紅白のバラ
4月8日から、岸田首相がアメリカを訪問、各種交渉に成果をあげ、米議会での演説では絶賛を浴びたと言う。それはそれとして、この訪米会議には比のマルコス大統領も参加、南シナ海全域の集団防衛が合意された。
目的は言うまでもなく、中国のこの地域への進出(台湾問題ではない)に対する対処である。
「南シナ海における中国の危険かつ攻撃的な行動に深刻な懸念。埋め立て地形の軍事化、不法な海上権益に関する主張を懸念。海上保安機関、海上民兵船舶の危険で威圧的な使用と他国の海洋資源開発を妨害する試みに断固反対」とした。
日本の軍隊は、名目上は敵国を想定しない専守防衛の組織である。しかし、実質的には相手を特定している。そうでないと、軍事訓練はできない。だから自衛隊はかなり矛盾した特異な組織になっている。これは憲法上の制約であるから致し方ない。
今までは、この矛盾を曖昧にして処理してきた。しかし今回の3者合意は、この曖昧さを突き抜けたように思える。従来の防衛論・武力論から重大な一歩を踏み出したことになる。
自衛隊は憲法の範囲内にある。条文上の解釈は色々だろうが、はっきりしているのは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という前文である。相手を信頼しているから、日本は武力による解決はしないのである。混沌とした世界情勢からすると時代錯誤も甚だしい前文ではあるが、しかし私たちはこの錯綜する世の中で、なんとかこの憲法の前文を維持して現在に至っている。
今回の声明は、明らかに、この前文をこえる軍事的声明である。
岸田首相が、こうした国是を顧みずに米国の人気とりに出たとしたら、大問題である。しかも党議や国会審議を経ずに、首相の独断であるとしたら、専制独裁どころではない。
私は今日の世界情勢からすると、集団防衛の確立は不可欠だと思う。だから憲法を含め、国家の武力行使については、議会の最重要テーマにすべきだ、思っている。いわば必要悪の避けがたい課題だという認識である。
国家成立の要件の一つは領土である。領土なしには国家は成立しない。ロシアであれ、中国であれ、パレスチナであれ、例外はない。だから、虎視眈々と相手領地を狙っている。日本とて例外ではない。尖閣諸島は日本の領海、排他的経済水域の確定のために不可欠で、そこを買収したことなども根は一緒である。そこに軍事が介入する。
国民は国家なしには、生活できないし、領土なしには国家が成立しないというアポリアを、いつの日か、誰かが、どのように解決するのか。人類の永遠の難問である。【彬】