肩の痛みの相談でいらっしゃったスポーツマンのAさん。
調べてみると「腱板損傷」という故障のようです。
ただ、腫れ(炎症)が落ち着いた後のようでしたので、初回から積極的に治療を始めることができました。
Aさんの肩の奥にある「腱板」が傷付いてしまった原因は、
肩関節(肩甲上腕関節)の前方へのグラつきでした。
これ、アンテリオグライドシンドロームって言うんです。
多くの場合、「棘下筋」という肩甲骨の後面についている筋肉がちぢみこんでしまうことで起ります。
Aさんの場合、「棘下筋」の緊張をコントロールするためのエクササイズを伝えたところ、
痛くてできなかった動きもできるようになりました。
エクササイズの効果は上々でした。
その様子から私は、『次回あたりから、筋力強化に移れそうだ』とほくそ笑んでおりました。
しかし、2回目の来院時、Aさんの表情は優れません。
なんでも
「エクササイズで痛みが治まっても直ぐに戻って(再発して)しまう。」
とのこと。
さて、どうしたことか。
こうした故障が「治療」や「エクササイズ」への反応がいいのに治らない時、
だいたいは患部に無理をかけ続けてしまっているケースです。
ただ、本人も無意識にそうした動作を繰り返していることが多いもの事実。
けして悪気があってのことではないわけです。
そこを踏まえて、何か該当する出来事はないかと慎重にインタビューを開始する私。
すると、「ちょっとだけ泳いじゃった(^_^;)」とのこと。
初回の治療を終えたとき、
「まだスポーツはしないこと!」と釘をさしていたのですが、我慢できなかったようですね(^_^;)
ともかく、「犯人はこれか!」ということになり
「肩を徐々に鍛えてから競技に戻ることが大事だ」ということを説明し、
「いまするべきこと」と「してはいけないこと」を説明した時です。
Aさん「チューブで肩を鍛えてるんだけど…」
と仰った。
「どんな方法ですか?」
と私。
すると、肘を90度に曲げ、小さく前にならえの姿勢からゴムチューブを外にひくジェスチャーをするAさん。
「それだ!!!!!」
と私。
その動作がいまのAさんの肩の状況を説明するのにぴったりだったんです。
どうやら「泳いじゃった」のは犯人ではなかったようです。
真犯人は「良かれと思ってやっていたエクササイズ」でした。
なぜそう断言できるのか?
ちょっと補足します。
Aさんの肩の痛みを治すためには、肩の前方へのグラつきを起こさせている
「棘下筋」を緩めなくてはいけないんです。
そして、エクササイズとしては棘下筋を「引き伸ばす」コントロールを取りもどす方法が必要になるんです。
なのに、みっちりと棘下筋を締めあげる運動を繰り返していたわけです…
これでは治る肩も治りません。(T_T)
Aさんがやっていたのは肩の外旋方向のチューブトレーニングです。
これは、肩峰下インピンジメントシンドロームのリハビリではとっても×2有名なエクササイズなのですが、
それが効くのは投球動作ならコッキングの時の痛みなんです。
コッキングって言うのは、大きく振りかぶって「いざ投げよう!」とした瞬間だとお考えください。
その時に生じる痛みの犯人は「肩甲下筋」といって、腕を(上腕骨)内に捩じる(内旋)働きを持つ筋肉なんです。
これが故障したときに逆の作用、つまり外捻じり(外旋)の動きを軽い負荷をかけつつ行うのは「マル」なんです。
そうすることで、肩甲下筋は過度な緊張を解き、周囲のインナーマッスルとの協調性を取りもどしてくれるわけです。
でも、Aさんの場合は原因となっている筋肉は「棘下筋」。
先ほどの「肩甲下筋」とは持っている作用が逆なんです。
イコール、Aさんにとって先のチューブエクササイズは悪化の原因に他ならない運動になってしまうんです。
「とってもメジャーで、優れた方法なんですが、Aさんの場合は逆効果になってしまいます。
まず、そのエクササイズをやめましょう…」
と私。
まさか、どの本を読んでも出てくるようなメジャーな方法が足を引っ張るなんて、思いもよらないことだったでしょう。
良かれと思ってやっててことが裏目にでていたわけです。
勉強熱心で勤勉なAさんにまさかの落とし穴…
でも、解って良かった。
でも、同じケースってホント多いんです。
こうした落とし穴に陥らないためには
「肩の痛みにはこれ!」
といったタイトルを盲信せずに、「メカニズム」を理解して、自分の症状に合ったものかどうかをしっかり判断することが重要です。
「え!?そんな難しいことわかんないよ!」
って声が聞こえてきそうですが、ご心配なく。
そのために、私たちのような専門家がいるんです。
迷ったら気軽にご相談下さい。