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日本の国境問題  孫崎享

最近本屋さんに行くと、国境問題の本がたくさん並んでいる。私の行きつけの本屋さんでも、棚に20種類くらいの関連本があって、どれにしようか迷って、結局選んだのが本書だ。TVニュースでは、竹島問題、尖閣諸島問題が頻繁に取り上げられ、ニュース解説の番組でもしょっちゅうやっているが、肝心の対立する両国の主張に関する根本的な解説というのは全く見当たらないのが現状で、そこを知りたくて読んでみた。著者は外交の現場を沢山経験した元外務省の人だが、幸運なことに、まさに私のニーズにぴったりの本だった。国境問題について何も知らない人にも判り易いし、どちらかに偏った見解を押し付けるような感じでもない。それでいて論旨は明快で、非常に示唆に富んでいる、有難い本だ。本書で一番知りたかったのは、日中あるいは日韓のどちらの言い分に正当性があるのかという客観的な判断材料だったが、本書を読んでいると、尖閣諸島の問題も、竹島問題も、いずれも日本の分が悪いという感じなので正直びっくりした。また、いずれの問題も、背後にアメリカの戦略的な思惑が強く働いていること、これらの問題が武力衝突に発展してしまった時、日米安保条約によって米軍が助けてくれるというのが全くの誤解だということにも驚かされた。国境問題の裏には必ず国内問題があり、国境問題の動きで得をする人物がいるという指摘や、国境問題をあおるのはマスコミであるという部分には、大いに考えさせられた。ちなみに、中国との尖閣諸島問題のところでは、周恩来という人のすごさを改めて知ったように感じた。また、第二次大戦後にドイツとフランスがとった行動には、政治家の質の彼我の違いを痛感した。あまりにも良い本なので、これだけで十分という気もするが、こうした問題には、色々な立場の考え方や見方があると思うので、できればもう1冊くらい解説本を読んで、自分なりの考えをまとめようと思う。(「日本の国境問題」  孫崎享、ちくま新書)

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