厚底ランニングシューズのヴェイパーフライ、流行ってますね。
踵の接地では厚い靴底が地面からの衝撃を緩和し、
靴底前方に向けた傾斜(ドロップ)はスムーズに爪先へと重心の移動を促し、
爪先が地面を捉えて蹴る瞬間にはカーボンプレートがしっかり反発してくれる。
靴底の形状をぱっと見ただけでも履けば自然とストライドも広がり、
ターンオーバー(脚の回転)もスムーズになるであろうことが容易に想像できます。
そこに行きついたナイキの情熱には感動すら覚えますね。
履くだけでこれだけ走るという動作を助けてくれるわけですから、高い人気も納得です。
うちの治療院にいらっしゃる市民ランナーの皆さんにも人気の高いヴェイパーフライではありますが、
反面、この靴に乗り換えてから脹脛やアキレス腱、ひざの故障を訴えるようになった方もいらっしゃいます。
「ヴェイパーフライはプロ向けの靴なのかなぁ?」
と聞かれたりもするのですが、私はヴェイパーフライが悪かったわけではないと考えています。
ヴェイパーフライに乗り換えて故障を負ったという患者さん方に見受けられる共通の機能的特徴から類推するに、
おそらくはこの靴を乗りこなすためにはクリアするべき条件があるとの考えに至っています。
さて、
ヴェイパーフライを乗りこなすための条件とは何でしょうか?
それは「股関節の可動性」と「骨盤前面の支持性」です。
ランニングフォームにも良性の変化をもたらすという素晴らしい効果を持つ(と思われる)ヴェイパーフライですが、
裏を返すとこの靴を履くと自然とストライドが広がってしまうわけです。
多くの一般成人がそうであるように、股関節の伸展方向への可動性(脚を後方へ送るときに必要な可動性)と
下肢の振り子運動の起点となる骨盤の安定に必要な下腹部の支えが足りないようなケースでは、
それらのキャパを超えてストライドを広げようとするとフォームに狂いを生じてしまいます。
股関節が後方へ伸びない分を腰椎で代償して反り腰で走ってしまうことで腰を痛めやすくなりますし、
そうした条件下での走動作では、走行時のクリアランスの低下から脛から下を回してしまったり(設楽選手もそうですね)
着地が強まり過ぎて脹脛からアキレス腱や膝を痛めやすくなってしまったりと多くの問題が引き起こされてしまいます。
逆をいえば股関節と体幹の問題がクリアできればこの靴の力を存分に引き出すことができるでしょう。
カギを握るのは以下の2点の強化です。
1、股関節の柔軟性強化
まずは股関節前面のストレッチで後方(伸展方向)への可動性を広げましょう。
1日30秒~90秒の軽いストレッチ(引き伸場される感覚はあるものの痛くはない範囲)を3週間続けてみてください。
関節の可動性を引きあげるには関節を支える組織の長さを育まなくてはなりません。
組織の長さの成長を促すには狙った組織に持続的なストレッチを習慣的に経験させる必要があります。
3週間の持続的ストレッチで筋の長さが細胞レベルで長くなったという実験結果がありますので、
まずは3週間を目安に以下の動画のストレッチを行うことから始めてみることをおススメします。
4分20秒あたりからストレッチの紹介となります。
【スクワットの股関節の詰まり~リフターズケア:股関節インピンジメントのセルフケア~】
2、体幹(骨盤前面)の支持性強化
体幹の強化というといわゆる腹筋運動を思い浮かべると思います。
でも、単純に腹筋をやっても徒労に終わりますのでご注意ください。
この場合、おなかの筋肉が働くシチュエーションが重要となります。
走動作に機能させるための体幹強化では、股関節の前後運動の際にも骨盤が固定されるような運動課題であることが重要です。
ここではとくに、股関節が後方へ引き伸ばされても骨盤を引き留めていられる体幹の強さを作ることが目的となりますので、
以下の動画の手法がおススメです。
【腰・膝・股関節の故障予防と回復のための運動処方 No.3 レッグスラスト】
プラスアルファ
股関節の内外側面から後面にかけての筋肉と体幹の連動性がきちんと保たれていることも
効率的なランニングフォームを保ち不用意な怪我から身を守るためには重要な要素となります。
そのためには以下の手法がおススメです。
【腰・膝・股関節の故障予防と回復のための運動処方 No.4 FT】
ヴェイパーフライにはランニングフォームの矯正効果があると思います。
でも、それに沿うことができない程の強い体癖があった場合は先の方々のように故障の憂き目にあうこともあるでしょう。
でも、健康のためには骨盤の動的支持性も股関節の伸展性も高くて困ることはありません。
先の2点はランナーでなくとも、ごく一般的に皆さん持っているもので、かつ健康のためには乗り越える価値のある障壁です。
ヴェイパーフライはその構造にたいして一時は使用禁止すら叫ばれたギアですが、
今後は各社開発競争が起こって今よりすごい靴が出てくるでしょう。
これからもあらゆる領域で技術の革新は起こると思います。
あまりに大きな変化があると驚きのあまり排斥されてしまうようなケースもあるでしょうが、
本質を見極めて、その上で要不要の判断がなされることを期待します。
僕の特許を取ったツールもそのうち日の目を見るといいなぁ(´-ω-`)