梅や紅葉などはその季節になっても「絶対見なくては」とまでは思わないが、桜だけは違う。
「開花」さらには「満開」の報に接すると、もう居ても立ってもいられなくなる。
しかも単独の木ではなく、桜の花がずらりと空間を占める状態を見たい。
桜は”壮観”でなくては。
と、日本人だれもが思っているから、並木状に植えられた桜の名所が各地にでき上がる。
わが東京宅の近所では、まずはソメイヨシノの発祥地の染井墓地(豊島区)、
そして江戸時代から桜の名所だった王子・飛鳥山公園(北区)がある。
もちろん都内第1の名所・上野公園(台東区)も遠くはない。
家から最も近い六義園(文京区)も名所に数えられるが、本数的に”壮観”ではないので私は選択外。
他にないかとネットで探していたら、「舎人(とねり)公園」(足立区)は桜が1000本もあるという(この数、都区内ではトップクラス)。
ここなら舎人ライナー1本で行ける。
土日は混むだろうから、晴天の金曜の昼前に、舎人ライナーに乗って舎人公園を目指した。
この自動運転の車両に乗ったら、座席にPASMOカードの忘れ物があった。
不埒な者の手に渡ると無断使用されるので、私が預かり、有人駅の西日暮里駅で駅員に預けた。
その時思ったのは、なくした場所はたいてい思い当るので、持ち主が自分の所有物と確認できるために、カードのナンバーを控えておくとよい、ということ。
さて舎人公園で降り、広い園内に入ると、桜が並木と点在の中間の密度で拡がっている(写真)。
ここは広い公園なので、密度的には低く、また木が若いので、本数の割りに”壮観”というほどではない。
ただ、密度がゆるいせいで、グループごとに木の下での場所を確保できる。
もちろん今は、通行のみでシートを敷いての滞在はダメという御触書きがあるのだが、木の下にシートを敷いている人たちがいる(備付けのベンチ・テーブルを使うのもNGか)。
客観的には三密にはなっていないため、私は目くじらをたてるつもりはないが、家族連れならまだしも、グループでの宴会はいかがなものか。
私自身は、昼間の酒宴には抵抗あるので、桜は花を見れれば満足。
この公園の線路を挟んだ反対側には、レーガン大統領夫人から寄贈されたワシントンの桜(元は日本から送られた木の二世)が「レーガン桜」の名で植えられていて、名所になっている。
以上で舎人公園の桜を堪能したので、舎人ライナーで西日暮里に戻り、駅近くの中華屋で定番の”五目焼そば”※を食べ、次の桜を見に諏訪台に上がって谷中に行く。
※:私が中華屋で食べるのは、もっぱら見た目も豪勢で栄養バランスのいい五目焼そば。ラーメンは食べない。
高台にある谷中霊園(台東区)は、中央の道路沿いのこじんまりした桜並木が"壮観”未満ながら”名所”に値し、周囲の寺と墓で和風の趣(おもむき)があるためか、着物姿の外国人女性が歩いている(写真)。
カメラを構えている人の数も舎人公園(あちらは宴会向き)より多く、私もその一人となり、貫録のある巨木(老木)に向ってシャッターを押す。
本来なら桜並木沿いに五重の塔が建っていて(心中の放火によって焼失)、それが残っていれば見事な桜の名所になっていたろう。
桜を見るだけでなく撮るなら、桜の周囲のたたずまいも大事で、壮観だけの公園よりは、石搭や木造建築がある寺や墓地の方が撮り甲斐がある。
なので、私のお気に入りの桜の名所は、近所のここ谷中霊園。