連休中、阿佐ヶ谷ザムザというはじめての小屋で、キコというはじめての劇団を観た。
「不倫したくなる恋愛活劇」という惹句に動かされて行った面もあるが、期待とはまったく異なる社会派SFだった。
舞台は近未来の日本とおぼしき世界。強者と弱者、富裕層と貧困層とが完全に分離した世の中で、戦争が日常になっている人々の様子を描く。
一部分を切り取ってみれば、今の日本のある町の一角であり、どこにでもいる男女のやりとりに見える。
しかし、文脈に位置づけたときに、何気ない言葉のやりとりの裏側にあるどす黒いものが見えてくるような、実にカッコイイお芝居だった。個人的には少しかっこよすぎたけど。もう少し大衆に迎合して、大きなハコにお客さんを迎える方向性にいったらどうかなと感じたけど、そういう方には向かわなそうなとんがり具合が魅力とも言える。若さがうらやましい。
~ 新田野花です。神奈川自治区在住の高校三年生です。大人の皆さん、戦争、お疲れ様でした。皆さんのおかげで、今日のこの日があります。ありがとうございました! ~
戦争が終結したあと、高校生の代表が演説に立つ最後のシーン。
東日本大震災や広島平和記念日の式典で、壇上にあがってしみじみとメッセージを述べる女子校生の姿が彷彿とする。しかし、しみじみとは終わらない。
~ より良い適応。より良い幸福。より高い生産性。もっと快適に。酒はほどほどに。よく眠り、悪夢は見ない。すべての生き物には優しく、こだわりをもち、愛想よく、だが恋愛に溺れず。日曜には自転車でスーパーへ。暗闇も白昼の影も、もう恐れたりしない。十代ほど愚かで絶望的で子供じみた時代はない。急がず、計算高く、逃避など考えもせず、力を獲得し、情報に通じた社会の一員となって、人前では涙を見せず、より健康に、記憶力に優れ、虚無も怒りも卒業し、凍えるだけの冬に向かって、突き進む。より良い適応。より良い幸福。より高い生産性。…ブタ。…ブタ!!!てめぇら共食い好きの飢えたブタだ!!!!!そうやって殺しあってろ ~
台詞はじめの落ち着いたトーンから、しだいに感情が高まっていく様子を演じる春風風花さんのお芝居には、鬼気迫るものがあった。まさにことばの申し子としか言いようがない。