水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

知らぬが仏

2022年08月01日 | 学年だよりなど
2学年だより「知らぬが仏」




 人はなぜ挑戦できないか。
 よけいなことを考えるからだ。知識はかえって人の行動を鈍らせる。
 もう一つは、李徴だ。よけいなプライド。自分を守りたい、恥をかきたくないという思いが、進んでいいところを立ち止まらせる。
 「ブレイクスルーは、常識にとらわれないところから生まれるのでしょうか」という藤井聡太棋士の質問に、山中伸弥教授はこう答える。




~ 山中 「知らぬが仏」という言葉があるでしょう。それと一緒で、知っていたら怖くてできないようなことも、知らないからできてしまうことがあるんですね。
  iPS細胞樹立の立役者は高橋和利君(現在CiRA准教授)で、僕が初めて研究室を主宰した時の最初の学生の一人です。彼は、生物学とはまったく関係のない工学部出身なんですよ。大学院生として僕の研究室に来た時は、本当にびっくりするぐらい何も知らなかった。でもすごく好奇心が強かった。同級生に生物をずっとやってきた本当に優秀な子もいっぱいいたんだけど、たとえば皮膚の細胞から臓器や神経の細胞を作るのは難しいと知っているので、怖くて手が動かなくなってしまう。普通はそうだと思うんですね。 ~




 iPS細胞(induced pluripotent stem cell人工多能性幹細胞)を作るためには、細胞を初期化するための遺伝子を特定する必要がある。
 何万個もの遺伝子のなかから、24個に絞り込む段階までは進んでいた。
 そのうち、どれとどれが必要なものなのか。
 24個の、すべての組み合わせについて実験を繰り返していたら、どれだけ時間がかかるかわからない。
 すると「高橋君」が、「先生、24個の中から遺伝子を1個ずつ減らしてみたらどうですか」と言った。




~ 山中 コロンブスの卵でしょ。1個だけ抜いた遺伝子が初期化に絶対必要なものなら、残りの23個をまとめて細胞に入れても初期化されないはずですからね。もう感動して「高橋君、君はほんまに賢いなあ」と手放しで褒めました。それで最終的に細胞の初期化に必要な四つの遺伝子を特定することができたんです。 (山中伸弥・藤井聡太『挑戦』講談社)~




 もともと生物学を研究してきた人は、優秀な研究者であっても、いや優秀であるがゆえに、この発想を生み出せなかったのだろう。
 学歴の高い人、優秀だと言われている人ほど、自分のものの考え方に疑いをもたなくなってしまい、かえって、正しい判断ができなくなることが、いろんな分野で見られる。
 大谷選手に二刀流なんてできるはずがないと言っていた、たくさんの有名OB達も同じだろう。

コメント
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