ヒトは何故進化の過程でしっぽを失っていったのか、そのプロセスと意味の謎を追求している研究者による啓蒙書。著者がどのようにして「しっぽ」に魅せられそれを研究対象として奮闘するようになったのか、これまでの研究で分かったことなどを、とても面白くかつやさしく教えてくれる。まず著者は、しっぽについて、位置、形、中身の観点から、肛門より後ろにあり、身体の外に出ていて、体幹の延長にあるものと定義し、その上で「ヒトがしっぽを無くした経緯」について、考古学、人類学、発生学、文学など文理の壁を超えた考察を進めていく。なお、猿(モンキー)と類人猿(エイプ)の違いは、しっぽの有無と手を肩から上に伸ばせるかで決まるとのこと。また北の動物ほどしっぽが短いという(アレンの法則)。一般的に、ヒトがしっぽを無くしたのは、「腕で木にぶら下がるようになり、直立歩行するようになる過程でしっぽが不要になったから」と何となく思われているが、これは全くの誤解で、ヒトは木にぶら下がったり直立歩行する以前からしっぽを失っていたということが化石などの研究から明らかになっているらしい。そこから著者の探究は始まる。しっぽのあるサルとしっぽのないヒトの中間の生物の化石が発見されればある程度解明される謎なのだが、未だにそうした化石は発見されていない。発見されないこと自体も謎のひとつということになるだろう。著者の研究はまだ道半ばで、読んでいてワクワクするし、大変面白くて、かつためになる一冊だった。(「しっぽ学」 東島沙弥佳、光文社新書)