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ゲームの王国(上・下) 小川哲

あるSF書評家が絶賛していた1冊。実はその書評家の薦めるSF本は、これまでに何冊も読んだが、自分の感性と合わないことが多かった。自分の感性と合う書評と合わない書評があるのは事実で、こればかりはどうしようもないが、この本については、その書評家の絶賛振りが只事ではないので、読んでみることにした。上下巻のうちの上巻は、ポルポトの時代のカンボジアを舞台にした主人公の若者3人を巡る話で、SF的な要素はほとんどない。このままずっとこの調子なのかと思ったら、上巻の最後の方で、とんでもない大惨事が起こり、いったいこの後どうなるのかというところで下巻へ。下巻では、上巻の最後から一気に時代が飛んで、21世紀のカンボジアが描かれ、現代を超えた未来の話になっていく。「この作品をもって伊藤計劃後が終わった」という言葉が帯に書かれているが、本書を読んでいると確かに伊藤計劃の作品が思い起こされ、只ならない雰囲気が感じられる。実際この作品を読んで、本書が自分に感性と合致するのは、SFでない部分が上巻で懇切丁寧に描かれているからではないかと感じた。SFで描かれた世界をあまり書き込み過ぎるのは興醒めだが、最近のSFは、世界観を読者が行間から読み取ってほしいというスタンスに終始したり、読者のイメージに任せたりということが多すぎる気がする。本書は、著者のデビュー第2作目とのこと。当然第1作も読みたいし、これから書かれる作品にも大いに注目したいと思った。(「ゲームの王国(上・下)  小川哲、早川書房)

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