世界株価の低迷要因の一つに、オイルマネーの市場撤退が上げられています。
原油価格の低迷で、原油輸出で財政を支える各国の財政が悪化し、金融投資市場から資金を引き揚げて財政補てんせざるをえなくなったからなのですね。
原油価格下落要因は二つ。ひとつは、米国産オイルマネーの台頭で、原油価格の主導権を握るサウジアラビアなどのOPECが、米国との価格競争を仕掛けていることと、イラク紛争でロシアに圧力をかけるためとで、生産調整をせず、価格下落を放置していること。もうひとつは、中国経済の減速での需要減。
そこへ追い打ちをかける様に、米国のイラン制裁解除で、イランの市場復活がありました。
年初には、30ドル/バレルを割るかと思われた価格は、現状では、45ドル/バレル前後に復活していますが、先行き不安定な状況に変わりはありません。
原油価格の推移 - 世界経済のネタ帳
そんななかで、サウジアラビアの若き指導者、ムハンマド皇太子は、米露やイランとの対抗だけでなく、国内経済の脱原油依存を図り、改革を推進しているのですね。
そして、経済改革に向けて、日本にも協力依頼のため来日されました。
サウジの改革意欲に積極的に応えよう (9/11 日本経済新聞 社説)
変わらなければならない。そんな決意がにじむ来日だった。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は、世界最大の原油輸出国であるサウジの外交や経済、石油などの権限を一手に握る。その実力者が多数の閣僚をつれて日本を訪れた。副皇太子が主導する経済・社会改革への協力を求めるためだ。
サウジの安定は世界経済の成長に不可欠だ。日本にとり最大の原油輸入先でもある。大胆な改革の意欲に積極的に応えたい。
副皇太子は4月、2030年を目標とする経済改革構想を発表した。石油頼みの構造を転換し、非石油や民間部門の比率を高める。国営石油会社サウジアラムコの株式を上場し、得た資金を産業の育成や雇用の創出に振り向ける。
サウジは原油輸出が歳入の大半を占める。昨今の原油安で経済は打撃を受けている。イスラム過激派の台頭を防ぐには、増える若年層が働ける場をつくることが急務だ。改革の方向はうなずける。
だが、石油収入を元手に国が教育や福祉を丸抱えしてきた構造を変えるのは簡単ではない。実現には海外からの投資や技術、経験の導入が欠かせない。
改革構想は中小企業の育成や労働力としての女性の活用など、これまでサウジが重視してこなかった分野にも踏み込んでいる。経済閣僚がそろって日本との協力を訴える姿は、サウジの変革への本気度を示す機会になった。
ものづくりの伝授や人材の育成は日本の得意分野だ。日本が手をさしのべることは新たなビジネスの機会を生み、サウジとの関係強化を通じてエネルギーの安定調達にもつながるはずだ。
サルマン国王の息子であるムハンマド副皇太子は31歳になったばかりだとされる。大胆な改革は強大な権限を握る若き実力者だからからこそ踏み出せたといえる。
一方、イエメン内戦への軍事介入やイランとの断交など、副皇太子が主導する外交・安全保障政策は危うさもただよう。
サウジとイランという、ペルシャ湾を挟んで対峙する2つの大国の対立は中東の緊張を高める要因になっている。シリア内戦の収拾にもサウジは欠かせない。
副皇太子は混迷する中東の将来を握る一人である。改革を後押しすると同時に、中東安定に向けたサウジの努力を促すことも日本は忘れてはならない。
変わらなければならない。そんな決意がにじむ来日だった。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は、世界最大の原油輸出国であるサウジの外交や経済、石油などの権限を一手に握る。その実力者が多数の閣僚をつれて日本を訪れた。副皇太子が主導する経済・社会改革への協力を求めるためだ。
サウジの安定は世界経済の成長に不可欠だ。日本にとり最大の原油輸入先でもある。大胆な改革の意欲に積極的に応えたい。
副皇太子は4月、2030年を目標とする経済改革構想を発表した。石油頼みの構造を転換し、非石油や民間部門の比率を高める。国営石油会社サウジアラムコの株式を上場し、得た資金を産業の育成や雇用の創出に振り向ける。
サウジは原油輸出が歳入の大半を占める。昨今の原油安で経済は打撃を受けている。イスラム過激派の台頭を防ぐには、増える若年層が働ける場をつくることが急務だ。改革の方向はうなずける。
だが、石油収入を元手に国が教育や福祉を丸抱えしてきた構造を変えるのは簡単ではない。実現には海外からの投資や技術、経験の導入が欠かせない。
改革構想は中小企業の育成や労働力としての女性の活用など、これまでサウジが重視してこなかった分野にも踏み込んでいる。経済閣僚がそろって日本との協力を訴える姿は、サウジの変革への本気度を示す機会になった。
ものづくりの伝授や人材の育成は日本の得意分野だ。日本が手をさしのべることは新たなビジネスの機会を生み、サウジとの関係強化を通じてエネルギーの安定調達にもつながるはずだ。
サルマン国王の息子であるムハンマド副皇太子は31歳になったばかりだとされる。大胆な改革は強大な権限を握る若き実力者だからからこそ踏み出せたといえる。
一方、イエメン内戦への軍事介入やイランとの断交など、副皇太子が主導する外交・安全保障政策は危うさもただよう。
サウジとイランという、ペルシャ湾を挟んで対峙する2つの大国の対立は中東の緊張を高める要因になっている。シリア内戦の収拾にもサウジは欠かせない。
副皇太子は混迷する中東の将来を握る一人である。改革を後押しすると同時に、中東安定に向けたサウジの努力を促すことも日本は忘れてはならない。
「サウジの安定は世界経済の成長に不可欠」と指摘されている通りで、地域の安全保障も含め安定化が求められていますね。
自らが仕掛けた面もある価格下落のチキンレース。中国の需要減(米国も在庫過多)、イランの市場復活が加わり、かつてサウジを中心とした、OPECでの価格主導力は失われてきています。
元々限界がある原油資源。そこへの脱依存は産油国の命題で、オイルマネーは金融市場の他に、農地の獲得などにもトライしていました。ムハンマド副皇太子の脱原油依存の経済改革は、その命題にむけてのものでもあるのですね。
日本流の貢献が出来ることを願います。そこには、米露の様に対立課題がない日本としての、政情安定へ向けての役割も含まれますね。
現状と展望については、以下の記事が更に詳しいので、ご参照ください。(全文は、表題部分のリンクをクリックしてご覧ください。)
サウジアラビアが原油増産凍結に合意できない理由 とにかくしのぎたい目の前のカネ不足 藤 和彦 2016.09.09(金)
まったく拍子抜けする内容だった。中国・杭州で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(9月4~5日)における、ロシアとサウジアラビアの共同声明のことである。
複数のメディアが「5日夕方にロシアとサウジアラビアが原油市場に関する共同声明を発表する」との関係筋の発言を報じると、市場関係者がざわめき立った。2大産油国(ロシアの生産シェアは12%、サウジアラビアは11%)があえて共同声明発表の形をとる以上は、原油需給に何か大きな修正を迫るような動き、つまり原油の増産凍結に関する動きがあるのではないかと推察されたからだ。
しかし、増産凍結につながる具体的な話は何も出なかった。 記者会見でロシアのノヴァク・エネルギー相は「原油市場の安定化を目指した増産凍結について話し合った」と発言したが、サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は「増産凍結は望ましい可能性のうちの1つだが、現時点では必要ない」との考えを示した。
結局、共同声明は、「両国は、月内にアルジェで開催される国際エネルギー・フォーラムで協議を続けるほか、10月には石油・ガスで協力するための2国間の作業グループを設置し、11月のOPEC会合でも協議する」と、原油市場の安定化に向けて両国が今後も協力する方針を確認するだけにとどまった。
<中略>
■サウジ全体を覆う「カネ不足」
本来、サウジアラビアにとって、原油安の状況を打破できるかどうかは死活問題のはずである
サウジアラビアのムハンマド副皇太子は、G20首脳会議への参加直前に、最も重要な原油輸出国である日本と中国を訪問し、脱石油依存を掲げる「ビジョン2030」への積極的な関与を要請した。
サウジ国内で、ビジョン2030は、石油の富の分配で国を経営するやり方はそのままにし、その上で世界最大の国家ファンドを作り上げて新しいパイを増やす国家戦略だと捉えられている。冨の分配の恩恵にあずかれない疎外された人々(特に若者)にとって、新たな活躍の場が提供されることを意味するため、ビジョン2030を歓迎する声は多い。今のところは国内の不満を抑え込む強力な効果を発揮しており、政府としてはビジョン2030の実現をなんとしてでも成功させなければならない。
鍵を握るのはサウジアラムコの株式公開である(ムハンマド副皇太子は株式公開を日本と中国でも行う意向を表明した)。サウジアラムコの企業価値を高めるためには、原油価格の持続的上昇が不可欠である。このような観点から「サウジアラビアが原油安政策を転換させるのではないか」との観測が出ていた(9月2日付ロイター)。
それにもかかわらず、サウジアラビアはなぜ増産凍結合意に前向きになれないのだろうか。
その答えは国全体を覆う「カネ不足」にあると筆者は考えている。
サウジアラビア通貨庁(中央銀行)が8月28日に公表した統計によれば、7月末の外貨準備高は前月比60億ドル減の5550億ドルとなった。原油安で生じた財政赤字の穴埋めのため、政府による資産引き出しが進んでいる。2014年8月に過去最高の7370億ドルに達した後減少に転じた外貨準備は、今年だけでも7月までに530億ドル減少し、2012年2月以来の低水準となっている。
マネーサプライは昨年前半から7%も減少し、短期金利は2.3台と約8年ぶりの高水準となっている。サウジアラビア最大の銀行(National Commercial Bank)の株価も8月下旬に最安値を更新した。
<中略>
■長期化するイエメン軍事作戦が財政を圧迫
サウジアラビアの財政にとって、もう1つ大きな問題がある。赤字財政の元凶である軍事予算だ。軍事予算に手を付けない限り、抜本的な改善は見込めない。
ストックホルム国際平和研究所によれば、2015年のサウジアラビアの軍事費の対GDP比率は13.7%で過去最高であり、53億ドル分がイエメンの軍事作戦に充てられた。中東湾岸諸国全体の軍事費の62%をサウジアラビアが占めるなど、サウジアラビアの「先軍政治」は群を抜いている(対立するイランの軍事費は12%を占めるに過ぎない)。
イエメン内戦は今年4月に停戦が発効したものの長続きせず、和平協議は行き詰まったままである。戦闘の激化に乗じてイエメン国内でアルカイダやIS(イスラム国)が勢力を伸ばしていることも気になるところだ。8月29日、ISはイエメン南部アデンにある政府軍の訓練施設で車両を使った自爆テロを行い、100人以上が死傷した。
イエメン情勢の混迷はサウジアラビアにも波及し始めている。
8月27日、シーア派武装組織「フーシ」が掌握するイエメンのサバ通信は「サウジアラビアに向けてミサイル1発が発射された」と報じた。サウジアラビア内務省は「イエメンから発射された1つの飛翔体によりサウジアラビア南部の送電設備で火災が発生した」ことは認めたが、その詳細を明らかにしていない。サウジアラムコの石油・ガスおよび精製施設はすべて通常通り稼働しているというが、イエメン軍事作戦の長期化はサウジアラビアの地政学的リスクを確実に上昇させている。
長引く原油安による財政への圧迫と、国内石油施設の脆弱性。サウジアラビアの今後の動向にますます目が離せなくなっている。
まったく拍子抜けする内容だった。中国・杭州で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(9月4~5日)における、ロシアとサウジアラビアの共同声明のことである。
複数のメディアが「5日夕方にロシアとサウジアラビアが原油市場に関する共同声明を発表する」との関係筋の発言を報じると、市場関係者がざわめき立った。2大産油国(ロシアの生産シェアは12%、サウジアラビアは11%)があえて共同声明発表の形をとる以上は、原油需給に何か大きな修正を迫るような動き、つまり原油の増産凍結に関する動きがあるのではないかと推察されたからだ。
しかし、増産凍結につながる具体的な話は何も出なかった。 記者会見でロシアのノヴァク・エネルギー相は「原油市場の安定化を目指した増産凍結について話し合った」と発言したが、サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は「増産凍結は望ましい可能性のうちの1つだが、現時点では必要ない」との考えを示した。
結局、共同声明は、「両国は、月内にアルジェで開催される国際エネルギー・フォーラムで協議を続けるほか、10月には石油・ガスで協力するための2国間の作業グループを設置し、11月のOPEC会合でも協議する」と、原油市場の安定化に向けて両国が今後も協力する方針を確認するだけにとどまった。
<中略>
■サウジ全体を覆う「カネ不足」
本来、サウジアラビアにとって、原油安の状況を打破できるかどうかは死活問題のはずである
サウジアラビアのムハンマド副皇太子は、G20首脳会議への参加直前に、最も重要な原油輸出国である日本と中国を訪問し、脱石油依存を掲げる「ビジョン2030」への積極的な関与を要請した。
サウジ国内で、ビジョン2030は、石油の富の分配で国を経営するやり方はそのままにし、その上で世界最大の国家ファンドを作り上げて新しいパイを増やす国家戦略だと捉えられている。冨の分配の恩恵にあずかれない疎外された人々(特に若者)にとって、新たな活躍の場が提供されることを意味するため、ビジョン2030を歓迎する声は多い。今のところは国内の不満を抑え込む強力な効果を発揮しており、政府としてはビジョン2030の実現をなんとしてでも成功させなければならない。
鍵を握るのはサウジアラムコの株式公開である(ムハンマド副皇太子は株式公開を日本と中国でも行う意向を表明した)。サウジアラムコの企業価値を高めるためには、原油価格の持続的上昇が不可欠である。このような観点から「サウジアラビアが原油安政策を転換させるのではないか」との観測が出ていた(9月2日付ロイター)。
それにもかかわらず、サウジアラビアはなぜ増産凍結合意に前向きになれないのだろうか。
その答えは国全体を覆う「カネ不足」にあると筆者は考えている。
サウジアラビア通貨庁(中央銀行)が8月28日に公表した統計によれば、7月末の外貨準備高は前月比60億ドル減の5550億ドルとなった。原油安で生じた財政赤字の穴埋めのため、政府による資産引き出しが進んでいる。2014年8月に過去最高の7370億ドルに達した後減少に転じた外貨準備は、今年だけでも7月までに530億ドル減少し、2012年2月以来の低水準となっている。
マネーサプライは昨年前半から7%も減少し、短期金利は2.3台と約8年ぶりの高水準となっている。サウジアラビア最大の銀行(National Commercial Bank)の株価も8月下旬に最安値を更新した。
<中略>
■長期化するイエメン軍事作戦が財政を圧迫
サウジアラビアの財政にとって、もう1つ大きな問題がある。赤字財政の元凶である軍事予算だ。軍事予算に手を付けない限り、抜本的な改善は見込めない。
ストックホルム国際平和研究所によれば、2015年のサウジアラビアの軍事費の対GDP比率は13.7%で過去最高であり、53億ドル分がイエメンの軍事作戦に充てられた。中東湾岸諸国全体の軍事費の62%をサウジアラビアが占めるなど、サウジアラビアの「先軍政治」は群を抜いている(対立するイランの軍事費は12%を占めるに過ぎない)。
イエメン内戦は今年4月に停戦が発効したものの長続きせず、和平協議は行き詰まったままである。戦闘の激化に乗じてイエメン国内でアルカイダやIS(イスラム国)が勢力を伸ばしていることも気になるところだ。8月29日、ISはイエメン南部アデンにある政府軍の訓練施設で車両を使った自爆テロを行い、100人以上が死傷した。
イエメン情勢の混迷はサウジアラビアにも波及し始めている。
8月27日、シーア派武装組織「フーシ」が掌握するイエメンのサバ通信は「サウジアラビアに向けてミサイル1発が発射された」と報じた。サウジアラビア内務省は「イエメンから発射された1つの飛翔体によりサウジアラビア南部の送電設備で火災が発生した」ことは認めたが、その詳細を明らかにしていない。サウジアラムコの石油・ガスおよび精製施設はすべて通常通り稼働しているというが、イエメン軍事作戦の長期化はサウジアラビアの地政学的リスクを確実に上昇させている。
長引く原油安による財政への圧迫と、国内石油施設の脆弱性。サウジアラビアの今後の動向にますます目が離せなくなっている。
サウジは何故増産凍結合意に前向きになれないのか。答えは、「カネ不足」。「カネ不足」は何故生じたのか。原油価格下落と軍事費支出。さらに、「カネ不足」で悪化した財政の穴埋めでの(本来は収入源である)投資資金の回収・補填の悪循環。ムハンマド副皇太子の苦闘は続きますね。
# 冒頭の画像は、ムハンマド副皇太子と安倍首相
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