名古屋宅の敷布団がぺったんこになり、布も擦り切れたので、
近所の布団店で”打ち直し”を頼んでみた。
もともとこの布団も、四半世紀前にこの店で買ったもの。
当時は、別に専門店で買うつもりではなく、徒歩圏内にたまたま店があったためで、
化繊の安物でいいと思ったのだが、店の主人に綿でないとダメだと言われた。
化繊だと体の熱を吸収して夏は暑苦しくなるが、綿だと熱を発散してくれるという。
そしてなにより、火災時に化繊は中の人を包んであっという間に丸焼けになるという。
職人肌の主人は、ダメな布団は売りたくないようで、言われるままに綿の布団を買った。
なるほど、言われたことの正しさは夏に実感した。
頼んでから10日かかって打ち直された布団は、
せんべい布団の面影がまったく消えて厚さが3倍以上に膨らみ(まるでふかふかの掛け布団のよう)、布も新品に張り替えられた。
ほとんど新品!
(昔のままの)主人によると、布団には前後と裏表があるという。
短辺の側面に輪(縫い目がない)のある側が頭で、縫い目のある側が足だという。
その証拠に頭側に綿が厚くなっているという(知らなかった)。
それから、面のあちこちに綴じ紐がついている側が裏側だという。
それは中の綿を固定するためで、こちらを表にすると寝返りなどで紐が切れてしまうという。
これからは前後・裏表どおりに正しく使うことにする。
主人はまた、客が布団の端を素手で握って持つのを見ると、痛々しくて正視できないという。
中の綿がちぎれるからだ。
また、作業は必ずしも注文順ではなく、赤ちゃんの布団を優先するという。
この世に生まれてきてくれた赤ちゃんに、できるだけ早く赤ちゃん用の柔らかい布団にくるまってほしいからだという(存在論的!)。
かようにこの布団店の主人は、布団への愛情、そして布団を使う人への思いに満ちた、実に”職人気質(かたぎ)”なのだ。
店自体は閑散として、繁盛しているように見えないが、
主人の布団愛を信頼してか、注文が絶えないようで、3月の年度末は特に忙しいという。
打ち直しの代金は1万円台中ほどだったが、支払いの段階で「セール価格だ」と言って数千円引いてくれた。
「何のセールなんですか?」と聞くと、
年を取ると金を使わなくなるからと言い訳をしてくれたが、
いい歳した実年男(私)が学生が住むようなワンルーム暮らしなのを知って、
経済的な困窮者だと思ってくれたようだ。
かように金儲けに執着しないのも”職人気質”ならでは。
客としても、こういう”職人(仕事人)”から、単なる商品以上の心のこもった物を買えると嬉しくなる(当然、その物を大切にしたくなる)。
新興タウンのショッピングモールとちがって、昔ながらの町中にはこういう店があるからいい。