Rough winds do shake the darling buds of May,

第70話 竪杜act.3-side story「陽はまた昇る」
四角い窓から、雲の流れが速い。
小さな窓の青と白に明るい会議室は狭くて、それでも二人なら充分すぎる。
そんなテーブルに弁当の空2つ片隅寄せて、英二は新しい登山図を広げた。
「へえ、奥多摩の新調したんだね?もうキッチリ書込みしちゃってあるけどさ、」
広げた登山図にテノールが笑って、雪白の指がポイントをなぞってゆく。
その底抜けに明るい瞳が陽気に愉しげで英二も笑いかけた。
「最初のは折目から壊れてきたからさ、テープで補強したけど保管することにしたんだ。あれは俺にとって大切な登山図だから、」
自分が初めて買った登山図は、奥多摩山塊だった。
卒業配置先に青梅署を希望して山岳救助隊員を志願した、それは無謀だったと今なら解かる。
その証拠が「最初の登山図」だろう、そんな想いに笑ったテーブル挟んで同齢のベテランクライマーも笑った。
「確かに大切な登山図だろね、アレがお初に買ったヤツだろ?卒配2ヶ月前にさ、」
「ああ、たった2ヶ月前に初めて買ったよ、」
笑って応えながら自分の無知と無謀が気恥ずかしい。
あれから一年以上を経た時間と山たちへの想いに英二は微笑んだ。
「あれを買った時が俺、登山図を見たこと自体が初めてだったんだ。そんな初心者が山岳救助隊を志願したなんて、本当に馬鹿だよな、」
初心者の癖に山岳レスキューになる、そんな発想は無知に過ぎて有得ない。
どんなに資料を読みこんで、採れる限り関連の検定合格して、ジムでトレーニングを積んでも「現場経験」に無知だ。
そして山岳救助隊ならば現場対応の機微が求められる分だけ経験は欠かせない、それが解かるから笑った先で山っ子は唇の端を上げた。
「ホント馬鹿だって俺も想ったよ、コイツ死にたくって来たのかなって想ったね、後藤のおじさんナニ考えてんだってさ、」
「うん、俺も想うよ、」
素直に笑って認めた向こう底抜けに明るい目が笑ってくれる。
その眼差しにある信頼に英二は一年の想いへ口を開いた。
「そういうの一年経った今なら解かるよ、俺が志願した事はどんなに危険だったか、光一のパートナーに選ばれる事も本来無かったって。
だから青梅署の皆が俺を受容れてくれるには覚悟とか色々あったなって今なら解かるんだ、誰よりも後藤さんの決断が得難いって解るよ、」
いま9月下旬、ちょうど一年前に卒業配置先が指示された。
第1方面から順次に告げられて第8方面まで自分が呼ばれなかった時、期待と不安が鼓動に佇んだ。
あのとき祈りながら待った警察学校の講堂は今もう遠くて、けれど第9方面青梅署の辞令は今も誇らしい。
あの瞬間を忘れないでいる限り自分は幸運への謙虚を忘れない、そんな想いごと英二は運命をくれた相手に笑いかけた。
「光一の条件に合うパートナーになる可能性を後藤さんが俺に見つけてくれた、信じて育ててくれた、だから今の俺があるんだ。
本当は後藤さんの決定に反対は多かったはずだ、それでも信じてくれた期待と信頼に応えたいって経験が増える分だけ解かるから思うよ?
だから今、七機で俺がどういう立場でどんなふうに見られているか解るんだ。まだ今の俺は本当には信頼して貰っていない、それが当然だ、」
第七機動隊山岳レンジャーに配属されて未だ1ヶ月も経たず、経験すら漸く一年。
そんな男が信頼されるなど有ってはならない、それほどに「山」は容易であるべきじゃない。
だからこそ今朝に告げられた内示が気懸りで、午前中ずっと廻らせてきた懸念を上官に問いかけた。
「そういう今の状況も国村さんは解かっているはずです、後藤さんも蒔田さんも。それなのに俺を特進させて大丈夫なんですか?」
山岳救助隊に卒業配置された、それだけでも自分は特例だった。
そして光一のザイルパートナーに選ばれたことは警察内外の山を知る人間には特例すぎる。
こうした特例が第七機動隊の山岳レンジャー達にどんな感情を起こさせるか?その懸念に怜悧な瞳は笑ってくれた。
「今朝も言ったよね、消防庁表彰に実績と加算で特進ってさ?そんだけ山の警察官として貢献してるよ、イメキャラになる位にね、」
なんでも無いふう上官で先輩は笑ってくれる。
大らかな怜悧の瞳を向けて明朗なトーンが話しだした。
「消防への引継書を考案したのはオマエだ、登山計画のWEB提出を改訂した、吉村先生をサポートして警察医とレスキューの資料も整備した。
どれも今までナントカしなきゃって誰もが想ってたのに出来なかったね、でもオマエは一年目の癖にキッチリ遣り遂げてたよ、大したモンだね、」
明るいテノールが告げてくれる一年間が懐かしい。
どれも纏わる記憶たちは遠く近い、その懐旧と見つめる笑顔は続けてくれた。
「刑事事件の解決もオマエは2つある、吉村先生と自殺案件にされかけた殺人事件を暴いて、連続強盗犯の逮捕と聴取もやってるよ、
山の実績でもね、俺に付合って北壁2つ記録を作っちゃったから世界の山岳会でオマエは知られちゃってるよ、で、今回の山火事だろ?
しかも山梨県警の管轄で2回レスキューやってる、ここらでオマエにご褒美あげとかないと対外的にも警視庁として示しがつかないワケ、」
事務的実績、刑事事件、クライマーとして山岳レスキューとしての事績。
すべてを端的に並べてくれる笑顔こそ自分を引き上げてくれた、その感謝と向きあう真中で光一が笑った、
「なにより宮田はさ、礼状通数がずばぬけちゃってんだよね?オマエが現場に就いたのは6ヶ月だけど警視庁の去年度ダントツだよ、
それってね、オマエの美貌もあるだろうけど精神的にもレスキュー出来てるからだ。コンダケ貢献する2年目のヤツって滅多にいないよ、」
貢献している、そう言ってくれる実績に胸ずきりと痛む。
元はと言えば全て貢献なんて理由じゃ無い、その本音を英二は声にした。
「国村さん、確かに言ってくれてる通りの事を俺はしました、だけど警察官である責務よりも個人的な理由から全部やっています、」
個人的な理由、それが自分を動かす本音の動機。
それを今だからこそ話したくて言葉を続けた。
「吉村先生のお手伝いは先生のご苦労を援けたかった事と、自分自身がレスキューの技術と法医学を教わりたかったからです。
刑事事件のことも先生から教わる現場にすぎません、山の記録も個人的に山が好きだからビレイヤーと山ヤのプライドです、なにより、」
なにより、そう言って呼吸ひとつ英二は微笑んだ。
この先は本当に個人的な理由になる、その想い正直に笑った。
「光一がいちばん解かってるよな?俺が警察医の仕事までサポートした理由も、山で名前を売った理由も、全部が周太を護る為の利用だ、」
「だったら利用しちまいな、今回の特進もイメキャラもね、」
さらり返して底抜けに明るい目が笑う。
その眼差し真直ぐに英二を見つめ教えてくれた。
「山火事を腕一本で防いだ勇敢な警官サンは2年目で特進するほど優秀で真面目かつイケメンくん、こういう存在は警察のイメージアップだろ?
だからイメージポスターのモデルにも選ばれたんだよ、要するに警察庁だってオマエを利用してるワケさ、オマエが利用したってオアイコだね、」
利用され利用する、こんな論法は自分らしいかもしれない?
それを解かって光一も言ってくれる、そんなパートナーは言葉を続けた。
「で、俺がポスターの話を受けた理由は周太のコトがあるからだね、たぶん後藤さんも蒔田さんもソコントコは同じだと思うけど?」
「周太のことが?」
聴き返した向こう怜悧な瞳が笑ってくれる。
その眼差しに意図を見つけて英二は微笑んだ。
「有名人になる方が、逆にマークを外せるって事か?」
答えた先、底抜けに明るい目が笑ってくれる。
ただ無言の肯定に上官たちの意志は温かい、その感謝に英二は微笑んだ。
「ありがとございます、有難くイメージポスターの件も務めさせて頂きます、」
「よろしくね、で、確認なんだけどさ、」
確認、そんなふう言ってくれる内容は解かる気がする。
それでも告げられるまで待った呼吸ひとつ、透るテノールが尋ねた。
「周太の異動はオマエも聞いたよね、箭野も一緒に今日から一週間の引継ぎに入るってさ?この一週間がナンなのか解かるだろ?
この一週間を周太がドコで何して生きようってするかもオマエなら解かるよね、だったら一緒にいたいだろ、英二、オマエどうしたい?」
一週間、ただ七日間。
たった七日間しかない時間を、どうしたいのか?
そんなこと本当は決まっている、この七日間の先にある現実を知っている。
だからこそ願いたい、けれど今も聴かされた自分の立場と与えられたチャンスに我儘は、自分が赦せない。
「逢いたいよ、でも帰らない、」
告げた自分の声は、落着いている。
そんな自分に少し安堵した向かい、登山図ごしに怜悧な瞳は笑ってくれた。
「オマエも周太も意地っ張りだね?で、オマエ自分で解かってないと思うけど、この間のニュースで映ってたの知ってる?」
「え、」
初めて聴くことに瞳ひとつ瞬いた真中、悪戯っ子の瞳が笑う。
こんなふう笑う理由を聴きたくて見つめたパートナーは可笑しそうに教えてくれた。
「山火事の翌朝に現場検証したろ?あのときテレビカメラも来てたワケ、で、映ったオマエの雄姿にテレビ局は電話が来たってさ。
そんなワケでドキュメンタリー撮りたい話も来ちゃってるよ、それは関係各所の話し合いはコレからで未決だけどさ、心積りはヨロシクね?」
なんで話そんなに大きくなってんの?
そう聴きたいのに呆れすぎて声がなんだか出遅れる。
あまり予想外の展開に呆れてしまう、こんな事になると思わなかった。
―周太、ほんとに俺、今すぐ逢って話したいよ?
今この事態を逢って話したら、あの人はどんな貌をしてくれるだろう?
あの瞳に微笑んでほしい、話を聴いて笑ってほしい、けれど今は叶わない。
それでも「いつか」を掴むために今すべき事たちへ、英二は願いごと微笑んだ。
「テレビとか出たくないしモデルも好きじゃないけど、必要ならやるよ?利用できる限り、利用させてもらうな、」
(to be gcontinued)
blogramランキング参加中!

にほんブログ村
にほんブログ村

第70話 竪杜act.3-side story「陽はまた昇る」
四角い窓から、雲の流れが速い。
小さな窓の青と白に明るい会議室は狭くて、それでも二人なら充分すぎる。
そんなテーブルに弁当の空2つ片隅寄せて、英二は新しい登山図を広げた。
「へえ、奥多摩の新調したんだね?もうキッチリ書込みしちゃってあるけどさ、」
広げた登山図にテノールが笑って、雪白の指がポイントをなぞってゆく。
その底抜けに明るい瞳が陽気に愉しげで英二も笑いかけた。
「最初のは折目から壊れてきたからさ、テープで補強したけど保管することにしたんだ。あれは俺にとって大切な登山図だから、」
自分が初めて買った登山図は、奥多摩山塊だった。
卒業配置先に青梅署を希望して山岳救助隊員を志願した、それは無謀だったと今なら解かる。
その証拠が「最初の登山図」だろう、そんな想いに笑ったテーブル挟んで同齢のベテランクライマーも笑った。
「確かに大切な登山図だろね、アレがお初に買ったヤツだろ?卒配2ヶ月前にさ、」
「ああ、たった2ヶ月前に初めて買ったよ、」
笑って応えながら自分の無知と無謀が気恥ずかしい。
あれから一年以上を経た時間と山たちへの想いに英二は微笑んだ。
「あれを買った時が俺、登山図を見たこと自体が初めてだったんだ。そんな初心者が山岳救助隊を志願したなんて、本当に馬鹿だよな、」
初心者の癖に山岳レスキューになる、そんな発想は無知に過ぎて有得ない。
どんなに資料を読みこんで、採れる限り関連の検定合格して、ジムでトレーニングを積んでも「現場経験」に無知だ。
そして山岳救助隊ならば現場対応の機微が求められる分だけ経験は欠かせない、それが解かるから笑った先で山っ子は唇の端を上げた。
「ホント馬鹿だって俺も想ったよ、コイツ死にたくって来たのかなって想ったね、後藤のおじさんナニ考えてんだってさ、」
「うん、俺も想うよ、」
素直に笑って認めた向こう底抜けに明るい目が笑ってくれる。
その眼差しにある信頼に英二は一年の想いへ口を開いた。
「そういうの一年経った今なら解かるよ、俺が志願した事はどんなに危険だったか、光一のパートナーに選ばれる事も本来無かったって。
だから青梅署の皆が俺を受容れてくれるには覚悟とか色々あったなって今なら解かるんだ、誰よりも後藤さんの決断が得難いって解るよ、」
いま9月下旬、ちょうど一年前に卒業配置先が指示された。
第1方面から順次に告げられて第8方面まで自分が呼ばれなかった時、期待と不安が鼓動に佇んだ。
あのとき祈りながら待った警察学校の講堂は今もう遠くて、けれど第9方面青梅署の辞令は今も誇らしい。
あの瞬間を忘れないでいる限り自分は幸運への謙虚を忘れない、そんな想いごと英二は運命をくれた相手に笑いかけた。
「光一の条件に合うパートナーになる可能性を後藤さんが俺に見つけてくれた、信じて育ててくれた、だから今の俺があるんだ。
本当は後藤さんの決定に反対は多かったはずだ、それでも信じてくれた期待と信頼に応えたいって経験が増える分だけ解かるから思うよ?
だから今、七機で俺がどういう立場でどんなふうに見られているか解るんだ。まだ今の俺は本当には信頼して貰っていない、それが当然だ、」
第七機動隊山岳レンジャーに配属されて未だ1ヶ月も経たず、経験すら漸く一年。
そんな男が信頼されるなど有ってはならない、それほどに「山」は容易であるべきじゃない。
だからこそ今朝に告げられた内示が気懸りで、午前中ずっと廻らせてきた懸念を上官に問いかけた。
「そういう今の状況も国村さんは解かっているはずです、後藤さんも蒔田さんも。それなのに俺を特進させて大丈夫なんですか?」
山岳救助隊に卒業配置された、それだけでも自分は特例だった。
そして光一のザイルパートナーに選ばれたことは警察内外の山を知る人間には特例すぎる。
こうした特例が第七機動隊の山岳レンジャー達にどんな感情を起こさせるか?その懸念に怜悧な瞳は笑ってくれた。
「今朝も言ったよね、消防庁表彰に実績と加算で特進ってさ?そんだけ山の警察官として貢献してるよ、イメキャラになる位にね、」
なんでも無いふう上官で先輩は笑ってくれる。
大らかな怜悧の瞳を向けて明朗なトーンが話しだした。
「消防への引継書を考案したのはオマエだ、登山計画のWEB提出を改訂した、吉村先生をサポートして警察医とレスキューの資料も整備した。
どれも今までナントカしなきゃって誰もが想ってたのに出来なかったね、でもオマエは一年目の癖にキッチリ遣り遂げてたよ、大したモンだね、」
明るいテノールが告げてくれる一年間が懐かしい。
どれも纏わる記憶たちは遠く近い、その懐旧と見つめる笑顔は続けてくれた。
「刑事事件の解決もオマエは2つある、吉村先生と自殺案件にされかけた殺人事件を暴いて、連続強盗犯の逮捕と聴取もやってるよ、
山の実績でもね、俺に付合って北壁2つ記録を作っちゃったから世界の山岳会でオマエは知られちゃってるよ、で、今回の山火事だろ?
しかも山梨県警の管轄で2回レスキューやってる、ここらでオマエにご褒美あげとかないと対外的にも警視庁として示しがつかないワケ、」
事務的実績、刑事事件、クライマーとして山岳レスキューとしての事績。
すべてを端的に並べてくれる笑顔こそ自分を引き上げてくれた、その感謝と向きあう真中で光一が笑った、
「なにより宮田はさ、礼状通数がずばぬけちゃってんだよね?オマエが現場に就いたのは6ヶ月だけど警視庁の去年度ダントツだよ、
それってね、オマエの美貌もあるだろうけど精神的にもレスキュー出来てるからだ。コンダケ貢献する2年目のヤツって滅多にいないよ、」
貢献している、そう言ってくれる実績に胸ずきりと痛む。
元はと言えば全て貢献なんて理由じゃ無い、その本音を英二は声にした。
「国村さん、確かに言ってくれてる通りの事を俺はしました、だけど警察官である責務よりも個人的な理由から全部やっています、」
個人的な理由、それが自分を動かす本音の動機。
それを今だからこそ話したくて言葉を続けた。
「吉村先生のお手伝いは先生のご苦労を援けたかった事と、自分自身がレスキューの技術と法医学を教わりたかったからです。
刑事事件のことも先生から教わる現場にすぎません、山の記録も個人的に山が好きだからビレイヤーと山ヤのプライドです、なにより、」
なにより、そう言って呼吸ひとつ英二は微笑んだ。
この先は本当に個人的な理由になる、その想い正直に笑った。
「光一がいちばん解かってるよな?俺が警察医の仕事までサポートした理由も、山で名前を売った理由も、全部が周太を護る為の利用だ、」
「だったら利用しちまいな、今回の特進もイメキャラもね、」
さらり返して底抜けに明るい目が笑う。
その眼差し真直ぐに英二を見つめ教えてくれた。
「山火事を腕一本で防いだ勇敢な警官サンは2年目で特進するほど優秀で真面目かつイケメンくん、こういう存在は警察のイメージアップだろ?
だからイメージポスターのモデルにも選ばれたんだよ、要するに警察庁だってオマエを利用してるワケさ、オマエが利用したってオアイコだね、」
利用され利用する、こんな論法は自分らしいかもしれない?
それを解かって光一も言ってくれる、そんなパートナーは言葉を続けた。
「で、俺がポスターの話を受けた理由は周太のコトがあるからだね、たぶん後藤さんも蒔田さんもソコントコは同じだと思うけど?」
「周太のことが?」
聴き返した向こう怜悧な瞳が笑ってくれる。
その眼差しに意図を見つけて英二は微笑んだ。
「有名人になる方が、逆にマークを外せるって事か?」
答えた先、底抜けに明るい目が笑ってくれる。
ただ無言の肯定に上官たちの意志は温かい、その感謝に英二は微笑んだ。
「ありがとございます、有難くイメージポスターの件も務めさせて頂きます、」
「よろしくね、で、確認なんだけどさ、」
確認、そんなふう言ってくれる内容は解かる気がする。
それでも告げられるまで待った呼吸ひとつ、透るテノールが尋ねた。
「周太の異動はオマエも聞いたよね、箭野も一緒に今日から一週間の引継ぎに入るってさ?この一週間がナンなのか解かるだろ?
この一週間を周太がドコで何して生きようってするかもオマエなら解かるよね、だったら一緒にいたいだろ、英二、オマエどうしたい?」
一週間、ただ七日間。
たった七日間しかない時間を、どうしたいのか?
そんなこと本当は決まっている、この七日間の先にある現実を知っている。
だからこそ願いたい、けれど今も聴かされた自分の立場と与えられたチャンスに我儘は、自分が赦せない。
「逢いたいよ、でも帰らない、」
告げた自分の声は、落着いている。
そんな自分に少し安堵した向かい、登山図ごしに怜悧な瞳は笑ってくれた。
「オマエも周太も意地っ張りだね?で、オマエ自分で解かってないと思うけど、この間のニュースで映ってたの知ってる?」
「え、」
初めて聴くことに瞳ひとつ瞬いた真中、悪戯っ子の瞳が笑う。
こんなふう笑う理由を聴きたくて見つめたパートナーは可笑しそうに教えてくれた。
「山火事の翌朝に現場検証したろ?あのときテレビカメラも来てたワケ、で、映ったオマエの雄姿にテレビ局は電話が来たってさ。
そんなワケでドキュメンタリー撮りたい話も来ちゃってるよ、それは関係各所の話し合いはコレからで未決だけどさ、心積りはヨロシクね?」
なんで話そんなに大きくなってんの?
そう聴きたいのに呆れすぎて声がなんだか出遅れる。
あまり予想外の展開に呆れてしまう、こんな事になると思わなかった。
―周太、ほんとに俺、今すぐ逢って話したいよ?
今この事態を逢って話したら、あの人はどんな貌をしてくれるだろう?
あの瞳に微笑んでほしい、話を聴いて笑ってほしい、けれど今は叶わない。
それでも「いつか」を掴むために今すべき事たちへ、英二は願いごと微笑んだ。
「テレビとか出たくないしモデルも好きじゃないけど、必要ならやるよ?利用できる限り、利用させてもらうな、」
(to be gcontinued)
blogramランキング参加中!


