⑥ ここで、別の意味で興味があることは、〈 失われているものが両腕以外の何ものかであってはならない 〉ということである。両腕でなく他の肉体の部分が失われていたとしたら、僕がここで述べている感動は、恐らく生じなかったにちがいない。例えば眼がつぶれていたり、鼻が欠けていたり、あるいは乳房がもぎとられていたりして、しかも両腕が損なわれずにきちんとついていたとしたら、そこには、生命の変幻自在な輝きなど、たぶんありえなかったのである。
⑦ なぜ、失われたものが両腕でなければならないのか? 僕はここで、彫刻におけるトルソの美学などに近づこうとしているのではない。腕というもの、もっと切り詰めて言えば、〈 手というものの人間存在における象徴的な意味 〉について、注目しておきたいのである。それが最も深く、最も根源的に暗示しているものは何だろうか? ここには実体と象徴のある程度の合致がもちろんあるわけであるが、それは、〈 世界との、他人との、あるいは自己との、千変万化する交渉の手段 〉なのである。言い換えるなら、そうした関係を媒介するもの、あるいはその原則的な方式そのものなのである。だから、機械とは手の延長であるという、ある哲学者が用いた比喩は、まことに美しく聞こえるし、また〈 恋人の手を初めて握る幸福 〉をこよなく讚えた、ある文学者の述懐は、不思議に厳粛な響きを持っているのである。どちらの場合も、極めて自然で、人間的である。そして、例えばこれらの言葉に対して、美術品であるという運命を担ったミロのビーナスの失われた両腕は、〈 不思議なアイロニー 〉を呈示するのだ。ほかならぬその欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でるのである。
Q20「失われているものが両腕以外の何ものかであってはならない」とあるが、両腕が失われていなかったら、何がなかったというのか。10字で抜き出せ。
A20 生命の変幻自在な輝き
Q21「手というものの人間存在における象徴的な意味」とは何か。30字で抜き出せ。
A21 世界との、他人との、あるいは自己との、千変万化する交渉の手段
Q22「恋人の手を初めて握る幸福」とあるが、なぜ幸福なのか。60字以内で説明せよ。
A22手を握ることは、単に手と手が物理的に接することでなく、愛しいと思う相手の存在そのものとの交渉を感じさせる行為だから。
「不思議なアイロニー」について
Q23 「アイロニー」の意味を漢字2字で記せ。
A23 皮肉
Q24 どういうことを「不思議なアイロニー」と言っているのか。極力本文の語句を用いて55字以内で述べよ。
A24 ミロのビーナスの失われた両腕は、ほかならぬその欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でるということ。
Q25 なぜ「皮肉」といえるのか。60字以内で記せ。
A25 人間の交渉の手段を象徴する手を失っていながら、かえって他者や世界との交渉について無限の可能性を感じさせるから。
両腕が失われる → 生命の変幻自在な輝き
↑
↓
両腕以外が失われる → 感動は生じない
手というものの 人間存在における象徴的な意味
∥
それが 最も深く、最も根源的に暗示しているもの
∥
世界との、他人との、自己との、千変万化する交渉の手段
触れる・握る・叩く・つながる … いろんな形で人は交渉する
交渉することで世界につながる
人は何かと関係をもつことでのみ存在する
∥
そうした関係を媒介するもの
その(媒介の)原則的な方式そのもの
媒介 … なかだち 千変万化 … 様々に変化すること
↓ だから
具① 機械とは手の延長であるという、ある哲学者が用いた比喩 … 美しい
(機械 … 自己と世界を媒介)
具② 恋人の手を初めて握る幸福をこよなく讚えた、ある文学者の述懐 … 厳粛
(手をにぎる=自己と他人が結びつく)
↓
極めて自然で、人間的である(生臭い)
美術品であるという運命を担ったミロのビーナスの失われた両腕
↓
その欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でる
∥
その欠落 … 交渉の手段の欠落
↓
可能なあらゆる手への夢を奏でる
∥
世界との交渉・他人との交渉 … 無限の可能性 … 不思議なアイロニー
アイロニー(イロニー)
表面的な立ち居振る舞いによって本質を隠すこと。
ギリシア語のエイローネイア「虚偽、仮面」が語源。
本質を隠し持つ表面の言葉=アイロニー(皮肉・反語・逆説・矛盾)
表面・言葉 → 本質・本心
「平和だね」 →「危機感もてよ」
「すごいね」 →「むかつく」
アイロニー(皮肉)
一般 … 遠回し(表面)で何かを非難(実質)すること
評論 … 意図(表面)と結果(実質)にズレがあること
パラドクス(逆説)
もと … 常識からはずれた説
評論 … 矛盾を含んだ真理・矛盾
⑦ なぜ、失われたものが両腕でなければならないのか? 僕はここで、彫刻におけるトルソの美学などに近づこうとしているのではない。腕というもの、もっと切り詰めて言えば、〈 手というものの人間存在における象徴的な意味 〉について、注目しておきたいのである。それが最も深く、最も根源的に暗示しているものは何だろうか? ここには実体と象徴のある程度の合致がもちろんあるわけであるが、それは、〈 世界との、他人との、あるいは自己との、千変万化する交渉の手段 〉なのである。言い換えるなら、そうした関係を媒介するもの、あるいはその原則的な方式そのものなのである。だから、機械とは手の延長であるという、ある哲学者が用いた比喩は、まことに美しく聞こえるし、また〈 恋人の手を初めて握る幸福 〉をこよなく讚えた、ある文学者の述懐は、不思議に厳粛な響きを持っているのである。どちらの場合も、極めて自然で、人間的である。そして、例えばこれらの言葉に対して、美術品であるという運命を担ったミロのビーナスの失われた両腕は、〈 不思議なアイロニー 〉を呈示するのだ。ほかならぬその欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でるのである。
Q20「失われているものが両腕以外の何ものかであってはならない」とあるが、両腕が失われていなかったら、何がなかったというのか。10字で抜き出せ。
A20 生命の変幻自在な輝き
Q21「手というものの人間存在における象徴的な意味」とは何か。30字で抜き出せ。
A21 世界との、他人との、あるいは自己との、千変万化する交渉の手段
Q22「恋人の手を初めて握る幸福」とあるが、なぜ幸福なのか。60字以内で説明せよ。
A22手を握ることは、単に手と手が物理的に接することでなく、愛しいと思う相手の存在そのものとの交渉を感じさせる行為だから。
「不思議なアイロニー」について
Q23 「アイロニー」の意味を漢字2字で記せ。
A23 皮肉
Q24 どういうことを「不思議なアイロニー」と言っているのか。極力本文の語句を用いて55字以内で述べよ。
A24 ミロのビーナスの失われた両腕は、ほかならぬその欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でるということ。
Q25 なぜ「皮肉」といえるのか。60字以内で記せ。
A25 人間の交渉の手段を象徴する手を失っていながら、かえって他者や世界との交渉について無限の可能性を感じさせるから。
両腕が失われる → 生命の変幻自在な輝き
↑
↓
両腕以外が失われる → 感動は生じない
手というものの 人間存在における象徴的な意味
∥
それが 最も深く、最も根源的に暗示しているもの
∥
世界との、他人との、自己との、千変万化する交渉の手段
触れる・握る・叩く・つながる … いろんな形で人は交渉する
交渉することで世界につながる
人は何かと関係をもつことでのみ存在する
∥
そうした関係を媒介するもの
その(媒介の)原則的な方式そのもの
媒介 … なかだち 千変万化 … 様々に変化すること
↓ だから
具① 機械とは手の延長であるという、ある哲学者が用いた比喩 … 美しい
(機械 … 自己と世界を媒介)
具② 恋人の手を初めて握る幸福をこよなく讚えた、ある文学者の述懐 … 厳粛
(手をにぎる=自己と他人が結びつく)
↓
極めて自然で、人間的である(生臭い)
美術品であるという運命を担ったミロのビーナスの失われた両腕
↓
その欠落によって、逆に、可能なあらゆる手への夢を奏でる
∥
その欠落 … 交渉の手段の欠落
↓
可能なあらゆる手への夢を奏でる
∥
世界との交渉・他人との交渉 … 無限の可能性 … 不思議なアイロニー
アイロニー(イロニー)
表面的な立ち居振る舞いによって本質を隠すこと。
ギリシア語のエイローネイア「虚偽、仮面」が語源。
本質を隠し持つ表面の言葉=アイロニー(皮肉・反語・逆説・矛盾)
表面・言葉 → 本質・本心
「平和だね」 →「危機感もてよ」
「すごいね」 →「むかつく」
アイロニー(皮肉)
一般 … 遠回し(表面)で何かを非難(実質)すること
評論 … 意図(表面)と結果(実質)にズレがあること
パラドクス(逆説)
もと … 常識からはずれた説
評論 … 矛盾を含んだ真理・矛盾