4 歴史家の忖度
『昭和天皇独白録』には、巻末に歴史家たちの座談会が載っている。
秦郁彦は「この記録は東京裁判対策のために作成されたのではないか。マッカーサー司令部に提出するためのものじゃないかと思う。英文もあるかもしれない」と言った。
伊藤隆「考えられない」児島襄「疑問だ」半藤一利は「提出しないまでも…寺崎は局外者として確認したのではないか」と返した。
そして、伊藤は「これは楽しく読んだ方が宜しい、詮索しないで」と云った。また、伊藤は「英文が出てきたらカブトを脱ぎます」(笑)児島は「せいぜい秦さんに探してもらいましょう」(笑)ともいう。
H・ビックスによれば、「天皇の口述記録から重要部分を抜き出し、英訳したうえで、要約書を作り、フェラーズ准将に提供した。…マッカーサーが読んでいる可能性は高い」*と書いている。
結論から言うと、英訳は提出されていたのである。戦前生まれの大歴史家たちは、我々に何を教える気なのだろうか。
【*出典:ハーバート・ビックス『昭和天皇(下)』講談社学術文庫2006年289頁】