萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第80話 極月 act.2-side story「陽はまた昇る」

2014-11-14 08:05:10 | 陽はまた昇るside story
Tale 雪山夜話



第80話 極月 act.2-side story「陽はまた昇る」

唯一杯、盃に唇つけて甘い。

ゆっくり舐める馥郁に米薫らす、この味は久しぶりだ。
ここにいた半年前はよく呑んでいた香、その記憶に英二は微笑んだ。

「相変わらず旨いですね、東京にこういう酒があるって不思議です、」

2年前は知らなかった味、けれど前からずっとある。
こんなふう自分は結局のところ無知だ、それが愉しいまま先輩もすこし笑った。

「宮田は御岳駐在だったな、よく飲んでたのか?」
「はい、国村さんのお気に入りの酒なんです。黒木さんも気に入ったろ?」

敬語から崩して笑いかけた先、精悍な顔また硬直する。
こんな挙動不審は貌と似合わないだろう?また可笑しくてつい笑った。

「ほら黒木さん、いちいち“国村さん”に反応しすぎですよ?あいつと黒木さんの初恋相手は別人だろ、」

言いながらストーブの薬缶から湯呑へ注ぐ。
昇らす湯気ゆるやかな白さに低温が見える、こんなふうにプレハブ小屋は保温が無い。
けれど雪山に慣れた体には充分だ、この肌感覚から2年前と違う愉しさに三十男が少し笑った。

「あまり揄うな、俺は宮田と違って経験値が低いんだよ、」
「言うほど経験値低いんですか?」

さらり笑って湯呑の茶を啜りこむ。
たった一杯の盃では酔えない、それでも熱い茶でアルコール少しだけ廻る。
こんなふう少しの酒を大事に呑むのも悪くない、そんな想いに除夜の鐘また響きながら先輩が言った。

「大学時代は彼女がいたがな、警察に入るとき別れた、」

この人らしいな?
こんな選択は黒木らしい、なにか嬉しくて笑いかけた。

「警察官は交際相手も報告する必要があるから、迷惑かけたくなかったんですか?」
「そんなとこだ、」

答えて盃に口つける。
まだ酒すこし残してデスクに置くと低い声が訊いた。

「宮田は青梅署で有名だったらしいな、御礼状やらチョコレートが届いた数が最多記録だって聴いてるぞ、」

この人まで知ってるんだ?
すこし意外で面白い、つい笑って生真面目な顔に言った。

「どれだけ貰っても本命から無かったら無意味です、」

だから周太、いつかは贈ってよ?
そんな願い心裡に告げて泣きたくなる、だって今は自信が無い。
本当にいつか贈ってもらえるだろうか?ため息ごと茶を啜って先輩が言った。

「そういう発言はモテるヤツの特権だな、」
「黒木さんでもチョコ欲しいんですか?」

ちょっと意外で訊き返した前、精悍な瞳こちら見る。
その眼差し何だか可笑しくて笑って、相手も笑いだした。

「なんだ、宮田の酒は笑い上戸か?」
「そうでもないよ、ただ黒木さんがハマるって言うか、」

なんだか可笑しくて笑ってしまう、こんなこと珍しい。
これも今メール送った所為だろうか?そんな昂揚感と窓に笑った。

「零時すぎるのに人多いですね、去年より多い気がします、」

プレハブ小屋の外、篝火に笑顔たち行き交わす。
こんな山頂まで二年参りに人は来る、この賑わいに先輩も微笑んだ。

「登山が流行らしいからな、山の神社は人気なんだろ。天祖神社も人が多いらしい、」
「連絡が来ましたか?」

何げなく聴きながら茶を啜りこむ。
熱く喉すべり落ちて心地いい、ほっと息吐いて言われた。

「さっき無線で谷口が報告してきた、人数多めに配備して正解だ、」

谷口、

その名前に脊髄そっと逆撫でられる。
どうしても嫉妬しそうだな?こんな珍しい感覚に微笑んだ。

「谷口さんがいれば安心ですね、雪も強いし、」
「ああ、小隊長の配備は的確だな、」

頷いた呼名が役職でしかない。
こんな態度だから疑われるのだろう?呆れ半分に笑いかけた。

「黒木さんは“国村さん”って名前を呼ぶのも避けるとこありますよね?役職名で呼ぶのは普通ですけど、国村さんは本当は“さん”付すら嫌いでタメ口の呼び捨てがいいって俺も言われたんです、そういうタイプに視線も逸らしていたら拒絶だと誤解されますよ?」

気楽に話せ、そう初対面から言われている。
そんな男とすれ違う先輩は息ほっと吐いた。

「なんか既に俺は有罪判決って感じなんだな?」
「国村さん的には仕方ないですね、でも理由次第では間に合いますよ?」

湯呑ごし笑いかけて精悍な瞳が考えこむ。
いま言うべきか悩んでいる、そんな端整な顔に笑いかけた。

「黒木さん、初恋の人と国村さんが似てるから途惑うんだろ?そのまま言えば解ってくれますよ、揄いのネタにはされるだろうけど、」

あの悪戯っ子が面白がらないはずが無い。
そんな確信に笑い堪えたい前で言われた。

「だから困るんだろが?あのひとキレイな顔して下ネタ好きだよな、この間の扁桃腺炎の時も俺さんざん揄われたぞ、」

既に悪戯してたんだ?
これでは警戒されて仕方ない、もう可笑しくて笑ってしまった。

「国村さんは気に入った相手に夜這いゴッコするんだよ、俺も青梅署で朝4時からやられました、」
「ははっ、夜這いじゃなくて朝駆けだな、眠かったろ?」

低い声も一緒に笑いだす。
その笑顔が人懐っこい、意外な貌にすこし驚いたまま言った。

「眠いのは大丈夫でしたけど、黒木さんて笑い方で若くなりますね?」
「いつも爺むさいって言いたいんだろ、」

即答してくれるトーンやっぱり笑う。
こういう気さくな貌もある、また新しい発見に笑った向こう懐かしいひとが来た。

「やっぱり宮田こっちにいたか、応援すまんなあ、」

深い声が笑って蛍光灯に日焼顔あざやかに照らされる。
その顔色も表情も明るい、嬉しくて英二は立ちあがった。

「こんばんわ後藤さん、深夜に巡回おつかれさまです、」
「オツカレサン、今は黒木と宮田のコンビか、差入だぞ、」

笑いかけ紙袋ひとつデスクに置いてくれる。
終夜勤務を気遣ってくれた、この配慮に先輩が頭下げた。

「お気遣い申し訳ありません、お忙しいところを、」
「俺も食いたくて買ってきたんだ、茶を貰えるかい?」

朗らかに笑って隊服姿が腰下す。
この笑顔とまた年越できる、ただ嬉しく茶を淹れて出した。

「どうぞ後藤さん、今年も一緒に年越ですね?」
「ありがとよ、去年も宮田とは一緒だったなあ、麓の御岳駐在で、」

懐かしそうに深い瞳ほころばす。
この笑顔とも一年多くを向きあった、その無事に微笑んで開けた袋に笑った。

「後藤さん、乾杯は湯呑でも大丈夫ですか?」

大福餅6つに小瓶一本、これは年始の土産だろう?
こんな気遣い温かな笑顔は言った。

「かまわんよ、ほんの一口ずつだが気分だけでも正月と思ってなあ、」
「こういうの良いですね、」

微笑んで湯呑へ瓶から注いでゆく。
とくり、澄んだ芳香くゆらせ三人で乾杯した。

「どうだ黒木、五日市の酒も旨いがコッチも悪くないだろう?」
「はい、おいしいです、」

頷きながら端整な横顔すこし緊張する。
たぶん後藤と親しく話すことは始めてだ?そう見た通り深い声が笑った。

「こうやって黒木と呑むのは初めてだなあ、おまえさん山岳会の席でも遠くばっかりだろう?俺が嫌なのかい、」

もしかして黒木は遠慮屋かもしれない?
そんな貌また少し意外なまま先輩は言った。

「嫌いなんてありません、人見知りなところあるので、すみません、」
「ははっ、こんな立派な体格で人見知りって可愛いところあるな?」

からり笑ってくれる前、端整な顔すこし解れてくれる。
緊張もう少し緩めてあげたい、そんな願いにベテランから訊かれた。

「さっき楽しそうに笑っとるのが窓から見えてたぞ、二人で何の話をしてたんだ?」

これは良い「緩める」だろう、そんな判断へ正直に笑いかけた。

「黒木さんの初恋と今後について話していました、光一みたいな貌の女性がタイプだそうです、」

ここまで言うとイジメみたいかな?

けれど後藤なら信頼して話すほどヒントをくれる、この件にも智慧があるだろう?
その期待と笑った前、案の定に精悍な顔まっ赤になった。

「みみ宮田おまえなに言ってんだ?」

また挙動不審になるんだな?
この意外なほど初心な三十男へ穏やかに笑いかけた。

「上官の質問に答えただけですよ、」
「こ、答えるにしても答があるだろうこたえが、」

いつもの低い響く声は男らしい、けれどトーンが今頼りない。
こんなアンバランスが可笑しくて笑ってしまう、そんな隣から先達が言った。

「なんだか宮田、光一みたいになってきたなあ?この黒木をいじるなんて余程だろうよ、」

今の発言こそ最大の「いじる」になっていますよ?
そう言いたくて笑ってしまう前、三十男はめでたいほど紅いまま言った。

「後藤さんまで揄わないで下さい、俺ほんとうに困ってるんです、」
「ほう、光一の悪戯じゃなくて貌に困るとはなあ?そんなに黒木の初恋は困る相手なのかい?」

湯呑酒と深い瞳が尋ねてくれる。
話せるなら話してみろ?そんな温かい眼差しに黒木は口開いた。

「困るというか解らないんです、厳冬期の北岳に若い女が独りなんて人間ではないかもしれないので、」

なんだか珍しい話が聴けそうだな?
こんな期待に湯呑の酒すこし啜って訊いてみた。

「北岳に登って会ったんですよね、黒木さんが何歳の時ですか?」
「小学校1年だ、父親とはぐれた時に救られてな、」

紅い顔のまま答えてくれる言葉に幼い黒木が想像つかない。
この人でも七歳の時は当然あったろう?そんな当たり前に首傾げた隣、ベテラン山ヤが言った。

「面白そうな話だな、詳しく話してくれるかい?」



(to be continued)

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚268

2014-11-14 00:30:04 | 雑談寓話
「ソレ助かるわあ、店決まったらメールで教えてもろたら行くわ、」

なんてカンジに大学友達ハルも一緒に花サンと夕食することが決まって、
ハルとの電話を切ってコーヒー飲み干したら花サンが言った、

「ね、御曹司サンからメール来たんだけど今ここにいるの見てたっぽいよ?」

またメンドクサイことになりそうだ?
こんな事態に笑って席を立った、

「とりあえず店移ろっか、笑」
「うん、」

で、外に出ていつもの店に着いて、いつもの個室席に通されて、
肴ちょっと+最初の一杯を頼んでから訊いてみた、

「返事はした?笑」
「うーん、返事する必要ってあるかな?」

ドウ思う?そんな顔で携帯の画面を見せてくれた。

From:御曹司サン
本文:おつかれ、さっきコーヒー屋にいるの見たけど嫉妬する。どっちに嫉妬してるのか自分でも解んない。

こんなこと花サンに送ってどうしたいんだろう?笑
ちょっと可笑しくて笑ったら花サンも笑いだした、

「ね、返信不要って気もするでしょ?」

これはどっちもだろう?そう想ったまま言った、

「あっちは欲しそうだけどね、でも無視で良いんじゃない?笑」
「だよね、っていうか私からの返信は要らないのかなって思うけど、」

なんだか意味ありげに言って笑ってくる、
その言いたいこと解かるから言ってやった、

「花サンから聴いた自分から連絡こないかなってコト?笑」
「それがイチバン喜ぶでしょ、彼は、笑」

なんて言いながら笑ってくる、その貌なんだか複雑に見えて訊いてみた、

「花サン、ちょっと自虐はいってる?」
「正直ちょっとそう、」

素直に頷きながら綺麗な色のカクテル呑んで、それから言った、

「正直言ってね、イイカゲン疲れて来ちゃった。ライバルが友達なだけでもあーあって思うじゃない、それが脈ゼロって解りきってるのに往生際が悪いトコずーっと見せつけられるとか、どうよ?」

どうよ?って言われても正直ちょっと困る、笑
だからそのまま訊いてみた、

「花サンとしては、自分にどうしてほしい?笑」
「そのリクエストも難しいよね、トモさんが断りまくってるの知ってるし、友達づきあいは仕方ないし、」

ほんと困ったな?
そんな貌で考えこみ始めて、そしたら扉からり開いた、

「おつかれさん席ありがとなあ、お、キレイな子と一緒やん、私オジャマやない?」

良いタイミングで来てくれた、笑

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Aesculapius「Chiron41」校了、第80話「極月2」草稿まだ加筆します、宮田@御嶽神社の大晦日2。
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取り急ぎ、



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