遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

南シナ海仲裁裁定 中国の国際的信用の行方は

2016-07-14 23:58:58 | EEZ 全般
 仲裁裁判所がフィリピンの提訴に対する裁定で、全面的に中国の主張を否定し、中国が南シナ海での暴挙の拠所とした「九段線」が否定され、礁を島と主張した人口島や、EEZの主張も否定されました。
 中国は、この裁定を無効として、従わないことを公言しています。国際法を無視する無法国家中国の行動は、広く世界に知られることとなり、中国の力による覇権拡大が収まることが期待されますが、その拡散・浸透に注目しています。
 最も浸透して欲しいのは、AIIBに雪崩をうって加盟するなど、媚中国の多い欧州ですが、今は「ブリグレット(Bregret)」でてんやわんやのなか、極東での出来事に眼がむいているのか危惧され、その反応の様子は未明です。
 「中国の国際的信用は失墜するか」という記事がありました。欧州の反応には触れておらず、具体的な国際世論に言及したものでもないのですが、参考までの備忘録と言うか関連情報メモとしてアップさせていただきます。
 

中国の国際的信用は失墜するか 平和安全保障研究所理事長・西原正 (7/14 産経 【正論】)

 
中国は長い間南シナ海の島礁群を囲むようにして引いた「九段線」内を自国領だとしてきたが、オランダの仲裁裁判所は、この中国の主張を国連海洋法に違反するとの歴史的な裁定を下した。
 そればかりではない。
裁定はもっと広範囲にわたるもので、(1)中国が主権を主張する「島」は岩礁であって島ではないので周囲に排他的経済水域(EEZ)を主張する権利はない(2)それらの岩礁を埋め立てて人工島化するのは環境破壊であり国連海洋法違反である(3)南シナ海で他国の漁業活動を威嚇妨害するのは伝統的漁業権を侵すもの
である-と、ほぼ全面的にフィリピンの主張を支持するものであった。

≪法的根拠失った軍事拠点化≫
 この件は、2012年4月にフィリピンが領有権を主張するスカボロー礁付近で、中国漁船を取り締まっていたフィリピン艦船が悪天候のため現場を引き揚げている間に、中国公船が同礁を実効支配してしまったことに発する。
 フィリピン政府は翌13年1月に膨大な文書を作成して仲裁裁判所に提訴した。中国は九段線の問題は裁判所の管轄権内に入らないと主張したが、裁判所は慎重な審議の結果、管轄権に入るとの重要な解釈を下した。そして12日、中国の行動に対して、予想された以上に厳しい裁定を下したのである。
 当然、中国はこれに猛反発し、王毅外相は「手続きは終始、法律の衣をかぶった政治的な茶番だった」という談話を発表した。そして仲裁裁判所にはこの問題に関する管轄権はないと主張した。胡錦濤前政権で外交担当を務めた戴秉国前国務委員は7月5日、ワシントンの講演で、裁定は「ただの紙くず」と無礼に批判していた。

 中国はフィリピンに提訴を取り下げるよう要求しながら、南シナ海の岩礁に滑走路や港湾整備、そして戦闘機、ミサイルなどの軍事配備を進めた。既成事実を作っておく戦略であったのだろう。
 しかし
今回の裁定が出たため、中国は九段線をもって南シナ海の軍事拠点化を進める法的根拠を失った
。従って米国をはじめ日本、オーストラリア、インドなどによる航行や飛行の自由作戦を「自国領海を侵犯する違法行為」と非難することもできなくなった。

≪裁定は日本の立場を後押しする≫
 
中国が国連が決めた裁判所の裁定を尊重しないということは、自ら国連の加盟国、とくに安保理常任理事国として失格であることを認めたことになる
。中国は国連海洋法条約を1996年に批准した。それに反する行為を是正するのでなければ、国際的信用を失うだけである。中国には、国連常任理事国として国際社会で法の秩序を守る責任感があるのだろうか。
 さらに
仲裁裁判所が、中国が南シナ海の主権を主張するに際して、過去2千年の支配を持ち出して歴史的根拠を理由にすることはできないとの判断を下したが、この点は、尖閣諸島の日本の立場を後押しする。裁定は、日本の尖閣諸島の法的、行政的管理を当時の国際法によって決めた1895年よりも前に「歴史的に中国のものだった」とする主張は法的根拠にならないことを示した
。日本は今後、これまで以上にこの点を中国に対して、強く主張していくべきである。

 南シナ海の軍事拠点化を進めてきた習近平政権は裁判所の裁定で面子(めんつ)を失った。中国としては、強行策に出て南シナ海の岩礁の人工島化と軍事拠点化を進め、防空識別圏などを設置する道と、裁定を受け入れ、フィリピンをはじめ関係国との和解に進む道が理論的には考えられる。当面は前者の道を歩みそうである。

≪航行、飛行の自由作戦続行を≫
 中国は6月14日に雲南省で開かれた中国と東南アジア諸国連合(
ASEAN)との特別外相会議ASEANの結束を切り崩した
ように、親中派との関係強化を図り、さらに対中批判派を弱める動きをするだろう。そのために、フィリピンのドゥテルテ新政権との2国間協議を進めて、ある程度の妥協を図り、面子を保とうとするかもしれない。

 
裁定は、南シナ海の島礁に領有権を主張する他の国々を勇気づけることになるはずだ
。とくにベトナムもこの裁定を根拠に自国の立場をより強く主張すべきである。また日本は引き続き、政治的な理由から対中批判を控えているASEANの一部諸国を物心両面で支える役割を果たす必要がある。
 中国は日本のような域外国には南シナ海への介入を威圧外交で拒絶するであろう。6月初めにシンガポールで開かれた
シャングリラ対話で防衛省の三村亨防衛審議官(当時)と会談した中国の孫建国連合参謀部副参謀長は「日米両国が南シナ海で航行などを合同で実施すれば、中国側は黙っていない」と威嚇
したとのことである。
 米国は、当分は対中関係の悪化を覚悟して、南シナ海における航行および飛行の自由作戦を続行して裁定を支えるべきである。今後、米国のオバマ政権やその後の政権がどんな対応をするのかも注視したい。(にしはら まさし)


 裁定のポイントの解説は簡略になされていて、「中国が国連が決めた裁判所の裁定を尊重しないということは、自ら国連の加盟国、とくに安保理常任理事国として失格であることを認めたことになる」と指摘されている点は、まさにその通りと納得できるものです。
 中国の、日本の尖閣諸島に対する「歴史的に中国のものだった」とする主張は法的根拠にならないことを示したとされる部分は、尖閣諸島について「九段線」を論拠にしているわけではないのですね。
 琉球国が冊封していたことで、中国の支配下にあったとか、1992年2月から施行されている「中華人民共和国領海および接続水域法」(「領海法」)において、尖閣諸島を中国の領土と勝手に規定していることによるものですね。
 尖閣諸島をめぐる日中韓の経緯については、外務省の以下のページが日本の主張となりますね。
 
尖閣諸島情勢に関するQ&A | 外務省

 なを、今回の裁定では、台湾がトバッチリを受けた様に、海洋法の島の定義の解釈が厳しくなっている点に留意が必要です。定義は以下の通りです。
 


海洋法に関する国際連合条約,(略)国連海洋法条約 抜粋

第8部 島の制度
第121条 島の制度

1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう。
2 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 日本の広いEEZの海域の拠点のひとつの、沖ノ鳥島が島か岩かで、中国や台湾との間で争点となっています。沖の鳥島は、満潮時に水没することはなく、第121条の(1)はクリアしていますが、(3)の人間の居住はなされていません。「又は独自の経済生活を維持」を満足させるための活動が、石原都知事時代に加速されようとしましたが、現時点でどうなっているのかは未明です。
 
沖の鳥島は岩か島か - 遊爺雑記帳

 なので、記事の言うように、「裁定は日本の立場を後押しする」と手放しで喜んではいられないのです。

 しかし、記事に書かれている通り、「裁定は、南シナ海の島礁に領有権を主張する他の国々を勇気づけることになる」ことはたしかですね。
 米国は早速行動を開始したのですね。中国への抑止力として裁定が機能することを願っています。
 
【緊迫・南シナ海】米中外相、21日以降に協議へ 「拒絶は国際法侵害」と牽制 - 産経ニュース


 # 冒頭の画像は、フィリピン・マニラで仲裁裁判所の裁定が発表された直後、歓声をあげる人々
  フィリピンでは、「ブリグレット(Bregret)」を真似て、新造語「チェグジット(Chexit)」がブレイクしているのだそうですね。
  【緊迫・南シナ海】フィリピンのツイッター、新造語「#CHexit(チェグジット)」がブレイク 中国に南シナ海から出て行くよう求める…英国のEU離脱「ブレグジット」のまね? (産経新聞) - goo ニュース




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