So long as men can breathe or eyes can see

第70話 樹守act.5―another,side story「陽はまた昇る」
ふるい紙面に連なるのは薄墨いろの名前たち。
繰っていくページを黄昏のオレンジ淡い、その明滅に窓の風が解かる。
障子戸越しの光やわらかに照らす静謐、仏間に独り周太は14年前の芳名帳を読んだ。
―後藤さんも安本さんも来てくれて…あ、受付をしてたのって、安本さん?
ページに知人を見つけるごと記憶の水面は揺らいで、ゆっくりシーンが浮びだす。
14年前の春、父の通夜と葬儀で受付をしてくれた横顔が今、現在の安本と重なってゆく。
あのときより白髪の増えた髪、目許の陰翳と哀切、それを加減算するごと検案所の時間すら見える。
『これが、お父さんの手錠だよ』
ほら、あの夜の声がもう聞えだす。
あのとき受けとった父の手錠は研かれて、けれど小さな傷痕が無数に刻まれていた。
あの傷ひとつずつ父は何を見つめたのだろう、あの傷の分だけ父は泣いたのかもしれない。
両掌に捧げて見つめた父の手錠、その記憶だけは憶えているのに安本の貌も声も自分は忘れていた。
『私は、お父さんの友達なんだ。犯人はもう捕まえたから。必ず、お父さんの想いを私が晴らすから』
あのとき安本がくれた約束は父への愛惜だった。
それを9歳の自分は見上げながら泣きたくて、けれど泣いたら駄目だと呑みこんだ。
それでも安本の想いは哀しみの底からも感謝したいと想えて、だから通夜の時も挨拶した。
―…お手伝いありがとうございます、おいそがしいのにすみません、
ほら、幼い自分が頭を下げている。
白いシャツに黒いジャケットとハーフパンツ、そんな姿の自分が頭を下げる。
見つめた視界は黒いハイソックスと黒いローファー、そして緑の芝生には薄紫の菫が咲いていた。
「…すみれが咲いて、山桜が咲いて…桜の木のところに座ってたよね、」
弔問客を迎える支度に大人たちは働いて、そんな姿を見つめながら山桜の許に佇んだ。
父が愛した花木に寄添いながら心ひとつ約束を見つめた、そこに一人の山ヤが来てくれた。
『良い桜の木だね、』
父と同じような年恰好の笑顔は優しくて日焼健やかに大らかだった。
その雰囲気がどこか山での父と似ているようで、父に話しかけられたようで嬉しかった。
―…この桜の木はお父さんが大切にしている奥多摩の山桜なんです…僕はこの桜を護れる樹医になりたいんです、
あの山桜を見上げながらそう答えた、あのとき自分は誇らしかった。
父と似た誰かに父との約束を語れた、それが嬉しくて少しだけ慰められた。
「そう、あのときは約束を憶えていて…樹医になることがお父さんに喜んでもらえるって、想って…」
記憶の感情が今、静かな座敷にひとり零れ落ちてゆく。
あのとき父との約束は大切だった、それなのに、どうして忘れてしまったのだろう?
『奥多摩の山には山桜がたくさん咲くよ、』
ほら、山での父と似た笑顔は泣きそうな瞳で応えてくれる。
あの言葉と同じことを父に教わっていた、だから彼は奥多摩を知る山ヤだと自分には解った。
だから自分は質問をした、おじさんは山ヤさんですか?そう訊いて、そうだ、と応えてくれた。
「…アンザイレンパートナーがいるのか訊いたよね、それでいるって言われて嬉しくて…おとうさんは居なくて寂しそうだったから、」
あの日に自分が抱いた感情、声にした想い、それが芳名帳の名前たちから目を覚ます。
まだ小学校4年生になったばかり、9歳だった自分の想いも記憶も消えたのだと想っていた。
けれど今こうして見つめる14年前の名前たちと会話する幼い自分が、涙を堪えて微笑んでいる。
「そう、あのひと…蒔田さんって名前で、お父さんと教場は違うけど同期だって…もしかして地域部長の蒔田警視長かな?」
14年前の泣きそうな笑顔が一人の笑顔と重ならす。
警視庁の射撃競技会、あのとき光一が述べた言葉に拍手して救助隊服を認めてくれた。
あの地域部長があの「山ヤさん」だとしたら光一の意見に賛同したことも納得出来てしまう。
「お父さん、お父さんには蒔田さんも居てくれたんだね?…すごく感じの良い人だなって俺は想うよ、」
笑いかけて見あげた位牌は、黄昏あわく艶めかす。
すこし昏くなり始めた座敷の空気、けれど西陽はまだ明るく光をくれる。
その茜色にページを繰りながら眺めていく名前たちは警察の肩書と並ぶ。
そんな芳名帳から田嶋教授が教えてくれた父の交友関係が裏付けされる。
『先輩は大学時代の仲間と縁遠くしていてな、私も新聞の記事で亡くなったことをを知ったんだよ。
驚いて、すぐご自宅に電話したんだが番号が変っていてな。留守番電話も Fax も確かめたけど、何も連絡の跡は無かったんだ。
大学の仲間は誰ひとり先輩の新しい電話番号を知らなくて、訃報も無くてな…先輩は縁を切りたかったのかと思えて、そのままなんだ、』
田嶋教授が教えてくれた通り、父の芳名帳には学生時代の友人は誰もいない。
母の親しい友人ひとり、近所の親しい知人、あと残り全ては警察関係者だけ。
全員が警視庁警察官の肩書を記して綴られるまま大半がある一点に集中する。
警備部警備第一課
捜査一課特殊犯捜査第1係、特殊犯捜査第2係
第六機動隊銃器対策部隊、第七機動隊銃器対策レンジャー部隊、第八機動隊銃器対策部隊
―どれもが銃だね…山岳救助隊の人もいるけど後藤さんと蒔田さんくらいで、あとは同期のひと、
銃火器のプロフェッショナル集団、その組織名が列挙されていく。
こんなふうに参列者から父を取巻いた状況を思い知らされて、父の真実と真相が浮びだす。
「お父さん、学生時代の友達がひとりもいないのって、…巻き込みたくないからでしょ?」
そっと独り問いかけた声に唯、位牌だけが沈黙のまま佇む。
それでも父の本音は祖父が遺した小説と田嶋教授の言葉からもう解かる。
そんな全てが鼓動から泣き出しそうで、深く呼吸ひとつ吐いて捲ったページに瞳止まった。
「…このひと、」
薄墨の筆跡端正に記す、ひとつの名前が圧し掛かる。
この一人だけ肩書を書いていない、けれど警察関係者だと自分は知っている。
この名前を自分は聴いたことがある、そして現在の貌も最近に見て知っている。
「お通夜のときに来てる…このひと…?」
ことん、
記憶の底ひとつ開いて、現在の貌と声が14年前の鍵を外す。
そうして現れだす老人の貌と声と、言われた言葉たちが静かに形を戻し始める。
あのとき確かに会話した一人、そして忘れていた言葉と時間と意味が鼓動ひとつ脈打った。
『お父さんが喜ぶと思いますよ、同じ道を君が歩いたら、』
父と同じ道、その言葉が意味することは何だった?
あのとき老人に自分は何を言われて、なんて答えたろう?
自分の答えに老人が返した言葉は何だったのか、あの眼差しは何を映した?
そうして自分はあのとき何を見つめて、何を「喪って」しまったのだろう?
「…っあ!」
声が叫んだ、そして記憶から刺された心が、息が止まる。

久しぶりに立つ台所は馴染みの気配に温かい。
握る包丁の柄も掌しっくり遣われて、夕食の支度が整ってゆく。
今朝のメールで母がくれたリクエストに旬の味を加えて、ダイニングに湯気が優しい。
「ん…もうじき帰って来るね?」
見あげた柱時計に母の帰宅が待たれて、その期待に炊飯器の時間が近づく。
今夜は残業の報せもまだ無い、だから時間通りに帰って来てくれるのだろう。
そんな愉しい予想に食卓へ母の好きなワイングラスも置いて、門扉の軋みが聞えた。
「ん、帰って来た、」
嬉しくて、いつものエプロン掛けたままステンドグラスの扉を開く。
その向こうエントランスホールに開錠音が立って、黒目がちの瞳の笑顔が帰ってきた。
「ただいま、周。良い匂いね、」
「おかえりなさい、お母さん、」
笑いかけて出迎えて、久しぶりの笑顔が嬉しいまま泣きたくなる。
スーツ姿の母は若々しく綺麗で温かい、この笑顔にまた会いたかった。
こんなふうに母を迎えられる時間も一週間後には遠い、その刻限が鼓動を絞める。
―お母さんには俺だけが家族なのに、ごめんね…でも親戚のひとがいたんだよ?お父さんの友達も、
笑いかけて母の前に立ちながら、話したいことが廻って心あふれてしまう。
この想いをどこから今夜は話したら良いのだろう、母は何て言ってくれる?
そして今日、知ってしまった真相を自分は、どこまで話したらいい?
―言えない、お祖父さんの罪も拳銃も言えない、英二が親戚なことも…でもお父さんの本は話せるね、田嶋先生のことも、
心そっと整理しながら笑いかけるまま、母の瞳が自分を見つめてくれる。
黒目がちの穏かで明るい瞳は微笑んで、けれど白い手そっと伸ばされ額にふれた。
「お母さん、どうしたの?」
額ふれる母の手に不思議で笑いかけて、けれど母の瞳は凝っと自分を映す。
こんなふう触れて見つめる貌は遠い日にあるようで、その記憶を見つめるまま母が言った。
「周?熱があるんじゃないかしら、」
「え…」
意外な母の言葉に不思議で、首傾げこんでしまう。
特に自覚症状も無い、ずっと今日の自分は忙しく動けている。
そんな今日の時間は何ともなくて周太はいつものよう母に笑いかけた。
「ううん、元気だよ?…お風呂入ったから熱っぽいように見えるかも、ね、ごはん食べよう?支度出来てるの…ごはんで話そう?」
(to be gcontinued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet18」】
blogramランキング参加中!

にほんブログ村
にほんブログ村

第70話 樹守act.5―another,side story「陽はまた昇る」
ふるい紙面に連なるのは薄墨いろの名前たち。
繰っていくページを黄昏のオレンジ淡い、その明滅に窓の風が解かる。
障子戸越しの光やわらかに照らす静謐、仏間に独り周太は14年前の芳名帳を読んだ。
―後藤さんも安本さんも来てくれて…あ、受付をしてたのって、安本さん?
ページに知人を見つけるごと記憶の水面は揺らいで、ゆっくりシーンが浮びだす。
14年前の春、父の通夜と葬儀で受付をしてくれた横顔が今、現在の安本と重なってゆく。
あのときより白髪の増えた髪、目許の陰翳と哀切、それを加減算するごと検案所の時間すら見える。
『これが、お父さんの手錠だよ』
ほら、あの夜の声がもう聞えだす。
あのとき受けとった父の手錠は研かれて、けれど小さな傷痕が無数に刻まれていた。
あの傷ひとつずつ父は何を見つめたのだろう、あの傷の分だけ父は泣いたのかもしれない。
両掌に捧げて見つめた父の手錠、その記憶だけは憶えているのに安本の貌も声も自分は忘れていた。
『私は、お父さんの友達なんだ。犯人はもう捕まえたから。必ず、お父さんの想いを私が晴らすから』
あのとき安本がくれた約束は父への愛惜だった。
それを9歳の自分は見上げながら泣きたくて、けれど泣いたら駄目だと呑みこんだ。
それでも安本の想いは哀しみの底からも感謝したいと想えて、だから通夜の時も挨拶した。
―…お手伝いありがとうございます、おいそがしいのにすみません、
ほら、幼い自分が頭を下げている。
白いシャツに黒いジャケットとハーフパンツ、そんな姿の自分が頭を下げる。
見つめた視界は黒いハイソックスと黒いローファー、そして緑の芝生には薄紫の菫が咲いていた。
「…すみれが咲いて、山桜が咲いて…桜の木のところに座ってたよね、」
弔問客を迎える支度に大人たちは働いて、そんな姿を見つめながら山桜の許に佇んだ。
父が愛した花木に寄添いながら心ひとつ約束を見つめた、そこに一人の山ヤが来てくれた。
『良い桜の木だね、』
父と同じような年恰好の笑顔は優しくて日焼健やかに大らかだった。
その雰囲気がどこか山での父と似ているようで、父に話しかけられたようで嬉しかった。
―…この桜の木はお父さんが大切にしている奥多摩の山桜なんです…僕はこの桜を護れる樹医になりたいんです、
あの山桜を見上げながらそう答えた、あのとき自分は誇らしかった。
父と似た誰かに父との約束を語れた、それが嬉しくて少しだけ慰められた。
「そう、あのときは約束を憶えていて…樹医になることがお父さんに喜んでもらえるって、想って…」
記憶の感情が今、静かな座敷にひとり零れ落ちてゆく。
あのとき父との約束は大切だった、それなのに、どうして忘れてしまったのだろう?
『奥多摩の山には山桜がたくさん咲くよ、』
ほら、山での父と似た笑顔は泣きそうな瞳で応えてくれる。
あの言葉と同じことを父に教わっていた、だから彼は奥多摩を知る山ヤだと自分には解った。
だから自分は質問をした、おじさんは山ヤさんですか?そう訊いて、そうだ、と応えてくれた。
「…アンザイレンパートナーがいるのか訊いたよね、それでいるって言われて嬉しくて…おとうさんは居なくて寂しそうだったから、」
あの日に自分が抱いた感情、声にした想い、それが芳名帳の名前たちから目を覚ます。
まだ小学校4年生になったばかり、9歳だった自分の想いも記憶も消えたのだと想っていた。
けれど今こうして見つめる14年前の名前たちと会話する幼い自分が、涙を堪えて微笑んでいる。
「そう、あのひと…蒔田さんって名前で、お父さんと教場は違うけど同期だって…もしかして地域部長の蒔田警視長かな?」
14年前の泣きそうな笑顔が一人の笑顔と重ならす。
警視庁の射撃競技会、あのとき光一が述べた言葉に拍手して救助隊服を認めてくれた。
あの地域部長があの「山ヤさん」だとしたら光一の意見に賛同したことも納得出来てしまう。
「お父さん、お父さんには蒔田さんも居てくれたんだね?…すごく感じの良い人だなって俺は想うよ、」
笑いかけて見あげた位牌は、黄昏あわく艶めかす。
すこし昏くなり始めた座敷の空気、けれど西陽はまだ明るく光をくれる。
その茜色にページを繰りながら眺めていく名前たちは警察の肩書と並ぶ。
そんな芳名帳から田嶋教授が教えてくれた父の交友関係が裏付けされる。
『先輩は大学時代の仲間と縁遠くしていてな、私も新聞の記事で亡くなったことをを知ったんだよ。
驚いて、すぐご自宅に電話したんだが番号が変っていてな。留守番電話も Fax も確かめたけど、何も連絡の跡は無かったんだ。
大学の仲間は誰ひとり先輩の新しい電話番号を知らなくて、訃報も無くてな…先輩は縁を切りたかったのかと思えて、そのままなんだ、』
田嶋教授が教えてくれた通り、父の芳名帳には学生時代の友人は誰もいない。
母の親しい友人ひとり、近所の親しい知人、あと残り全ては警察関係者だけ。
全員が警視庁警察官の肩書を記して綴られるまま大半がある一点に集中する。
警備部警備第一課
捜査一課特殊犯捜査第1係、特殊犯捜査第2係
第六機動隊銃器対策部隊、第七機動隊銃器対策レンジャー部隊、第八機動隊銃器対策部隊
―どれもが銃だね…山岳救助隊の人もいるけど後藤さんと蒔田さんくらいで、あとは同期のひと、
銃火器のプロフェッショナル集団、その組織名が列挙されていく。
こんなふうに参列者から父を取巻いた状況を思い知らされて、父の真実と真相が浮びだす。
「お父さん、学生時代の友達がひとりもいないのって、…巻き込みたくないからでしょ?」
そっと独り問いかけた声に唯、位牌だけが沈黙のまま佇む。
それでも父の本音は祖父が遺した小説と田嶋教授の言葉からもう解かる。
そんな全てが鼓動から泣き出しそうで、深く呼吸ひとつ吐いて捲ったページに瞳止まった。
「…このひと、」
薄墨の筆跡端正に記す、ひとつの名前が圧し掛かる。
この一人だけ肩書を書いていない、けれど警察関係者だと自分は知っている。
この名前を自分は聴いたことがある、そして現在の貌も最近に見て知っている。
「お通夜のときに来てる…このひと…?」
ことん、
記憶の底ひとつ開いて、現在の貌と声が14年前の鍵を外す。
そうして現れだす老人の貌と声と、言われた言葉たちが静かに形を戻し始める。
あのとき確かに会話した一人、そして忘れていた言葉と時間と意味が鼓動ひとつ脈打った。
『お父さんが喜ぶと思いますよ、同じ道を君が歩いたら、』
父と同じ道、その言葉が意味することは何だった?
あのとき老人に自分は何を言われて、なんて答えたろう?
自分の答えに老人が返した言葉は何だったのか、あの眼差しは何を映した?
そうして自分はあのとき何を見つめて、何を「喪って」しまったのだろう?
「…っあ!」
声が叫んだ、そして記憶から刺された心が、息が止まる。

久しぶりに立つ台所は馴染みの気配に温かい。
握る包丁の柄も掌しっくり遣われて、夕食の支度が整ってゆく。
今朝のメールで母がくれたリクエストに旬の味を加えて、ダイニングに湯気が優しい。
「ん…もうじき帰って来るね?」
見あげた柱時計に母の帰宅が待たれて、その期待に炊飯器の時間が近づく。
今夜は残業の報せもまだ無い、だから時間通りに帰って来てくれるのだろう。
そんな愉しい予想に食卓へ母の好きなワイングラスも置いて、門扉の軋みが聞えた。
「ん、帰って来た、」
嬉しくて、いつものエプロン掛けたままステンドグラスの扉を開く。
その向こうエントランスホールに開錠音が立って、黒目がちの瞳の笑顔が帰ってきた。
「ただいま、周。良い匂いね、」
「おかえりなさい、お母さん、」
笑いかけて出迎えて、久しぶりの笑顔が嬉しいまま泣きたくなる。
スーツ姿の母は若々しく綺麗で温かい、この笑顔にまた会いたかった。
こんなふうに母を迎えられる時間も一週間後には遠い、その刻限が鼓動を絞める。
―お母さんには俺だけが家族なのに、ごめんね…でも親戚のひとがいたんだよ?お父さんの友達も、
笑いかけて母の前に立ちながら、話したいことが廻って心あふれてしまう。
この想いをどこから今夜は話したら良いのだろう、母は何て言ってくれる?
そして今日、知ってしまった真相を自分は、どこまで話したらいい?
―言えない、お祖父さんの罪も拳銃も言えない、英二が親戚なことも…でもお父さんの本は話せるね、田嶋先生のことも、
心そっと整理しながら笑いかけるまま、母の瞳が自分を見つめてくれる。
黒目がちの穏かで明るい瞳は微笑んで、けれど白い手そっと伸ばされ額にふれた。
「お母さん、どうしたの?」
額ふれる母の手に不思議で笑いかけて、けれど母の瞳は凝っと自分を映す。
こんなふう触れて見つめる貌は遠い日にあるようで、その記憶を見つめるまま母が言った。
「周?熱があるんじゃないかしら、」
「え…」
意外な母の言葉に不思議で、首傾げこんでしまう。
特に自覚症状も無い、ずっと今日の自分は忙しく動けている。
そんな今日の時間は何ともなくて周太はいつものよう母に笑いかけた。
「ううん、元気だよ?…お風呂入ったから熱っぽいように見えるかも、ね、ごはん食べよう?支度出来てるの…ごはんで話そう?」
(to be gcontinued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet18」】
blogramランキング参加中!


