東アジアでは、中国によって台湾海峡の緊張が高まっていますが、ロシアと欧米間ではウクライナに向けたロシアの侵攻の危機が高まっていることは諸兄がご承知のことです。
このロシアの侵攻について、バイデン大統領は、アフガニスタン撤退と同様に失政を犯しているとの声があると小川博司氏。
ジョンソン英首相がキエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際に、ゼレンスキー大統領は、今回の危機はロシアとウクライナの戦争ではなく、ヨーロッパの戦争危機だと警告したのだそうです。
同じ日、ハンガリーのオルバン首相と会談したプーチン大統領は、ロシアは自国の安全保障のために行動しているのであり、米国は自分たちを戦争に追い込もうとしている、ロシアの安全を保証する覚書が必要だという趣旨の発言をしたのだとか。
ウクライナにおける政府軍と分離独立を求めるロシア系住民軍との内戦の構図を知らずして、現時点で「強いロシアが弱いウクライナに侵攻する」という紋切り型の見方をするのは間違いだろうと小川氏。
米露ともに国連の常任理事国で決議への拒否権を持っている以上、同理事会による制裁決議は出てこない。すなわち、国連がウクライナ情勢において機能することは期待できず、国連が金属疲労を起こしていることが露呈したと。
バイデン政権が1月27日に発表した対ロシア経済制裁案は非常に厳しいものなのだそうで、例えばSWIFT(国際銀行間通信協会)の利用禁止。
既に効果は世界の金融・証券市場に現れており、ロシア国債は急落している。ただ、ロシアに強い影響を与えるには、中国などの友好国が支援しないことが条件となとも。
SWIFTが発動されると、単純にロシアは貿易代金の決済などができなくなり、ロシア経済が干上がってしまう。2021年8月のアフガニスタン撤退での失敗以来、鬱屈するものがたまっていた米国民にとっては、久々に胸をすくような内容であると小川氏。
ブリンケン国務長官は、「たった一人のロシア軍人でもウクライナ領に足を踏み入れれば制裁を開始する」と語った。SWIFTの利用停止を突き付けられた以上、ロシアは同国務長官の言葉を無視できない。
ワシントンでは、昨年12月20日にウクライナのキエフ入りした民主党のクロウ下院議員を含めた3人の下院議員は、米軍やNATO軍がウクライナ支援を始めるトリガーとして、「ロシア軍の動きによって、ウクライナからの避難民がNATO加盟国内に入れば、それをNATOへの攻撃と見なす」と語ったという話も出ている。これまた「強いアメリカ」を思わせるものだと小川氏。
バイデン政権は、中間選挙を9カ月後後に控え、外交で点数を稼ごうとしている印象だと。
ところが、バイデン政権の対応はちぐはぐさも垣間見られ、アフガン撤退に続くチョンボかと小川氏。
まず、NATOとの結束を重視するあまり、ロシアにとってSWIFTの利用停止に次いで影響の大きい、ガスパイプライン(ノードストリーム2)を止める法案には反対した。
ロシアの天然ガスに依存する国からの反発が水面下であったとホワイトハウス関係者。
また、バイデン政権の要請はウクライナ領への武力侵攻の中止であり、ウクライナ国境に集まった12万人を超えるロシア軍の撤退でもなければ、17万5000人が目標とされるロシア軍のさらなる増強を止めることでもない。いつまでにロシアと米国及びNATOが紛争を回避するかという期限も切っていない。
バイデン大統領は、プーチン大統領に時間稼ぎの時間を与えてしまった。その間、プーチン大統領はNATO内の亀裂や米国内の反発などを待つことが可能になると小川氏。
ウクライナと言えば、バイデン大統領の次男であるハンター氏がウクライナ企業からの巨額な利益を得たという疑惑もあった。
ゼレンスキー大統領は2019年に、国内の国営企業でロシア語の使用を禁止しようとしたことがある。これはウクライナ語だけを公用語とした2014年の指令と同じで、ロシア語しか話せないロシア系住民にとってはジェノサイドである。
これは、「中国がチベットや内モンゴルで中国語を強要しようとしている」と、米国が目くじらを立てて中国を批判している理由の一つと同じ。
これに対して、プーチン大統領はウクライナ領内にいるロシア系住民のうち60万人にロシア・パスポートを発行。
更に不思議なバイデン大統領の判断が、バイデン大統領のゼレンスキー大統領との会談や、プーチン大統領と8回の会談。
ウクライナ政府軍によるドローン攻撃の約2カ月前にゼレンスキー大統領と会談。
ドローン攻撃をやめるよう、要請することは可能だったはずだと。
また、ゼレンスキー大統領がロシア語の利用を禁止しようという意図を持っていることも、当然、把握しているはずだ。人権重視の民主党の党是を考えれば、こちらも要請すべき話である。
だが、バイデン大統領は、そのどちらも要求しなかったのではないだろうかと小川氏。
バイデン大統領は政権発足以来、プーチン大統領と8回の会談を実施していることにも注目すべきだと。
プーチン大統領が「ウクライナはロシアと一体だ」とする論文を出した7月以降に限っても、ゼレンスキー大統領との会談の後の9月22日、ウクライナ軍のドローン攻撃がありロシア軍が動き始めた10月31日、ロシア軍のウクライナ国境滞在長期化が始まった12月7日と、重要な局面で会談している。
なのに、プーチンの動きは変わらず、今回の対ロシア経済政策案の発表という最後通牒に近いものを出さざるを得なくなった。
バイデン大統領がプーチン大統領の動きやウクライナ問題に対する見立てが甘かったからではないのかと小川氏。
そういった不満が議会共和党の中から漏れている。アフガニスタンからの撤退の時のように取り返しのつかないミスを犯したのではないのか、という批判が混じるほどだと。
ブリンケン国務長官やオースチン国防長官は外交によって解決することを望むと発表している。だが、プーチンとのトップ会談で解決できないバイデン政権が話し合いによる落としどころを見つけることができるのだろうか。そんな不満がマグマのようにたまり始めているのだそうです。
プーチン大統領としての最大の課題は、隣接国がNATOに加盟しNATOの対ロ圧力が強まる事。
NATO加盟の意思を示しているウクライナについて、米国とNATO諸国が申請を拒否する理由はない。それどころか、米国とNATOによる現在のウクライナ支援は、将来のNATO加盟を前提にしていると考えられる。
ウクライナが敵陣営に入るということは、モスクワからわずか870キロのキエフに敵軍が布陣することを意味し、ナポレオンとヒトラーの二大ロシア侵略を失敗させた冬将軍のパワーを失わせてしまう。
ロシアとしてはウクライナのNATO加盟を是が非でも止めたいのですね。
ウクライナ政府がロシア系住民を抑圧するのを止めるべくプレッシャーをかけるとの大義名分の下、長期化を覚悟でロシア軍を待機させる方がプーチン大統領にとっては最適解だろうと小川氏。
21世紀にひとつ東西分断の壁が誕生することになるのでしょうか。
# 冒頭の画像は、緊張が高まるウクライナ国境
この花の名前は、ホトトギス
政府広報(北方領土問題) - YouTube
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
このロシアの侵攻について、バイデン大統領は、アフガニスタン撤退と同様に失政を犯しているとの声があると小川博司氏。
バイデン政権のウクライナ対応、アフガン撤退に続くチョンボか 8回の首脳会談でプーチンを止められなかった米国に何ができる? | JBpress (ジェイビープレス) 2022.2.3(木) 小川 博司
緊張が続くウクライナ情勢だが、2月1日、ジョンソン英首相がキエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ゼレンスキー大統領は、今回の危機はロシアとウクライナの戦争ではなく、ヨーロッパの戦争危機だと警告した。これは恐らく、国境付近におけるロシア軍の駐留が3カ月に及ぼうとしていることへの不満だろう。
同じ日、ハンガリーのオルバン首相と会談したプーチン大統領は、ロシアは自国の安全保障のために行動しているのであり、米国は自分たちを戦争に追い込もうとしている、ロシアの安全を保証する覚書が必要だという趣旨の発言をした。それに対して、オルバン首相は「重要なのは平和であり、EUはいつでも話し合いをする用意がある」と答えている。
米国以外の役者が動き始めたのだ。
果たして、バイデン政権は米国主導でウクライナ情勢を沈静化させることはできるのだろうか。
プーチンがウクライナ侵攻をするのかしないのかは神のみぞ知る話だが、ウクライナにおける政府軍と分離独立を求めるロシア系住民軍との内戦の構図を知らずして、現時点で「強いロシアが弱いウクライナに侵攻する」という紋切り型の見方をするのは間違いだろう。
国連安全保障理事会での議論は白熱したまま推移するだろうが、米露ともに常任理事国で決議への拒否権を持っている以上、同理事会による制裁決議は出てこない。すなわち、国連がウクライナ情勢において機能することは期待できず、発足から80年を経て金属疲労を起こしていることが露呈した。
バイデン政権が1月27日に発表した対ロシア経済制裁案は非常に厳しいものだ。一例を挙げると、SWIFT(国際銀行間通信協会)の利用禁止だ。これは対中政策としてウイグルでの強制労働問題が議会で議論された際にも制裁案の一つとして取り上げられたが、最後は見送られた。それほどの劇薬なのだ。
既に効果は世界の金融・証券市場に現れており、ロシア国債は急落している。ただ、ロシアに強い影響を与えるには、中国などの友好国が支援しないことが条件となる。北朝鮮に経済制裁しても、中国国境から物資が送られれば効果が薄くなるのと同じである。
SWIFTの利用停止が与える影響
SWIFTとは、全世界で1万1000社以上の銀行が加盟する、国際送金や決済に必要な金融情報を安全勝つ迅速に送るシステムである。世界中のあらゆる銀行はSWIFTを使わない限り国際送金ができず、現時点ではSWIFTに代わるシステムも存在しない。
この経済制裁案が発動されると、単純にロシアは貿易代金の決済などができなくなり、ロシア経済が干上がってしまう。2021年8月のアフガニスタン撤退での失敗以来、鬱屈するものがたまっていた米国民にとっては、久々に胸をすくような内容である。
ブリンケン国務長官は、「たった一人のロシア軍人でもウクライナ領に足を踏み入れれば制裁を開始する」と語った。SWIFTの利用停止を突き付けられた以上、ロシアは同国務長官の言葉を無視できない。
ワシントンでは、昨年12月20日にウクライナのキエフ入りした民主党のクロウ下院議員を含めた3人の下院議員は、米軍やNATO軍がウクライナ支援を始めるトリガーとして、「ロシア軍の動きによって、ウクライナからの避難民がNATO加盟国内に入れば、それをNATOへの攻撃と見なす」と語ったという話も出ている。これまた「強いアメリカ」を思わせるものだ。
ちなみに、ウクライナ国境に近いロシアのエリニャからベラルーシ経由でロシア軍がウクライナに向かえば、ベラルーシからポーランドへの避難者が増えるかもしれない。クロウ下院議員が言う「避難民」には、これも含まれている。
現在は他に7人の米上院議員もキエフを訪問しており、彼らも米国の支援姿勢を明らかにしている。
バイデン政権は、中間選挙を9カ月後後に控え、外交で点数を稼ごうとしている印象だ。
ところが、バイデン政権の動きからは、ちぐはぐさも垣間見られる。
パイプラインの停止までは踏み込まない中途半端感
まず、NATOとの結束を重視するあまり、ロシアにとってSWIFTの利用停止に次いで影響の大きい、ガスパイプライン(ノードストリーム2)を止める法案には反対した。ノードストリーム2の停止については、ドイツなどロシアの天然ガスに依存する国からの反発が水面下であったとホワイトハウス関係者は漏らしている。
また、バイデン政権の要請はウクライナ領への武力侵攻の中止であり、ウクライナ国境に集まった12万人を超えるロシア軍の撤退でもなければ、17万5000人が目標とされるロシア軍のさらなる増強を止めることでもない。いつまでにロシアと米国及びNATOが紛争を回避するかという期限も切っていない。
そのため、プーチン大統領はロシア軍の兵站が続く限り、ウクライナ国境に軍を集結させたまま時間を稼ぐことができる。バイデン大統領は、プーチン大統領に時間稼ぎの時間を与えてしまった。その間、プーチン大統領はNATO内の亀裂や米国内の反発などを待つことが可能になる。
表向きは「強いアメリカ」の復活を感じさせる対ロシア経済制裁だが、国務省関係者の不満はむしろ高まっているようだ。
ウクライナと言えば、米大統領選挙のあった2020年、トランプ大統領による同国への不正な武器供与疑惑が弾劾裁判にまでなって米政界を揺るがせたことは記憶に新しい。バイデン大統領の次男であるハンター氏がウクライナ企業からの巨額な利益を得たという疑惑もあった。
他方、ゼレンスキー大統領は2019年に、国内の国営企業でロシア語の使用を禁止しようとしたことがある。これはウクライナ語だけを公用語とした2014年の指令と同じで、ロシア語しか話せないロシア系住民にとってはジェノサイドである。これは、「中国がチベットや内モンゴルで中国語を強要しようとしている」と、米国が目くじらを立てて中国を批判している理由の一つと同じだ。
これに対して、プーチン大統領はウクライナ領内にいるロシア系住民のうち60万人にロシア・パスポートを発行しており、そのうち30万人がドネツク州とハリコフ州に集中していると言われる。
彼らにとってみれば、ウクライナ政府の迫害から逃れ、ロシア人としてロシアに行きたいという願いもある。筆者の友人はウクライナ出身のロシア人であるが、同国に残る彼女の家族はそれを願っていると聞く。
さて、ここからが、事実から読み取れない不思議なバイデン大統領の判断である。
ほとんど意味がなかった8回の首脳会談
バイデン大統領は昨年9月1日、ゼレンスキー大統領をホワイトハウスに迎えて会談している。ウクライナ政府軍によるドローン攻撃の約2カ月前で、同国が購入したドローンは既に納入されていたであろう。ドローン攻撃をやめるよう、要請することは可能だったはずだ。
また、ゼレンスキー大統領がロシア語の利用を禁止しようという意図を持っていることも、当然、把握しているはずだ。人権重視の民主党の党是を考えれば、こちらも要請すべき話である。だが、バイデン大統領は、そのどちらも要求しなかったのではないだろうか。
次に、バイデン大統領は政権発足以来、プーチン大統領と8回の会談を実施していることにも注目すべきだ。しかも、プーチン大統領が「ウクライナはロシアと一体だ」とする論文を出した7月以降に限っても、ゼレンスキー大統領との会談の後の9月22日、ウクライナ軍のドローン攻撃がありロシア軍が動き始めた10月31日、ロシア軍のウクライナ国境滞在長期化が始まった12月7日と、重要な局面で会談している。
それでもプーチンの動きは変わらず、今回の対ロシア経済政策案の発表という最後通牒に近いものを出さざるを得なくなった。それは、バイデン大統領がプーチン大統領の動きやウクライナ問題に対する見立てが甘かったからではないのか。事実、そういった不満が議会共和党の中から漏れている。アフガニスタンからの撤退の時のように取り返しのつかないミスを犯したのではないのか、という批判が混じるほどだ。
ブリンケン国務長官やオースチン国防長官は外交によって解決することを望むと発表している。だが、プーチンとのトップ会談で解決できないバイデン政権が話し合いによる落としどころを見つけることができるのだろうか。そんな不満がマグマのようにたまり始めている。
プーチンの狙いはウクライナ併合ではない
冒頭に書いた、ブリンケン国務長官がロシアに送った回答文書には何が書かれていたのだろうか。また、それを受けて2月1日にロシア側が送った文書には何が書かれていたのだろうか。
一つだけ明かされたのが、中距離核ミサイルの配備問題である。これはポーランドとルーマニアに配備されている中距離核ミサイルを撤去しないというもので、米国とNATOがロシアを仮想敵としていることを意味する。
また、NATO加盟の意思を示しているウクライナについて、米国とNATO諸国が申請を拒否する理由はない。それどころか、米国とNATOによる現在のウクライナ支援は、将来のNATO加盟を前提にしていると考えることも可能だ。
プーチン大統領にしてみれば、ポーランドとルーマニアに配備された中距離核ミサイルは、モスクワをターゲットにした脅威である。
ウクライナが敵陣営に入るということは、モスクワからわずか870キロのキエフに敵軍が布陣することを意味し、ナポレオンとヒトラーの二大ロシア侵略を失敗させた冬将軍のパワーを失わせてしまう。870キロであれば、戦車でも片道10日ほどで到着するので、機甲師団を使って雪解けから初雪まで攻めることを繰り返すことが可能になり、大雪と凍結による疲弊を回避できる。それゆえに、ロシアとしてはウクライナのNATO加盟を是が非でも止めたい。
この観点からすれば、ウクライナのドネツク州とルハンスク州の両州を今ここで分離独立させるより、ウクライナ政府がロシア系住民を抑圧するのを止めるべくプレッシャーをかけるとの大義名分の下、長期化を覚悟でロシア軍を待機させる方がプーチン大統領にとっては最適解だろう。
それは、2015年の第二ミンスク合意にも合致し、プーチンは国際世論の批判を受けることを回避できる。
緊張が続くウクライナ情勢だが、2月1日、ジョンソン英首相がキエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ゼレンスキー大統領は、今回の危機はロシアとウクライナの戦争ではなく、ヨーロッパの戦争危機だと警告した。これは恐らく、国境付近におけるロシア軍の駐留が3カ月に及ぼうとしていることへの不満だろう。
同じ日、ハンガリーのオルバン首相と会談したプーチン大統領は、ロシアは自国の安全保障のために行動しているのであり、米国は自分たちを戦争に追い込もうとしている、ロシアの安全を保証する覚書が必要だという趣旨の発言をした。それに対して、オルバン首相は「重要なのは平和であり、EUはいつでも話し合いをする用意がある」と答えている。
米国以外の役者が動き始めたのだ。
果たして、バイデン政権は米国主導でウクライナ情勢を沈静化させることはできるのだろうか。
プーチンがウクライナ侵攻をするのかしないのかは神のみぞ知る話だが、ウクライナにおける政府軍と分離独立を求めるロシア系住民軍との内戦の構図を知らずして、現時点で「強いロシアが弱いウクライナに侵攻する」という紋切り型の見方をするのは間違いだろう。
国連安全保障理事会での議論は白熱したまま推移するだろうが、米露ともに常任理事国で決議への拒否権を持っている以上、同理事会による制裁決議は出てこない。すなわち、国連がウクライナ情勢において機能することは期待できず、発足から80年を経て金属疲労を起こしていることが露呈した。
バイデン政権が1月27日に発表した対ロシア経済制裁案は非常に厳しいものだ。一例を挙げると、SWIFT(国際銀行間通信協会)の利用禁止だ。これは対中政策としてウイグルでの強制労働問題が議会で議論された際にも制裁案の一つとして取り上げられたが、最後は見送られた。それほどの劇薬なのだ。
既に効果は世界の金融・証券市場に現れており、ロシア国債は急落している。ただ、ロシアに強い影響を与えるには、中国などの友好国が支援しないことが条件となる。北朝鮮に経済制裁しても、中国国境から物資が送られれば効果が薄くなるのと同じである。
SWIFTの利用停止が与える影響
SWIFTとは、全世界で1万1000社以上の銀行が加盟する、国際送金や決済に必要な金融情報を安全勝つ迅速に送るシステムである。世界中のあらゆる銀行はSWIFTを使わない限り国際送金ができず、現時点ではSWIFTに代わるシステムも存在しない。
この経済制裁案が発動されると、単純にロシアは貿易代金の決済などができなくなり、ロシア経済が干上がってしまう。2021年8月のアフガニスタン撤退での失敗以来、鬱屈するものがたまっていた米国民にとっては、久々に胸をすくような内容である。
ブリンケン国務長官は、「たった一人のロシア軍人でもウクライナ領に足を踏み入れれば制裁を開始する」と語った。SWIFTの利用停止を突き付けられた以上、ロシアは同国務長官の言葉を無視できない。
ワシントンでは、昨年12月20日にウクライナのキエフ入りした民主党のクロウ下院議員を含めた3人の下院議員は、米軍やNATO軍がウクライナ支援を始めるトリガーとして、「ロシア軍の動きによって、ウクライナからの避難民がNATO加盟国内に入れば、それをNATOへの攻撃と見なす」と語ったという話も出ている。これまた「強いアメリカ」を思わせるものだ。
ちなみに、ウクライナ国境に近いロシアのエリニャからベラルーシ経由でロシア軍がウクライナに向かえば、ベラルーシからポーランドへの避難者が増えるかもしれない。クロウ下院議員が言う「避難民」には、これも含まれている。
現在は他に7人の米上院議員もキエフを訪問しており、彼らも米国の支援姿勢を明らかにしている。
バイデン政権は、中間選挙を9カ月後後に控え、外交で点数を稼ごうとしている印象だ。
ところが、バイデン政権の動きからは、ちぐはぐさも垣間見られる。
パイプラインの停止までは踏み込まない中途半端感
まず、NATOとの結束を重視するあまり、ロシアにとってSWIFTの利用停止に次いで影響の大きい、ガスパイプライン(ノードストリーム2)を止める法案には反対した。ノードストリーム2の停止については、ドイツなどロシアの天然ガスに依存する国からの反発が水面下であったとホワイトハウス関係者は漏らしている。
また、バイデン政権の要請はウクライナ領への武力侵攻の中止であり、ウクライナ国境に集まった12万人を超えるロシア軍の撤退でもなければ、17万5000人が目標とされるロシア軍のさらなる増強を止めることでもない。いつまでにロシアと米国及びNATOが紛争を回避するかという期限も切っていない。
そのため、プーチン大統領はロシア軍の兵站が続く限り、ウクライナ国境に軍を集結させたまま時間を稼ぐことができる。バイデン大統領は、プーチン大統領に時間稼ぎの時間を与えてしまった。その間、プーチン大統領はNATO内の亀裂や米国内の反発などを待つことが可能になる。
表向きは「強いアメリカ」の復活を感じさせる対ロシア経済制裁だが、国務省関係者の不満はむしろ高まっているようだ。
ウクライナと言えば、米大統領選挙のあった2020年、トランプ大統領による同国への不正な武器供与疑惑が弾劾裁判にまでなって米政界を揺るがせたことは記憶に新しい。バイデン大統領の次男であるハンター氏がウクライナ企業からの巨額な利益を得たという疑惑もあった。
他方、ゼレンスキー大統領は2019年に、国内の国営企業でロシア語の使用を禁止しようとしたことがある。これはウクライナ語だけを公用語とした2014年の指令と同じで、ロシア語しか話せないロシア系住民にとってはジェノサイドである。これは、「中国がチベットや内モンゴルで中国語を強要しようとしている」と、米国が目くじらを立てて中国を批判している理由の一つと同じだ。
これに対して、プーチン大統領はウクライナ領内にいるロシア系住民のうち60万人にロシア・パスポートを発行しており、そのうち30万人がドネツク州とハリコフ州に集中していると言われる。
彼らにとってみれば、ウクライナ政府の迫害から逃れ、ロシア人としてロシアに行きたいという願いもある。筆者の友人はウクライナ出身のロシア人であるが、同国に残る彼女の家族はそれを願っていると聞く。
さて、ここからが、事実から読み取れない不思議なバイデン大統領の判断である。
ほとんど意味がなかった8回の首脳会談
バイデン大統領は昨年9月1日、ゼレンスキー大統領をホワイトハウスに迎えて会談している。ウクライナ政府軍によるドローン攻撃の約2カ月前で、同国が購入したドローンは既に納入されていたであろう。ドローン攻撃をやめるよう、要請することは可能だったはずだ。
また、ゼレンスキー大統領がロシア語の利用を禁止しようという意図を持っていることも、当然、把握しているはずだ。人権重視の民主党の党是を考えれば、こちらも要請すべき話である。だが、バイデン大統領は、そのどちらも要求しなかったのではないだろうか。
次に、バイデン大統領は政権発足以来、プーチン大統領と8回の会談を実施していることにも注目すべきだ。しかも、プーチン大統領が「ウクライナはロシアと一体だ」とする論文を出した7月以降に限っても、ゼレンスキー大統領との会談の後の9月22日、ウクライナ軍のドローン攻撃がありロシア軍が動き始めた10月31日、ロシア軍のウクライナ国境滞在長期化が始まった12月7日と、重要な局面で会談している。
それでもプーチンの動きは変わらず、今回の対ロシア経済政策案の発表という最後通牒に近いものを出さざるを得なくなった。それは、バイデン大統領がプーチン大統領の動きやウクライナ問題に対する見立てが甘かったからではないのか。事実、そういった不満が議会共和党の中から漏れている。アフガニスタンからの撤退の時のように取り返しのつかないミスを犯したのではないのか、という批判が混じるほどだ。
ブリンケン国務長官やオースチン国防長官は外交によって解決することを望むと発表している。だが、プーチンとのトップ会談で解決できないバイデン政権が話し合いによる落としどころを見つけることができるのだろうか。そんな不満がマグマのようにたまり始めている。
プーチンの狙いはウクライナ併合ではない
冒頭に書いた、ブリンケン国務長官がロシアに送った回答文書には何が書かれていたのだろうか。また、それを受けて2月1日にロシア側が送った文書には何が書かれていたのだろうか。
一つだけ明かされたのが、中距離核ミサイルの配備問題である。これはポーランドとルーマニアに配備されている中距離核ミサイルを撤去しないというもので、米国とNATOがロシアを仮想敵としていることを意味する。
また、NATO加盟の意思を示しているウクライナについて、米国とNATO諸国が申請を拒否する理由はない。それどころか、米国とNATOによる現在のウクライナ支援は、将来のNATO加盟を前提にしていると考えることも可能だ。
プーチン大統領にしてみれば、ポーランドとルーマニアに配備された中距離核ミサイルは、モスクワをターゲットにした脅威である。
ウクライナが敵陣営に入るということは、モスクワからわずか870キロのキエフに敵軍が布陣することを意味し、ナポレオンとヒトラーの二大ロシア侵略を失敗させた冬将軍のパワーを失わせてしまう。870キロであれば、戦車でも片道10日ほどで到着するので、機甲師団を使って雪解けから初雪まで攻めることを繰り返すことが可能になり、大雪と凍結による疲弊を回避できる。それゆえに、ロシアとしてはウクライナのNATO加盟を是が非でも止めたい。
この観点からすれば、ウクライナのドネツク州とルハンスク州の両州を今ここで分離独立させるより、ウクライナ政府がロシア系住民を抑圧するのを止めるべくプレッシャーをかけるとの大義名分の下、長期化を覚悟でロシア軍を待機させる方がプーチン大統領にとっては最適解だろう。
それは、2015年の第二ミンスク合意にも合致し、プーチンは国際世論の批判を受けることを回避できる。
ジョンソン英首相がキエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際に、ゼレンスキー大統領は、今回の危機はロシアとウクライナの戦争ではなく、ヨーロッパの戦争危機だと警告したのだそうです。
同じ日、ハンガリーのオルバン首相と会談したプーチン大統領は、ロシアは自国の安全保障のために行動しているのであり、米国は自分たちを戦争に追い込もうとしている、ロシアの安全を保証する覚書が必要だという趣旨の発言をしたのだとか。
ウクライナにおける政府軍と分離独立を求めるロシア系住民軍との内戦の構図を知らずして、現時点で「強いロシアが弱いウクライナに侵攻する」という紋切り型の見方をするのは間違いだろうと小川氏。
米露ともに国連の常任理事国で決議への拒否権を持っている以上、同理事会による制裁決議は出てこない。すなわち、国連がウクライナ情勢において機能することは期待できず、国連が金属疲労を起こしていることが露呈したと。
バイデン政権が1月27日に発表した対ロシア経済制裁案は非常に厳しいものなのだそうで、例えばSWIFT(国際銀行間通信協会)の利用禁止。
既に効果は世界の金融・証券市場に現れており、ロシア国債は急落している。ただ、ロシアに強い影響を与えるには、中国などの友好国が支援しないことが条件となとも。
SWIFTが発動されると、単純にロシアは貿易代金の決済などができなくなり、ロシア経済が干上がってしまう。2021年8月のアフガニスタン撤退での失敗以来、鬱屈するものがたまっていた米国民にとっては、久々に胸をすくような内容であると小川氏。
ブリンケン国務長官は、「たった一人のロシア軍人でもウクライナ領に足を踏み入れれば制裁を開始する」と語った。SWIFTの利用停止を突き付けられた以上、ロシアは同国務長官の言葉を無視できない。
ワシントンでは、昨年12月20日にウクライナのキエフ入りした民主党のクロウ下院議員を含めた3人の下院議員は、米軍やNATO軍がウクライナ支援を始めるトリガーとして、「ロシア軍の動きによって、ウクライナからの避難民がNATO加盟国内に入れば、それをNATOへの攻撃と見なす」と語ったという話も出ている。これまた「強いアメリカ」を思わせるものだと小川氏。
バイデン政権は、中間選挙を9カ月後後に控え、外交で点数を稼ごうとしている印象だと。
ところが、バイデン政権の対応はちぐはぐさも垣間見られ、アフガン撤退に続くチョンボかと小川氏。
まず、NATOとの結束を重視するあまり、ロシアにとってSWIFTの利用停止に次いで影響の大きい、ガスパイプライン(ノードストリーム2)を止める法案には反対した。
ロシアの天然ガスに依存する国からの反発が水面下であったとホワイトハウス関係者。
また、バイデン政権の要請はウクライナ領への武力侵攻の中止であり、ウクライナ国境に集まった12万人を超えるロシア軍の撤退でもなければ、17万5000人が目標とされるロシア軍のさらなる増強を止めることでもない。いつまでにロシアと米国及びNATOが紛争を回避するかという期限も切っていない。
バイデン大統領は、プーチン大統領に時間稼ぎの時間を与えてしまった。その間、プーチン大統領はNATO内の亀裂や米国内の反発などを待つことが可能になると小川氏。
ウクライナと言えば、バイデン大統領の次男であるハンター氏がウクライナ企業からの巨額な利益を得たという疑惑もあった。
ゼレンスキー大統領は2019年に、国内の国営企業でロシア語の使用を禁止しようとしたことがある。これはウクライナ語だけを公用語とした2014年の指令と同じで、ロシア語しか話せないロシア系住民にとってはジェノサイドである。
これは、「中国がチベットや内モンゴルで中国語を強要しようとしている」と、米国が目くじらを立てて中国を批判している理由の一つと同じ。
これに対して、プーチン大統領はウクライナ領内にいるロシア系住民のうち60万人にロシア・パスポートを発行。
更に不思議なバイデン大統領の判断が、バイデン大統領のゼレンスキー大統領との会談や、プーチン大統領と8回の会談。
ウクライナ政府軍によるドローン攻撃の約2カ月前にゼレンスキー大統領と会談。
ドローン攻撃をやめるよう、要請することは可能だったはずだと。
また、ゼレンスキー大統領がロシア語の利用を禁止しようという意図を持っていることも、当然、把握しているはずだ。人権重視の民主党の党是を考えれば、こちらも要請すべき話である。
だが、バイデン大統領は、そのどちらも要求しなかったのではないだろうかと小川氏。
バイデン大統領は政権発足以来、プーチン大統領と8回の会談を実施していることにも注目すべきだと。
プーチン大統領が「ウクライナはロシアと一体だ」とする論文を出した7月以降に限っても、ゼレンスキー大統領との会談の後の9月22日、ウクライナ軍のドローン攻撃がありロシア軍が動き始めた10月31日、ロシア軍のウクライナ国境滞在長期化が始まった12月7日と、重要な局面で会談している。
なのに、プーチンの動きは変わらず、今回の対ロシア経済政策案の発表という最後通牒に近いものを出さざるを得なくなった。
バイデン大統領がプーチン大統領の動きやウクライナ問題に対する見立てが甘かったからではないのかと小川氏。
そういった不満が議会共和党の中から漏れている。アフガニスタンからの撤退の時のように取り返しのつかないミスを犯したのではないのか、という批判が混じるほどだと。
ブリンケン国務長官やオースチン国防長官は外交によって解決することを望むと発表している。だが、プーチンとのトップ会談で解決できないバイデン政権が話し合いによる落としどころを見つけることができるのだろうか。そんな不満がマグマのようにたまり始めているのだそうです。
プーチン大統領としての最大の課題は、隣接国がNATOに加盟しNATOの対ロ圧力が強まる事。
NATO加盟の意思を示しているウクライナについて、米国とNATO諸国が申請を拒否する理由はない。それどころか、米国とNATOによる現在のウクライナ支援は、将来のNATO加盟を前提にしていると考えられる。
ウクライナが敵陣営に入るということは、モスクワからわずか870キロのキエフに敵軍が布陣することを意味し、ナポレオンとヒトラーの二大ロシア侵略を失敗させた冬将軍のパワーを失わせてしまう。
ロシアとしてはウクライナのNATO加盟を是が非でも止めたいのですね。
ウクライナ政府がロシア系住民を抑圧するのを止めるべくプレッシャーをかけるとの大義名分の下、長期化を覚悟でロシア軍を待機させる方がプーチン大統領にとっては最適解だろうと小川氏。
21世紀にひとつ東西分断の壁が誕生することになるのでしょうか。
# 冒頭の画像は、緊張が高まるウクライナ国境
この花の名前は、ホトトギス
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