水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

スキップとローファー(2)

2022年08月17日 | 学年だよりなど
2学年だより「スキップとローファー(2)」




 岩倉美津未(みつみ)は勉強ができた。能登半島先端の小さな町で圧倒的だった。
 それを鼻にかけることなく、天真爛漫で天然の彼女は、幼いころから全員が顔見知りのなかでかわいがられ、楽しく暮らしていた。
 自分の将来を思い描くようになった時、町が過疎化していくのをこのままにしていてはいけないと考え始める。そうだ、あたしが変えよう。さいわい自分は勉強ができる。東大を出て、総務省に入り、全国の過疎対策に尽力し、のちに市長としてもどってこよう――。
 そんな人生設計が、だんだん本気になってくる。こうして、東京に住む母の弟を頼り、都会の進学校に通うこととなる。「月刊アフタヌーン」連載中『スキップとローファー』は、そんなみつみの高校生活を描いている。




~ 石川県能登半島の駅すらない田舎町で生まれ育った岩倉美津未は、T大法学部から官僚という出世コースを目指し、高校進学を機に上京する。満員電車に圧倒されて入学式に遅刻してしまったり、気合が入りすぎて自己紹介で滑ったり……。進学校に首席で入学した秀才ながら、ポンコツかつ天然なみつみは空回りしてばかり。都会的な同級生とのズレに戸惑いながらも、持ち前の自己肯定感の高さと素直さで高校生活を乗り越えていく。
 クールな美少女の結月、当初はみつみにけん制をかけるような言動を繰り返したミカ、内気で陽キャに苦手意識を持つ誠。タイプも趣味も違う彼女たちはそのままならきっと友達にはならなかっただろう。しかし、みつみのフラットな眼差しに影響され、理解しえない部分があると分かった上で、次第に互いが大切な存在へと変わっていく。自分のクラスにいたんじゃないだろうか、とさえ感じさせる親近感あるクラスメートたちひとりひとりの心の機微の解像度が高く、この物語には誰一人として脇役などいないのだと感じさせる。
 初めてのカラオケ、初めての学園祭、初めてのパンダ。何気ない高校生の淡々とした日常から漂う若さ故のまっすぐさに浄化され、ページをめくるたび溢れ出る青春感が渇いた大人の心に沁みる。ほんわかした可愛らしい絵や、みつみのとぼけたやり取りにクスクス笑って癒される一方で、心抉(えぐ)る展開に息を呑んでしまう瞬間もある。人間関係のしんどさ、ままならなさからくる心情の揺らぎや拭えないコンプレックズがあまりにリアルで胸が痛い。 (宇垣美里「宇垣総裁のマンガ党宣言77」週刊文春7月28日号)~




 誰と仲良くなればいいのか、どんな高校生活を過ごせばいいのかと悩むのは、自分の人生では自分が主人公だと誰もがわかっているからだ。全国大会で華々しく活躍したり、成績優秀でちやほやされたり、ちょーモテモテだったりという生き様には、ほとんどの人があてはまらない。
 しかし、自分の人生は自分のもので、それは周りにいる一人一人も同じだ。
 だから、一人一人が同じように悩んだり、もがいたりする。一見そうは見えなくても。

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