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ペンギンを愛した容疑者 大倉崇裕

人気シリーズの第3作目。読者が主人公のキャラクターや設定にも慣れてきて、ストーリーそのものに安心して集中できるのがシリーズものの良さということになるが、こうした状況が少し続いた後に来るのがマンネリとの戦いだ。その状況で多く用いられるのが登場人物の間の関係性を変化させるという手法だが、それが吉と出るか凶と出るかがシリーズものの岐路となる。本シリーズは既に第4作目が刊行されている。それを確かめる意味でも今から読むのが楽しみだ。(「ペンギンを愛した容疑者」 大倉崇裕、講談社文庫)

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町中華とはなんだ 町中華探検隊

高級中国料理店に行くのは年に一回あるかどうかだが、普通の中華料理屋さんには月2、3回は行く。本書でいうところの「町中華」とは、必ずしも定義は明確ではないが、後者のような普段利用するような普通の中華料理屋さんのなかで、ボリュームと低価格を売りにした昭和の香りのする店を指しているとのこと。本書は、3人の書き手によるそうした町中華の店に関するルポ。町中華は、店主の個性が際立っていて多種多様だが、昭和の時代から生き残っているだけあって、それぞれが様々な理由で一定の人数の人々に強く支持されている。しかし昨今の外食チェーン店の隆盛と後継者難(ご主人の高齢化)により、「町中華」の店の閉店が相次ぎ絶滅しつつあるという。こうした町中の飲食店の閉店は、中華料理屋さんに限らず、多くの飲食ジャンルで見られることで、自分の身近でも枚挙にいとまがない。著者達は、いずれも自分とほぼ同年代。最近、若い頃によく通ってお世話になった店が今どうなっているのかなどと思うことが多いが、そうした心情に強く訴えかけてくる一冊だった。(「町中華とはなんだ」 町中華探検隊、角川文庫)

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禁足地巡礼 吉田悠軌

私有地であるとか軍事施設であるとかの合理的な理由ではない理由、すなわち「不合理な理由」で「踏み入れてはいけない」とされる場所を「禁足地」と定義し、日本各地に存在する禁足地を巡ったルポルタージュ。宗教のようにそれなりに体系化された理屈ではなくもっと根源的なものに支配された情動がそこにはあるらしい。著者は、それをもっとらしく理屈付けすることなく、ただひたすらに描写し読者に伝えてくれる。著者自身はそれを覗き見的な行動と表現するが、むしろそれは著者の潔さというべきものだ。かつて禁足地とされた土地が開発されていった明治期や戦後の方がそれにまつわるエピソードが増えているという指摘は鋭いし、著者の略歴を見るとまだ大変若いようで、こういう若い世代がどのような考えを持ってこうしたものを見ているのかがわかって面白かった。(「禁足地巡礼」 吉田悠軌、扶桑社新書)

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そしてだれも信じなくなった 土屋賢二

ツチヤ師も登場し、相変わらずのツチヤワールド。電車の中で読むのにこれほど適した本はない。降りる駅まであと2駅だったらもう一つ読めるし、あとひと駅だったら次を読まずに降りる準備をする。そんな読み方ができるので、時間の有効活用に最適だ。本書も、読んだことがあるような話が多いのだが、時折ハッとするようなものがあったりする。今回特にハッとしたのは「敬語死ね」と「ことわざ活用法」など。だいたい10に1つか2つくらいの割合でめちゃくちゃ面白い文章に出くわすのが本シリーズの楽しさだ。(「そしてだれも信じなくなった」  土屋賢二、文春文庫)

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時限感染 岩木一麻

著者の第2作目。処女作「ガン消滅の謎」がすごく面白くて、話題になったので、第2作目はかなり高いハードルと思われたが、それを軽くクリアするような面白さだった。今回も、素人に興味を持てるギリギリという感じの専門的な医学トリックを駆使しつつ、最後にアッと言わせる仕掛けがすごい。処女作がフロックでないことが分かり、また注目したい作家がひとり増えたのが嬉しい。(「時限感染」 岩木一麻、宝島社)

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