「温泉ソムリエ」という民間資格(温泉ソムリエ協会発行)は、1日講座を受けるだけで、試験もなく、誰でも簡単に取れる。
名前ばかりの資格商法がはびこる中、ここもまた名称からして怪しげにも見えるが、
実際取ってみて、温泉好きにはすこぶる有用であり、情報密度の薄い温泉の本で独習するより効率よい勉強ができるので、取って良かったと思っている。
温泉ソムリエたるもの、まずは温泉の分析表を解読することが任務だが、実際の入浴法もそれなりにアドバイスできる。
どの温泉に入るかだけでなく、温泉をどう入るかについてまずは考えてほしい。
そもそも、入湯(湯に浸かること)は何のためか。
”湯”であることを前提としているように、第1は体を暖める為である。
では「体を暖める」とは具体的に何を意味するのか。
言い換えれば、充分暖まり、湯から出ていいのは何をもってしてか。
多くの人は、明確な基準をもたず、ただその時の気分や温熱感覚的に「充分暖まった」と感じた時だろう。
こう表現してもいい。
これ以上入湯しているのも退屈で、かえって苦痛になりそうな時。
べつにそれで悪い意味での問題は発生しないが、
あえてカネと時間を費やして温泉に入りに来たのだから、”暖まる”という行動にも、それなりのプラスの効果を期待したい。
表皮の温度は湯に入ればただちに上昇する。
なので皮膚温レベルで暖まるならば、1~2分も入っていれば充分。
ただそれでは、プラスの効果は期待できない。
その効果とは「深部体温を上昇させる」こと。
深部体温を上昇させると、免疫力が高まるといわれている(病気時に発熱するのはこのメカニズム)。
すなわち、体内に侵入した外敵と戦う状況をあえて作りだすことで、健康度をアップさせるというもの(高温になる理由は、病原菌やガン細胞は高温に弱いから。このあたりの医学的話は安保徹先生の本に詳しい)。
多くの温泉は、成分が皮膚に浸透するため、保温効果が高い。
なので深部体温上昇の持続効果は白湯より期待できる。
しかも温泉なら日に幾度も入る気になる。
これが温泉の健康効果につながっている。
もちろん表皮と深部体温の上昇によって全身の血液循環が活発化することで、疲労回復など免疫力以外の効果もある。
では深部体温が上昇するには、どのくらいの入湯時間が必要か。
これは実測しないとわからない。
深部体温の実測そのものが難しいので、私は赤外線温度センサーで口腔内の温度を参考にしている。
標準的な41℃程の湯ならば、5分入れば0.5~1℃程度上るようだ(精確な測定ができないのでこの表現でご勘弁)。
これは多くの人の心理的な退屈限度を超える長さだろう。
気短かな私も同様だ。
なので、私は入湯中、ゆっくりと深呼吸(鼻で吸って、口からゆっくりと吐く) を15回ほど繰りかえす(回数は湯温によって異なる。長い吐息によって副交感神経の興奮も促している)。
意識は調息に集中しさせているので退屈しないですむ。
こうしていると、そのうち額に汗がじわりとにじみ出てくる(交感神経の作用)。
これが深部体温が上った生理的合図という。
何事も測定しないと気が済まない私の場合、ここで温度センサーを口に含み(口を開けた状態だと外気が入る)、口腔内(喉の奥か舌下)の温度を確認する。
温度が入湯時より0.5℃上昇したら湯から出る。
この間、体内のガン細胞の元がいくつか消滅したはずだ。
深部体温(免疫力)を上げるだけなら、もちろん家の風呂でもできる。
ただし、深部体温が上りすぎると、蛋白質が変性して血栓が起こりやすくなり、また恒温状態を維持できず熱中症になる危険(意識喪失して死亡のおそれ)もある 。
「体にいい」とい言われる事であってもやりすぎは禁物。
深部体温だけでなく、人間にとってのほとんどの”最適値”は、2次曲線上の極大値※であり、決して直線(単調増加)ではないことを心してほしい。
※「極大値って何?」という質問を受けた。確かに曖昧なので、「最大値」と改めたい。
☞「温泉ソムリエ流入浴術②」に続く