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花窗玻璃 深水黎一郎

この本の特徴は、漢字が難しくて題名が読めないということだ。読めないが、意味はステンドグラスだとなんとなくわかる。大きな円形のまどは「花窓」とか「バラ窓」と呼ばれているし、玻璃というのはガラスという意味だから、そう考えれば「花窗玻璃」をステンドグラスと読むことは何となく判る。その読み方と意味の問題は一応それでよかったのだが、それではなぜ作者がこのような、読むことさえ難しい漢字を題名に使用したのかという別の疑問がわいてくる。そうした疑問をもったまま読み始めた。少し読み進めると、この作品は「作中作」という形態である人物の手記が大藩を占めるのだが、これがまた題名と同じで、読みにくいというか、全てのカタカナが当て字のような漢字で書かれており、慣れるまでは読みにくいこと甚だしい。題名にしてもこの小説の大部分を占める作中作の表記にしても、いったい作者は何を考えているのかと思っていたら、終盤の方で、その意図が明らかにされる。こうした特異な表記の文章を読むことは読者に注意深く読む苦労を強いるが、書き手にとっても、このような書き方をすることは並大抵の苦労ではないはずだ。明らかにされた意図と、その書き手の苦労の大きさを考えると、何だか釣り合わない気がするし、やはりこの作者は只者ではないという気もする。ミステリーの謎解きとしても十分に楽しめたし、中世の教会建築や芸術に関する薀蓄もいっぱいあったし、今年読んできたミステリー本のなかでも特に印象に残る満足できる1冊だった。作者の本はまだこれで2冊めだが、まだ色々出ているようなので、これから読んでいくのが楽しみだ。(「花窗玻璃」 深水黎一郎、河出文庫)

 

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