水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

茜色に焼かれる

2021年05月25日 | 学年だよりなど
1学年だより「茜色に焼かれる」


 中間試験おつかれさまでした!
 思えば、昨年の今頃は、緊急事態宣言下で学校での授業も部活動も行えていなかった。かろうじてリモートでの授業をしていたものの、今の2年生は5月終わりまでクラスのメンバーと話しもできなかったのだ。それを思うと、こうして中間考査を行えたこと自体が、ありがたいと思いませんか? 試験そのものが終わったとはいえ、今回の範囲を自分のものにしていく作業はむしろこれからだ。ここからスタートのつもりで、しっかり復習していこう。

 試験期間中に、映画「茜色に焼かれる」を観た。みなさんの先輩にあたる石井裕也監督の新作だ。
 主演は尾野真千子さん。言わずと知れた名女優だが、今を撮りたい、今撮るべき作品を撮りたいという石井監督の強い意志を、真正面から受け止めて演じた作品だと感じた。


~ ……世界がコロナ禍に直面した二〇二〇年、映画で発する言葉を見つけることができず、「しばらく映画はいいや」と思うほど、監督の心は深淵に沈んだ。最新作『茜色に焼かれる』は、その闇底から、改めて映画を撮りたいという強い衝動に駆られ生まれた作品だ。
「コロナの前から生き辛さというのはあったと思います。僕の生活でも家族が病気を患ったり祖母を施設に預けたり――当たり前ですが、誰もがしんどさを抱えながら、それでも必死になって生きている。でも、そういう個人の痛みや感情がコロナ禍になって置き去りにされたような気がします。蔑(ないがし)ろにされている。その現実をリアルに描こうと思いました」
「時々、もういいや、もう無理でしょ、と無力感に襲われることがある。それは僕だけではないと思います。そういう人に届けるべき映画って何だろうと考えたんです。きっとそれは綺麗ごとではすまないし、痛みを伴う話でなければならないと思いました」
     (「週刊文春」5月27日号「見もの聞きものClose Up」) ~


 尾野真千子さん演じる田中良子は、7年前に交通事故で夫を失い、中学生の息子と小さな間取りの市営住宅で暮らしている。生活は苦しい。母子の暮らしだけでかつかつなのに、施設に入った義父の、その月々の費用も負担している。
 昼間働く生花店で、突然雇い止めにあったり、夜の店で客に悪態をつかれる日々。
 「痛みを伴う」話が描かれていた。理不尽な日常に押しつぶされそうになりながら、「ま、がんばりましょう」と良子は笑顔を見せる。
 すべてを諦めているわけではない。自分が「蔑ろにされている」ことに出来る限り抵抗する。
 できる範囲内での精一杯の抵抗、そして精一杯生きること。大切なものを守ること。
 何者でもない一人の人間が、矜持を持って生きる姿がそこにあった。
コメント
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