萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk17 詠月―dead of night

2013-10-21 23:35:45 | dead of night 陽はまた昇る
voix 君を聴いて



secret talk17 詠月―dead of night

天井を仰いで寝転んだベッドが、やけに広い。

狭い単身寮のベッド、けれど広くて、広い分だけ冷たく感じてしまう。
そんな自分の感覚に慕らす想いは鼓動ごと軋んで痛い、そして溜息が圧しだされる。
こんなふうにベッドが広いと感じたのは一年前の今頃も同じ、けれど、こんな寂寞は知らない。

「…メールくらい返してよ、周太?」

天井に呟いて寝返りを打つ、その掌で握りしめた携帯電話は動かない。
沈黙のまま着信しない機械が切なくなる、そんな返らない言葉を英二は開いた。

T o :周太
suject:おつかれさま
本 文:晩飯は焼魚だったけど何か解らなかった、周太に訊きたいって思ったよ。
    周太は晩飯なに食べた?ちゃんと飯食ってよく眠ってくれな、
    今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる。

このメールを送ったのは入浴と夕食の後だった。
それから光一とミーティング1時間、自室に戻って救急法や鑑識他の勉強を2時間半。
そして馨の日記と手帳を照合しながら読んで、今もう深更を超えた月が窓から傾いてゆく。

「一昨日は幸せだったな、いまごろ…」

ため息ごと想い零れたシーツ、コットンからオレンジかすかに頬ふれる。
この香に唇を交わした昨夜の記憶、甘いキスごと抱きしめた素肌と体温に恋愛は溺れこんだ。
この腕に抱きこめて懐に閉じこめたまま離せない夜、それでも朝、目覚めた時には消えていた。

『宮田、見送りに来てくれたんだ?…ちょっと遠いところだから。携帯とかも電波入り難いかもしれないんだ、でも行ってくるね』

もう名前を呼んでくれなかった声、もうコールすら拒んだ言葉。
あのとき竦んだ心は44時間を経ても傷む、そして今、返らないメールを見つめている。

もう、本当に声を交わすことすら許されない?

そんな今の現実が瞳の底あふれそうで、英二は瞳を閉じた。
ゆっくり鎖した視界に切ない熱は治まりだす、それでも欲しい声を求めてイヤホン着けた。
そのまま放りだした携帯オーディオの小さな機体を握りしめて、かちり機械音から遠い音が聞えだす。

―…かさり、

かすかな乾いた音は、きっと本のページ捲る音。
いま何の本を読んでいるのだろう?そんな疑問に小さな機械音が遠く鳴る。
そして繋がったオーディオの番いから旋律をピアノが奏で、懐かしい秋ゆらす詞が声無いまま廻りだす。

I'll be your dream I'll be your wish I'll be your fantasy 
I'll be your hope I'll be your love Be everything that you need. 
I'll love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I will be strong I will be faithful ‘cause I am counting on
A new beginning A reason for living A deeper meaning
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…

Then make you want to cry The tears of joy for all the pleasure in the certainty
That we're surrounded by the comfort and protection of The highest powers
In lonely hours The tears devour you
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…

Oh, can you see it baby? You don't have to close your eyes 
'Cause it's standing right before you All that you need will surely come…

I love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I want to stand with you on a mountain

 僕は君が見ている夢になろう 僕は君の抱く祈りになろう 君がもう諦めている願望にも僕はなれるよ
 僕は君の希望になる、僕は君の愛になっていく 君が必要とするもの全てに僕はなる
 息をするたびごとにずっと君への愛は深まっていく ほんとうに心から激しく深く愛している
 僕は強くなっていく、僕は誠実になっていく それは充たす引き金になる 
 君への想いはきっと新しい始まり、生きる理由、より深い意味
 君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…

 そして君を泣かせたいんだ 確かな幸福感の全てに満ちた嬉しい涙で
 僕らは、孤独を壊されて護りに抱えこまれている 最上の力によって
 孤独な時にある時も 涙が君を呑みこむ時も そう守られている
 君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…

 ねえ、愛しい君には見えてるの? どうか君の目を瞑らないでいて 
 ここに、君の目の前に立っているから 君に必要なもの全てになった僕は、必ず君の元へたどりつく…

 息をするごと愛は深まってゆく 本当に心から激しく深く愛してるよ 
 君と一緒に山の上に立ちたい

いま聴いているのはピアノの音だけ、それでも旋律は詞を奏で鼓動を響かせる。
この曲に名残らす秋は去年の秋、奥多摩の秋、そして青梅署単身寮に抱きしめた温もりが愛おしい。
あのとき周太は父親の殺害犯と向きあって泣いて、そのまま青梅署まで自分は攫って帰って二人で過ごした。

そうして始まった去年の秋、あの秋と同じ月はもうじき訪れるけれど今、独り声すら返らない。
それでも今こうして繋がれたオーディオふたつに旋律は届いてくれる、この想い、ふたり今も同じと信じられたら?






【引用詩文:Savage Garden「Truly Madly Deeply」】

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第70話 竪杜act.2-side story「陽はまた昇る」

2013-10-21 19:55:43 | 陽はまた昇るside story
Thou art more lovely and more temperate.



第70話 竪杜act.2-side story「陽はまた昇る」

見あげた日中南時の向こう、懸かる雲間から太陽が白い。

もう9月下旬、そんな季節の訪れは雲と空の色から何となくわかる。
こんなふうに空だけを見て時を読むことは一年前の自分には出来なかった。
それでも今は出来てしまう、こんな経過に笑って隊服の袖を捲った横から快活に声かけられた。

「宮田さん、消防庁から表彰されるそうですね、おめでとうございます、」

穏やかで明るいトーンに振り向いた先、端正な瞳が笑ってくれる。
この笑顔は嫌いじゃない、それでも抱いている自分勝手な嫉妬心を隠して英二は笑った。

「ありがとうございます、浦部さん。でも表彰なんて烏滸がましいんですけど、」
「山火事を防いだんですよ?充分に大変なことだから、」

低く透る声で笑ってくれながら並んで歩きだす。
そんな様子は気さくで嫌味なんか無い、それなのに自分は引っかかる。

―周太と仲良かったから嫉妬したくなるんだよな、浦部さんって佳い男だから、

心独り呟いてしまう通り自分はこの先輩に嫉妬している。
それでも佳い男なのだと認めていて、だからこそ尚更に妬んでしまう。
こんな自分の狭量に困りながらも隠す横から綺麗な笑顔は訊いてくれた。

「湯原くん、異動になったらしいね?メールもらって驚いたよ、」

メールもらって、って今、仰いました?

「え、」

メールもらってって、どういう意味?

自分だって2週間ずっとメール1つもらっていない、それなのに?
っていうか何時の間にメールアドレス交換してるんだよ、そんなの聴いていないんだけど?

―男同士なら友達感覚でメアド交換は当然だろうけど、でも、なんで浦部さんまでなんだよ?

責めたくなる本音が喉まで迫り上げて、睨みつけたくなって英二は瞳ゆっくり瞬き一つした。
このまま睨めば冷静を消して信頼ごと失うだろう、そんなことは今の自分がある立場では許されない。
なにより自分が赦したくなくて、堪えて越えたい嫉妬ごと飲み下した向こう白皙の貌は寂しげに微笑んだ。

「休憩の時にメールチェックしたら入ってたんだ、10月一日付で異動だけど引継ぎがあるから挨拶も出来なくて、すみませんって。
湯原くんには水源林のこと教わったりして楽しかったから、寂しくなるよ。宮田さんは同期だから、飲み会とかで会えるだろうけど、」

話してくれる詞もトーンも穏やかな篤実が温かい。
そんな笑顔は山ヤらしい静謐に明るくて、自分には無い澄んだ芯が眩しくなる。
こんな笑顔の男だから元来が内気の周太でも親しんだ、それは自分が知らない時間だと解かるから英二は尋ねた。

「湯原と浦部さんは話す機会が多かったんですね?」
「うん、高田さんも湯原くんと仲良いしね、だから3人で喋ることも多かったよ?箭野さんも一緒に4人でとかもね、」

真直ぐな眼差しから明るく笑って話してくれる。
その端正な瞳もやわらかな誠実と余裕が優しくて、だから自分の本性を突く。

―この人は本当に優しくて強い男だ、俺みたいに仮面じゃない、

優しくて強い男、そんな生き方に自分だって憧れる。
だから雅樹にも憧れて自分は光一を欲しがった、そんな我儘が光一も周太も傷つけた。
そして自分自身ですら我儘だと気づきもせず恋愛を言訳に冒した現実は、どんなに後悔しても消せない。

―だから周太は俺に何も言ってくれないんだ、巻きこんでくれないんだ…俺が心変わりしたって想われても俺の所為だ、

訓練場を歩きながら廻らす想い、けれど顔だけは笑って浦部と話している。
こんな仮面の笑顔は幼い日から備わって、それでも周太に出逢ってから外れていた。
そして今を貼りついてゆく仮面は少しだけ冷たくて、それなのに昔は無かった熱の分だけ一年半は無駄じゃない。
なによりも後悔している暇なんて今もう無い、その義務と責任と権利の狭間から英二は綺麗に笑って質問をした。

「箭野さんも異動して、寂しいですね?」
「うん、」

素直に頷いて端正な瞳が寂しく微笑む。
その眼差しは篤実のまま現在の状況に口を開いた。

「銃器は二人もいっぺんに異動して、しかも箭野さんが抜けたらキツイと思います、箭野さんって第1小隊の実質的リーダーだったし。
正直なとこ俺たち、山の第2小隊もダメージ大きいよ?もう宮田さんなら解かってるだろうけど、箭野さんは俺たちの聞き役だったから、」

何げない言葉たち、けれど箭野という男が立つポジションが見えてくる。
今朝から考えている「同じ」から浮ぶ箭野の異動先、それが29年前の現実を証明しだす。

―身長180cmでも配属できるポジション、そこを条件に出されたら頷く、

通称SAT、警視庁特殊急襲部隊 Special Assault Team 

そこに配属される条件は身長170cm前後と規定がある。
この体格規定はSAT隊員自身の安全を護るために欠かせない、それは室内など狭隘地が現場になる為でいる。
だから「現場」に立つのではないポジションならば体格規定外であっても能力条件さえ適合すれば選抜も可能だろう。

けれど、ポジションが異動しないとの確約は無い、それが馨に与えられた現実だったろうか?

「箭野さんって皆さんに好かれてますよね、黒木さんも朝飯のとき、異動のこと寂しそうにしてました、」

思案を廻らせながら笑いかけて、ヒントをまた探る。
こんな肚底を気付かれないまま綺麗な温かい笑顔が応えてくれた。

「黒木さんにとって箭野さんは、唯一って言うくらいプライベートから仲良かったから。黒木さんも人望すごくあるんだけどね?」
「俺も好きですよ、はっきり言ってくれる人って嬉しいから、」

この事は本音から答えられる、それは1週間前の訓練で交わした会話から響く。

集中を欠くな、状況を考えろ、
さっきよりマシな声だが、大丈夫か?
意外と骨っぽいな、期待させてくれよ?

奥多摩山塊でくれた言葉たちは真直ぐで、厳しい底は温かい。
あんなふうに直言することは信念と覚悟を支える強靭無しには出来ない。
それは自分こそ歩き始めた立場に知っている、その変化へと軽やかに肩叩かれた。

「み・や・た、昼休憩は俺と打合せランチするよ、」

ぽん、軽く肩響いた平手打ちとテノールに振り向くと底抜けに明るい目が笑ってくれる。
その眼差しが伝える合図に目で頷いて英二は穏やかに微笑んだ。

「解かりました。国村さん、先に着替えますか?」
「モチロンだね、午後は皆で珍しい事務仕事だし。ね、浦部?」

雪白の貌ほころばせた笑顔を光一はもう一人にも向けてくれる。
そんな年下の上官へ篤実な瞳は綺麗に笑って応えた。

「ほんとに久しぶりですよね、事務するのは。担当の部屋へ直行して、終ったら小隊長の机に提出で良いですか?」
「それでお願いします、離席してたら決済箱に入れておいてくださいね、じゃ、」

からり笑って光一は先に歩きだした。
急いでいると見えない背中、けれど速く遠ざかり前ゆく後姿の肩叩く。
それに振り向いた横顔の鋭利な眼差しは、すこし緊張しながら昨日より和らいで見えた。

「なんか黒木さん、だいぶ小隊長に馴染んできてる感じするな、」

朗らかなトーンで浦部が笑ってくれる、その通りだと自分でも見てしまう。
この理由は今朝や今の会話にあるかもしれない?そんな思案に英二は微笑んだ。

「たぶん呼び方の所為です、今、浦部さんにもしてたけど、」
「俺にも?」

すこし首傾げながら端正な瞳ひとつ瞬いてくれる。
その瞳から愉しげに浦部は笑った。

「さっき俺、浦部って呼び捨てされましたよね?なんか気づかないくらい馴染んでたよ、そういえば今日ずっとそうだ?」

今朝から光一は部下たち全員を名字だけで呼んでいる。
そんな上官の変化を英二は微笑んで言葉にした。

「国村さんが俺を呼び捨てするようになったのは、初めて俺と一緒にビバークした時からなんです。道迷いの捜索をした時でした。
焚火を囲んで二人で一晩中を話したんですけど、多分、あの時からパートナーとして仲間として認めてくれるようになったと思います、」

昨秋の奥多摩山中、ノボリ尾根で焚火を囲んだ時間が懐かしい。
あのとき缶ビールと聴いた話は光一の両親と田中老人への想いだった。
そして本当はあのとき、光一はもう一つの本音と真実から問いかけたと今なら解かる。

『宮田はさ、男が好きなわけ?それとも、バイってやつ?』

あのとき光一が訊いた理由はきっと「雅樹」だった。

光一は今も雅樹を想い続けて、恋愛以上の想いに涯などきっと無い。
それを否定しない相手なのかどうかを光一は知りたかった、だから問いかけてくれた。
それが今の自分には解るから尚更に七月の夜を後悔して、自責して、けれど事実はもう消せない。

だからこそ支えたいと願う祈りの真中、長身しなやかな細身の背中は夏より強靭な明るさに佇んで今、前を歩く。







(to be gcontinued)

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曇りの午後、雨滝

2013-10-21 13:35:11 | お知らせ他


こんにちは、晴れの朝から曇りの午後になってます。
こういう日って昼寝したくなるんですよね、ナンカ眠いし、笑
でも写真は昨日の雨です、曇り空は一番下に載せてみましたんでソッチで。



コレは昨日ちょっと行ってきた山の写真なんですけど。
ここは普段は滝も川もありません、雨や雪解けの時にだけ現れるワケです。
こういう景色が見られるから雨も好きなんですけどね、笑 
でも霧や雨の山は危険度が増します。

だから雨だなって時は原則、車で行けるとこしか自分は行かないようにしています。
でも林道だった雨のときはスリップやナンカあるんで、行くならかなり安全運転です。
で、ナンで昨日は雨なのに行ったのかというと、紅葉シーズンが短い山だからです。
ココすぐ冬になっちゃうんですよね、だけど昨日は若干フライングでした、笑



ホントはもっと色染まるんですけどね、でも足許の草紅葉は綺麗になっていました。
こういうの見つけると何か楽しいんで山とか森を歩くのって好きだなって思います、笑



昨夜UPの第70話「竪杜2」は倍くらい加筆の予定です。
そのあと新しいヤツ掲載出来たら良いなって思ってます。
でも今日はなんだかヤタラ眠いです、笑

昼休憩に取り急ぎ、



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