キキ便り

アメリカ便り、教員・研究者生活、シンプルライフ、自閉症児子育てなど

息子と私の試験

2006-06-03 23:17:47 | 博士課程で学んで
 不思議なことに私の人生のおそらく最後となる試験と、息子の人生の最初の試験が同じ週に始まった。息子の試験は州ごとに行われる標準試験で小学校3年生から1年に1回の割合で行われる。読み書きを中心としたコミュニケーションと算数の分野から出題され、7日間に渡って行われるものである。試験のスコアはいかにそれぞれの学校が教育責任を果たし、教育成果を上げているかを証明する手段として用いられている。スコアの高い学校には、教育熱心な親たちが集まり(必然的に教育経済レベルの高い親になってしまう場合が多い)、それが地価を上げたり優秀な先生が集まったりと教育の不均等の悪循環を生み出していることも指摘されている標準試験である。以前住んでいた米国南部の州では、こういった標準試験が行われる度に、子どもたちがプレッシャーで保健室に走ったりとか、嘔吐したりなどいう話も聞いていた。先生も校長先生も自分の実力が評価されるということで、試験のための練習にかなりの時間を割いていることも知られた話である。
 息子は自閉症と診断されていることから、IEP(個別指導計画)の中でも「別室で試験を受けることができる」「試験時間の制限がない」「書いた字の読みにくいところは、先生があとから上書きして補助する」などいろいろと考慮してもらった。しかし、それでもかなりのプレッシャーになったらしく、食欲ががたんと落ちてしまった。特に試験2日目の朝は、早起きしすぎたのがショックだったらしい。私が何を言っても、「もうだめ」と涙目の息子の姿を見て、早速担任の先生にEメールで事情を話した。このような大変な思いをした試験であったが、あっけなく終わってしまい、夏には結果が家庭に郵送される予定である。
 同じ週に私が受けた試験はComprehensive Examの第2段階の筆記試験。博士論文を書く前に博士候補生として課せられる試験で、大学学部によって差はあるが1年かかることも珍しくない。去年の9月にまず第1段階であるIntegrated Literature Reviewに取りかかった。通常の文献研究よりもさらに自分の専門分野についての知識の豊かさを表明することを意図したもので、まずアウトラインを論文審査委員会で討議し、承諾を得てから書き始めることになっている。与えられる期限は3ヶ月。それを書き終えパスしたのが今年の2月。その後、8時間の資料持ち込みなしの筆記試験、口頭試験と続く。
 かなり順調に進んだと思っていた自分の考えが甘かったのが、口頭試験。うちの学部の場合は、筆記試験でミスったところを口頭試験で補うように取りはからってもらえるらしいと聞いていたが、まずそもそも私の筆記試験の解答がかなり不十分だったらしい。5人の教授からの6つの分野からの出題内容に私はかなり時間をかけて、授業で使ったノートやテキストを使って勉強したがそれだけでは足りなかったらしい。「深さ」がなかったのである。また研究者の名前をしっかり使って答えなければならなかったらしい。「ある研究者によると、、、」ではだめだったようである。さらには、テキストにいくら書いてある答えであっても、論文審査委員の意見や主張と食い違っていれば、理路整然と述べない限り、間違いにされていることにも後から気付く。
 こういった事情で、3週間の猶予が与えられて答え(responses)を書き直す。ペーパーで言えば80ページ程にもなり、気がおかしくなりそうで、プレッシャーで夜も眠れず、家業も子育ても無視して過ごしたクレージーな時間であった。でもそういう中で、院生の友達がアドバイスをしてくれたり、ペーパーを添削してくれたり、チャーチの友達が夕ご飯を作って順番に持ってきてくれたりと、サポートのありがたさを実感したひとときだった。
 スクールバスから帰ってくる息子と娘が、「合格したの?」と聞いてくる毎日であったが、ようやくアドバイザーより合格のEメールをもらいほっとする。誰よりも肩の荷を下ろしたのは、自分の時間を犠牲にして、助けてくれた夫に違いない。
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