voix 君を聴いて
secret talk17 詠月―dead of night
天井を仰いで寝転んだベッドが、やけに広い。
狭い単身寮のベッド、けれど広くて、広い分だけ冷たく感じてしまう。
そんな自分の感覚に慕らす想いは鼓動ごと軋んで痛い、そして溜息が圧しだされる。
こんなふうにベッドが広いと感じたのは一年前の今頃も同じ、けれど、こんな寂寞は知らない。
「…メールくらい返してよ、周太?」
天井に呟いて寝返りを打つ、その掌で握りしめた携帯電話は動かない。
沈黙のまま着信しない機械が切なくなる、そんな返らない言葉を英二は開いた。
T o :周太
suject:おつかれさま
本 文:晩飯は焼魚だったけど何か解らなかった、周太に訊きたいって思ったよ。
周太は晩飯なに食べた?ちゃんと飯食ってよく眠ってくれな、
今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる。
このメールを送ったのは入浴と夕食の後だった。
それから光一とミーティング1時間、自室に戻って救急法や鑑識他の勉強を2時間半。
そして馨の日記と手帳を照合しながら読んで、今もう深更を超えた月が窓から傾いてゆく。
「一昨日は幸せだったな、いまごろ…」
ため息ごと想い零れたシーツ、コットンからオレンジかすかに頬ふれる。
この香に唇を交わした昨夜の記憶、甘いキスごと抱きしめた素肌と体温に恋愛は溺れこんだ。
この腕に抱きこめて懐に閉じこめたまま離せない夜、それでも朝、目覚めた時には消えていた。
『宮田、見送りに来てくれたんだ?…ちょっと遠いところだから。携帯とかも電波入り難いかもしれないんだ、でも行ってくるね』
もう名前を呼んでくれなかった声、もうコールすら拒んだ言葉。
あのとき竦んだ心は44時間を経ても傷む、そして今、返らないメールを見つめている。
もう、本当に声を交わすことすら許されない?
そんな今の現実が瞳の底あふれそうで、英二は瞳を閉じた。
ゆっくり鎖した視界に切ない熱は治まりだす、それでも欲しい声を求めてイヤホン着けた。
そのまま放りだした携帯オーディオの小さな機体を握りしめて、かちり機械音から遠い音が聞えだす。
―…かさり、
かすかな乾いた音は、きっと本のページ捲る音。
いま何の本を読んでいるのだろう?そんな疑問に小さな機械音が遠く鳴る。
そして繋がったオーディオの番いから旋律をピアノが奏で、懐かしい秋ゆらす詞が声無いまま廻りだす。
I'll be your dream I'll be your wish I'll be your fantasy
I'll be your hope I'll be your love Be everything that you need.
I'll love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I will be strong I will be faithful ‘cause I am counting on
A new beginning A reason for living A deeper meaning
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…
Then make you want to cry The tears of joy for all the pleasure in the certainty
That we're surrounded by the comfort and protection of The highest powers
In lonely hours The tears devour you
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…
Oh, can you see it baby? You don't have to close your eyes
'Cause it's standing right before you All that you need will surely come…
I love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I want to stand with you on a mountain
僕は君が見ている夢になろう 僕は君の抱く祈りになろう 君がもう諦めている願望にも僕はなれるよ
僕は君の希望になる、僕は君の愛になっていく 君が必要とするもの全てに僕はなる
息をするたびごとにずっと君への愛は深まっていく ほんとうに心から激しく深く愛している
僕は強くなっていく、僕は誠実になっていく それは充たす引き金になる
君への想いはきっと新しい始まり、生きる理由、より深い意味
君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…
そして君を泣かせたいんだ 確かな幸福感の全てに満ちた嬉しい涙で
僕らは、孤独を壊されて護りに抱えこまれている 最上の力によって
孤独な時にある時も 涙が君を呑みこむ時も そう守られている
君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…
ねえ、愛しい君には見えてるの? どうか君の目を瞑らないでいて
ここに、君の目の前に立っているから 君に必要なもの全てになった僕は、必ず君の元へたどりつく…
息をするごと愛は深まってゆく 本当に心から激しく深く愛してるよ
君と一緒に山の上に立ちたい
いま聴いているのはピアノの音だけ、それでも旋律は詞を奏で鼓動を響かせる。
この曲に名残らす秋は去年の秋、奥多摩の秋、そして青梅署単身寮に抱きしめた温もりが愛おしい。
あのとき周太は父親の殺害犯と向きあって泣いて、そのまま青梅署まで自分は攫って帰って二人で過ごした。
そうして始まった去年の秋、あの秋と同じ月はもうじき訪れるけれど今、独り声すら返らない。
それでも今こうして繋がれたオーディオふたつに旋律は届いてくれる、この想い、ふたり今も同じと信じられたら?
【引用詩文:Savage Garden「Truly Madly Deeply」】
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secret talk17 詠月―dead of night
天井を仰いで寝転んだベッドが、やけに広い。
狭い単身寮のベッド、けれど広くて、広い分だけ冷たく感じてしまう。
そんな自分の感覚に慕らす想いは鼓動ごと軋んで痛い、そして溜息が圧しだされる。
こんなふうにベッドが広いと感じたのは一年前の今頃も同じ、けれど、こんな寂寞は知らない。
「…メールくらい返してよ、周太?」
天井に呟いて寝返りを打つ、その掌で握りしめた携帯電話は動かない。
沈黙のまま着信しない機械が切なくなる、そんな返らない言葉を英二は開いた。
T o :周太
suject:おつかれさま
本 文:晩飯は焼魚だったけど何か解らなかった、周太に訊きたいって思ったよ。
周太は晩飯なに食べた?ちゃんと飯食ってよく眠ってくれな、
今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる。
このメールを送ったのは入浴と夕食の後だった。
それから光一とミーティング1時間、自室に戻って救急法や鑑識他の勉強を2時間半。
そして馨の日記と手帳を照合しながら読んで、今もう深更を超えた月が窓から傾いてゆく。
「一昨日は幸せだったな、いまごろ…」
ため息ごと想い零れたシーツ、コットンからオレンジかすかに頬ふれる。
この香に唇を交わした昨夜の記憶、甘いキスごと抱きしめた素肌と体温に恋愛は溺れこんだ。
この腕に抱きこめて懐に閉じこめたまま離せない夜、それでも朝、目覚めた時には消えていた。
『宮田、見送りに来てくれたんだ?…ちょっと遠いところだから。携帯とかも電波入り難いかもしれないんだ、でも行ってくるね』
もう名前を呼んでくれなかった声、もうコールすら拒んだ言葉。
あのとき竦んだ心は44時間を経ても傷む、そして今、返らないメールを見つめている。
もう、本当に声を交わすことすら許されない?
そんな今の現実が瞳の底あふれそうで、英二は瞳を閉じた。
ゆっくり鎖した視界に切ない熱は治まりだす、それでも欲しい声を求めてイヤホン着けた。
そのまま放りだした携帯オーディオの小さな機体を握りしめて、かちり機械音から遠い音が聞えだす。
―…かさり、
かすかな乾いた音は、きっと本のページ捲る音。
いま何の本を読んでいるのだろう?そんな疑問に小さな機械音が遠く鳴る。
そして繋がったオーディオの番いから旋律をピアノが奏で、懐かしい秋ゆらす詞が声無いまま廻りだす。
I'll be your dream I'll be your wish I'll be your fantasy
I'll be your hope I'll be your love Be everything that you need.
I'll love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I will be strong I will be faithful ‘cause I am counting on
A new beginning A reason for living A deeper meaning
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…
Then make you want to cry The tears of joy for all the pleasure in the certainty
That we're surrounded by the comfort and protection of The highest powers
In lonely hours The tears devour you
I want to stand with you on a mountain…I want to lay like this forever…
Oh, can you see it baby? You don't have to close your eyes
'Cause it's standing right before you All that you need will surely come…
I love you more with every breath Truly, madly, deeply, do
I want to stand with you on a mountain
僕は君が見ている夢になろう 僕は君の抱く祈りになろう 君がもう諦めている願望にも僕はなれるよ
僕は君の希望になる、僕は君の愛になっていく 君が必要とするもの全てに僕はなる
息をするたびごとにずっと君への愛は深まっていく ほんとうに心から激しく深く愛している
僕は強くなっていく、僕は誠実になっていく それは充たす引き金になる
君への想いはきっと新しい始まり、生きる理由、より深い意味
君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…
そして君を泣かせたいんだ 確かな幸福感の全てに満ちた嬉しい涙で
僕らは、孤独を壊されて護りに抱えこまれている 最上の力によって
孤独な時にある時も 涙が君を呑みこむ時も そう守られている
君と一緒に山の上に立ちたい…こんなふうにずっと寄り添い横たわっていたい…
ねえ、愛しい君には見えてるの? どうか君の目を瞑らないでいて
ここに、君の目の前に立っているから 君に必要なもの全てになった僕は、必ず君の元へたどりつく…
息をするごと愛は深まってゆく 本当に心から激しく深く愛してるよ
君と一緒に山の上に立ちたい
いま聴いているのはピアノの音だけ、それでも旋律は詞を奏で鼓動を響かせる。
この曲に名残らす秋は去年の秋、奥多摩の秋、そして青梅署単身寮に抱きしめた温もりが愛おしい。
あのとき周太は父親の殺害犯と向きあって泣いて、そのまま青梅署まで自分は攫って帰って二人で過ごした。
そうして始まった去年の秋、あの秋と同じ月はもうじき訪れるけれど今、独り声すら返らない。
それでも今こうして繋がれたオーディオふたつに旋律は届いてくれる、この想い、ふたり今も同じと信じられたら?
【引用詩文:Savage Garden「Truly Madly Deeply」】
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