書評、その他
Future Watch 書評、その他
未来への大分岐 斎藤幸平
本書は著者と現代の哲学者やジャーナリスト3名との対談をまとめた一冊。対談相手の3名は著書がベストセラーになっている著名人らしいが、自分にはその内1人だけ名前を聞いたことがある程度で他2名は全く未知の人物。内容的には、相手の著書を読み込んだ著者が本人に質問を投げかけつつ自分の考えを披露していくスタイルで、どちらかと言うと著者自身の考えの方がくっきりと頭に残る。言わば前に読んだ著者の本を別の観点から整理した上で世界の思想の潮流の中での位置付けを明確にしていくという内容だ。本書では、現在の先進国の思想的根底にある新自由主義が完全に行き詰まっているという認識から出発し、その処方箋として提示されている「相対主義」「ポストモダニズム」「加速主義」などを全く無意味と斬って捨て、さらに修正主義的な社会民主主義や脱成長論でも現在の地球環境問題や南北格差は乗り越えられないと指摘する。その根底にあるのは、急激な技術進歩や情報化社会の矛盾がもたらすシステム、ネットワーク、情報の独占、利潤低下への対応としての搾取という図式だ。著者の前作を読んだ時にも感じたことだが、本書においてもこうした危機感の彼我の差を痛感すると同時に、日本における哲学という学問の発信力の弱さが何に由来するのかを考えざるを得ない。子や孫の代が生きていく世界を思う時、高齢者としてはそのことが一番心配だ。(「未来への大分岐」 斎藤幸平、集英社新書)
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