温泉ソムリエの私がおくる「温泉ソムリエ流入浴術」第二弾。
入湯時間の基準は①で紹介した。
次は、入湯する際の姿勢を問題にする。
入湯姿勢は浴槽の構造に左右されてしまうが、身体を伸ばせる温泉宿の大浴場ならば、主体的に姿勢を工夫しよう。
そもそも湯が身体に加える物理的作用(ストレッサー)は、熱と水圧である。
熱は入湯時間を左右するわけだが、姿勢は水圧の方を考慮したい。
人間の身体は外側から皮膚・肉・骨と配置され、骨格が内側なので、カニと異なり水圧が身体内部にまでかかってくる。
表皮に近い血管は熱作用によって拡大されるが、同時に水圧によって圧迫もされる。
すなわちアクセルとブレーキがともにかかった状態となる。
大本の心臓も(肋骨でカバーされてはいるものの)同じ状況だ。
実際、入湯中は大量の血液を排出するために心臓の鼓動は高まっている(交感神経興奮状態)。
これに水圧が加わると、心臓の拍出量が抑えられてしまうので、心臓は拍出力をますます強めなければならなくなるわけだ。
早い話が、入湯は心臓にとってストレスなのだ。
心臓に過剰な負担をかけないためには、水圧は少ない方がいい。
しかも、①で示したようにある程度長い入湯が求められるなら、なおさらだ。
心臓への水圧を弱めるには、上体を垂直に浸すのではなく、きるだけ水面付近で水平に保ちたい。
その意味では深い浴槽より「寝湯」がベスト。
ただ大浴場ならそれに近づけることはたいてい可能だ。
どうするかというと、
浴槽の縁に後頭部をつけ(岩肌ならタオルを枕にする)、上体から膝までやや水平にし、膝を90°曲げて垂直に下ろして浴槽内の床に着地する。
こうすれば水圧がかかるのは膝から下だけとなる。
膝から下(下腿)だけが辛いでないかと思われそうだが、それには奥の手がある(後述)。
上の姿勢にすれば、上体にとっては水圧がほとんどかからないから(むしろ浮力がつく)、①の深呼吸もしやすくなる。
実は下腿も、上体の荷重から解放された態勢なので、軽くなっている。
ジャグジーがあると、下腿が水流で動いてしまい、固定するのに手間取るほど。
すなわち、身体すべてが荷重が解放された姿勢になり、浮力まで得ているので、まるで宙に浮いているかのようにリラックスできる。
入湯は本質的に身体的ストレスであるからこそ、
かように身体のどこにも負担をかけない、全身のリラックスを実現する姿勢になった方が、心理的リラックスにも貢献できる。
さて、下腿には別メニューがある(必須ではない)。
温かい湯船から出たら、今度は水風呂に膝から下を浸けよう(サウナ併設であることを前提)。
足湯ならぬ”足水”である。
最初はもちろん不快な冷感が走るが、そのうち冷感が消え、無感覚状態となり、そして逆に下腿の内部が暖かくなっていく。
この暖かさは時には熱さにもなり、表皮の冷覚を無効にするほど強くなる。
表皮付近の毛細血管は外部からの冷却によって収縮する。
表面付近の血液はどこかに移動する必要がある。
内奥部しかない。
下腿の芯部に血液が集ることで、下腿は文字通り”芯から暖まる”のだ(この現象を細胞のミトコンドリアが増産されるためだという人もいる)。
こうなるまでにやはり5分は冷水に浸けている必要がある。
そうしていると今度は上体が冷えてくる。
なのでもう一度熱い湯に全身を浸かせる(①の入湯)。
下腿にとっては熱→冷→熱の変化が血液循環を強制的に活発にさせ、だるさの解消に役立つと思う。
この別メニューはそういう人用だ。