その戦法は、議長国のインドネシアをはじめ、一国づつ個別撃破作戦。
【ヌサドゥア(インドネシア・バリ島)=大木聖馬】中国の温家宝首相は18日、東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議やインドなどとの2国間会談を通じ、南シナ海の領有権問題を沈静化させ、米国の影響力拡大を阻止する外交戦を展開した。
「2002年、中国とASEANは『南シナ海における関係国の行動宣言』に署名し、『行動規範』をまとめるために努力することを定めた。これはASEANと中国の共通の願いだ」。温首相はASEANとの首脳会議の席上、中国がこれまで慎重だった行動規範の制定に向けた議論の開始に言及し、歩み寄る姿勢を示した。
温首相は「(首脳や閣僚、事務など)多層間で全面的な海上協力のメカニズムの構築」も呼びかけた。ASEANが打ち出した、南シナ海問題などを話し合う「ASEAN海洋フォーラム」の拡大などを中国が前向きに検討していくことを示唆したものだ。
温首相は17日にはASEAN議長国インドネシアのユドヨノ大統領と会談し、「東アジア首脳会議で具体的な政治や安全(保障)の問題を議論することにASEANは賛成しない」との発言を引き出した。インドのシン首相とも18日に会談し、関係強化を確認した。
温首相の活発な外交活動は、米国が正式参加し19日に開かれる東アジア首脳会議に向けた地ならしだ。中国は、南シナ海での航行の自由を求める米国や領有権を争うベトナム、フィリピンなどが同首脳会議で南シナ海問題を取り上げ、問題を多国間協議の議題とすることを警戒している。北京の外交筋は「中国は、アジア首脳会議で南シナ海などの具体論に踏み込まず、海上安全など議論を抽象化させるようASEAN側に働きかけている」と明かす。関係国と事前協議を重ね友好的な雰囲気を醸成し、南シナ海間題は当事国の間で解決できるというイメージを構築する狙いだ。
一方、オバマ米大統領がアジア重視の外交政策を表明する中、ASEANやアジア諸国との関係を強化し、米国の影響力拡大をけん制する狙いもある。
温首相はASEANとの首脳会議で「密接に協力し、公正で合理的な国際政治、経済の新秩序の構築のため努力しよう」とも述べ、米国に依存しない東南アジアの秩序作りを呼びかけた。
ミャンマーの欧米接近懸念
【ヌサドゥア=大木聖馬】中国は、国際社会で孤立していたミャンマーに軍政時代から支援を与え影響力を拡大してきており、ミャンマーが急速に欧米に接近する形で民主改革を進めることに、いらだちを募らせている。中国は内政不干渉を理由にリビアの旧カダフィ政権など欧米諸国が問題視する国家を支えてきたが、強権国家で中国の影響力がにわかに低下してきた。
中国外務省の劉為民・報道局参事官は18日の定例記者会見で、クリントン米国務長官のミャンマー訪問予定について「米国や西側国家がミャンマーとの接触を強化し、関係を改善するのを見たいと思っている。ミャンマーの内外政策が同国の平和と安定に役立つことも希望する」と述べた。
しかし、ミャンマー政府筋によると、18日現在、中国とミャンマーの首脳会談は設定されておらず、「これまでの関係を考えれば、会談が設定されないのは不思議な状況」(消息筋)だ。
中国はリビアでも旧カダフィ政権時代に大規模な投資をして緊密な関係を築いてきた。しかしリビアの実権は親欧米の勢力が握った。中国は経済支援をテコに孤立を深める国々と関係を強めてきた外交政策の抜本的な見直しを迫られている。
中国の個別工作が功を奏したのでしょう。日本が新提案する「東アジア海洋フォーラム」に、議長国のインドネシアは、ASEAN海洋フォーラム拡大版=ASEAN + 6 (元々は日本が提唱していた)を逆提案し、ASEAN首脳会議で採択されました。中国は、ASEAN + 3 が持論でしたが、米国を含まない枠組みのこの案に譲歩する意向を示すとともに、EASで日本が提唱する「海洋安全保障の提言」への歯止めとして、かねてはぐらかしてきていた、南シナ海での法的拘束力のある「行動規範」の交渉にも歩み寄る姿勢を示してきています。
しかし、EASでは中国の一国づつの説得が、会議の朝の米国との会談にまで及んだことも空しく、大部分の時間が南シナ海の「海洋安全保障」について割かれ、首脳宣言で「海洋に関する国際法は地域の平和と安定に役立つ」と盛り込まれたのでした。
東アジア、海洋安保で合意 16カ国で広域貿易圏 :日本経済新聞
「海洋安全保障」は、日本がフィリピンなどに根回ししていて提案する段取りのはずでしたが、記事の情報では米国がリードしたようですね。
オバマ大統領の発言に続けて、温家宝首相が「サミットはこの問題を討議する適切な場ではない」と反論する場面は、かなり緊迫していたことと想像されますね。
今回のASEAN首脳会議のもう一つの注目テーマは、ミヤンマーの議長国承認でした。
中国の傀儡かと思えたミヤンマーでしたが、テイン・セイン首相が大統領に就任し新政府が発足したミャンマーは、スーチー氏の解放をするなどしていましたが、軍政時代に中国と契約したダム建設の中止宣言をしていました。そして、2006年夏からのミヤンマーの順番を辞退していた議長国への就任も希望を申し出ていたのです。
ミヤンマーがASEAN議長国を務めたいと - 遊爺雑記帳
ミャンマー新政権は、軍政が中国政府と契約したダム建設を中止 - 遊爺雑記帳
中国式投資 途上国「NO」 ミャンマー、ダム開発中止を表明 - MSN産経ニュース
援助の名の下に行われる中国の投資は、地元には雇用も含め何もメリットがもたらされないことは、世界の常識となりつつありますが、ミャンマーの新政府は中国一辺倒から脱し、欧米の制裁解除を求め、日本も含めた資金導入を指向し始めているのですね。
米国は、議長国の承認は時期尚早との見解でしたが、AEANの意向を尊重すると同時に、対中戦略の一環で見切り発車し同意し、急遽クリントン長官の訪問も決めるなど、賛成に転じたのだそうですね。
もちろん、中国と決別と言うのではなく、中国と欧米や日本などとの両天秤ということですが、インド洋への中国の進出の拠点であると同時に、石油の陸送拠点でもあるミヤンマーが、諸国(インドも?)に開国することは、中国にとっては大きな痛手です。中国の息のかかった国(今回の「海洋安全保障」採択では反対にまわり中国側についている)が議長国というメリットもあるでしょうが。
今回のASEAN首脳会議からEASへの一連の会議では、米国の対外政策転換が示され、大きな動きがありました。米国に押し込まれた中国が、このままおとなしく協調姿勢に転ずるとは考えられません。
人民解放軍の反発、習近平氏への政権交代での新施策とその動きは要警戒ですね。
この花の名前は、アケボノソウ (撮影場所=六甲高山植物園)
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