途上にあり、そんな国へ生死をかけて高僧鑑真はなぜやってきたのか・・・。この際に、何十年ぶりかに井上靖『天平の甍』を読み直しました。

遣唐使船で大陸に渡った留学僧。5人の個性の違う僧の理想と挫折を縦糸に、鑑真を日本に招くという歴史的使命を果たす姿が鮮やかに書き出されています。広い中国で、先に唐に渡った真備や唐の政界で活躍する阿倍仲麻呂、玄宗…と正史の中の人物との出会うところが歴史小説の面白さです。

これとほとんど同時代の遣唐使を扱ったのが辻原登『飛べ麒麟』です。阿倍仲麻呂、真備、玄宗、安禄山、李林甫など歴史に実在した人物が登場し、大陸を舞台にした面白い本です。

飛鳥、天平の時代は日本の国が出来上がっていく上昇の時代で、理想に燃え、学問に飢え、進取の気に富んだ力強い時代でした。だからきらびやかさではなく天平の甍のようないぶし銀の強さがあるように思います。

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