interval 隔絶の糸
第80話 端月act.1-another,side story「陽はまた昇る」
北岳草を見せるって約束したろ?来年、6月の終わりに一緒に登ろうな。
そう約束してくれた来年が今、今年に変わる。
そんな瞬間を左手の文字盤に見つめ微笑んだ。
「今年もよろしくね、英二…」
呼びかけても返事は返らない、それでも腕時計の名残が温める。
元の持ち主は今どうしているのだろう、たぶんメール着ている。
けれど携帯電話を開けない任務の時間に周太は衿もと直した。
―警邏中にプライベートなこと出来ないもの、場所も場所だし、
韻々、冴えわたる除夜の鐘に吐息が白い。
制服のコートすこし翻って風がゆく、その先に聳える白壁が夜うかぶ。
ひろやかな堀の漣は街燈きらめかせ石垣に明滅する、そんな街路樹の下かちり無線つながった。
「ベースからS2、5・1・7、」
「了解、」
応えて歩きだす足すこし指先かじかんでいる。
長時間を真冬の戸外に立っていた、その疲れに胸そっと押えた。
「ん…大丈夫、」
大丈夫、発作の兆候は無い。
これで交替だから体すこし休められる、そして朝になれば実家へ帰る。
あと6時間も無い、そう時間を数えながら仰いだ空に星いくつか見える。
―奥多摩はもっと星が見えるよね、それとも雪かな?
北西はるか眺めて、けれど見えない。
それでも記憶の山嶺あざやかに映りだす、あの白銀あわい稜線が愛おしい。
だって大切な人が今そこにいる、その声を聴きたいけれど任務時間は許されない。
「…ごめんね、英二、」
ひそやかに呼んで心配になる。
だって不安にさせてしまう、そう解かるけど仕方ない。
―同じ警察官だから解ってると思うけど、でも英二は、
解っていても英二は無視されたと思うかもしれない。
そんな心配は異動してから抱えている、殊にこの半月は不安かもしれない。
『お願いだ周太、俺の知らないところで死のうとかしないでよ?逝くなら俺も一緒に逝くから、だから独りでやるな周太お願いだから、』
林檎を剥こうとしただけ、そのナイフに英二は誤解した。
あんな誤解するほど不安にさせるのは音信不通の所為だ、でも解ってほしい。
―ごめんね英二、でも山にいるのも同じだから…英二も信じて?
英二が山にいるとき連絡など出来ない。
そのたび自分こそ不安で、それでも信じていつも待っている。
その信頼を解ってほしい、そうして今も待ってほしい願いに遠い鐘音また響く。
「…奥多摩でも鳴ってるかな、」
ひとり微笑んで歩く道、街路樹の下ひとり立っている。
白い街燈に端整なシルエット振向いて、その精悍な瞳が笑ってくれた。
「おつかれさま湯原、今年もよろしくな?」
新年のあいさつ最初はこのひとだ?
そんな想い少し寂しい、けれど温かい微笑へ笑いかけた。
「おつかれさまです、伊達さん。今年もよろしくお願いします、」
「おう、戻ったら雑煮でも食うか?」
提案してくれる言葉につい笑ってしまう。
だって生真面目な貌と台詞が釣り合わない、けれど嬉しくて頷いた。
「はい、食べたいです、」
「じゃあウチへ来い、すぐ出来る、」
応えてくれる声は低く沈毅に響く。
それなのに話題が所帯じみている?こんな意外な相手に可笑しい。
―伊達さんって意外と家庭的なんだもの、こんな真面目な貌なのに?
冷静沈毅、仕事人間、堅物エリート。
そんな貌が職場での印象でいる、けれど素顔は違う。
そう解っているから今も静かに歩きながら心笑いたくなる、そんな隣から言われた。
「湯原、正月はきちんと休んで来いよ?明けた訓練はキツイぞ、」
いま正月を迎えたばかり、それでも嶮しい現実また訪れる。
そんな経過を想いながら周太は頷いた。
「はい、診察も受ける予定です…伊達さんのお母さんにも言われたので、」
「そうか、また結果は教えろ、」
靴音かすかに言ってくれる言葉は気遣いだろう。
そう解るから尚更に解らなくて尋ねた。
「伊達さん、こんな僕とパートナーなのは面倒じゃありませんか?」
喘息のこと、父のこと、他にも面倒は多すぎる。
それでも並んで歩いてくれる相手は穏やかに笑ってくれた。
「面倒も悪くない、」
(to be continued)
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第80話 端月act.1-another,side story「陽はまた昇る」
北岳草を見せるって約束したろ?来年、6月の終わりに一緒に登ろうな。
そう約束してくれた来年が今、今年に変わる。
そんな瞬間を左手の文字盤に見つめ微笑んだ。
「今年もよろしくね、英二…」
呼びかけても返事は返らない、それでも腕時計の名残が温める。
元の持ち主は今どうしているのだろう、たぶんメール着ている。
けれど携帯電話を開けない任務の時間に周太は衿もと直した。
―警邏中にプライベートなこと出来ないもの、場所も場所だし、
韻々、冴えわたる除夜の鐘に吐息が白い。
制服のコートすこし翻って風がゆく、その先に聳える白壁が夜うかぶ。
ひろやかな堀の漣は街燈きらめかせ石垣に明滅する、そんな街路樹の下かちり無線つながった。
「ベースからS2、5・1・7、」
「了解、」
応えて歩きだす足すこし指先かじかんでいる。
長時間を真冬の戸外に立っていた、その疲れに胸そっと押えた。
「ん…大丈夫、」
大丈夫、発作の兆候は無い。
これで交替だから体すこし休められる、そして朝になれば実家へ帰る。
あと6時間も無い、そう時間を数えながら仰いだ空に星いくつか見える。
―奥多摩はもっと星が見えるよね、それとも雪かな?
北西はるか眺めて、けれど見えない。
それでも記憶の山嶺あざやかに映りだす、あの白銀あわい稜線が愛おしい。
だって大切な人が今そこにいる、その声を聴きたいけれど任務時間は許されない。
「…ごめんね、英二、」
ひそやかに呼んで心配になる。
だって不安にさせてしまう、そう解かるけど仕方ない。
―同じ警察官だから解ってると思うけど、でも英二は、
解っていても英二は無視されたと思うかもしれない。
そんな心配は異動してから抱えている、殊にこの半月は不安かもしれない。
『お願いだ周太、俺の知らないところで死のうとかしないでよ?逝くなら俺も一緒に逝くから、だから独りでやるな周太お願いだから、』
林檎を剥こうとしただけ、そのナイフに英二は誤解した。
あんな誤解するほど不安にさせるのは音信不通の所為だ、でも解ってほしい。
―ごめんね英二、でも山にいるのも同じだから…英二も信じて?
英二が山にいるとき連絡など出来ない。
そのたび自分こそ不安で、それでも信じていつも待っている。
その信頼を解ってほしい、そうして今も待ってほしい願いに遠い鐘音また響く。
「…奥多摩でも鳴ってるかな、」
ひとり微笑んで歩く道、街路樹の下ひとり立っている。
白い街燈に端整なシルエット振向いて、その精悍な瞳が笑ってくれた。
「おつかれさま湯原、今年もよろしくな?」
新年のあいさつ最初はこのひとだ?
そんな想い少し寂しい、けれど温かい微笑へ笑いかけた。
「おつかれさまです、伊達さん。今年もよろしくお願いします、」
「おう、戻ったら雑煮でも食うか?」
提案してくれる言葉につい笑ってしまう。
だって生真面目な貌と台詞が釣り合わない、けれど嬉しくて頷いた。
「はい、食べたいです、」
「じゃあウチへ来い、すぐ出来る、」
応えてくれる声は低く沈毅に響く。
それなのに話題が所帯じみている?こんな意外な相手に可笑しい。
―伊達さんって意外と家庭的なんだもの、こんな真面目な貌なのに?
冷静沈毅、仕事人間、堅物エリート。
そんな貌が職場での印象でいる、けれど素顔は違う。
そう解っているから今も静かに歩きながら心笑いたくなる、そんな隣から言われた。
「湯原、正月はきちんと休んで来いよ?明けた訓練はキツイぞ、」
いま正月を迎えたばかり、それでも嶮しい現実また訪れる。
そんな経過を想いながら周太は頷いた。
「はい、診察も受ける予定です…伊達さんのお母さんにも言われたので、」
「そうか、また結果は教えろ、」
靴音かすかに言ってくれる言葉は気遣いだろう。
そう解るから尚更に解らなくて尋ねた。
「伊達さん、こんな僕とパートナーなのは面倒じゃありませんか?」
喘息のこと、父のこと、他にも面倒は多すぎる。
それでも並んで歩いてくれる相手は穏やかに笑ってくれた。
「面倒も悪くない、」
(to be continued)
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