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東京ドヤ街盛衰記 風樹茂

東京の「山谷」の人間模様を描いたドキュメント。何となくイメージはあるが実際にどのようなところなのかを教えてくれる本は初めてだ。盛衰記という題名からも推察できるが、今の「山谷」は昔の様相から一変し、ある意味、本当に廃れてしまっているらしい。「ドヤ街」という言葉の由来でもある「簡易宿泊施設」のお客さんの半分は外国人のバックパッカーなのだという。そういえば、正確にはドヤ街ではないが、本書に出てくる地名で私が唯一行ったことのある名古屋の白川公園でも、ホームレスの姿をあまり見かけなくなったような気がする。本書の構成は、昔知り合った1人のホームレスの話と、10年後に彼の消息を訊ねる話、この2つが核になっているのだが、全体として見事に「山谷」の今と昔を浮かび上がらせている。こうした新書を読むと、「ニッチな分野についての啓蒙書」ということで、新書ならではという感じで嬉しい。(「東京ドヤ街盛衰記」 風樹茂、中央公論新社)

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ノックス・マシン 法月倫太郎

2013年のランキングを総なめにした感のある本書。4つの中短編が収められているが、表題作の「ノックスマシン」他いずれの作品も、「本格ミステリー」でも「本格SF」なく、「本格ミステリーSF」としか言いようのない特別な作品だ。内容は、中学生の頃に読んだ、アガサ・クリスティやエラリー・クイーンといった古典的なミステリーへのオマージュになっていて、そうした作品を読んだ経験のある読者には、その懐かしさがたまらない。特に、ミステリー界の有名な事件、例えばアガサ・クリスティの謎の失踪事件とか、ポアロ最後の事件発表の顛末などを上手くストーリーの中に織り込んで読ませる内容は嬉しくて涙が出そうになる。そういえば、表題作の「ノックスマシン」で扱われている「10か条」のうちの「中国人」に関する部分は、それを読んだ当時、私自身も非常に不思議に思ったのを覚えている。(「ノックス・マシン」 法月倫太郎、角川書店)

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列車にご用心 エドマンド・クリスピン

2014本格ミステリーの第一位を獲得し、評判になっている本書だが、読んでみると、1950年代にイギリスで書かれた昔の本だった。50年代といえばまさにアガサ・クリスティ、ジョン・ディクソン・カー、エラリー・クイーンらの全盛期で、そうした大御所の影に隠れた「隠れた名品」の発掘ものということらしい。本書も、推理するための材料を全て開示した上で、超人的な探偵役の主人公が見事な推理で、読者を圧倒するという、いわゆるその時代の「本格もの」ミステリーで、1つ1つの作品の謎解きを1つ1つ楽しむことができる。但し、やはり50年代の作品から漂う雰囲気は、古色蒼然そのもので、本書も読んでいて、どうしても現実味が感じられないのが難点だ。現実と絵空事のバランスが大切なミステリーというのは、どんなに優れている作品でも、やはりそうした同時代性というものが必要不可欠であることを認識させられる1冊だった。(「列車にご用心」 エドマンド・クリスピン、論創社)

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