四頭筋の筋挫傷からのリカバリー<第2話>

2019年02月17日 | 治療の話

だいぶ間が空いてしまいましたが、今日は昨年9/5に膝の上にバーベルを落して負った両膝の筋挫傷の回復記の続きを書かせていただきます。

と、大分前の記事なので事の顛末のおさらい。

当時、私は秋の関東マスターズ二連覇へ向けチョコチョコと練習を重ねる日々を送っていました。

怪我をした日は疲れが抜けないまま、義務感のみでGYMへ向かいました。

前回のトレーニングのダメージが残りコンディションが悪かったため、パワークリーンをチョイスしました。

そして、アップの終盤に差し掛かった時のこと。

バーベルを跳ね上げた瞬間、汗で手が滑ってバーベルを落としてしまったんです。

そのGYMはバーベルを床に落とすことの許されない場所だったので、とっさに膝でバーベルを受け止めるという暴挙に出てしまい膝に筋挫傷を負ってしまったのでした。

断裂部位は外側広筋の筋肉と腱の境目。

傷の幅は4~5cm、深さは1cmほど。

テーピングと弾性包帯で患部を圧迫しつつ、消炎剤も飲みつつ、最初の3日を過ごすと膝の痛みもいくぶん楽に…

身体のリアクションから、患部の出血と炎症が落ち着き始めて人心地ついたということが分かります。

そこで、4日目から「あるエクササイズ」を始めました…

というところまでが前回のお話でした。

 

そのエクササイズとはペルビックティルトという脊柱・骨盤・股関節の筋バランスを正常化するエクササイズです。

四頭筋の過緊張を抑える効果が高いので今回のような怪我の回復には役立つと考えたのです。

実際このエクササイズはウエイトリフターからのジャンパー膝の相談に大きな成果をもたらしています。

下の動画は「ペルビックティルト」の紹介動画です。

通常の手法に独自の工夫を施しています。

骨盤・脚の歪みを解消!腰痛・膝の痛みの予防&回復 No.1【ペルビックティルト】// 徒手医療協会

 

6日に入ると階段の下りでの痛みのレベルも軽くなってきました。

そこでヒップスラストというエクササイズも追加しました。

ヒップスラストについて、下の動画をご覧ください。

こちらも通常の手法に独自の工夫を施しています。

ざっくり説明すると、脚をガニ股にすることで仙腸関節から腰椎部の安定性を引き出す効果が高まります。

骨盤・脚の歪みを解消!腰痛・膝痛の予防&回復 No.2 【ヒップスラスト】// 徒手医療協会

このヒップスラストをペルビックティルトと併せて行うと、体軸機能が安定するため四肢の筋はリラックスすることができるようになります。

四肢の筋は速筋繊維が多く含まれるので、高いパフォーマンスを引き出すためにもリラックスした状態であることが重要となります。

つまり、上の二つのエクササイズは故障の回復にも練習や競技の際のパフォーマンスを高めるためにも役立つエクササイズなんです。

 

そうして8日目、リフティングの練習を再開します。

しかし、結構シビアな怪我をしてしまいましたので、トレーニングとしての取り組みではなく、ダメージなくできる動作を探りに行くのが目的です。

仮に患部が耐えられないような負荷がかかれば「痛み」という警報が鳴り響きます。

その手前には「怖い感じ」や「不安な感じ」が患部に現れます。

故障時や回復期のリハビリとしてのトレーニングでは患部に現れる「怖い感じ」「不安な感じ」といった違和感を負荷の上限とします。

そして、通常であれば上限が見えたらセットを組みますが、現れた上限の数値が故障前の~90%の出力に高まるまではセットは組まない方が無難です。

これはアスリートリハビリを通じて得た経験上の話となります。

もちろん怪我の大きさによって回復後のパフォーマンスにはばらつきがありますので、90%までというのはあくまで目安です。

 

さて、受傷後8日目の練習メニュー。

・ハイスナッチ:3レップで70%の重量まで。1レップで82%までできましたがここで膝に違和感が出現。

・ハイクリーン&ジャーク:クリーン3-ジャーク1。こちらも70%で違和感出現。

※スナッチもクリーンもハイでやったのはしゃがみ込む動作が小さく膝への負担が小さいからです。

動作の理解に動画を載せました↓

high snatch 40kg

high clean & jerk 40kg

 

この時点でのテーマは痛みを感じることなくできる上限を体感させること。

その利点はなんでしょう?

練習を完全にゼロにしてしまうとディトレーニング(練習をしないこと)による委縮が進んでしまいます。

すると怪我が治ってからリハビリ開始の時期を迎えたときにパフォーマンスが必要以上に低くなってしまいます。

今残っている能力を温存するために「できる範囲の能力」を確認するようなトレーニングを行うんです。

もちろん痛めた個所以外のトレーニングは積極的に行います。

これは怪我をした時の利点ですね。

普段できなかった領域の強化が復帰後の成長にプラスに働くことも大いにあるわけです。

それを戦略的に行うのがアスリートリハビリの腕の見せ所です。

また、適切な運動刺激は回復に関わるホルモンの分泌を促します。

回復を促すためにも安全にできる範囲の運動は続けた方がいいのです。

ここで注意するのは患部の出血が止まっているかどうかです。

今回のように皮膚の下の筋組織がざっくり切れている場合、血圧上昇や運動による物理的負荷で再出血するリスクがありますので、

少なくとも患部の出血が落ちつくまでは安静が必要になるということを忘れてはいけません。

その目安は怪我から1週間です。

私の場合、この時期を積極的に待つために上述のエクササイズ「ペルビックティルト」を選択したわけです。

でも、血圧をガンガン上げるようなことはしていなかったでしょう?

患部の出血が多いと回復は遅れますからね、怪我の後は時期を待つことも大事な要素なのです。

待つこともトレーニングととらえてぐっと我慢。

えっと…何の話でしたっけ?

話がそれてしまいましたね…

話を戻して8日目の練習。

この日の練習を終え、その夜も事なきを得ましたが、翌日は膝がガチガチになりました。

でも、それ自体は驚くことでもありません。

怪我をして萎えた組織に耐久限度内であるとはいえ刺激が入りましたから「強い筋肉痛」が起こったと考えましょう。

傷の周囲の元気な組織には大した刺激でなくとも、

傷ついた弱い部分には限界近くの強い刺激であったと考えれば翌日の筋肉痛が大きく強く出るのも不思議ではないでしょう?

これがダメージであった場合は練習中も痛みをこらえていたはずですし、練習が進む中で痛みが明確になっていったはずです。

それがなければ一先ず安心してOK。

患部の痛みが落ち着くまでまたじっくりペルビックティルトとヒップスラストをしながら次の練習へむけて期を伺えばいいのです。

私の練習日誌を見るとその翌日(受傷後9日目)にはベンチプレスをしていました。

ウエイトリフターはあまりやらない種目です。

でも、リフティングを安定させるために必要な前鋸筋を含め脇下の筋群を鍛えるのにブリッジを組んだベンチプレスは大きな意味を持ちます。

社会人になると練習日も十分に避けません。

すると『やったほうがいい』と分かっていてもできないまま通り過ぎるトレーニング種目もあるわけです。

怪我の時にはそうしてスルーしてきた種目に取り組むチャンスです。

他にもディップス、チンニング(懸垂)の類に取り組みました。

これらもバーベルを引き上げる際の肩甲骨と体幹との連動制を高める効果が期待できます。

つまり、セカンドの動作が安定するということです。

さらに、ディップスに関しては腱板損傷や二頭筋長頭腱炎後のリハビリにも役立ちますし、

二つのエクササイズを積むことで肩甲胸郭間・肩甲上腕骨間の安定性が高まることから肩や肘、手首への負担も減らせます。

ディップスとチンニングは一粒で二度三度おいしい優れた補強なんですね。

練習日記を見返してみても、早く治従っている当時の自分がうかびます。

さて、続きままた今度。

今日はここまでにいたします。

<続く>


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