新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

葉室麟『墨龍賦』『暁天の星』

2023年10月14日 | 本・新聞小説
Dr.Kさんの本の紹介がなかったら、こんな格張ったタイトルの『墨龍賦』を選ぶことはなかったでしょう。主人公は絵師「海北友松」、「かいほうゆうしょう」と読みます。

ずっと前、桃山時代の絵師「海北友松」の評価が海外で高まっているという新聞記事を読んでいました。耳新しい名前がそれ以来心に残っていたので早速飛びつきました。

友松は単に絵師だけではなかったのです。近江浅井家は信長に滅ぼされました。家臣の海北家も同時に滅亡したのです。友松は仏門に身を置きながら、武人の魂で家の再興に煩悶する葛藤の日々でした。
その間に出会う安国寺恵瓊、明智光秀、斎藤利三、狩野探幽・・・などとの交流はさながら群像劇的な趣があり、読みごたえのある歴史小説です。

友松の絵に関してはタイトルの表記のみが多く、その都度スマホで検索すると、狩野派とは違う手法の素晴らしいものでした。狩野派や等伯ほど展覧会でも取り上げられていないのが不思議なほどです。
友松は桃山時代の最後の巨匠として活躍しますが、息子・友雪も時代を代表する絵師になり幸せな晩年だったようです。
頭の片隅から気にかかるものが取れてスッキリ。心が軽くなりました。

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『暁天の星』は陸奥宗光が主人公です。
坂本龍馬は陸奥の才能を早くから見抜き、陸奥も龍馬を尊敬し慕っていました。万国法に詳しかった龍馬が生きていたら、きっと諸外国と渡り合い不平等条約の改正に努めていたに違いないと心の支えにしています。

薩長政権への反対勢力という立場でしたが、留学後はその間違いを悟り、立場を変えて外務省に入ります。井上馨や大隈重信とは違って、陸奥は政略を仕掛けて外交を行おうとしていました。
条約の改正には、清やロシアに勝って外国に認められることが不可欠という思いを深くしていきます。清国との駆け引きをしながら、他方ではイギリスとの交渉を急ぎました。
『不平等条約の改正はまずイギリスと行うこと。イギリスはおのれの利がなければ動かない。日本がイギリスに与えることができる利は、イギリスがもっとも警戒しているロシアの南下を防ぐ盾となること』というカミソリのような考えでした。
隣国との戦いを避けたい明治天皇からの視線は冷ややかなものでした。睦奥にとっては辛いものでしたが、国家というものは誰かが悪人になって支えなければならない、自分は間違っていないと思います。

今まで、陸奥宗光は外務大臣として欧米列強と対峙して不平等条約の改正に尽力したと思っていたのは表面的で、裏側は決して単純で美しいものではなかったのです。
日清戦争後の講和会議が始まる場面で絶筆。著者は病のため66歳の生を終えました。



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