この中国の仕掛けに、米国はどう逆襲するのか。中国は、米国にとって代わって新たな覇権国家になれるのか。答えは、世界は、覇権国家不在の「多極化」「無極化」時代に向かうと、メールマガジン『ロシア政治経済ジャーナル(RPE)』の配信で、まぐまぐの殿堂入りを果たした、北野幸伯氏が書かれている記事がありました。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)事件が、世界に大きな衝撃を与えている。加盟国は57ヵ国。米国と緊密なはずの英国、イスラエル、オーストラリアなども参加国だ。米国は、いかに逆襲するのだろうか?
■AIIB事件の本質とは? 「覇権国家」米国の凋落
?習近平が2013年10月、APEC首脳会議で設立を提唱したAIIB。当初は、東アジア、東南アジア諸国が参加するだけの小規模なものになると見られていた。しかし、ふたを開けてみると、加盟国は57ヵ国。そして、参加国の中には、米国と緊密なはずの、英国、イスラエル、オーストラリアなどが、「米国の不参加要求」を「無視して」参加を決めた。
世界的に孤立し、追いつめられた落ち目の覇権国家・米国は、いかに逆襲するのか?今回は、この重要問題を考えてみよう。
?米国の「逆襲方法」の前に、「AIIB事件の本質」について触れておこう。この事件の本質は、「同盟国が米国の言うことを聞かなかったこと」である。これは、それほど重要なことだろうか?
?米国は、「覇権国家」だ。少なくとも、今まではそうだった。ところで、「覇権」とはなんだろう?辞書を見ると、「覇者としての権力。力をもってする支配力」とある。要するに「支配している国」ということである。
?しかし、覇権国家とはいえ、他国を直接統治しているわけではない。?国連には、加盟国が193ヵ国あり、それぞれの国が、「独立した政治を行っている」(という建前である)。
?では、「覇権国家が覇権国家であること」は、なぜわかるのか?ポイントは、「覇権国家の言うことを他国が聞くかどうか?」である。なぜ日本は、「米国の属国」と言われるのか?日本政府が、米国の言うことを聞くからだ。政府が「国益」を最優先に考え、米国の言うことを聞いたり聞かなかったりすれば、日本は「属国」ではなく、「自立国家」と呼ばれるだろう。
?では、覇権国家の影響下にある国々が、言うことを聞かなくなったらどうなるのだろう。答えは、「覇権国家は、覇権国家でなくなる」だ。
■かつてのソ連に見る覇権国家没落の例
?ソ連はかつて、「共産主義陣営」の「覇権国家」だった。しかし、1980年代後半、ソ連経済は深刻な経済危機に陥った。そして、ゴルバチョフの「ソフト路線」もあり、支配下にあった東欧諸国は、もはやソ連を恐れなくなった。
?その時、何が起こったのか?89年、東西ドイツを隔てていた「ベルリンの壁」が崩壊。続いて、東欧で「民主革命」がドミノ式に起こった。そして、ソ連は「覇権国家」としての地位を失った。そればかりでなく、15の国々に分裂してしまった。これは、他国が言うことを聞かなくなり、覇権国が没落した分かりやすい例である。
?このことを踏まえて「AIIB事件」について考えてみよう。米国は、同盟国群に、「中国が主導するAIIBに参加しないよう」要請(命令)していた。ところが、英国は3月12日、G7諸国ではじめて参加を表明。これに、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグ、オーストラリア、韓国などが続いた。
?これらの国々は、「米国の言うことを聞かなかった」。つまり、米国の覇権(支配)を拒否したのだ。これは、「米国が覇権を喪失した象徴的事件」として、歴史に記憶されるはずである。
?そして、米国の要求を無視した国々は、逆に中国の言うことを聞いた。今回の一件だけで「中国が覇権国家になった」と考えるのは早計過ぎる。しかし、「覇権に一歩近づいた」とは言えるだろう。
?では、同盟国たちは、なぜ米国を裏切ったのだろうか?理由は、二つ考えられる。一つは、「AIIBに入ったほうが儲かりそうだ」と判断した。二つ目は、「逆らっても、オバマ米国は何もできないだろう」と判断した。
?特に理由二つ目は、「ソ連末期の状況に非常によく似ている」といえる。
?では、「AIIB事件後」、中国は一直線で「覇権国家」になれるのだろうか?米国は、このまま衰退しつづけ、中国に覇権を「禅譲」するのだろうか?
?もちろん、米国は、黙って覇権を譲ったりしないだろう。江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜、ソ連最初で最後の大統領ゴルバチョフのように、覇権を放り出した例も歴史にはある。しかし、米国は、まだそこまで落ちぶれてはいない。
?米国は、どうやって中国に逆襲するのか?おそらく、「AIIB後」の戦略は、「現在検討中」だろう。たとえ、もう出来上がっていたとしても、公開されるとは考えにくい。
?では、我々は米国が今後どう動くか知ることはできないのだろうか?そうでもない。米国の過去の行動を知ることで、ある程度未来の動きを予測できる。
■反中プロパガンダ(情報戦)と民主化支援で米国は中国に逆襲をする
「情報戦」は、米国がもっとも得意とする分野である。米国がその気になれば、安倍総理を「軍国主義者」にすることも、プーチンを「ヒトラーの再来」にすることもできる。
?中国は、経済力(GDP)、軍事力(軍事費)で、世界1位の米国を猛追している。しかし、「情報力」(プロパガンダ力)は、今も米国が圧倒的強さを誇っている。そして、今後も中国が勝つのは難しそうだ。なぜかというと、中国は、共産党の一党独裁国家であり、普通選挙もなければ、言論・信教・結社の自由もない。世界の誰もが認める「人権侵害国家」でもある。
?米国は、国益によって、中国の異質性を強調したり、しなかったりする。しかし、今後は、中国の「自由のなさ」「人権侵害」などを積極的にプロパガンダするようになるだろう。
?もう一つ、米国は、「反米的な国」での「民主化運動」を支援している。これは、「陰謀論」に思えるが、事実である。
<中略>
これらの事実から考えると、米国が中国における「民主化運動支援」を強化する可能性は強いと思われる。昨年秋、香港の「反政府デモ」が大きな話題になった。これからは、香港だけでなく、チベットやウイグルでも「反中国政府運動」が活発化していくだろう。
■「中国経済崩壊論」の拡散でAIIBつぶしに乗り出すか
「中国経済崩壊論」の拡散も、米国が今後、取るであろう戦略だ。これは「経済戦」の一環である(情報戦でもある)。
?米国は現在、日本と欧州を巻き込み、「対ロシア経済制裁」をしている。しかし、ロシアと違い、世界第2の経済大国・中国に経済制裁を課すことは、困難だろう。そもそも、「AIIBをつくったから制裁する」とはいえない。他の理由で中国を経済制裁しようにも、欧州が「制裁はイヤだ!」といえば、またもや米国の権威は失墜する。
?では、どうするのか?「中国経済の崩壊は近いですよ」という噂を広めるのだ。
?実をいうと、これは完全な「噂」でもない。実際、中国のGDP成長率は、年々下がっている。賃金水準が上がり、外国企業がどんどん東南アジアなどに逃げ出している。だから、米国が「中国経済の崩壊は近い」とプロパガンダしても、必ずしもウソとはいえない。
?事実、最近「中国崩壊説」をよく見かけるようになった。たとえば、ゴールドマン・サックスの元共同経営者ロイ・スミス氏は3月2日、「中国経済の現状は1980年代の日本と似ている点が多い」「日本と同様、バブル崩壊に見舞われるだろう」と述べた。
?さらに、かつては親中派だったデヴィッド・シャンボー(ジョージ・ワシントン大学教授)は3月6日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、「終焉に向かいはじめた中国共産党」を寄稿して、中国政府を激怒させた。
「中国経済を破壊すること」。これは、米国の覇権を守る上で決定的に重要である。なぜなら、米国の同盟国たちが、AIIBに参加したのは「儲かる」と判断したからだ。しかし、中国経済が破綻したら、儲からなくなってAIIBは魅力を失うだろう。さらに、経済がダメになれば、共産党の正統性は失われる。
?そもそも中国共産党は、選挙によって選ばれたわけではなく、なんの正統性もない。それで、毛沢東時代は、「恐怖」によって支配をしていた。小平の時代からは、「共産党のおかげで経済成長ができる神話」を、一党独裁の正統性にした。
?だから、経済成長がストップすれば、中国共産党政権の正統性は消え、ソ連のように体制が崩壊する可能性が強まる。そして、ソ連のようになった中国が米国の覇権に挑むのは、しばらく無理だろう。もちろん、中国経済の破綻は、世界経済へのダメージが大きく、米国も無傷ではいられない。しかし、「背に腹はかえられない」のだ。
■最後の“切り札”はロシアとの和解!? 米国大物リアリストたちの主張
?最後に、米国が中国に勝つために「ロシアと和解する可能性」について触れておこう。「そんなバカな!」「モスクワ在住筆者の妄想だ!」――。恐らくそんな反応が返ってくるだろう。しかし、歴史は、「米国は勝利するためなら敵とも組む」ことを教えている。
?たとえば第2次大戦時、米国は、「資本主義打倒」「米帝打倒」を国是とするソ連と組み、ナチス・ドイツ、日本と戦った。そして、冷戦がはじまると、米国はかつて敵だった日本、ドイツ(西ドイツ)と組んだ。さらに、米国は70年代、ソ連に勝つために中国と和解している。こう見ると、米国が現在の敵・ロシアと組んでも、まったくおかしくはない。
?ニクソンは、ソ連に勝つために、中国と組んだ。今度は、中国に勝つために、ロシアと組む。実をいうと、これを主張しているのは、筆者ではない。
?日本ではあまり報じられていないが、大物リアリストたち、たとえばヘンリー・キッシンジャー、ジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学)、スティーブン・ウォルト(ハーバード大学)などが、「米国はロシアと和解すべき」と主張している(親中派として知られたキッシンジャーやズビグニュー・ブレジンスキーは、中国の本性を知り、親中派を「卒業」したという)。
?理由は簡単で、「米国とロシアが戦えば、得をするのは中国だから」だ。そして、「AIIB事件」で明らかになったように、中国は今、世界でもっとも(正確にいえば米国に次いで)「覇権」に近いところにいる。
?米ロが戦って、「中国に覇権をプレゼントするのは愚かだ」というわけだ。
?さらに、米国一の「戦略家」エドワード・ルトワックは、その著書「自滅する中国」の中で、「ロシアを中国包囲網に入れる重要性」を繰り返し説いている。また、ルトワックは、日本が独立を維持できるか、それとも中国の属国になるかどうかについて、以下のように述べている。
<もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。>(188p)
?ルトワックが主張するように、ロシアを米国側に引き入れることができれば、米国の勝利は確実だろう。しかし、米政府が、「わが国は中ロを同時に敵にしても勝てる」と過信すれば見通しは暗い。
?とはいえ、米国の動向にかかわらず、中国の経済的栄華は終わりつつあるので、中国が覇権国家になれるわけではない。結局、世界は、覇権国家不在の「多極化」「無極化」時代に向かっているように見える。
AIIBに57ヵ国の参加があり、中国が自信を深めたと同時に、期待の大きさから成否の行方が国家の命運を左右する事態となったにもかかわらず、AIIBの格付けが現状では低い見込みで、日本の参加の呼びかけが、G7の参加国も巻き込んで行われていることは、諸兄がご承知の通りです。
GDPに比例した出資金となり、アジア枠がありアジア諸国以外には制限があると言われ、中国が圧倒的な発言権を有する変則的な組織が予測されています。
そもそもの狙いが、バブル崩壊危機が迫る中国経済の、余剰生産能力を、新興国に貸付した資金で需要を喚起し、穴埋めして救済し、併せてシャドーバンキングの不良資産のリスク分散を図ろうというものですから、アジア枠の適用を受け、世界第3位のGDP国の日本は、格付けアップに欠かせないだけでなく、バブル崩壊のリスクを負う絶好のターゲットなのであり、日本には参加のメリットよりリスクが大きい話で、当面参加を見送るのが正解な話というのが大勢をしめつつありますね。
それにしても、米国の制止要請にも関わらず、同盟国やG7の国々が、目前の利益に目が眩んで参加し、米国の威信が低下したことは、世界の警察を止めたと宣言したとは言え、米国もこのまま放置は出来ず、威信回復の為に反撃に出るとの記事。
米国の中国への逆襲は、「情報戦」と「経済戦」。
「情報戦」では、中国の「自由のなさ」「人権侵害」などを積極的にプロパガンダする方法と、「民主化運動(=反政府活動)支援」を強化する方法。後者は、過去の米ソ冷戦期などには歴史上よく使われた手で、ウクライナでは今でもロシアが露骨に使っている手法ですが、大国間で今日使用されるかは疑問符がつきますね。
「経済戦」は、今、ロシアに対して実施しています。ロシアの力による現状変更は、地理的にも欧州各国に近い事や、EU加盟を希望するウクライナ政府への侵略であること、ロシアが撃墜に関与した(親露派への武器及び技術指導)航空機の犠牲者があったことから、対露経済制裁に、G7や欧州関連国のしぶしぶながらも参加を得ていますが、遠い東の果ての中国の脅威は、欧州の国々には及ばないもので、貿易の恩恵が優先され、経済制裁の賛同は得られません。
儲かると見込めるから、米国の制止を振り切って、中国の誘いに乗ったのですから、米国の経済制裁話など、聞き入れられるはずはありません。
そこで採る米国の作戦は、「中国経済崩壊論」の拡散。バブル崩壊危機説は元々ある話ですし、経済諸指標が示す、需要に対する過剰投資、不良在庫、不良債権の増加、賃金上昇や環境対策によるコスト上昇での世界の工場の魅力衰退といった事実がありますから、この「経済戦争」のプロパガンダは、成功確率は高いですね。景気は人の気分に大きく左右されると言われます。経済崩壊論が広まれば、海外からの投資で今日の成長が支えられた中国経済が、その投資が敬遠されれば、低迷に拍車がかかりますね。
習近平が今回、安倍首相との会談を申し入れてきたのも、減少する日本からの投資を呼び戻したいからでした。
記事の中国共産党国家に正統性がないというのは、かねて遊爺も唱えてきたことです。戦勝国を主張する中共ですが、日本と正面で戦って、終戦時に戦勝国だったのは、国民党政権です。戦後、ソ連の支援で国共戦争を起こし、国民党政権を台湾に追い出し、政権を横取りしたのが中国共産党政権です。
毛沢東の「恐怖政治」で政権維持し、後に小平の改革開放経済で始まった今日までの経済成長で支持を保って来たという、北野氏の指摘の通りです。
ところが、経済成長が鈍化し始めた今日、習近平は、派閥の政局争いとあいまって、腐敗撲滅の御旗の基に「恐怖政治」を復活させています。
米国の、「中国経済崩壊論」拡散や、「自由のなさ」「人権侵害」の情報戦は、格差が拡大し、膨大とされる軍事費を上回るとされる、国内治安維持費を要する中国社会には、大きな影響をホディブローのように及ぼすことは、容易に想像できます。
北野氏が挙げるもう一つの手が、ロシアとの対中共同戦線連携。安倍政権は早くから取り入れて模索していましたが、米露の間で可能かどうか?
すくなくとも、オバマ政権の外交手腕では不可能だと考えますがいかがでしょう?
対中抑止力に限った範囲になりますが、安倍首相が仲介できたら、安倍首相は世界史に残る偉大な政治家となれますが...。
中国の経済的栄華は終わりつつあるので、中国が覇権国家になれるわけではない。結局、世界は、覇権国家不在の「多極化」「無極化」時代に向かっているとの北野氏の結びが、真実味を帯びて聞こえるのは、遊爺だけでしょうか?
この花の名前は、プリムラジュリアン
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