How sweet his music, on my life, 率直の聲
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第82話 誓文 act.4-side story「陽はまた昇る」
陽が射して青空まばゆい。
また雪雲は翳るだろう、けれど舞う小雪に陽が映える。
銀色の庭も陽光まばゆい、その陽ざしに赤いボールを黒犬が捕えた。
「うまいなヴァイゼ、」
笑いかけてジャーマンシェパード真直ぐ駆けて来る。
大きな体さらり白銀へ座って、ふっさり尾を振りながら赤い玉そっと前に置く。
いま嬉しくて仕方ない、そんな茶色の瞳に英二は笑った。
「ヴァイゼ、また投げろって言ってる?」
「おんっ、」
一声ほがらかに吠えて明るい瞳が見あげてくれる。
年明けはすこし衰えて見えた、けれど今は元気いっぱいな愛犬に微笑んだ。
「じゃあ投げてやるよ、もうじき客が来るけど吠えかかったりするなよ?」
「おんっ、」
了解です、そんな貌で頷く大きな背は真直ぐ行儀いい。
相変らず賢い愛犬に笑ってニットの腕を振りかぶった。
「おんっ、」
大らかに一声、赤い放物線を追いかけてゆく。
そのまま塀を越えたボールに声ひとつ上がった。
「おわっ、ボールっ?」
この声は懐かしいな?
すぐ聴きとった親しさに笑って愛犬に笑いかけた。
「場外してごめんなヴァイゼ、ちょうど客も来たみたいだ?」
笑いかけた銀色の庭、大きな黒犬が困ったよう首傾げて見つめる。
もっと遊んでいたいのにな?そう告げる茶色の瞳に微笑んだ。
「もうじきボール持って来るだろうからさ、そしたら遊んでもらえよ?」
「くん、」
残念、そんな貌に頷いて大きな黒犬ゆるやかに駆けて来る。
もう少しあなたと遊びたいよ?そう見あげる茶色い瞳に笑いかけた。
「そんなに残念がらなくて大丈夫だよ、すごく良いヤツだからヴァイゼも気に入ると思う、」
話しかけて大きな耳そっと撫でてやる。
黒い艶やか被毛ふさふさ指に温かい、そんな雪の庭に正門が開いた。
「ほらヴァイゼ?おまえのボール持ってきてくれたよ、」
笑いかけ並んだ白銀の先、コート姿ふたり石畳を歩いてくる。
チャコールグレーとボルドーは寄りそい歩く、その緊張した笑顔たちは似合う。
―思った以上にお似合いだよな?
こうして並んで歩く二人は初めて見る。
この初見は微笑ましいけど何か寂しい、そして願いたい幸せに笑いかけた。
「せきねーっ、ボール投げてやって!」
えっ、なんだろう?
そんな貌こちら振向いて大きな目ひとつ瞬く。
今なにを見ているんだろう?驚いた顔そのまま笑いだした。
「みやたー、ひさしぶりだなっ、」
「おう、ボール投げてやってくれー、」
小雪に笑いあって浅黒い貌が赤いボールを見る。
その眼差しが愛犬を見、大きな手は真直ぐ投げてくれた。
「返すぞー、」
きれいな放物線に赤色が飛ぶ。
戻ってくる宝物へジャーマンシェパードは雪蹴って跳んだ。
「うまいぞヴァイゼ、」
大きな口に捕えて茶色の瞳が笑う。
ふっさり尻尾ふりながら見あげてくれる、その眼差しに笑いかけた。
「これから姉ちゃんたちと話さないといけないんだ、ヴァイゼも立ち会う?」
「くんっ、」
赤いボール銜えたまま茶色の瞳が肯く。
ずっと傍にいる、そんな愛犬の貌に笑って石畳へ行った。
「姉ちゃん、関根、今日はおつかれさま?」
舞いふる小雪に笑いかけて姉が長い睫ゆっくり瞬かす。
色白やさしい貌は前より綺麗になった、この再会に華やかな笑顔ほころんだ。
「英二がいるなんて驚いたわ、何年ぶりに来たの?」
「先月もきたばかりだよ、」
正直に笑いかけて歩きだす道、姉の眼差しが不思議がる。
物言いたげな貌、けれどその向こうへ笑いかけた。
「よく来たな関根、ちょっとビビってる?」
「そりゃビビるだろ、こんなデカい家に入るの仕事以外じゃ初めてだぞ?」
闊達な声が笑って答える、その真直ぐな言葉に懐かしい。
この率直な同期を姉が選んだことは正しいだろう?そんな想いに姉が訊いた。
「ねえ英二、あんたが今日ここにいるのってもしかして、」
気づかれたかな?そんな言葉にただ笑いかけた。
「また後で話すよ、寒いから入ろ?中森さん待たせてる、」
もう玄関の扉は開かれている。
その真中に立たずんだネクタイ端正なニット姿に姉は微笑んだ。
「こんにちは中森さん、今日はお願いします、」
「ようこそ英理様、寒かったでしょう?」
洗練の所作に頭下げて穏やかな笑顔ほころばす。
ロマンスグレイ美しいニット姿は変わらず優しい、この優秀な家宰に笑いかけた。
「中森さん、俺の同期の関根だよ。警察学校では世話になったんだ、迷惑もいっぱいかけたよ?」
本当に初任科教養では迷惑たくさん掛けている。
だからこそ本音で話せるようになった友達はマフラー外し、端正な礼をした。
「関根尚光です、私こそ宮田君にはお世話になっています、」
モードが切り替わったな?
そんな横顔は凛々しくて職業柄が表れる、その姿勢に家宰は微笑んだ。
「中森脩也と申します、ここで家宰を務めております。どうぞお入りください、」
「おじゃまします、」
端正な礼をして快活な笑顔ほころばす。
浅黒い貌は前よりも精悍になった、そう見ながらスリッパ履きかえると家宰が微笑んだ。
「英二さん、コートも着ないで雪のなかにいたんですか?」
「マフラーはしたよ、」
笑って外したマフラーを美しい所作が受けとってくれる。
その困ったような笑顔が言いたいことに笑いかけた。
「雪の三千峰は零下20度だよ、だから渋い貌しないでよ中森さん?」
もう昔の自分とは違う、そんな現実に家宰は言った。
「マッターホルンは標高4,000メートルを超えるそうですね、」
ちゃんと解って言っていますよ?
そう告げながら客のコート受けとってゆく、その相変らずな博識に訊いた。
「中森さん、山に詳しかった?」
「昨年から詳しくなりました、冬富士の風はシャッターを壊すそうですね?」
涼やかな貌の回答に笑いたくなる。
どうせ祖父が調べさせてはチェックしているのだろう。
こんなふう相変わらずだ?そこにある温もりへ素直に詫びた。
「いつも心配かけてごめん、ありがとう、」
ずっと連絡すらしなかった、それでも心を懸けてくれている。
そんな誠実を見ないフリしてきた幼稚が恥ずかしい、その詫びに家宰は微笑んだ。
「私も登っている気持になっています、楽しいですよ?」
「うん、来月の北岳も楽しみにしてて?」
「天候次第では中止にして下さいね、」
話しながらコートたち片付けてくれる。
すぐ済んで、緊張と佇んだ二人に穏やかな笑顔むけてくれた。
「応接間にご案内します、どうぞ?」
「ありがとう、」
やわらかに微笑んで姉が姿見もう一度見る。
ローズベージュ上品なワンピースに白いカーディガン、その姿に笑いかけた。
「今日の姉ちゃん上品でいいね、よく似合ってる、」
どう見えるのか気になっているだろうな?
そんな仕草に笑いかけた先、色白やさしい笑顔が華やいだ。
「ありがとう、英二もカジュアルなのにフォーマルで似合ってるわ、シャツがシックね?」
「前に周太と選んだやつなんだ、」
笑って答えながら鼓動そっと絞められる。
こんなふう名前を声にするだけで心切られてしまう、こんな相手ほかに誰もいない。
―だから今日このシャツを着たかったんだよ、周太?
他に誰もいない唯ひとり、その名残を身に着けたかった。
そうして記憶ごと気配を感じられたら無意味な嫉妬もしないで済む、そんな本音に深い声が微笑んだ。
「佳い方ですね、古風で優しい、」
ほら、ちゃんと解ってくれる。
言わなくても見て読みとってしまう、その眼差しに尋ねた。
「祖父は書斎?」
「はい、お願い致します、」
肯いてくれる瞳は静かなままで、けれど笑い堪えている。
それは自分も同じだ、この同意と笑いかけた。
「姉ちゃん、関根、ちょっと呼んでくるから寛いでて?」
「うん、ありがとう英二、」
優しいアルト微笑んでくれる隣、長身の貌は緊張かすかに硬い。
その広やかなスーツの背中一発、ぱんっ、敲いて笑った。
「いてっ、なんだよ宮田?」
「緊張しすぎてるから喝入れてみた、ちょっと解れたろ?」
笑いかけた目線は同じくらい背が高い。
浅黒い貌ほっと和んで快活に笑ってくれた。
「ありがとな、俺なりに頑張んよ、」
俺なりに、
自分なりに等身大で、そう言えるなら大丈夫だろう。
この全く育ちが違う友人は頼もしい、その信頼に言った。
「関根なら大丈夫だよ、そのまんまで良い、」
笑いかけ踵返して石造りの階段を昇りだす。
絨毯を踏んでゆく脚に艶やかな黒い毛並よりそう、ふっさり尻尾なびかす愛犬に笑いかけた。
「ヴァイゼ、立籠り犯の確保よろしくな?」
「くんっ、」
茶色やわらかな瞳が見あげてくれる。
ちゃんと解っていますよ?そんな眼差しに微笑んで重厚な扉ノックした。
かたん、
ドアノブ回して押し開いた先、ゴブラン織り艶やかな安楽椅子に銀髪が座っている。
昼食と同じシャツにセーター重ねた普段着姿、けれど衿元のアスコットタイに意志を見て笑いかけた。
「監視塔からの印象は悪くなかったようですね?」
また庭から眺めていたのだろう、だからレースのカーテンも少し開いている。
こんな痕跡を残すなど周到ないつもと違う、その本音くすぶらす横顔は立ちあがった。
「ヴァイゼが初対面からボールを受けるなど珍しかろう、」
「そうですね、」
微笑んで応えながら傍らのジャーマンシェパードそっと撫でる。
大きな耳やわらかに掻いて茶色の瞳細めさす、そんな愛犬に祖父はため息吐いた。
「あの男、ヴァイゼを全く恐れておらんな。猛獣好きなのか?」
ジャーマンシェパードは大型犬、そのなかでも大柄で真黒な姿は威圧感がある。
けれど来客には関係ない、その理由を笑った。
「関根は空気で相手を見るところがあります、姉のこともそうでしょう、」
「なぜ英理のこともだと解かる?」
切り返してくる語調は往生際まだゆらぐ。
なんとか反対したくて堪らない、そんな困惑が可笑しいまま答えた。
「関根からすると姉と俺は全く似ていないそうですよ?姉弟と知った時は本気で驚いていました、」
姉と自分の顔立ちは似ていると幼い頃から言われる。
肌や髪の色も似ているから尚更だろう、けれど違う中身に祖父は言った。
「英二と英理は真逆だ、根暗と根明だからな、」
「その通りです、」
微笑んで肯定して愛犬の頭そっと押す。
その合図に巨犬は立ちあがり祖父の後ろへ回ると一声啼いた。
「おん、」
早くしてくれますか?
そんな促す声に端正な銀髪かしげ老人はため息吐いた。
「ヴァイゼまで会えと言うのか、あれはそんなに佳い男か?」
「ご自分で確かめて下さい、」
応えながら踵返して歩きだす、けれど動かない祖父に振向き告げた。
「敵前逃亡も遅刻も姉に嫌われますよ?それで良いなら俺だけで全て決めます、沈黙は委任の了解でよろしいですね?」
ここまで往生際ためらう祖父は初めて見る。
こんな姿を見られただけで自分は感謝しないといけないだろう?
つい可笑しくて笑い堪えて、けれど切ない真中で端正な老人は肖像画を見、そしてゆっくり歩きだした。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「The tables Turned」】
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第82話 誓文 act.4-side story「陽はまた昇る」
陽が射して青空まばゆい。
また雪雲は翳るだろう、けれど舞う小雪に陽が映える。
銀色の庭も陽光まばゆい、その陽ざしに赤いボールを黒犬が捕えた。
「うまいなヴァイゼ、」
笑いかけてジャーマンシェパード真直ぐ駆けて来る。
大きな体さらり白銀へ座って、ふっさり尾を振りながら赤い玉そっと前に置く。
いま嬉しくて仕方ない、そんな茶色の瞳に英二は笑った。
「ヴァイゼ、また投げろって言ってる?」
「おんっ、」
一声ほがらかに吠えて明るい瞳が見あげてくれる。
年明けはすこし衰えて見えた、けれど今は元気いっぱいな愛犬に微笑んだ。
「じゃあ投げてやるよ、もうじき客が来るけど吠えかかったりするなよ?」
「おんっ、」
了解です、そんな貌で頷く大きな背は真直ぐ行儀いい。
相変らず賢い愛犬に笑ってニットの腕を振りかぶった。
「おんっ、」
大らかに一声、赤い放物線を追いかけてゆく。
そのまま塀を越えたボールに声ひとつ上がった。
「おわっ、ボールっ?」
この声は懐かしいな?
すぐ聴きとった親しさに笑って愛犬に笑いかけた。
「場外してごめんなヴァイゼ、ちょうど客も来たみたいだ?」
笑いかけた銀色の庭、大きな黒犬が困ったよう首傾げて見つめる。
もっと遊んでいたいのにな?そう告げる茶色の瞳に微笑んだ。
「もうじきボール持って来るだろうからさ、そしたら遊んでもらえよ?」
「くん、」
残念、そんな貌に頷いて大きな黒犬ゆるやかに駆けて来る。
もう少しあなたと遊びたいよ?そう見あげる茶色い瞳に笑いかけた。
「そんなに残念がらなくて大丈夫だよ、すごく良いヤツだからヴァイゼも気に入ると思う、」
話しかけて大きな耳そっと撫でてやる。
黒い艶やか被毛ふさふさ指に温かい、そんな雪の庭に正門が開いた。
「ほらヴァイゼ?おまえのボール持ってきてくれたよ、」
笑いかけ並んだ白銀の先、コート姿ふたり石畳を歩いてくる。
チャコールグレーとボルドーは寄りそい歩く、その緊張した笑顔たちは似合う。
―思った以上にお似合いだよな?
こうして並んで歩く二人は初めて見る。
この初見は微笑ましいけど何か寂しい、そして願いたい幸せに笑いかけた。
「せきねーっ、ボール投げてやって!」
えっ、なんだろう?
そんな貌こちら振向いて大きな目ひとつ瞬く。
今なにを見ているんだろう?驚いた顔そのまま笑いだした。
「みやたー、ひさしぶりだなっ、」
「おう、ボール投げてやってくれー、」
小雪に笑いあって浅黒い貌が赤いボールを見る。
その眼差しが愛犬を見、大きな手は真直ぐ投げてくれた。
「返すぞー、」
きれいな放物線に赤色が飛ぶ。
戻ってくる宝物へジャーマンシェパードは雪蹴って跳んだ。
「うまいぞヴァイゼ、」
大きな口に捕えて茶色の瞳が笑う。
ふっさり尻尾ふりながら見あげてくれる、その眼差しに笑いかけた。
「これから姉ちゃんたちと話さないといけないんだ、ヴァイゼも立ち会う?」
「くんっ、」
赤いボール銜えたまま茶色の瞳が肯く。
ずっと傍にいる、そんな愛犬の貌に笑って石畳へ行った。
「姉ちゃん、関根、今日はおつかれさま?」
舞いふる小雪に笑いかけて姉が長い睫ゆっくり瞬かす。
色白やさしい貌は前より綺麗になった、この再会に華やかな笑顔ほころんだ。
「英二がいるなんて驚いたわ、何年ぶりに来たの?」
「先月もきたばかりだよ、」
正直に笑いかけて歩きだす道、姉の眼差しが不思議がる。
物言いたげな貌、けれどその向こうへ笑いかけた。
「よく来たな関根、ちょっとビビってる?」
「そりゃビビるだろ、こんなデカい家に入るの仕事以外じゃ初めてだぞ?」
闊達な声が笑って答える、その真直ぐな言葉に懐かしい。
この率直な同期を姉が選んだことは正しいだろう?そんな想いに姉が訊いた。
「ねえ英二、あんたが今日ここにいるのってもしかして、」
気づかれたかな?そんな言葉にただ笑いかけた。
「また後で話すよ、寒いから入ろ?中森さん待たせてる、」
もう玄関の扉は開かれている。
その真中に立たずんだネクタイ端正なニット姿に姉は微笑んだ。
「こんにちは中森さん、今日はお願いします、」
「ようこそ英理様、寒かったでしょう?」
洗練の所作に頭下げて穏やかな笑顔ほころばす。
ロマンスグレイ美しいニット姿は変わらず優しい、この優秀な家宰に笑いかけた。
「中森さん、俺の同期の関根だよ。警察学校では世話になったんだ、迷惑もいっぱいかけたよ?」
本当に初任科教養では迷惑たくさん掛けている。
だからこそ本音で話せるようになった友達はマフラー外し、端正な礼をした。
「関根尚光です、私こそ宮田君にはお世話になっています、」
モードが切り替わったな?
そんな横顔は凛々しくて職業柄が表れる、その姿勢に家宰は微笑んだ。
「中森脩也と申します、ここで家宰を務めております。どうぞお入りください、」
「おじゃまします、」
端正な礼をして快活な笑顔ほころばす。
浅黒い貌は前よりも精悍になった、そう見ながらスリッパ履きかえると家宰が微笑んだ。
「英二さん、コートも着ないで雪のなかにいたんですか?」
「マフラーはしたよ、」
笑って外したマフラーを美しい所作が受けとってくれる。
その困ったような笑顔が言いたいことに笑いかけた。
「雪の三千峰は零下20度だよ、だから渋い貌しないでよ中森さん?」
もう昔の自分とは違う、そんな現実に家宰は言った。
「マッターホルンは標高4,000メートルを超えるそうですね、」
ちゃんと解って言っていますよ?
そう告げながら客のコート受けとってゆく、その相変らずな博識に訊いた。
「中森さん、山に詳しかった?」
「昨年から詳しくなりました、冬富士の風はシャッターを壊すそうですね?」
涼やかな貌の回答に笑いたくなる。
どうせ祖父が調べさせてはチェックしているのだろう。
こんなふう相変わらずだ?そこにある温もりへ素直に詫びた。
「いつも心配かけてごめん、ありがとう、」
ずっと連絡すらしなかった、それでも心を懸けてくれている。
そんな誠実を見ないフリしてきた幼稚が恥ずかしい、その詫びに家宰は微笑んだ。
「私も登っている気持になっています、楽しいですよ?」
「うん、来月の北岳も楽しみにしてて?」
「天候次第では中止にして下さいね、」
話しながらコートたち片付けてくれる。
すぐ済んで、緊張と佇んだ二人に穏やかな笑顔むけてくれた。
「応接間にご案内します、どうぞ?」
「ありがとう、」
やわらかに微笑んで姉が姿見もう一度見る。
ローズベージュ上品なワンピースに白いカーディガン、その姿に笑いかけた。
「今日の姉ちゃん上品でいいね、よく似合ってる、」
どう見えるのか気になっているだろうな?
そんな仕草に笑いかけた先、色白やさしい笑顔が華やいだ。
「ありがとう、英二もカジュアルなのにフォーマルで似合ってるわ、シャツがシックね?」
「前に周太と選んだやつなんだ、」
笑って答えながら鼓動そっと絞められる。
こんなふう名前を声にするだけで心切られてしまう、こんな相手ほかに誰もいない。
―だから今日このシャツを着たかったんだよ、周太?
他に誰もいない唯ひとり、その名残を身に着けたかった。
そうして記憶ごと気配を感じられたら無意味な嫉妬もしないで済む、そんな本音に深い声が微笑んだ。
「佳い方ですね、古風で優しい、」
ほら、ちゃんと解ってくれる。
言わなくても見て読みとってしまう、その眼差しに尋ねた。
「祖父は書斎?」
「はい、お願い致します、」
肯いてくれる瞳は静かなままで、けれど笑い堪えている。
それは自分も同じだ、この同意と笑いかけた。
「姉ちゃん、関根、ちょっと呼んでくるから寛いでて?」
「うん、ありがとう英二、」
優しいアルト微笑んでくれる隣、長身の貌は緊張かすかに硬い。
その広やかなスーツの背中一発、ぱんっ、敲いて笑った。
「いてっ、なんだよ宮田?」
「緊張しすぎてるから喝入れてみた、ちょっと解れたろ?」
笑いかけた目線は同じくらい背が高い。
浅黒い貌ほっと和んで快活に笑ってくれた。
「ありがとな、俺なりに頑張んよ、」
俺なりに、
自分なりに等身大で、そう言えるなら大丈夫だろう。
この全く育ちが違う友人は頼もしい、その信頼に言った。
「関根なら大丈夫だよ、そのまんまで良い、」
笑いかけ踵返して石造りの階段を昇りだす。
絨毯を踏んでゆく脚に艶やかな黒い毛並よりそう、ふっさり尻尾なびかす愛犬に笑いかけた。
「ヴァイゼ、立籠り犯の確保よろしくな?」
「くんっ、」
茶色やわらかな瞳が見あげてくれる。
ちゃんと解っていますよ?そんな眼差しに微笑んで重厚な扉ノックした。
かたん、
ドアノブ回して押し開いた先、ゴブラン織り艶やかな安楽椅子に銀髪が座っている。
昼食と同じシャツにセーター重ねた普段着姿、けれど衿元のアスコットタイに意志を見て笑いかけた。
「監視塔からの印象は悪くなかったようですね?」
また庭から眺めていたのだろう、だからレースのカーテンも少し開いている。
こんな痕跡を残すなど周到ないつもと違う、その本音くすぶらす横顔は立ちあがった。
「ヴァイゼが初対面からボールを受けるなど珍しかろう、」
「そうですね、」
微笑んで応えながら傍らのジャーマンシェパードそっと撫でる。
大きな耳やわらかに掻いて茶色の瞳細めさす、そんな愛犬に祖父はため息吐いた。
「あの男、ヴァイゼを全く恐れておらんな。猛獣好きなのか?」
ジャーマンシェパードは大型犬、そのなかでも大柄で真黒な姿は威圧感がある。
けれど来客には関係ない、その理由を笑った。
「関根は空気で相手を見るところがあります、姉のこともそうでしょう、」
「なぜ英理のこともだと解かる?」
切り返してくる語調は往生際まだゆらぐ。
なんとか反対したくて堪らない、そんな困惑が可笑しいまま答えた。
「関根からすると姉と俺は全く似ていないそうですよ?姉弟と知った時は本気で驚いていました、」
姉と自分の顔立ちは似ていると幼い頃から言われる。
肌や髪の色も似ているから尚更だろう、けれど違う中身に祖父は言った。
「英二と英理は真逆だ、根暗と根明だからな、」
「その通りです、」
微笑んで肯定して愛犬の頭そっと押す。
その合図に巨犬は立ちあがり祖父の後ろへ回ると一声啼いた。
「おん、」
早くしてくれますか?
そんな促す声に端正な銀髪かしげ老人はため息吐いた。
「ヴァイゼまで会えと言うのか、あれはそんなに佳い男か?」
「ご自分で確かめて下さい、」
応えながら踵返して歩きだす、けれど動かない祖父に振向き告げた。
「敵前逃亡も遅刻も姉に嫌われますよ?それで良いなら俺だけで全て決めます、沈黙は委任の了解でよろしいですね?」
ここまで往生際ためらう祖父は初めて見る。
こんな姿を見られただけで自分は感謝しないといけないだろう?
つい可笑しくて笑い堪えて、けれど切ない真中で端正な老人は肖像画を見、そしてゆっくり歩きだした。
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