クリスチャンでない私も、新聞に「コンクラーベ」の文字を見つけると、やはり関心がわきました。
コンクラーベはローマ法王選出の秘密会議のことで、一定の得票数が得られるまで何回もやり直すのです。決定に至らない時は黒い煙、決定すれば白い煙が煙突から流れるようになっています。テレビニュースでこの黒い煙を見て、本に書いてあった通りのやり方に妙に納得したものです。
それというのも、ひと月ほど前に読んだ塩野七生『 神の代理人 』が、まさにコンクラーベから始まるからです。
「神の代理人」とはカトリック世界の頂点に立つローマ法王のことです。ここではルネサンス時代に、人間性をむき出しにした4人のローマ法王の実像が生き生きと描かれています。
タイトルからすれば、キリスト教の教理の哲学的な難しい事が書いてあるのでは・・・と思いがちですが、まったく違います。
『過度の禁欲は、しばしば狂信の温床となる』という言葉から書き始められているように、法王が自分の欲することをすべて正義と信じ、自らがそれを実現させなければならないと心を燃やすところから、この人間ドラマは始まります。
神の代理人というより、法王国家の元首として政治的に動き回り、各国と駆け引きをし、競争相手を蹴散らし、法王の領土を増やしていこうとする人間臭い法王の実像が描かれています。同時にルネサンス当時のフランス、スペイン、ベネツィア、フィレンツェ、ドイツ、トルコの歴史もよくわかります。
もちろん実際の法王庁では神聖な部分がほとんどだと思いますが、塩野さんは別の観点から見た法王の人間ドラマを描いているので、同じ人間としてわかり易く、非常に愉しく読めます。
「参考にした資料」として掲載された9ページにわたる西欧の文献が、ただの小説でなく歴史ロマン小説であることを物語っています。