日本中どこであろうと、地面を掘れば、少なくとも温度的に”温泉”といえる地下水はあるのだから、温泉はどこにあっても珍しくない。
東京の区部にも温泉があり、しかも単純泉でなく、成分的に特徴のある立派な療養泉がある。
ただ、いずれも日帰り施設で、古いものだとむしろ銭湯という造りが多いので、同じ都区内に住んでいても、あえては入りに行く気にならない。
その中で、足立区にある大谷田温泉・明神の湯は別格だ。
なにしろ温泉の”濃さ”が日本有数なのだ。
温泉の濃さは、分析表では、1kg当りの溶存量=蒸発残留物(mg)で示される。
この値が1000mgを越えて初めて成分の効能が認められる”療養泉”と認定され、それ未満だと、成分効果が認められない”単純泉(=単なる自然のお湯)”という名となる。
ただ、多くの温泉は、溶存量が8000mg未満の「低張性」、すなわち浸透圧が低く、皮膚から吸収されにくいレベル。こういう湯には1週間は泊まらないと湯治にならない。
細胞液と同じ浸透圧の「等張性」(<10000mg)になると、皮膚からの浸透を期待していい。
療養泉基準の10倍の浸透圧を越えると「高張性」となり、皮膚からの吸収がよく、短時間で効率的に効能を得られる。ただし、そのような温泉の数はぐっと少なくなる。
さて、大谷田温泉だが、溶存量は、なんと29970mg!
「高張性」基準のさらに3倍も”濃い”のだ。こんな濃い温泉、今まで入ったことがない。
その大谷田温泉。場所は足立区大谷田にあり、アクセスとしては常磐線の「亀有」(葛飾区)から徒歩15分ほど。
同じ千代田線沿線の東京宅から遠くないので、「源泉かけ流し」デーの本日を逃さず、夕方に向った。
亀有駅の北口に下り立てば、”両さん”の金の銅像が迎えてくれる。そこからほぼ環七沿いに歩き、右折して左側にある。
平日の料金は900円だが、私学共済のおかげで私は1/3の300円でOK。
日帰り温泉なので、平日の夕方でもそれなりに混んでいる。
「大ひば湯」の鉄分で濁った浴槽だけが、どうやら源泉のようで、ナトリウム塩化物泉らしく、唇にあてると強い塩味がする(飲泉不可)。逆に露天など他の浴槽は無色透明・無味なので、水道水かも。
なので、「大ひば湯」だけにひたすら浸かる。
湯口でサンプルを取り、上り湯をしないで、源泉を湿らせた手ぬぐいで体を拭く。泉質のせいでべたつく感じ。
そして、脱衣所で私オリジナルのサンプル検査をする。
まず遊離残留塩素は0.7mgとちょっと濃い目(日帰り温泉であるため塩素消毒がきつい。あと、もともと塩素イオンが強いことも関係するか)。pHは7.5と分析表と同じ。Mアルカリ度は180mgと他の温泉と同じ。
酸化還元電位は+512mVと、塩素消毒されている浴槽によくある値。
ここまでの値は温泉として平凡。
そして、電気伝導度。
私の計測経験から、電気伝導度(μS)は温泉の”濃さ”と相関していることがわかっている。
蒸留水だと0に近く、私の定宿・岐阜の中津川温泉で3400程、栃木の喜連川温泉で6600、最近行った埼玉の都幾川温泉も6458あった。
群を抜いた”濃さ”を誇るここ大谷田温泉の値はいかに。
計器のスイッチをonにして、サンプルに浸けた。
一瞬で数値を示す4桁のデジタル部分が、_ _ _ _という表記。
サンプルから外すと、そこが0になる。
すなわち、サンプルの値は9999を越えて計測不能なのだ!
ということは、10000μS以上ということ。さすが溶存量約30000mg。
電気伝導度は、濃さと相関していることが改めて確認された。
まさか計器の計測限界を超えるとは予想していなかった。
ここ大谷田温泉に脱帽。
こんなすごく濃い温泉が、東京の実家から、地下鉄一本、30分程で行ける所にあるとは(しかも1/3の割引で入れる)…
温泉好きにとって”灯台下暗し”以外の何ものでもない。
惜しむらくは、都内の他の温泉と同じく、落ち着かない日帰り施設であること(それゆえ塩素消毒が強い)。
つまり朝から夜まで日に幾度も入るという行為ができない。
ここが宿泊施設を設けたら、日帰り圏であることなど無視して、あえて連泊したい!
でもこんな高張性、すぐに湯あたりするだろう。
高張性だからこそ日帰りでの短時間の入浴で充分なのかもしれない。
それに泉質は平凡なので、いくら濃くても、筋肉痛と皮膚の傷しか効果がないし…
もし私が好きな放射能泉、硫黄泉、炭酸泉だったら、ここで満足してしまって、他の温泉に行く気がしなくなっていたろうな。