さて、だいぶお待たせしてしまいましたが「中学生にこそウエイトトレーニングをさせましょう!」というお話の続き。
前回の記事では、下肢へ生じるスポーツ障害の原因に
「関節の適合性を逸脱する方向へのガタついた動き(シェアリング)が繰り返されること」
を挙げました。
これに対するリハビリ・障害予防を含めた対処法としてバーバルを担いだ「スクワット」がいいですよ!というところまで書きました。
今回はその続き、「スクワット」のお話です。
スクワットという動作は体幹を真直ぐに保って、上体を起こしてしゃがんで立つというシンプルな運動です。
この「スクワット」という動作を、リハビリや障害予防(もちろん機能強化も)として機能させるにはどうしたらいいか?
ズバリ!正しくスクワットすればいい!!
真実はいつもシンプルなんですね。
しかし、やったことが無いと「正しく」というのが解らないと思います。
ようは、ちょっとした「ルールに沿って行えばいい」んだと気楽に考えてください。
そのルールとは一連の動作を通じてフォーム(姿勢)を崩さないこと!
って書くと、今度は何が正しいフォームなのかがわからないといった方も多いはず。
そこでスクワットについて基本的なところと知っていてほしい点を挙げてみたいと思います。
1、立位
写真はうちの息子(中1)です。
手本としては不十分なのですが、手ごろな写真もないので悪しからず。
【体幹】
胸をしっかりと張って、
腰部は自然な前弯(生理的弯曲。反りすぎもNG。細かい話をすれば、骨盤底と胸郭下口、そして胸郭上口が水平かつ直列に並べられていること。)を保ちます。
【下肢】
足幅は肩幅かそれよりもやや広め。
つま先はやや外向き。15度が目安だけれども、足幅が広くなるとつま先の向きも外へと広くなります。
2、しゃがみ動作
【体幹】
目線は正面もしくはやや上方。
先ほど挙げた体幹の姿勢を変えずにしゃがみます。
身体を下ろしてゆく際に体幹は若干前へ傾斜しますが、その分胸郭は伸展(後方への反り)を強めます。
以後この角度は立ち上がるまで変えません。
ではこの時、体幹の傾斜はどれぐらいが正しいのでしょうか?
実はこの傾斜を決めるのがバーベルなんです。
注意するのはバーベルから伸ばした垂線が両足首の外踝の前、つまり両足で作られた基底面の中心に真直ぐキープされていること。
その条件の中で体幹はできる限り起こします。
前傾が強くなるとお辞儀方向にトルクがかかってしまうので立つのに不利を生じてしまうため、
効率的な運動とするには極力体を起こす必要が出てくるのです。
体幹をぐるりと取り囲む筋肉たちを余すことなく動員するためにも
胸郭下口から骨盤上下口(横隔膜と骨盤底が正対する位置)を保ちつつしゃがんでゆきましょう。
【下肢】
しゃがむ際にはつま先と膝頭の向きを終始合わせてください。
特に、座る最中に膝が内に入ったり外に外れたりしないようにしっかりと意識して、
バーベルから伸ばした垂線を基底面の中心(外踝の前縁)に保ちつつ下肢を折りたたみます。
この時、バーベルからの垂線をキープできていると、膝がつま先を超えることはありません。※
※諸説ありますが、2016年今現在の私の理解では「膝はつま先を超えない」という理解でいます。
※2018年現在の理解では「膝がつま先を超えてもいい」という理解になりました。
膝の位置への配慮よりもシャフトの中心を支持基底面の中心に通すことに注力することの方がより重要であると考えています。
【要約】
「しっかりと胸を張り、身体はできる限り起こして」
「膝をつま先より前には出さないように意識して」
「バーベルから伸ばした垂線が外踝の前縁に降りるように」
しゃがみましょう。
3、立ち上がり動作
【体幹】
目線は真直ぐ前かやや上方。
先ほど挙げた体幹の姿勢、角度を変えずに立ち上がります。
【下肢】
立ちあがる際にもつま先と膝頭の向きを終始合わせます。
膝が内に入ったり外に外れたりしないように、しっかりと意識して立ち上がりましょう。
この時も、バーベルからの垂線を支持基底面の中心にキープします。
立ち上がり切った時には膝は伸ばし切らず、わずかに曲げた状態でフィニッシュです。※
※パワーリフティングなどの競技では、ルールとして膝を完全に伸ばしてフィニッシュとします。
ここでは故障のリスクを考えて、フィニッシュで完全伸展しないことを推奨しています。
【要約】
体幹の角度と姿勢を変えないように(特に前に倒れてしまわないように)、
膝はつま先と同じ向きに揃えて、
バーベルがいつも基底面の中心、つまり土踏まずの一番高いところの真上に保ったまま、
立ち上がりましょう。
以上「はじめてのバックスクワットの解説」おわり
さて本題。
痛みやフォームの崩れがある場合には「痛まない範囲」「崩れない範囲」での反復を条件としてください。
ケガをしている子はもとより回復期や故障の予備軍の子達のスクワットを見ると、膝が内外に揺れたり腰が丸まったりといったフォームの崩れ※が必ずついてきます。
※何をもって「崩れ」と判断するのか?と申しますと、
関節には向き合った関節面、そしてそれらを支える靭帯や関節包などの支持装置がしっかりと働ける位置関係というものがあるんです。
それを大きく外れた運動をすると、関節構造は傷ついたり場合によっては壊れてしまうんです。
例えば膝は前後に曲げ伸ばしはできるけど、左右に曲げ伸ばしはできない構造を持っています。
本来できない動きを強いれば、関節は壊れてしまうわけです。
フォームが崩れるフェーズがあるということは、その角度でのコントロールが失われているということ※です。
※これを下肢の機能評価に応用したのが「スクワットテスト」というものです。
そのコントロールを失った角度での運動が競技動作の中で繰り返された場合、
ストレスにさらされた組織に反復性緊張損傷(RSI)を生じます。
その結果として現れたのが、種々のスポーツ障害なんですね。
そうした根本原因をただすことが本当の意味での回復を約束してくれるんです。
まとめるとこんな感じ。
崩れる→壊れる
崩さない→壊れない・回復する・発達する
なので、フォーム厳守!
フォームが崩れそうな角度では「ゆっくり」「意識して」フォームを保つ(ストリクトに)随意的努力をします。
それでも崩れが止められそうもなかったら、明確に崩れる手前の範囲内でスクワットしましょう。
初めから下までしゃがめなくて構いません。
むしろ、フォームが崩れない範囲(この場合、膝と腰)を探るように浅めから始めてください。
そうして「崩れないように…」意識しながら崩れてしまう範囲をちょっとづつ削るように反復してゆくことで、
コントロールできていなかった角度を徐々にコントロール下に置いてゆくことができるようになってゆきます。
リハビリとして、また故障の予防として、そして、効率的な機能強化を得る方法として大事なのは、
功を急いでコントロールを失った範囲まで切り込まないこと!
これは中学生の生徒諸君とその指導に当たる方々には特に注意していただきたい点です。
※動きの崩れが故障の背景となること自体は子供に限らず大人であっても同じなので、大人の皆さんもご注意ください。
なぜならば、成長期にある彼らには「フォームの崩れやすさ」に成長期特有の理由があるからなんです。
これについてはまた後日。
では!