中国が習近平国家主席の時代に入って10年余りたち、習氏の支配下で達成された同国の経済成長の多くが、持続不可能な借り入れや不動産投機、中国にとって本当は必要でない工場やインフラへの投資によってもたらされたことが明らかになっていると、WSJのリンリングウェイ氏。
個人消費を増やす方策など、より息の長い成長を生み出していたかもしれない困難な改革は無視され、中国共産党による支配を強化するために計画された政策が優先された結果を、「失われた10年」と呼ぶ人もいると。
今や中国は債務にあえいでおり、何兆ドルもの家計資産を消し去った不動産不況のせいで不安定になり、デフレスパイラルに陥りかけている。経済成長は減速し、西側諸国からの投資は急減し、消費者信頼感は過去最低水準に近い。
しかし、中国が貿易を巡る2度目の対決に向けて米国とにらみ合いとなる中で、習氏は従来の姿勢に固執している。習氏は自身のトップダウン型の経済運営手法について、中国をさらに強力な工業大国にするための計画と合わせ、中国が経済力でいずれ米国を追い越すための最善の道をもたらすと確信していると、WSJのリンリングウェイ氏。
北京を拠点とするある対外政策アドバイザーは「習氏は東が台頭し、西が衰退しつつあると今もなお考えている」と語った。これは、中国の輸出品に対する西側の需要にけん引されて、中国経済が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの一時的な回復を経験した3年前に、習氏が表明した世界観を指す。
習政権はまた、ドナルド・トランプ次期米大統領のいかなる関税引き上げにも対抗する計画を立てている。その計画は米国が半導体、車のエンジンや防衛関連製品を作るのに必要とする原材料の販売を制限するなどの報復措置を通じて実行されるものだ。習氏は途上国の仲間づくりを進め、米国に対する圧力を強めようとしていると、リンリングウェイ氏。
多くのエコノミストの主張によると、習氏の対応に欠けているのは、困難ではあるが、同国の傷ついた経済を立て直すために必要とされる方策だ。
中国政府は最近、幾つかの景気刺激策を導入したが、不動産業界の問題を一掃し、地方政府の債務を完全に再編して、消費を大幅に増やすための決定的な措置を講じてはいないとも。
野村総合研究所のチーフエコノミストを務めるリチャード・クー氏は、「問題の多くは政府自身が招いたものだ」と述べているのだそうです。
クー氏は中国が、「時間との戦い」と同氏が呼ぶ状況に直面していると考えている。同氏は同国が不利な人口動態の悪影響もあって長期的な低迷に陥る前に、山積する経済成長に関する問題に対処する必要があるとみているのだそうです。
習氏は分岐点に差し掛かると常に、国の支配力を強める道を選び、多くの中国のエコノミストが必要だと指摘していた類いの改革を避けた。
中国の経済問題の一部は、習氏が権力を握る前に始まっていたが、同氏は問題を解決できなかった。これを受けて、一部の政府内のアドバイザーさえも内輪では、失われた10年について話し始めるようになったとも。
2018年9月、北京の釣魚台迎賓館で行われた経済フォーラムで、リベラルな思想を持つ張曙光(Zhang Shuguang)氏は、フォーラムの聴衆に、中国の「改革開放」時代を始動させた指導者、鄧小平の政策を思い出させた。鄧は、米国や他の先進諸国と中国の融合に注力したと、リンリングウェイ氏。
松下幸之助氏からも多くを学んだとの話は、広く知られていますね。
張氏は、米国との終わりのない貿易戦争の中で報復合戦を繰り広げることのないよう注意しながら「必要な譲歩をすべきだ」と語った。
しかし習氏はそうした対応を取らず、貿易戦争に対処するために国家統制を強め、国内産業を助成する決意を固めた。
習政権は、半導体、電気自動車(EV)などお気に入りの産業分野に巨額の補助金を注ぎ込むとともに、各工場の生産拡大のための融資を増やすよう銀行に働き掛けた。
習氏はまた、民間部門の取り締まりを開始した。その狙いは不合理なリスク選好姿勢を抑え込み、産業界の大物たちを屈服させることだったが、それは最終的に、中国の起業家精神の喪失につながったと、リンリングウェイ氏。
その結果、政府の支援を受けた企業の支配的地位が中国経済の中で次第に強まり、鉄鋼、EVなどの生産能力の過剰状態が深刻化していった。現在の中国は、2018年当時よりも経済成長に関する輸出依存度が高くなっており、トランプ氏が提唱している類いの関税の打撃を以前よりも受けやすくなっているのだそうです。
権力基盤を固めた習氏は、これまで首相が担ってきた経済運営に関しても個人支配を強めた。習氏はまた、忠誠心の強い者たちを自らの周辺に集めたが、彼らは経済政策立案の経験が乏しい。
今年に入ってから中国経済の上に暗雲が垂れ込めた際に、共産党のある諮問機関が政府幹部向けの報告書を作成した。同報告は、中国が経済成長再活性化のための諸策を緊急に実施しなければ、米国の大恐慌時に起きたような壊滅的なデフレスパイラルに陥る恐れがあると警告していた。
習氏は動揺しなかったのだそうです。
習氏はアドバイザーらに「デフレの何がそんなに悪いのか」「物価が下がれば人々は喜ぶのではないのか」と尋ねたのだと。
習氏がこの警告に取り合わなかったことで、エコノミストの間で中国が物価下落と需要減退の悪循環に陥る可能性が懸念されていたにもかかわらず、この話題は中国の政策決定関係者内ではほとんどタブーとなったのだと。
習政権より前の中国は、今よりも積極的に経済課題に対処していたと、リンリングウェイ氏。
鄧小平の流れを継ぐ共青団派で、集団指導で中国の経済成長を進め米国に次ぐ今日の地位を築いたのですが、習近平の独裁体制構築で集団指導の座から追われたのでした。
トランプ米政権と中国との再対決を控え、一部の中国人エコノミストの間では、新たな貿易戦争によって習政権もとうとう製造業中心の経済政策から、消費者重視に焦点を当てた政策に転換せざるを得なくなるとの期待が浮上している。トランプ氏が関税引き上げの公約を実行すれば、中国の輸出が減少することは避けられず、中国政府は経済を回し続けるために内需を強化しなくてはならなくなるとの見方。
状況はトランプ政権1期目から変化した。両政権ともに、一歩も譲らない姿勢を強めていると、リンリングウェイ氏。
国家安全保障会議(NSC)の幹部を務めた経験を持つエバン・メデイロス氏は、習氏の指導スタイルでは中国が「トランプ2.0」にうまく対応するのは難しくなるとの見方を示したのだそうです。
「習氏がグランド・バーゲン(包括的な取引)を打ち出せるとは思えない」とも!
「トランプ2.0」で、米中冷戦も"2.0"に!
中国は、米国との対峙に際し、同盟国の引きはがし作戦を開始。
中国からの賄賂が取沙汰される岩屋外相は王毅外相と会談し、ビザの大幅緩和等早速懐柔策に嵌められている様な!
中国向けビザ発給緩和、日中交流の拡大狙う 歩み寄りにじむ外相会談:朝日新聞デジタル
# 冒頭の画像は、習近平首席
菩提樹の黄葉
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個人消費を増やす方策など、より息の長い成長を生み出していたかもしれない困難な改革は無視され、中国共産党による支配を強化するために計画された政策が優先された結果を、「失われた10年」と呼ぶ人もいると。
債務にあえぐ中国、習主席はトップダウンの経済計画貫く - WSJ
米国との再対決に備え、中国を世界最強にするための経済政策に固執
by リンリングウェイ 2024年12月25日
それを「失われた10年」と呼ぶ人もいる。
中国が習近平国家主席の時代に入って10年余りたち、習氏の支配下で達成された同国の経済成長の多くが、持続不可能な借り入れや不動産投機、中国にとって本当は必要でない工場やインフラへの投資によってもたらされたことが明らかになっている。個人消費を増やす方策など、より息の長い成長を生み出していたかもしれない困難な改革は無視され、中国共産党による支配を強化するために計画された政策が優先された。
今や中国は債務にあえいでおり、何兆ドルもの家計資産を消し去った不動産不況のせいで不安定になり、デフレスパイラルに陥りかけている。経済成長は減速し、西側諸国からの投資は急減し、消費者信頼感は過去最低水準に近い。
しかし、中国が貿易を巡る2度目の対決に向けて米国とにらみ合いとなる中で、習氏は従来の姿勢に固執している。習氏は自身のトップダウン型の経済運営手法について、中国をさらに強力な工業大国にするための計画と合わせ、中国が経済力でいずれ米国を追い越すための最善の道をもたらすと確信している。
中国政府の意思決定に近い人々によると、唯一の超大国としての米国の勢いが衰えており、世界の舞台で中国の重要性が高まっているという習氏の考えは、近年中国に降りかかったいかなる出来事によっても変わっていない。
北京を拠点とするある対外政策アドバイザーは「習氏は東が台頭し、西が衰退しつつあると今もなお考えている」と語った。これは、中国の輸出品に対する西側の需要にけん引されて、中国経済が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの一時的な回復を経験した3年前に、習氏が表明した世界観を指す。「彼の見解では、それは直線的ではないかもしれない」
習氏は自身のビジョンを達成するために、米国とのさらなる通商紛争に持ちこたえようと、半導体など中国が必要なものは何でも生産することを目的とした包括的な工業サプライチェーン(供給網)の構築を進めている。
習政権はまた、ドナルド・トランプ次期米大統領のいかなる関税引き上げにも対抗する計画を立てている。その計画は米国が半導体、車のエンジンや防衛関連製品を作るのに必要とする原材料の販売を制限するなどの報復措置を通じて実行されるものだ。習氏は途上国の仲間づくりを進め、米国に対する圧力を強めようとしている。
多くのエコノミストの主張によると、習氏の対応に欠けているのは、困難ではあるが、同国の傷ついた経済を立て直すために必要とされる方策だ。
中国政府は最近、幾つかの景気刺激策を導入したが、不動産業界の問題を一掃し、地方政府の債務を完全に再編して、消費を大幅に増やすための決定的な措置を講じてはいない。消費の大幅増は、長期的に経済成長の支えとなる。
野村総合研究所のチーフエコノミストを務めるリチャード・クー氏は、「問題の多くは政府自身が招いたものだ」と述べる。多くのエコノミストと同様に、クー氏は中国が、「時間との戦い」と同氏が呼ぶ状況に直面していると考えている。同氏は同国が不利な人口動態の悪影響もあって長期的な低迷に陥る前に、山積する経済成長に関する問題に対処する必要があるとみている。
中国指導部に関する質問に対応する国務院新聞弁公室に質問をしたところ、国家発展改革委員会、中央銀行である中国人民銀行と産業および商業を管轄する省庁への照会を求められた。これらの組織のうち、質問に回答したところは一つもなかった。
習氏の動きを追って
歴代の中国の指導者たちが経済的な混乱に直面した際にそうだったように、習氏には経済を立て直す機会があった。記者は過去10年間にわたり、最前列でその様子を見ていた。
彼は分岐点に差し掛かると常に、国の支配力を強める道を選び、多くの中国のエコノミストが必要だと指摘していた類いの改革を避けた。中国の経済問題の一部は、習氏が権力を握る前に始まっていたが、同氏は問題を解決できなかった。これを受けて、一部の政府内のアドバイザーさえも内輪では、失われた10年について話し始めるようになった。
記者は2018年9月、北京の釣魚台迎賓館で行われた経済フォーラムに出席した。当時、一部の市場重視派の当局者は、トランプ氏の関税を巡る脅しによって、中国政府が長い間行わなかった改革への着手を迫られることを期待した。民間企業が繁栄するための余地を拡大するといった改革だ。
リベラルな思想を持つ張曙光(Zhang Shuguang)氏は、フォーラムの聴衆に、中国の「改革開放」時代を始動させた指導者、鄧小平の政策を思い出させた。鄧は、米国や他の先進諸国と中国の融合に注力した。
張氏は、米国との終わりのない貿易戦争の中で報復合戦を繰り広げることのないよう注意しながら「必要な譲歩をすべきだ」と語った。
しかし習氏はそうした対応を取らず、貿易戦争に対処するために国家統制を強め、国内産業を助成する決意を固めた。それによって対米摩擦が強まるリスクがあったにもかかわらず、そうしたのだ。
習政権は、半導体、電気自動車(EV)などお気に入りの産業分野に巨額の補助金を注ぎ込むとともに、各工場の生産拡大のための融資を増やすよう銀行に働き掛けた。
習氏はまた、民間部門の取り締まりを開始した。その狙いは不合理なリスク選好姿勢を抑え込み、産業界の大物たちを屈服させることだったが、それは最終的に、中国の起業家精神の喪失につながった。
その結果、政府の支援を受けた企業の支配的地位が中国経済の中で次第に強まり、鉄鋼、EVなどの生産能力の過剰状態が深刻化していった。現在の中国は、2018年当時よりも経済成長に関する輸出依存度が高くなっており、トランプ氏が提唱している類いの関税の打撃を以前よりも受けやすくなっている。
その一方で中国政府は、悪化するに任せて何年間も放置してきた問題の解決に向け、中途半端な対応しか取ってこなかった。権力基盤を固めた習氏は、これまで首相が担ってきた経済運営に関しても個人支配を強めた。習氏はまた、忠誠心の強い者たちを自らの周辺に集めたが、彼らは経済政策立案の経験が乏しかった。
「デフレの何が悪い」
今年に入ってから中国経済の上に暗雲が垂れ込めた際に、共産党のある諮問機関が政府幹部向けの報告書を作成した。同報告は、中国が経済成長再活性化のための諸策を緊急に実施しなければ、米国の大恐慌時に起きたような壊滅的なデフレスパイラルに陥る恐れがあると警告していた。
習氏は動揺しなかった。
中国政府の意思決定者らに近い人々によると、習氏はアドバイザーらに「デフレの何がそんなに悪いのか」「物価が下がれば人々は喜ぶのではないのか」と尋ねた。
関係者らによると、習氏がこの警告に取り合わなかったことで、エコノミストの間で中国が物価下落と需要減退の悪循環に陥る可能性が懸念されていたにもかかわらず、この話題は中国の政策決定関係者内ではほとんどタブーとなった。今月行われたハイレベル会合で、指導部は「合理的な物価回復」を実現する必要性を認めたが、その方法についての重要部分の詳細は明らかにされていない。
習政権より前の中国は、今よりも積極的に経済課題に対処していた。
1990年代末に中国が過剰生産とデフレに苦しんでいた頃、当時の朱鎔基首相は、不振の国有企業の閉鎖や合併を強行した。その結果大規模な人員整理が行われることになったが、残った企業は強くなった。
中国は2008年、世界的な金融危機の中で、当時の国内総生産(GDP)の約12%に相当する規模の財政出動による景気刺激策を実施した。この施策は中国でその後起きる債務問題の種をまいたものの、成長を維持するためなら何でもするという姿勢を見せたことによって、世界の投資家から中国政府の経済政策立案に対する信頼感を勝ち取った。
トランプ米政権と中国との再対決を控え、一部の中国人エコノミストの間では、新たな貿易戦争によって習政権もとうとう製造業中心の経済政策から、消費者重視に焦点を当てた政策に転換せざるを得なくなるとの期待が浮上している。トランプ氏が関税引き上げの公約を実行すれば、中国の輸出が減少することは避けられず、中国政府は経済を回し続けるために内需を強化しなくてはならなくなるとの見方だ。
だが、状況はトランプ政権1期目から変化した。両政権ともに、一歩も譲らない姿勢を強めている。
オバマ米政権で国家安全保障会議(NSC)の幹部を務めた経験を持つエバン・メデイロス氏は、習氏の指導スタイルでは中国が「トランプ2.0」にうまく対応するのは難しくなるとの見方を示した。
メデイロス氏は「習氏がグランド・バーゲン(包括的な取引)を打ち出せるとは思えない」と語った。
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リンリングウェイ( Lingling Wei)は、ウォールストリートジャーナルの中国特派員であり、WSJチャイナニュースレターの著者です。彼女はビジネスと政治の交差点に焦点を当て、中国の政治経済をカバーしています。中国で生まれ育った彼女は、ニューヨークからジャーナリズムの修士号を取得しており、米国の不動産をカバーし始め、中国の報道で多くの賞を受賞しています。彼女は、2021年にピューリッツァー賞のファイナリストを務めた記者と編集者のチームの1人でした。
米国との再対決に備え、中国を世界最強にするための経済政策に固執
by リンリングウェイ 2024年12月25日
それを「失われた10年」と呼ぶ人もいる。
中国が習近平国家主席の時代に入って10年余りたち、習氏の支配下で達成された同国の経済成長の多くが、持続不可能な借り入れや不動産投機、中国にとって本当は必要でない工場やインフラへの投資によってもたらされたことが明らかになっている。個人消費を増やす方策など、より息の長い成長を生み出していたかもしれない困難な改革は無視され、中国共産党による支配を強化するために計画された政策が優先された。
今や中国は債務にあえいでおり、何兆ドルもの家計資産を消し去った不動産不況のせいで不安定になり、デフレスパイラルに陥りかけている。経済成長は減速し、西側諸国からの投資は急減し、消費者信頼感は過去最低水準に近い。
しかし、中国が貿易を巡る2度目の対決に向けて米国とにらみ合いとなる中で、習氏は従来の姿勢に固執している。習氏は自身のトップダウン型の経済運営手法について、中国をさらに強力な工業大国にするための計画と合わせ、中国が経済力でいずれ米国を追い越すための最善の道をもたらすと確信している。
中国政府の意思決定に近い人々によると、唯一の超大国としての米国の勢いが衰えており、世界の舞台で中国の重要性が高まっているという習氏の考えは、近年中国に降りかかったいかなる出来事によっても変わっていない。
北京を拠点とするある対外政策アドバイザーは「習氏は東が台頭し、西が衰退しつつあると今もなお考えている」と語った。これは、中国の輸出品に対する西側の需要にけん引されて、中国経済が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの一時的な回復を経験した3年前に、習氏が表明した世界観を指す。「彼の見解では、それは直線的ではないかもしれない」
習氏は自身のビジョンを達成するために、米国とのさらなる通商紛争に持ちこたえようと、半導体など中国が必要なものは何でも生産することを目的とした包括的な工業サプライチェーン(供給網)の構築を進めている。
習政権はまた、ドナルド・トランプ次期米大統領のいかなる関税引き上げにも対抗する計画を立てている。その計画は米国が半導体、車のエンジンや防衛関連製品を作るのに必要とする原材料の販売を制限するなどの報復措置を通じて実行されるものだ。習氏は途上国の仲間づくりを進め、米国に対する圧力を強めようとしている。
多くのエコノミストの主張によると、習氏の対応に欠けているのは、困難ではあるが、同国の傷ついた経済を立て直すために必要とされる方策だ。
中国政府は最近、幾つかの景気刺激策を導入したが、不動産業界の問題を一掃し、地方政府の債務を完全に再編して、消費を大幅に増やすための決定的な措置を講じてはいない。消費の大幅増は、長期的に経済成長の支えとなる。
野村総合研究所のチーフエコノミストを務めるリチャード・クー氏は、「問題の多くは政府自身が招いたものだ」と述べる。多くのエコノミストと同様に、クー氏は中国が、「時間との戦い」と同氏が呼ぶ状況に直面していると考えている。同氏は同国が不利な人口動態の悪影響もあって長期的な低迷に陥る前に、山積する経済成長に関する問題に対処する必要があるとみている。
中国指導部に関する質問に対応する国務院新聞弁公室に質問をしたところ、国家発展改革委員会、中央銀行である中国人民銀行と産業および商業を管轄する省庁への照会を求められた。これらの組織のうち、質問に回答したところは一つもなかった。
習氏の動きを追って
歴代の中国の指導者たちが経済的な混乱に直面した際にそうだったように、習氏には経済を立て直す機会があった。記者は過去10年間にわたり、最前列でその様子を見ていた。
彼は分岐点に差し掛かると常に、国の支配力を強める道を選び、多くの中国のエコノミストが必要だと指摘していた類いの改革を避けた。中国の経済問題の一部は、習氏が権力を握る前に始まっていたが、同氏は問題を解決できなかった。これを受けて、一部の政府内のアドバイザーさえも内輪では、失われた10年について話し始めるようになった。
記者は2018年9月、北京の釣魚台迎賓館で行われた経済フォーラムに出席した。当時、一部の市場重視派の当局者は、トランプ氏の関税を巡る脅しによって、中国政府が長い間行わなかった改革への着手を迫られることを期待した。民間企業が繁栄するための余地を拡大するといった改革だ。
リベラルな思想を持つ張曙光(Zhang Shuguang)氏は、フォーラムの聴衆に、中国の「改革開放」時代を始動させた指導者、鄧小平の政策を思い出させた。鄧は、米国や他の先進諸国と中国の融合に注力した。
張氏は、米国との終わりのない貿易戦争の中で報復合戦を繰り広げることのないよう注意しながら「必要な譲歩をすべきだ」と語った。
しかし習氏はそうした対応を取らず、貿易戦争に対処するために国家統制を強め、国内産業を助成する決意を固めた。それによって対米摩擦が強まるリスクがあったにもかかわらず、そうしたのだ。
習政権は、半導体、電気自動車(EV)などお気に入りの産業分野に巨額の補助金を注ぎ込むとともに、各工場の生産拡大のための融資を増やすよう銀行に働き掛けた。
習氏はまた、民間部門の取り締まりを開始した。その狙いは不合理なリスク選好姿勢を抑え込み、産業界の大物たちを屈服させることだったが、それは最終的に、中国の起業家精神の喪失につながった。
その結果、政府の支援を受けた企業の支配的地位が中国経済の中で次第に強まり、鉄鋼、EVなどの生産能力の過剰状態が深刻化していった。現在の中国は、2018年当時よりも経済成長に関する輸出依存度が高くなっており、トランプ氏が提唱している類いの関税の打撃を以前よりも受けやすくなっている。
その一方で中国政府は、悪化するに任せて何年間も放置してきた問題の解決に向け、中途半端な対応しか取ってこなかった。権力基盤を固めた習氏は、これまで首相が担ってきた経済運営に関しても個人支配を強めた。習氏はまた、忠誠心の強い者たちを自らの周辺に集めたが、彼らは経済政策立案の経験が乏しかった。
「デフレの何が悪い」
今年に入ってから中国経済の上に暗雲が垂れ込めた際に、共産党のある諮問機関が政府幹部向けの報告書を作成した。同報告は、中国が経済成長再活性化のための諸策を緊急に実施しなければ、米国の大恐慌時に起きたような壊滅的なデフレスパイラルに陥る恐れがあると警告していた。
習氏は動揺しなかった。
中国政府の意思決定者らに近い人々によると、習氏はアドバイザーらに「デフレの何がそんなに悪いのか」「物価が下がれば人々は喜ぶのではないのか」と尋ねた。
関係者らによると、習氏がこの警告に取り合わなかったことで、エコノミストの間で中国が物価下落と需要減退の悪循環に陥る可能性が懸念されていたにもかかわらず、この話題は中国の政策決定関係者内ではほとんどタブーとなった。今月行われたハイレベル会合で、指導部は「合理的な物価回復」を実現する必要性を認めたが、その方法についての重要部分の詳細は明らかにされていない。
習政権より前の中国は、今よりも積極的に経済課題に対処していた。
1990年代末に中国が過剰生産とデフレに苦しんでいた頃、当時の朱鎔基首相は、不振の国有企業の閉鎖や合併を強行した。その結果大規模な人員整理が行われることになったが、残った企業は強くなった。
中国は2008年、世界的な金融危機の中で、当時の国内総生産(GDP)の約12%に相当する規模の財政出動による景気刺激策を実施した。この施策は中国でその後起きる債務問題の種をまいたものの、成長を維持するためなら何でもするという姿勢を見せたことによって、世界の投資家から中国政府の経済政策立案に対する信頼感を勝ち取った。
トランプ米政権と中国との再対決を控え、一部の中国人エコノミストの間では、新たな貿易戦争によって習政権もとうとう製造業中心の経済政策から、消費者重視に焦点を当てた政策に転換せざるを得なくなるとの期待が浮上している。トランプ氏が関税引き上げの公約を実行すれば、中国の輸出が減少することは避けられず、中国政府は経済を回し続けるために内需を強化しなくてはならなくなるとの見方だ。
だが、状況はトランプ政権1期目から変化した。両政権ともに、一歩も譲らない姿勢を強めている。
オバマ米政権で国家安全保障会議(NSC)の幹部を務めた経験を持つエバン・メデイロス氏は、習氏の指導スタイルでは中国が「トランプ2.0」にうまく対応するのは難しくなるとの見方を示した。
メデイロス氏は「習氏がグランド・バーゲン(包括的な取引)を打ち出せるとは思えない」と語った。
------------------------------------------------------
リンリングウェイ( Lingling Wei)は、ウォールストリートジャーナルの中国特派員であり、WSJチャイナニュースレターの著者です。彼女はビジネスと政治の交差点に焦点を当て、中国の政治経済をカバーしています。中国で生まれ育った彼女は、ニューヨークからジャーナリズムの修士号を取得しており、米国の不動産をカバーし始め、中国の報道で多くの賞を受賞しています。彼女は、2021年にピューリッツァー賞のファイナリストを務めた記者と編集者のチームの1人でした。
今や中国は債務にあえいでおり、何兆ドルもの家計資産を消し去った不動産不況のせいで不安定になり、デフレスパイラルに陥りかけている。経済成長は減速し、西側諸国からの投資は急減し、消費者信頼感は過去最低水準に近い。
しかし、中国が貿易を巡る2度目の対決に向けて米国とにらみ合いとなる中で、習氏は従来の姿勢に固執している。習氏は自身のトップダウン型の経済運営手法について、中国をさらに強力な工業大国にするための計画と合わせ、中国が経済力でいずれ米国を追い越すための最善の道をもたらすと確信していると、WSJのリンリングウェイ氏。
北京を拠点とするある対外政策アドバイザーは「習氏は東が台頭し、西が衰退しつつあると今もなお考えている」と語った。これは、中国の輸出品に対する西側の需要にけん引されて、中国経済が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの一時的な回復を経験した3年前に、習氏が表明した世界観を指す。
習政権はまた、ドナルド・トランプ次期米大統領のいかなる関税引き上げにも対抗する計画を立てている。その計画は米国が半導体、車のエンジンや防衛関連製品を作るのに必要とする原材料の販売を制限するなどの報復措置を通じて実行されるものだ。習氏は途上国の仲間づくりを進め、米国に対する圧力を強めようとしていると、リンリングウェイ氏。
多くのエコノミストの主張によると、習氏の対応に欠けているのは、困難ではあるが、同国の傷ついた経済を立て直すために必要とされる方策だ。
中国政府は最近、幾つかの景気刺激策を導入したが、不動産業界の問題を一掃し、地方政府の債務を完全に再編して、消費を大幅に増やすための決定的な措置を講じてはいないとも。
野村総合研究所のチーフエコノミストを務めるリチャード・クー氏は、「問題の多くは政府自身が招いたものだ」と述べているのだそうです。
クー氏は中国が、「時間との戦い」と同氏が呼ぶ状況に直面していると考えている。同氏は同国が不利な人口動態の悪影響もあって長期的な低迷に陥る前に、山積する経済成長に関する問題に対処する必要があるとみているのだそうです。
習氏は分岐点に差し掛かると常に、国の支配力を強める道を選び、多くの中国のエコノミストが必要だと指摘していた類いの改革を避けた。
中国の経済問題の一部は、習氏が権力を握る前に始まっていたが、同氏は問題を解決できなかった。これを受けて、一部の政府内のアドバイザーさえも内輪では、失われた10年について話し始めるようになったとも。
2018年9月、北京の釣魚台迎賓館で行われた経済フォーラムで、リベラルな思想を持つ張曙光(Zhang Shuguang)氏は、フォーラムの聴衆に、中国の「改革開放」時代を始動させた指導者、鄧小平の政策を思い出させた。鄧は、米国や他の先進諸国と中国の融合に注力したと、リンリングウェイ氏。
松下幸之助氏からも多くを学んだとの話は、広く知られていますね。
張氏は、米国との終わりのない貿易戦争の中で報復合戦を繰り広げることのないよう注意しながら「必要な譲歩をすべきだ」と語った。
しかし習氏はそうした対応を取らず、貿易戦争に対処するために国家統制を強め、国内産業を助成する決意を固めた。
習政権は、半導体、電気自動車(EV)などお気に入りの産業分野に巨額の補助金を注ぎ込むとともに、各工場の生産拡大のための融資を増やすよう銀行に働き掛けた。
習氏はまた、民間部門の取り締まりを開始した。その狙いは不合理なリスク選好姿勢を抑え込み、産業界の大物たちを屈服させることだったが、それは最終的に、中国の起業家精神の喪失につながったと、リンリングウェイ氏。
その結果、政府の支援を受けた企業の支配的地位が中国経済の中で次第に強まり、鉄鋼、EVなどの生産能力の過剰状態が深刻化していった。現在の中国は、2018年当時よりも経済成長に関する輸出依存度が高くなっており、トランプ氏が提唱している類いの関税の打撃を以前よりも受けやすくなっているのだそうです。
権力基盤を固めた習氏は、これまで首相が担ってきた経済運営に関しても個人支配を強めた。習氏はまた、忠誠心の強い者たちを自らの周辺に集めたが、彼らは経済政策立案の経験が乏しい。
今年に入ってから中国経済の上に暗雲が垂れ込めた際に、共産党のある諮問機関が政府幹部向けの報告書を作成した。同報告は、中国が経済成長再活性化のための諸策を緊急に実施しなければ、米国の大恐慌時に起きたような壊滅的なデフレスパイラルに陥る恐れがあると警告していた。
習氏は動揺しなかったのだそうです。
習氏はアドバイザーらに「デフレの何がそんなに悪いのか」「物価が下がれば人々は喜ぶのではないのか」と尋ねたのだと。
習氏がこの警告に取り合わなかったことで、エコノミストの間で中国が物価下落と需要減退の悪循環に陥る可能性が懸念されていたにもかかわらず、この話題は中国の政策決定関係者内ではほとんどタブーとなったのだと。
習政権より前の中国は、今よりも積極的に経済課題に対処していたと、リンリングウェイ氏。
鄧小平の流れを継ぐ共青団派で、集団指導で中国の経済成長を進め米国に次ぐ今日の地位を築いたのですが、習近平の独裁体制構築で集団指導の座から追われたのでした。
トランプ米政権と中国との再対決を控え、一部の中国人エコノミストの間では、新たな貿易戦争によって習政権もとうとう製造業中心の経済政策から、消費者重視に焦点を当てた政策に転換せざるを得なくなるとの期待が浮上している。トランプ氏が関税引き上げの公約を実行すれば、中国の輸出が減少することは避けられず、中国政府は経済を回し続けるために内需を強化しなくてはならなくなるとの見方。
状況はトランプ政権1期目から変化した。両政権ともに、一歩も譲らない姿勢を強めていると、リンリングウェイ氏。
国家安全保障会議(NSC)の幹部を務めた経験を持つエバン・メデイロス氏は、習氏の指導スタイルでは中国が「トランプ2.0」にうまく対応するのは難しくなるとの見方を示したのだそうです。
「習氏がグランド・バーゲン(包括的な取引)を打ち出せるとは思えない」とも!
「トランプ2.0」で、米中冷戦も"2.0"に!
中国は、米国との対峙に際し、同盟国の引きはがし作戦を開始。
中国からの賄賂が取沙汰される岩屋外相は王毅外相と会談し、ビザの大幅緩和等早速懐柔策に嵌められている様な!
中国向けビザ発給緩和、日中交流の拡大狙う 歩み寄りにじむ外相会談:朝日新聞デジタル
# 冒頭の画像は、習近平首席
菩提樹の黄葉
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