first light 初光の刻
第80話 端月act.3-another,side story「陽はまた昇る」
ごとん、
座席ごと揺られて視界ゆるやかに披く。
もう車窓は明るい、いつの間に眠ってしまったのだろう?
すこし途惑い瞬きながら周太は座り直し、ダッフルコートの衿元そっと寄せた。
―やっぱり徹夜は堪えたのかな、すごく眠い、ね?
年越の警邏でほとんど寝ていない、この睡眠不足が眠りこんだ。
こんなふう電車で眠ることは久しぶりでいる、その記憶と握りしめた携帯電話を見た。
―英二にメールしようとして、そのまま寝ちゃったんだ、
どうしよう、きっと待ちぼうけさせている。
今ごろ何をしているだろう、仮眠だろうか巡回中だろうか?
どれにしても連絡がないと不安がらせている、その焦りにメール打ちかけ電車が止まった。
「あ、」
車内アナウンスと車窓の駅名に驚かされる。
もう着いてしまった、急いで降車したホームまた驚いた。
「…なんでこんなに人がいるの?」
思わず声こぼれて瞳瞬いてしまう。
まだ夜明けの時刻、それなのに人が多いホームに途惑わされる。
どうして今の時間こんなに混むのだろう?不思議で、けれど擦違う破魔矢に気づいた。
―あ、二年参りなんだね?
そういえば近くの寺社は初詣が盛況だ、列車も終夜営業かもしれない。
納得と駅を脱けて歩き、明けきらない住宅街の閑静にほっと息吐いた。
「…びっくりしたね?」
こんな混雑があったなんて知らなかったな?
初めて見た地元の姿に微笑んで歩く道が懐かしい。
こうして実家に帰ることも3ヶ月ぶり、その時間に緊張すこし逆上せてくる。
―お母さん僕を見てなんていうかな…SATに異動してから初めて逢うんだ、
異動して狙撃手になった、それから一度も母とは逢っていない。
本当は母こそ一番に反対していた進路、それでも押し切った息子に今なにを思うだろう?
そう考えだすと帰ることが怖くて、けれど自分の帰るべき家の門を押し開いた。
かたり、ぎっ…
古材が軋んで木造門ゆっくり開く。
その音も重厚な手触りも懐かしい、踏みこんで庭に微笑んだ。
「ん…きれいだね、雪山?」
雪山、そう名づいた山茶花が白く咲きほこる。
常緑の艶やかな梢に純白まばゆい、ふわり暁の風ゆるく花びら舞う。
かすかな甘い馥郁やわらかい、この大好きな花木の下ベンチに腰下ろした。
「ただいま…お父さん、」
笑いかけたベンチは父が作ってくれた。
この頭上の白い花木も植えたのは父だ、その香くるまるダッフルコートに陽色さす。
もうじき朝が明けてくれる、そんな空あわく輝かす朱色に携帯電話を開いた。
「…電話しても大丈夫かな、」
正月の日没まで奥多摩にいる、そう言っていた。
だから今も冬の尾根にいるだろう、勤務時間かもしれないのに電話して良いだろうか?
迷いながら、それでも返せなかったメールの想いごと久しぶりの番号を押した。
「じゃましたらごめんなさい…」
呟きながら期待と不安が交ざりあう。
出てもらえるだろうか?そんな不安コール3回、つながった音に微笑んだ。
「おはよう英二、あの…あけましておめでとう?」
笑いかけて、けれど返って来ない。
どうしたのだろう?不安になりかけて綺麗な低い声が呼んだ。
「周太?」
呼んでくれた、それだけで嬉しい。
そうして気づかされる、やっぱり自分はこのひとが好きだ。
―嘘吐かれても何も話してもらえなくても、僕は…好き、
ほら、呼んでくれたそれだけで想いあふれてしまう。
ずっと聴きたかった声、呼んでほしかった声、昨夜より前も待っている。
ただ嬉しくて、うれしい分だけ瞳の底あふれそうな想いに聴こえた。
「いてっ、」
今なんて言ったの?
痛い、そう言ったのだろうか?
そんなこと山に居る人に言われたら心配になる、そんな不安と訊いた。
「どうしたの英二?痛いって何かあったの、」
「大丈夫だよ周太、つねって現実か確かめたんだ、周太の声が嬉しくて夢かもしれないってさ?」
綺麗な低い声が笑ってくれる。
その言葉に安堵ため息吐きながら微笑んだ。
「ちゃんと現実です、あの…メールありがとう、返事できなくてごめんね…しごとだったんだ、」
どこに居たとは言えない、それでも理由だけは伝えたい。
こんな守秘義務に隔てられても繋がりたい人は電話ごし笑ってくれた。
「俺も御岳山で巡回中だよ、いま山茶花のところにいる、周太の木だよ?」
君の場所にいる、そんな今を笑ってくれる?
そう告げてくれる聲にまた信じてしまう、だって同じ木の下にいる。
こんなふう遠く離れても繋がれる、そんな今が嬉しくて羞んだ。
「ん…僕も山茶花のベンチにいるよ、いま家に帰ってきたところで…」
「じゃあ同じ花を見てるんだな、周太と俺、」
笑ってくれる声に純白の花ゆるやかに降ってくる。
いま電話のむこうも花は降るだろうか?いま共有したい時に微笑んだ。
「同じだね…あの、英二はお正月休み決まった?帰ってくる支度しておくから、」
帰ってきてほしい、あなたには。
だって自分の隣が居場所と笑ってくれた、あの笑顔を信じていたい。
今も笑ってほしい電話ごし溜息そっと訊かれた。
「周太、俺…そこに帰ってもいいの?」
そんな泣きそうな声で訊くなんて?
こんなだから憎めない、嘘吐かれても隠し事されても受けとめたくなる。
能力も容貌も秀でた人、それなのに泣きそうな矛盾が愛しくて笑いかけた。
「英二の家はここって約束したよね、違うの?」
まだ約束は生きている?
まだ終わらないのだと願ってほしい、だって幸せひとつ今も見ている。
いま純白の花ふたり繋がれて話している、この偶然は祝福だと信じていたい。
そんな願いに暁と花ふるベンチ、泣きそうな声が言った。
「ごめんな周太、ほんとうにごめん…ありがとう周太、」
どうして英二、そんなに謝るの?
そう訊いてみたい、けれど訊いても応えてもらえないだろう?
だって謝るのは「秘密」の所為だと解っている。
―僕に隠しごとしてるから謝るんでしょ、英二…観碕さんのこと、
観碕征治、祖父の同期で “Mon visiteur” 五十年前の来訪者。
そう自分も今は知っている、だって祖父の小説を読んだ。
そして小説は事実の記録だと確信している、だって彼にも会ってしまった。
『でも普通の自殺じゃないと俺は思ってます、たぶん父のために祖父は死んだんです』
ほら、雪の駐屯地の声は近い。
あの青年が話した事は小説に描かれない、けれど事実だろう。
『父は6歳で重症の小児喘息に罹っていて、その治療費を稼げる仕事が見つかったと祖父は出掛けて死にました。そして通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
なぜ五十年前の惨劇が起きたのか、そのシナリオ描いたのは誰か?
曾祖父を殺した人、その人を殺した祖父、そして殺し殺された者たちの孫と孫。
こんなリンクをなぜ青年と自分が共有しなくてはいけないのだろう、こんなの哀しい。
―樋本さんに会ったなんて英二に言えない、今はまだ、
ほら、自分だって秘密もう抱いている。
お互い独りじめに秘密を隠しあう、この孤独の共有者は訊いてくれた。
「周太は次、いつ帰って来られる?」
逢いたい、そう願って訊いてくれる。
けれど解らない予定と笑いかけた。
「ごめんね、解らないんだ…でも英二が帰ってきても良いように支度しておくから、今日と明日と、」
「ありがとう周太、」
綺麗な低い声が微笑んでくれる、その笑顔が記憶で見える。
そうして公園のベンチが映りだす、あの夏の想い笑いかけた。
「英二、たぶん僕ね…どんな英二でも好きだよ?」
たぶん、なんて言うのは自分の突っ張りだ。
好きだから、好きな分だけ意地張りたくて突っぱねる。
そう解っているけれど気恥ずかしくて「たぶん」に隠れていたい。
そうしないと溢れてしまいそうな想いに綺麗な低い声は笑ってくれた。
「俺はどんな周太でも絶対に好きだよ、大好きだ、」
ほら、こんなところ素直なんだから?
こんなだから憎めない、こんなだから許してしまう、愛してしまう。
そうして離れられない唯ひとつの想い唇そっと噛んで、つっけんどんに言った。
「僕は絶対なんて言えないからね、英二ったら嘘吐きでえっちすけべで困らせるから、」
こんな言い方まるで子供じみている。
それくらい自覚はある、けれど自分でコントロールできない意地に大好きな声が笑った。
「俺は周太がエッチになったら絶対もっと大好きになるよ?周太、俺にいっぱいエッチになって困らせて?」
ほんとなんてばかなひと?
「っ、ばかえいじっいま巡回中なくせになにいってるの?ばかえっちへんたいちかんっ、」
また罵って心配になる、こんな会話を誰かに聞かれたらどうする心算だろう?
そんな心配しながら気恥ずかしくて首すじ熱くなる、ただ恥ずかしくて困るまま優しいアルトが呼んだ。
「周、なにを百面相してるの?冷えちゃうわよ、」
ほら、こんなとこ母に見つかってしまった。
見上げた先ベランダから母が笑う、その笑顔に唇なんとか開いた。
「あ、おかあさんあのっ…ただいま」
ああ今なんて言ったら良いんだっけ?
どうして良いのか解らない混乱にベランダの母は軽やかに笑った。
「おかえりなさい、英二くんに拗ねたいの解かるけど困らせても可哀想よ?お正月だし仲良くね、」
どうしよう今の会話も聴かれてしまった?
そんな母の台詞に芯まで熱くなる、きっと赤い耳もと綺麗な声が笑った。
「周太、お母さんにも明けましておめでとうって伝えてくれな?風邪とか二人とも気をつけて、またな周太?」
優しい言葉、けれど可笑しそうに笑って電話そっと切れる。
こんなふう置き去りにされて何だか悔しい、それなのに改めて想ってしまう。
―やっぱり大好き…僕ったら懲りてない、ね?
心呟いて気恥ずかしくなる、もう首から額まで真赤だろう?
こんな子供っぽさ自分で困りながら、けれど今すこし取戻せた幸せは温かい。
(to be continued)
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第80話 端月act.3-another,side story「陽はまた昇る」
ごとん、
座席ごと揺られて視界ゆるやかに披く。
もう車窓は明るい、いつの間に眠ってしまったのだろう?
すこし途惑い瞬きながら周太は座り直し、ダッフルコートの衿元そっと寄せた。
―やっぱり徹夜は堪えたのかな、すごく眠い、ね?
年越の警邏でほとんど寝ていない、この睡眠不足が眠りこんだ。
こんなふう電車で眠ることは久しぶりでいる、その記憶と握りしめた携帯電話を見た。
―英二にメールしようとして、そのまま寝ちゃったんだ、
どうしよう、きっと待ちぼうけさせている。
今ごろ何をしているだろう、仮眠だろうか巡回中だろうか?
どれにしても連絡がないと不安がらせている、その焦りにメール打ちかけ電車が止まった。
「あ、」
車内アナウンスと車窓の駅名に驚かされる。
もう着いてしまった、急いで降車したホームまた驚いた。
「…なんでこんなに人がいるの?」
思わず声こぼれて瞳瞬いてしまう。
まだ夜明けの時刻、それなのに人が多いホームに途惑わされる。
どうして今の時間こんなに混むのだろう?不思議で、けれど擦違う破魔矢に気づいた。
―あ、二年参りなんだね?
そういえば近くの寺社は初詣が盛況だ、列車も終夜営業かもしれない。
納得と駅を脱けて歩き、明けきらない住宅街の閑静にほっと息吐いた。
「…びっくりしたね?」
こんな混雑があったなんて知らなかったな?
初めて見た地元の姿に微笑んで歩く道が懐かしい。
こうして実家に帰ることも3ヶ月ぶり、その時間に緊張すこし逆上せてくる。
―お母さん僕を見てなんていうかな…SATに異動してから初めて逢うんだ、
異動して狙撃手になった、それから一度も母とは逢っていない。
本当は母こそ一番に反対していた進路、それでも押し切った息子に今なにを思うだろう?
そう考えだすと帰ることが怖くて、けれど自分の帰るべき家の門を押し開いた。
かたり、ぎっ…
古材が軋んで木造門ゆっくり開く。
その音も重厚な手触りも懐かしい、踏みこんで庭に微笑んだ。
「ん…きれいだね、雪山?」
雪山、そう名づいた山茶花が白く咲きほこる。
常緑の艶やかな梢に純白まばゆい、ふわり暁の風ゆるく花びら舞う。
かすかな甘い馥郁やわらかい、この大好きな花木の下ベンチに腰下ろした。
「ただいま…お父さん、」
笑いかけたベンチは父が作ってくれた。
この頭上の白い花木も植えたのは父だ、その香くるまるダッフルコートに陽色さす。
もうじき朝が明けてくれる、そんな空あわく輝かす朱色に携帯電話を開いた。
「…電話しても大丈夫かな、」
正月の日没まで奥多摩にいる、そう言っていた。
だから今も冬の尾根にいるだろう、勤務時間かもしれないのに電話して良いだろうか?
迷いながら、それでも返せなかったメールの想いごと久しぶりの番号を押した。
「じゃましたらごめんなさい…」
呟きながら期待と不安が交ざりあう。
出てもらえるだろうか?そんな不安コール3回、つながった音に微笑んだ。
「おはよう英二、あの…あけましておめでとう?」
笑いかけて、けれど返って来ない。
どうしたのだろう?不安になりかけて綺麗な低い声が呼んだ。
「周太?」
呼んでくれた、それだけで嬉しい。
そうして気づかされる、やっぱり自分はこのひとが好きだ。
―嘘吐かれても何も話してもらえなくても、僕は…好き、
ほら、呼んでくれたそれだけで想いあふれてしまう。
ずっと聴きたかった声、呼んでほしかった声、昨夜より前も待っている。
ただ嬉しくて、うれしい分だけ瞳の底あふれそうな想いに聴こえた。
「いてっ、」
今なんて言ったの?
痛い、そう言ったのだろうか?
そんなこと山に居る人に言われたら心配になる、そんな不安と訊いた。
「どうしたの英二?痛いって何かあったの、」
「大丈夫だよ周太、つねって現実か確かめたんだ、周太の声が嬉しくて夢かもしれないってさ?」
綺麗な低い声が笑ってくれる。
その言葉に安堵ため息吐きながら微笑んだ。
「ちゃんと現実です、あの…メールありがとう、返事できなくてごめんね…しごとだったんだ、」
どこに居たとは言えない、それでも理由だけは伝えたい。
こんな守秘義務に隔てられても繋がりたい人は電話ごし笑ってくれた。
「俺も御岳山で巡回中だよ、いま山茶花のところにいる、周太の木だよ?」
君の場所にいる、そんな今を笑ってくれる?
そう告げてくれる聲にまた信じてしまう、だって同じ木の下にいる。
こんなふう遠く離れても繋がれる、そんな今が嬉しくて羞んだ。
「ん…僕も山茶花のベンチにいるよ、いま家に帰ってきたところで…」
「じゃあ同じ花を見てるんだな、周太と俺、」
笑ってくれる声に純白の花ゆるやかに降ってくる。
いま電話のむこうも花は降るだろうか?いま共有したい時に微笑んだ。
「同じだね…あの、英二はお正月休み決まった?帰ってくる支度しておくから、」
帰ってきてほしい、あなたには。
だって自分の隣が居場所と笑ってくれた、あの笑顔を信じていたい。
今も笑ってほしい電話ごし溜息そっと訊かれた。
「周太、俺…そこに帰ってもいいの?」
そんな泣きそうな声で訊くなんて?
こんなだから憎めない、嘘吐かれても隠し事されても受けとめたくなる。
能力も容貌も秀でた人、それなのに泣きそうな矛盾が愛しくて笑いかけた。
「英二の家はここって約束したよね、違うの?」
まだ約束は生きている?
まだ終わらないのだと願ってほしい、だって幸せひとつ今も見ている。
いま純白の花ふたり繋がれて話している、この偶然は祝福だと信じていたい。
そんな願いに暁と花ふるベンチ、泣きそうな声が言った。
「ごめんな周太、ほんとうにごめん…ありがとう周太、」
どうして英二、そんなに謝るの?
そう訊いてみたい、けれど訊いても応えてもらえないだろう?
だって謝るのは「秘密」の所為だと解っている。
―僕に隠しごとしてるから謝るんでしょ、英二…観碕さんのこと、
観碕征治、祖父の同期で “Mon visiteur” 五十年前の来訪者。
そう自分も今は知っている、だって祖父の小説を読んだ。
そして小説は事実の記録だと確信している、だって彼にも会ってしまった。
『でも普通の自殺じゃないと俺は思ってます、たぶん父のために祖父は死んだんです』
ほら、雪の駐屯地の声は近い。
あの青年が話した事は小説に描かれない、けれど事実だろう。
『父は6歳で重症の小児喘息に罹っていて、その治療費を稼げる仕事が見つかったと祖父は出掛けて死にました。そして通夜に多額の香典が届いたそうです、無記名で、』
なぜ五十年前の惨劇が起きたのか、そのシナリオ描いたのは誰か?
曾祖父を殺した人、その人を殺した祖父、そして殺し殺された者たちの孫と孫。
こんなリンクをなぜ青年と自分が共有しなくてはいけないのだろう、こんなの哀しい。
―樋本さんに会ったなんて英二に言えない、今はまだ、
ほら、自分だって秘密もう抱いている。
お互い独りじめに秘密を隠しあう、この孤独の共有者は訊いてくれた。
「周太は次、いつ帰って来られる?」
逢いたい、そう願って訊いてくれる。
けれど解らない予定と笑いかけた。
「ごめんね、解らないんだ…でも英二が帰ってきても良いように支度しておくから、今日と明日と、」
「ありがとう周太、」
綺麗な低い声が微笑んでくれる、その笑顔が記憶で見える。
そうして公園のベンチが映りだす、あの夏の想い笑いかけた。
「英二、たぶん僕ね…どんな英二でも好きだよ?」
たぶん、なんて言うのは自分の突っ張りだ。
好きだから、好きな分だけ意地張りたくて突っぱねる。
そう解っているけれど気恥ずかしくて「たぶん」に隠れていたい。
そうしないと溢れてしまいそうな想いに綺麗な低い声は笑ってくれた。
「俺はどんな周太でも絶対に好きだよ、大好きだ、」
ほら、こんなところ素直なんだから?
こんなだから憎めない、こんなだから許してしまう、愛してしまう。
そうして離れられない唯ひとつの想い唇そっと噛んで、つっけんどんに言った。
「僕は絶対なんて言えないからね、英二ったら嘘吐きでえっちすけべで困らせるから、」
こんな言い方まるで子供じみている。
それくらい自覚はある、けれど自分でコントロールできない意地に大好きな声が笑った。
「俺は周太がエッチになったら絶対もっと大好きになるよ?周太、俺にいっぱいエッチになって困らせて?」
ほんとなんてばかなひと?
「っ、ばかえいじっいま巡回中なくせになにいってるの?ばかえっちへんたいちかんっ、」
また罵って心配になる、こんな会話を誰かに聞かれたらどうする心算だろう?
そんな心配しながら気恥ずかしくて首すじ熱くなる、ただ恥ずかしくて困るまま優しいアルトが呼んだ。
「周、なにを百面相してるの?冷えちゃうわよ、」
ほら、こんなとこ母に見つかってしまった。
見上げた先ベランダから母が笑う、その笑顔に唇なんとか開いた。
「あ、おかあさんあのっ…ただいま」
ああ今なんて言ったら良いんだっけ?
どうして良いのか解らない混乱にベランダの母は軽やかに笑った。
「おかえりなさい、英二くんに拗ねたいの解かるけど困らせても可哀想よ?お正月だし仲良くね、」
どうしよう今の会話も聴かれてしまった?
そんな母の台詞に芯まで熱くなる、きっと赤い耳もと綺麗な声が笑った。
「周太、お母さんにも明けましておめでとうって伝えてくれな?風邪とか二人とも気をつけて、またな周太?」
優しい言葉、けれど可笑しそうに笑って電話そっと切れる。
こんなふう置き去りにされて何だか悔しい、それなのに改めて想ってしまう。
―やっぱり大好き…僕ったら懲りてない、ね?
心呟いて気恥ずかしくなる、もう首から額まで真赤だろう?
こんな子供っぽさ自分で困りながら、けれど今すこし取戻せた幸せは温かい。
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