萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

初夏の森

2013-04-24 20:53:34 | 写真:山岳点景
夏花の涙、春の名残に



宝鐸草、ホウチャクソウという花だそうです。
近場にある静かな森で今、白い花があわい緑の翳で鈴のよう揺れています。
ちょうど雨の合間には花の雫がきらめいて、曇りの優しい光が瑞々しく綺麗でした。

昨夜UPの第64話「富岳2」加筆校正が終わりました、周太と光一の奥多摩行きです。久しぶりに光一の転がし有りです。
短篇連載「暁光の歌11」も加筆は終わり、あと少し校正する予定でいます。
このあと「暁光の歌12」を今夜はUPしたいなってとこです。

小説ごとのアクセス数なんですけど。
英二の「side story」、周太の「another」、光一の「side K2」そして雅樹の「Aesculapius」だとね、
最近は「Aesculapius」の人気が高いんですよね、二十歳も27歳のも。
そこでちょっと読んでいる方に聴きたいんですけど、

【1】4人のなかで誰が気になりますか?
【2】4つの小説の中でどれが一番好きですか?
【3】登場人物で一番のお気に入りは誰ですか、また苦手な人物はいますか?

質問3つ、いずれも複数回答や順位づけなどして頂いても嬉しいです。
よかったらコメント・メッセージなどで教えて下さい、メールなら→tomoei420@mail.goo.ne.jp

今日で開設600日らしいので、特別編でも書こうかなあとか考えています。
ちなみに昨日までの閲覧回数は527,913、閲覧IP数138,954 が累計だそうです。
本当にありがとうございます、読んで下さる方があって毎日続けられています。
何か少しでも良いなって感じて頂けてるでしょうか?

で、こんな話を書いてとかリクエストありますか??




これは深山壺菫、ミヤマツボスミレ、だと思われます。
小さいけれど可愛い花です、普通は高山帯に多いそうですが何故か咲いていました。
本来の場所とは違うかもしれない、それでも綺麗に花を咲かせている姿は愛しいです。

下は山吹草、ヤマブキソウと言って山麓に多い花です。
この大群落を見つけてちょっとテンションがあがりました。笑
あわい緑の翳しずむ森の底、黄色い花がカンテラの灯すよう揺れる。
そういう姿はなんだか不思議です、花にも森にも意志があるような気がしてしまいます。




こんな写真を今日は休憩合間に撮っていました。笑
神奈川ってちょっと郊外に行くと、こういう場所がたくさんあるんですよね。
でも知られると人が増えそうなので内緒にしておきたくなります、やっぱり。

もしヒントは?って言われたら「水源の森」です。
そんなだけだとまあ、ドコだか全然解んないって思いますけど、笑
そして休憩時間がちょっと長かった事は秘密です、モノの序でって言葉もありますからね。

今、青葉の森は花の色彩であふれています。
傍目には緑一色の山野ですが、中に入れば色彩の豊穣が息づいています。
こんなふうに何でもその世界に入ってみなければ、本当の姿は見えないモンですね。








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第64話 富岳act.2―another,side story「陽はまた昇る」

2013-04-24 00:29:23 | 陽はまた昇るanother,side story
懐旧と現実、そして希望



第64話 富岳act.2―another,side story「陽はまた昇る」

8月の平日朝、下り方面の列車は空いていた。
ハイカーらしい服装の乗客も幾人かいる、その合間に席へ腰下す。
連れ立つ相手も一緒に坐りこむと物珍しげに車内を見まわし、テノールが笑った。

「電車ってさ、今はカード1枚で乗り換えもナンでも出来るんだね?随分と進化したよね、」
「え、」

言われた言葉に周太は隣の笑顔を見つめた。
その笑顔は楽しげでも冗談の気配は無い、そんな幼馴染に周太は尋ねた。

「ね、光一ってもしかして電車に乗るの、すごく久しぶり?」
「だね、警学を卒業して以来ってトコだね、」

ちょっと考えるよう雪白の貌を傾げてくれる。
光一は高卒任官だから警察学校卒業から5年だろう、その間に一度も電車を使っていない?
それが予想外で、けれど納得も出来ると思いながら周太はIpodのイヤホンを片耳にセットし微笑んだ。

「いつも光一は車で動いているけど、本当に5年間ずっと車だけだった?」
「うん、車以外でって無いよね?あ、海外の遠征訓練の時は飛行機と、アッチの電車に乗ってるけどさ。何聴くの?」

答えと質問を同時にしてくれながら光一はデイパックからペットボトルを出した。
炭酸の弾く音と栓を開いて口付ける、その白い喉が動くたびオレンジの香かすかに零れだす。
その匂いが好みで今度買ってみたいな?そんな思案に微笑んで周太は片方のイヤホンを幼馴染の耳にセットした。

「イギリスのひとが作った曲だよ、賢弥から貰ったの、」

友だちを名前で呼ぶ、それが幾らか面映ゆい。
まだ名前呼びは間もない含羞に首すじを撫でた周太に、底抜けに明るい瞳が愉快に笑った。

「へえ?名前で呼ぶ相手が俺と英二と美代の他にも出来たんだね、そいつ東大の天才くんだろ?」
「ん、そうだよ…賢弥も俺のこと名前で呼んでくれるから、俺もね、」

答えながら少し気恥ずかしくて、けれど嬉しくなる。
こんなふう新しい友人のことを話せるのは何か誇らしい、光一の呼名も率直な賞賛が温かで嬉しい。
この幼馴染も賢弥には好意を感じるのだろう、嬉しくて微笑んだ額を白い指で小突くと光一は笑ってくれた。

「よかったね、良い友達になれそうでさ?でも英二は嫉妬するんじゃないかね、どうすんの?」

そんなこと英二がするのだろうか?
むしろ自分が嫉妬する方が多いだろうに?そんな想い首傾げながらIpodのスイッチ入れると訊いてみた。

「ね…英二が嫉妬なんてするのかな?」
「するね、賢弥ってホント良いヤツみたいだしね、きっと美代に対してと同じかソレ以上に嫉妬するんじゃない?あ…、」

可笑しそうに答えてくれる笑顔が、ふっと止まった。
ペットボトルに蓋すると白い長い指はイヤホンを包んで透明な瞳が瞑られる。
瞑目する秀麗な横顔は音を追ってゆく、その静謐に微笑んで周太はそっと鞄から本を出し膝に開いた。

……

If “manners maketh man” as someone said
Then he’s the hero of the day
It takes a man to suffer ignorance and smile
Be yourself no matter what they say

I’m an alien, I’m a legal alien
I’m an Englishman in New York…

Modesty, propriety can lead to notoriety
You could end up as the only one
Gentleness, sobriety are rare in this society
At night a candle’s brighter than the sun

Takes more than combat gear to make a man
Takes more than license for a gun…

……

ハスキーな声がサックスと謳ってゆく。
掠れているのに澄んだ低い声と軽やかに歩くようなビートが音を刻む。
どこか夜明けを想わす旋律と異国の詞は明るく切ない、そんな空気は今、隣に座る横顔と似ている。

―この曲を光一、知ってたのかな?だからさっき、あ、って…

心裡ひとりごとに見つめる横顔は、長い睫を伏せたままイヤホンを掌に包んで聴いている。
その睫から光ひとしずく零れて砕けて、周太は軽く息呑んで悟った。

―想い出の曲なんだね、雅樹さんの、

この曲は自分たちが生まれる前に作られて、そのころ雅樹は思春期だったろう。
切なく明るい音も優しいトーンで紡ぐ詞も、光一から聴く雅樹の雰囲気とあっている。
きっと光一を助手席に乗せた四駆の車内、カーステレオで聴くこともあったかもしれない。
そんな記憶を幼馴染の涙に見つめて周太は静かに視線を膝のページに向けた。

―そっとしておいてあげたい、今日はきっと特別だろうから…ね、光一?

今日、久しぶりに光一は故郷へ帰る。
日帰りの短い時間を光一は実家の山と畑を見、祖父母を手伝うだろう。
そして多分、両親の墓参りを終えたらあの山桜の森へ行って、それから雅樹の墓に行く。
その時間を想いながら今聴いている音と詞に、懐かしい愛しい記憶を辿っているのかもしれない。



ホームへ降り立つと、ふわり緑ほのかな香が霞めた。
河辺の駅から山嶺は近くない、それでも吹く風に山の気配は薫らす。
発車して行くレール音を聴きながら歩く隣、テノールが歌うよう笑った。

「山の風だね、水の匂いもナントナクする、残暑の湿気が匂いを運んでくれるね、」
「ん、そうだね、」

微笑んで見上げた先、底抜けに明るい目が嬉しげに笑う。
その眼差しは第七機動隊舎で見るよりずっと明るんで寛ぐ、そんな表情に幼馴染の本音を見て周太は口を開いた。

「光一、やっぱり黒木さんはね、その、色々と大変なの?」

第七機動隊山岳救助レンジャー第2小隊所属、黒木要巡査部長。
彼についての噂は自分も先輩たちから聴いている、けれど七機で光一に尋ねることは控えていた。
それでも今この河辺の街でなら話せるだろう、そんな想いと改札口を潜るとテノールは可笑しそうに微笑んだ。

「高田さんか本田くんアタリかね、ゲロっちゃったのは?」

山岳の第2小隊員である高田とは森林学を通じて仲良くなった、本田とは年齢が近くて銃器の松木と同期な為に親しい。
だから二人を真先に挙げるのは当然だろう、けれど黒木の件を聴いているのは二人からだけでは無い。
その事実に正直なまま周太は幼馴染に告げた。

「他の人も皆だよ、浦部さんが言う位だから…銃器対策でもね、箭野さんと菅野さんも言ってた、」

自分が所属する銃器対策レンジャーの先輩からも黒木の件は聴いている。
それほどに1ヶ月で黒木と光一の事は噂になってしまった、その現実は楽しい訳が無い。

―でも光一は愚痴を全然言わないんだ、誰にも、俺にも…たぶん英二にも未だ言ってない、

いま本当は吐きだしたい事もあるはず、真直ぐな光一の性分なら尚更に言いたいだろう。
それでも小隊長という指揮官の立場から黙って飲みこんでいる、だからこそ尚更に光一の信望は篤い。
そんな光一の姿は1ヶ月前と別人のようで本質を知るだけ心配にもなる、そんな思案と見上げた周太に怜悧な瞳が笑ってくれた。

「浦部さんと箭野さんが言うんじゃあ、余程って思われちゃうね?その件で俺、岩崎さんに相談と原サンの事情聴取に来たね、」

飄々と笑いながら白い指が軽く額を小突いてくれる。
そんないつも通りの様子にすこし安堵しながら、周太は幼馴染に笑いかけた。

「お家の用事済ませたら御岳駐在に行くんでしょ、俺も帰りは御岳に行けば良いかな?」
「だね、御岳駐在で待ち合わせしよっかね。周太も岩崎さんと話したいだろうし、なにより、ねえ?」

ねえ?と笑う悪戯っ子な眼差しが瞳を覗きこんでくれる。
なんのことか解らなくて小首傾げた耳元へ長身を屈めて、楽しげなテノールが囁いた。

「…原サン見たいよね、周太ライバル見学ってカンジ?」

らいばるとかってどういう意味なわけ?

言われた台詞に首筋を勝手に熱が昇りだす。
もう赤くなりそうで余計に気恥ずかしい、熱い顔で周太は隣の笑顔を睨んだ。

「らいばるってどういう意味なわけ?」
「英二を廻ってに決まってるね、他に何があるワケ?」

即答して笑う雪白の貌は愉快に明るくほころんでいる。
こんな笑顔は憎めない、けれど言ってくれる言葉に唇結んだ先からテノールが追い打ちかけた。

「ほら、英二と原サン二人きりでビバークしちゃったろ?霧の山中なんて何ヤってもバレないからね、正妻宣言して牽制しとけば?」

何ヤってもって、何するの?
そんな自問に額まで熱くなって周太は幼馴染へ抗議した。

「へんなこといわないで光一、だいたい原さんは俺のこと知らないんだからね、そんなおおっぴらに言っていいことじゃないでしょ」
「大っぴらにしちゃえば?いつも主人が世話になってます、ってね、」

軽やかに言って底抜けに明るい目が笑ってくれる、その表情に心止まりかけてしまう。
こんなふうに周太と英二の幸福を取り持ってくれる底には、さっき電車で見た涙の泉が澄んでいる。

―自分と雅樹さんが寄りそえなかった分もって願ってくれてる、いつも、こんな時ですら、

いつも光一の視界にはきっと、雅樹の瞳が映っている。
そう解るから光一の悪戯っ気も何もかも全てが愛おしい、そして笑顔でいてほしいと願ってしまう。
だから今も光一が明るく笑ってくれるなら一緒に笑いたい、この願いに周太は腕を伸ばし雪白の額を小突いた。

「ばか、けっこんまえからそんなこといいません、それに英二の許可なくそんなことだめ、内緒にして?」
「はーい、出来るだけ俺も黙っとくね、」

軽妙に返事してカーゴパンツの長い脚を歩かせてゆく、その足元は登山靴が鳴っている。
今ごろ英二も夏富士の道を登山靴で登ってゆくのだろう、そんな想像をするうち懐かしい庁舎の門を二人通った。
そして入口を入ってすぐに職員らしい顔が振向いて光一へと手を挙げ微笑んだ。

「久しぶりです、国村さん、今日はどうしたんですか?」
「お久しぶりです、ちょっと里帰りと相談にね、」

明るいテノールで笑い返しながら、慣れた貌で廊下を歩いてゆく。
その足取りも横顔も楽しげで嬉しくなる、それでも少しの緊張と歩いて懐かしい扉をノックした。
そのまま雪白の手は開いて部屋に入ると、デスクから振り向いた白衣姿へ光一は笑いかけた。

「失礼します、吉村先生、周太のお供してきましたよ、」
「国村くんも一緒だったのか、お帰りなさい、」

お帰りなさい、そう言って立ち上がった白衣姿の笑顔は温かい。
いつもの穏かな眼差しが周太を見、深い透る声が笑ってくれた。

「元気そうだね、湯原くんも。すこし日焼けして精悍な感じになったかな?」
「お蔭さまで元気です、あの、昨日の今日ですみません、」

恐縮しながらも微笑んで周太は頭を下げた。
その前で医師は往診鞄をデスクから取りながら、提案してくれた。

「謝らないで下さい、いつでも大歓迎ですから。電話で話したように今から往診なので一緒にうちの病院へ行って、あちらに居て下さい。
待つ間に資料など見て頂けると思うのですが、電話で仰っていたご質問は何でしょうか?内容によってはこの机から資料を出しますので、」

今日は吉村医師に質問したくて自分は来た。
その内容への緊張ひとつ息吐いて、周太は篤実な医師へと告げた。

「銃創の応急処置について伺いに来ました、僕にも出来る限りの処置を教えて下さい、」

答えた向こう側、穏やかな瞳が周太を真直ぐ見つめた。
その眼差し深くには悲しみと、それでも希望を繋ぐ意志が温かい。






(to be continued)

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