先週末、某大手マスコミから取材申込を受けた。
東京上野で開催中の「怖い絵展」が大人気となっていることから、なぜ怖い絵を見たがるのかの心理学的説明を求められたのだ。
通常の心理学では、恐怖は逃避行動を動機づけるものとしか認識されず、「恐怖を楽しむ」ことに注目しているのは私くらいしか目に止まらないらしい。
そのせいで、この話題では今までも講演をし、雑誌インタビューを受け、テレビにも出た。
社会心理学者である私としては、お化け屋敷やジェットコースターにお金払って楽しむ客の心理を無視できないのだ。
なので一般論なら語れるが、それは私自身が上のメディアでさんざん語ったことだし、一方「怖い絵展」は観ていないので、それについての現象の分析はできない。
なので、申込は断った。
でも「怖い絵展」がなぜ人気なのか、自分で確かめたくなって、上野の森美術館に行った。
といっても数時間待ちの行列には並びたくない。
平日の夕方が比較的空いているようなので、今日の4時すぎに行った。
それでも40分行列した。
そもそもこの特別展は、ドイツ文学者の中野京子氏の『「怖い絵」で人間を読む』 によるもの。
氏は、「先入観をもたずに感性で感じろ」という絵画観賞法に異を唱え、絵画の主題が前提としている意味を知らずしてその絵を理解できないと主張する。
確かに前者の観賞法は現代芸術用で、伝統的西洋絵画だったら、ギリシャ神話や聖書を知らずして理解するのは無理となる。
すなわち、今回の絵の”怖さ”は意味(死という観念)によって浮かび上がってくるものである、という所がポイント。
つまり、ストレートに「怖い絵」ではない。
それと怖い絵を見ることの心理的意味自体、氏が語っており(音声ガイドの最後で)、その論旨は私の見解と整合する。
なので私があえて語る必要もないことがわかった。
ただしそこで語られている恐怖を楽しむ心理を、この特別展で得られるかは保証できない。
本記事は、実は観る前は、「怖いけど観たい、怖いから観たい」というタイトルで、心理学的説明をする予定だったが、以上の理由で説明を省略する。
どうしても知りたい人は、中野京子氏の本を読むか、展示の音声ガイドを聴くか、ネットでダウンロードできる拙稿「恐怖の現象学的心理学」(2007)の「7.2 楽しまれる恐怖」をご覧じあれ。